三章五話《過去話、対策会議?》
「り、リザリーさん?」
「昨日ぶり、どうもなんかあったみたいだけどどうしたの?」
リザリーさんは椅子に座ってくつろいだ様子でグリーダに聞いた。
「妖精世界で魔物が以上繁殖してるのよ。それでまだ調査中。予測できる範囲では予想しておくけど多分面倒なことになるのは確定ね」
グリーダの方も少し溜息をつきながら答える。
「今日またここに来るくらいなら泊まればよかったんじゃねえのか?なんか用事あったんだろ?」
「ああそうそう、ちょっとあの子の事が気になって。大した用事じゃ無かったしふと思って立ち寄っただけ」
「おいおい、ふと思って立ち寄ったってここどこにあるか本当にわかって言っているのか?」
ガルムが泊まっていけばよかったというのは何もふざけて言っているのではない。
ここがそもそもグリーダの転移魔法以外で来る方法がほぼないからだ。
この土地は果てしない草原とその周りを囲む巨大でどれだけの高さか見えないほどの壁に阻まれている。
そしてその壁は特殊な魔法が付与されていて、大抵の魔法はビクともせずに巨大な魔法でも貫通することは不可能だ。
だからこそ、転移魔法を持たないリザリーさんがもう一度ここに来る苦労を思ってのガルムの言葉だった。
「転移魔法を使わずにこれる例外に何を言っても無駄よ。いくらリザリーでもここまで本当に余裕とはいかないでしょうけど」
「そうそう、結構疲れたんだよね」
まずそもそも目印もなしにあの草原にいたら間違いなく遭難する。
あの草原がどうしてああなったのかはよくわからないが、広過ぎて土地が有り余ってるので多分国一つ丸々入る。
「無茶苦茶だ...疲れる程度で済むならもう世界滅ぼせるんじゃないのか?」
「多分可能ね、正面戦闘に関しては私の何倍も強いわ。私は不死だから殺し合いをするとなれば話は変わってくるでしょうけど。身内贔屓なしにリザリーの力は間違いなく最強よ」
「ま、大概グリーダもおかしいけど。私が本気で殴っても立ってるからね。私が本気で殴りつけて普通に立ってられたのは多分グリーダ含めて今まで数人くらい、それも片手の指に収まる程度の数しかいないんじゃないかったかな?」
「むしろアレを受けて立ってるグリーダ以外のやつを知りてえよ」
グリーダ以外にリザリーさんの攻撃に立って入られた者達についてガルムが聞くが、それを「どうしよっかなー?」とか笑いながら焦らす。
「《樹皇》レイデン、《堅皇》バール、《導皇》メイリン、あそこらへんはあなたの攻撃でも耐えるんじゃないかしらね?」
「レイデンのやつアレ受けて平気なのかよ、寿命でとはいえ死んじまうとは思わねえな」
「ごめん、俺全然話についていけない」
いきなりよくわからない名前がたくさん出てきて少し焦ったが、様子を見るに多分俺の先輩にあたる方々なのだろう。
レイデンという方はもう寿命で亡くなったと少し聞いたことあるが、他は本当に何も聞かされていない。
「ザインはわからないでしょうから簡単に私が説明するわ。まずレイデンはあなたがここで私たちに出会う約10年前に寿命で亡くなったわ。グランよりも年老いていたから仕方ないといえば仕方ないわね」
そこまでは大体俺も把握している。
「それで、他の...」
「バールとメイリンね。バールは私の使える魔力結界や魔力障壁と違う領域守護魔法という魔法を使うわ。違う点は私たちの防御手段になる魔法のほとんどは壁を生成して攻撃を防ぐけどアレは空間ごと守護対象を隔離するのよ」
「空間ごと?」
「そうよ、かと言って空間魔法とも違うのよ。具体的には空間を捻じ曲げるのではなく空間同士を隔て干渉を封じる魔法なのよね」
なるほど、大体見えてきた。
リザリーさんの攻撃を受けられるカラクリはその魔法で空間ごと干渉を封じて絶対に攻撃が通じないようにして...。
「ああ、言い忘れてたけどリザリーの拳撃なら、普通の防御用の障壁魔法でも一応防げてたかは怪しいけど耐えてはいたわ」
「あ、あの時の話?アレでしょ?耐久テストしようとして加減ミスってブン殴って障壁叩き割っちゃった時の」
「馬鹿みてえにデカイ音出てたよな。アレで死なないアイツもバケモンだ」
「俺がいる前どんな馬鹿やってたんだ?逆に知りたくなってきたわ」
障壁の耐久テストとか大体段々と強さを上げる感じじゃないのか?最初から最大火力で殴ればそりゃそうなるわな。
「まあ今でもバールももう一人の方も生きてるわ。今は辞退してベルナードに継がせたけど」
「へえ、じゃあもう一人の方はどんなやつなんだ?」
「そうね、メイリンは徒手空拳を得意としていたわね。そして身体能力はリザリーに劣るけど体の柔軟さや力の込め方、そして勢いの逸らし方なんかの技術的な面では圧倒的だったわ」
「え、それじゃあなんで《導皇》なんて呼ばれてたんだ?」
この二つ名的なものがどうやってつけられるかわからないが、なんの脈絡もなしに付けられるとは考えにくい。
「そうね、メイリンはナーマとマーナの母方の祖母なのよね。メイリンの子供がナーマとマーナの親」
「え、てことは...」
《導皇》の由来、それは_____
「その表情を見るに合点がいったようね。そう、《導皇》は私たちの中で最も情報面に優れた魔法、世界眼の所持者よ」
「やっぱりか」
世界眼は現在マーナが持っている魔法だが、遺伝性で世継ぎごとに世界眼が譲渡される。
譲渡されるということで、逆に言えば子供に世界眼を渡した場合もう世界眼を使うことはできなくなってしまう。
「ってことはマーナ達の家系って結構大変なんだな。子供に《十ノ頂》を継がせることになるなんてな」
「そうね。ま、メイリンはそんなこと関係なくすごく強かったから世界眼抜きでも十分すぎるくらいだわ」
「ああ、けどアイツが降りてから世界眼無しの今みてえな状態だったからな。マーナの母も仕事が多くてな」
「へえ、マーナの母ってどんな仕事してるんだ?やっぱ魔物の討伐とかか?」
メイリンについての説明を聞いてやはり戦闘のセンスは高いのだろうと思う。
そうなれば魔物の討伐を専門としていても何も違和感はない。
「そうね、今日妖精世界へ行ってきたでしょう?そこでの話で多分今後でてくるんじゃないかしらね」
「ん?てことはやっぱり魔物関連の仕事ってことか?」
「まあ...一部そんな仕事もなくはないけど、私の口で言うよりも実際見てみたほうがいいと思うわ」
「なんか...釈然としないな」
答えを伏せたってことはそれなりの理由があるんだろう。
ただ面白がってるだけって可能性も否定できないが、今特に重要なことでもなさそうと言うことで一旦納得した。
「リザリー、ちょっと...」
「_____....あー、なるほど。ふむふむ...」
「え、どうしたんだ?」
グリーダはリザリーを手招きして近くに来させると何やら耳打ちし始めた。
「何話してたんだよ、全くよぉ」
ガルムも気になって聞くがグリーダは控えめに笑顔を作って無言で話す気配はない。
「まあ、保険はかけるべきよね」
「保険?何の事だよ」
一体何なのかよくわからないけど、多分保険というくらいなら危ないものでもないのだろう。
ま、大方妖精族の魔物についてのことだろうが。
「おいグリーダ、隠すのが面白いだけだろうが」
「あら、意外と冷めてるわね。でもそこまで大層なことはしないから知る必要もないわ。単に私たちなりに情報収集をね」
「へえ、そりゃどんなだ?」
「秘密よ。ま、明日私達も妖精世界に向かうわ。基本的に別行動になるでしょうけど」
グリーダは少し楽しそうな表情をしているし、リザリーも同じく楽しそうだ。
グリーダのことだから下手なことはしないだろうけど、何をするのか気にはなる。
「あ、そういえば肝心なこと忘れかけてた。ちょっと席外すから」
と、リザリーさんは席を勢いよく立ち上がるとどこかへ行ってしまった。
「ま、十中八九あの竜族の子供を見にいったんでしょうね。リザリー昔からお節介なんだから」
「ああ昨日の...ってか、お節介の部分グリーダ他人の事言えないだろ」
「それには同意だな」
「仕方ないでしょ?あなたたち、放っておくと変なことしでかすんだもの。いつも見てないと不安でしょうがないわ。今日のだって遠隔投影機の魔導具でモニターを使って監視してたわ」
えー、マジでお節介っていうか俺のプライバシーどこ行った。
「それはやりすぎだろ、どんだけ高度な魔法を無駄遣いすれば気がすむんだ?」
「無駄遣いじゃないわ。試作段階で危険のない実験ならむしろすべきだもの」
「いや、そうだな。グリーダがそうしてくれたから詳しく話す手間も省けた。完全に結果オーライだけどな」
たしかにサラッとありえない距離の映像を無線で見れるのは凄いことだ。
過去にも、映像模写を行なってそれを保存する魔導具は存在していたが、今でも高価かつ容量が少ないために多く流通はしていない。
グリーダのことだし映像保存の魔導具も持っているだろうしガルムが言いたいのは有用性と技術力が見合っていないことだろうな。
「今更よ、ベルナードにも前に欲しいって言っていたから渡しているし。あなたたちも要望あればある程度は作れるわ」
「...兵器じゃねえなら別にいいか。もう勝手にしてくれ」
兵器て、ガルム他人の事言えないぞ。
自分自身が兵器みたいなものだろ。
「うーん、魔物を誘導するような魔導具とかないのか?」
「え?害虫駆除用に特殊な魔力の波を発して誘き寄せる罠の魔導具ならあるけど、それがどうしたの?」
「いや、多分今回の戦い被害がでかくなるだろうからなるべく被害を抑えたいんだよ。検問のところにいた妖精族の男が言ってたけど近くに海があるらしいんだ。そこで戦う方が多分被害も少ないだろうし」
「そういうことね。まあ、とりあえず考えておくわ。けど、魔物の特徴がわからないと誘導用の魔導具の設計はできないわね」
「森もあんまり壊したくないしな。そうなると入り組んでて戦いにくいし広い場所の方が何も考えなくていいからな」
海ならガルムの炎の魔法もある程度加減しなくても森全焼とかにはならないはずだからな。
「なら、ミリアに頼んでみるか?アイツなら何か知ってるだろ」
「え?ミリアに?なんで」
「なんでって...ミリアは一応魔物の知識に関しては随一よ。とはいえ情報が少なすぎてさすがのミリアでも無理があると思うけど」
今あるのは、妖精族の国が手も足も出ない厄介で強力な魔物ってことくらい。
魔物固有の特徴が一切ない以上、そんなこと聞いたってわかるはずない。
「ダメ元で聞いてみるか...ちょっと待ってろ」
「ミリアなら部屋にいるわ。多分魔物を愛でてるわ」
「え魔物を愛でるってあのモッフル以外にもいるのか?」
「そりゃあね、魔物収集のエキスパートよ。といっても大半趣味みたいなところもあるけれどね」
え見たい、愛でられるくらい安全な魔物なら普通に見たい。
「俺も行ってもいいか?」
「別にいいわよ。それならここで解散ね。後の話は後でか日を改めてね。伝えなきゃいけないことはないでしょう?なら、あとは自由にしてていいわ」
「ああ、わかった」
グリーダは立ち上がって軽く伸びをしていつものように地下室に行ってしまった。
「はあ、研究熱心なことで」
俺はミリアの部屋まで歩いて、ドアをノックした。
「はいは〜い、ってザインか〜」
「なんかいつにも増してふわふわしてるな」
ドアが開くとそこには薄手の部屋着を着てショートパンツにぶかぶかの靴下を履いているまさにオフ状態のミリアがいた。
いつもは派手な服にヒールの高い靴とオシャレ感満載なのに今はもうもはや別人レベルだ。
「あ、用事があるんだよね、入って入って〜」
快く迎えられて部屋の中に入るとそこはもう楽園だった。
ふわふわの小さな魔物の子供がじゃれ合っていたり昼寝していたり、餌を食べていたりと自由な空間が広がっている。
「ガルムもこの子達には勝てないか」
「あはは〜、昔から好きだからね。この子達もガルムもお互いが好き合ってるんだよ〜」
「うっせ、こいつらとは関わりが長いだけだ」
ガルムは否定的とも取れることを言っているが、しっかりともふもふそうな子犬の魔物を膝に乗せていた。
「あはは〜照れてるガルム可愛い〜」
「おめえ目が腐ってんのか?な訳あるか」
「まあ確かに可愛いな、おっと」
「キャウ!キャウ!」
短足の黒毛の子猫の魔物が気付けば俺の足に頬をくっつけて懐っこく鳴いていた。
「おお、いいなこれ」
「ふっふっふ〜、この子はヘイトレスキャットの幼体だよ〜。可愛いけど育つと気配を消したり鋭い爪とかで容赦なく大型の魔物を殺しちゃうような魔物だからね〜」
「え怖、でもそうか。魔物を使役して戦うならそんな風に実用性の高い魔物のほうがいいか」
「ま〜そうだね、その子は刷り込みが働いて私を親だと思ってるからザインに対しても私が近くにいるから安全だと思ったんじゃないかな〜?」
「刷り込みか。ってことは生まれてすぐこの子を保護したのか?」
「あ?そいつは親の腹から見つかったんだよ。すでに死んでる魔物の腹掻っ捌いたら出てきたんだ」
俺の質問にガルムが答える。
切開して魔物の幼体を取り出して保護、生まれてすぐなのになかなか壮絶な生き方してるなこの子。
「ちなみに名前はペトだよ〜。なーんかグリーダには懐かないんだけど他のみんなにはあんま警戒しないかな〜?」
「グリーダは魔力が多すぎて警戒してるんじゃないか?この子にとってはショッキングすぎるだろ」
俺たちよりも魔力の感知能力は魔物の方が高いとされている。
それは、生存本能がそうさせているのか、はたまた魔物特有の感覚器官が働いているのかは未だに知り得ないところだが、確かにその事実はあるらしい。
グリーダは普段、俺たちには感じられないくらい小さく魔力を抑え込んでいるが、魔物達からすればそんなものすぐにわかってしまうということだろう。
「って、ガルム。本題のことについては聞いたのか?」
「あ?ああ、そのことか。なあミリア、妖精世界のエアリエル王国周辺の森に住んでる魔物で一番でかいやつはどいつだ?」
「いや流石にその聞き方だとミリアも知らないんじゃ...」
「う〜ん、大きさだけならレッサーナーガが一番大きかったはずだね〜、それがどうしたの?」
「いや、国で厳重警備態勢が敷かれててな。その原因に心当たりがないかダメ元で聞いてみただけだ」
「あ〜、そうゆ〜ことね〜。それなら多分...う〜ん、なんだろ」
「え?そのレッサーナーガとかいうのじゃないのか?」
「あ、う〜んとね、レッサーナーガは確かに強いけど国お抱えの騎士隊なら油断しなければ討伐できないこともないんだよね〜」
「だとすると、レッサーナーガ以上の魔物が住み着いた...それかもう一つ理由がある」
「理由?」
魔物以外に理由があまり思いつかないが。
「自然災害の前兆だ」
「自然災害?」
自然災害って地震とか津波とか土砂崩れとかそんな風なものだ。
仮に魔物がほぼ死滅するほどの大きな災害が来るとして、森中の魔物がそれを察知して逃げられるとは思えない。
「あ〜、魔力大断裂か〜。っと、ザインは知らないんだよね?魔力大断裂っていうのは地中にある魔力が一定以上蓄積されると火山みたいに吹き出しちゃうんだよね〜。それで地面が無茶苦茶になっちゃって巻き込まれたらほぼ全て死んじゃうと思うな〜」
「それが起きるってことは前兆で大気中の魔力濃度が以上に高くなる場所が発生するんだ。魔物どもはそれが本能的に危険なものだと感じることができるってわけだ」
「だから魔物が揃って大移動を始めたってのか?そうだとしたら調査隊のやってること完全に無駄になるだろ」
それだけじゃない、街にまで魔力大断裂の被害が出る可能性だって考えられる。
「ま、無いだろうけどな。そもそも魔力大断裂が起きるくらい大量の魔力が検知されれば国中大騒ぎだ。そうなってねえってことはまだ他に原因があるんだろうな」
「ん〜、私が知ってるのは実際見た魔物しかないからな〜。私にも知らない魔物がいるのかもね〜」
ミリアはあまり危機感がないようだった。
でも、それも取り繕っているだけなのかもしれない。
グリーダに言われた言葉、演技とも思えないが少なからず完全なミリアの本質ではないのだろう。
「...まあ、ミリアがわからないなら俺たちも知りようがないな。勝手に討伐に行くのもな。口約束とはいえ明日もう一度話し合いの機会が設けられてるからな」
「それを無視すれば少なからず信用も印象も下がる。それを国の偉いやつらに報告されればグリーダに迷惑がかかるんだよな」
「まあね〜、グリーダちゃんたまーに話に行ってるからその時に何を言われるか分かったものじゃないよね〜」
流石に治安維持のためとはいえ関係悪化は実益云々以前に理念的に避けるべきだ。
「あと他に出来そうなことは...」
「情報もあまりないんじゃこれ以上どうしようもないだろ。とりあえず今日のところはこの辺でいい。あとは明日考えりゃいいだろ」
「そうだな、それじゃそうするか」
俺はミリアの部屋を出てグリーダに一応戦闘に役立つ魔導具をいくつか頼んだ後、魔力トレーニングとしてミリアと模擬戦した。




