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支配者の未熟者  作者: まっつん
人間世界調査編
60/80

三章四話《正規騎士隊》

「国境沿いの外壁に着いたのはいいけど、これどうやって入るんだっけ?」


「こいつはアレだ、どっかに検問所があるはずだからそこに行って入る。検問っつっても結構緩いから大丈夫だろ」


外壁を見周りながらガルムが説明する。


元々その検問所の外は魔物がはびこる土地が広がっているため、そこを出入りするのは魔物狩りくらいだ。


そのため審査も適当で問題ないというわけだ。


「検問所はアレか、でもあんなところに立ってたら魔物襲ってきそうだけどな」


「その心配はいらねえよ、駐屯してる奴は大抵実力者だ。最低限の自衛はできる」


二人は話しながら検問所の壁門をくぐる。


そこで、後ろから男に声をかけられた。


その男は薄着で筋骨隆々、明らかに魔物を狩ることを生業としている風貌だった。


「ここから出ることは禁止だと告知がされていたはずだが?」


「は?」「は?」


ガルムとザインはほぼ同時に振り返ってその男を見て言葉を漏らす。


「は?じゃねえよ、現状凶暴な魔物が多数暴れているからお偉いさん方が外壁の外に出ることをしばらく禁止したんだよ」


説明を聞いて、目配せして思考を巡らせる二人、この現状は相当ピンチなものだった。


(これ、言い逃れするにはどうしよう...)


凶暴な魔物がはびこる中、全く疲弊した様子も見せずに検問所へ訪れた二人など怪しくないなどとても言えるものではない。


「えーっと...すみません、知りませんでした」


ザインはとりあえず謝ることにした。


「知らなかっただと?二人は国公情報伝達機を持っていないのか?」


「え?なにそれ」


「要は国の出した情報をすぐに入手できる端末だな。家庭に一つはあるんじゃないか?」


国公情報伝達機など聞いたこともないザインにガルムが説明する。


「悪い、この国の伝達機は持ってないんだ。魔物の繁殖しているという情報があったもので退治をしていた」


流石はザインの何倍も生きているだけあってこういうことには慣れているのか一切の焦りがない。


「だが、魔物を倒してきたというが、傷を負っている様子は全く見当たらないが、どういうことだ?普通ならばかすり傷の一つでも追うはずだが」


男は二人の格好を見て疑ぐり視線の中にある疑惑がどんどん強くなっていく。


「俺は魔法を使う、遠くから狙えばそこまで危険もないだろう。後ろから狙われなかったのは運が良かっただけだ」


もっともそうなことをでまかせでいうガルムに少し笑いそうになるのをこらえながら自分も言い訳を考えるザイン。


男はガルムの言っていることを半信半疑、言っていることが嘘である可能性が高いわけではないが、今の状況では説得力がない。


それに、疑う理由にはもう一つ大きい要因があった。


「二人は、どこから外に出たんだ?」


「は?そんなんここから...」


「俺は今日朝からずっとここにいる。交代もしていない。だが、お前さん方二人は見覚えがない。むしろ今日ここから出たのは国公認の騎士隊だけだ。森の奥の先に国はなく海が広がっているだけで、隣国は反対で相当な距離がある」


「くっ...」


(まずいことになった、言い逃れ出来ねえとここから入ることは出来ねえ。万一入れても疑いの目が付いているのは都合が悪い)


どうにか言い訳を考えようとするガルムの額からは汗が流れ、表情は焦燥している。


「ここの者ではない...か、そしてそちらの森を抜けてほぼ無傷でここに来るなど、普通ありえないことだ、事情聴取をすることになるが、いいか?」


「それは...」


(事情聴取はまずい、ただでさえボロが出たらまずいのにそんなリスクしかないようなことしてられない)


ザインとガルムは思考を巡らせるが、この状況を穏便に打開する方法が出てこない。


詰みかと思ったこの状況、だが思わぬ方向から救いの手が差し出された。


「お待ちください、その者たちは私の知り合いです」


検問所の奥にある控え室から出てきたのは、先程ガルムが魔物から逃した女性。


グリーダとは対照に明るいイメージの赤色の髪、鎧を着て剣を携えまさに騎士といった格好をしている。


「オリヴィエ様、それは真実ですか?」


「はい、嘘偽りありません」


オリヴィエと呼ばれた女性は男に真っ直ぐと虚言を言い放つ。


「...わかりました。あなたがそういうのであれば事実なのでしょう」


「では、私はこれで」


オリヴィエは検問所から出て行く直前に二人に目配せをした。


「はあ、来いってことかよ」


「だろうな」


ガルムとザインはオリヴィエの後を追って街に入って行った。


<><><>


街の中は意外と賑わっていて、なかなかに活気付いている。


外はすごい魔物がいたけどそんなこと関係なく街の人は笑い楽しく過ごしているのが見て取れる。


「なあ、どこまで行くんだ?」


「もうすぐです、少しお待ちください」


街道の中で豪華な鎧姿の女性、そりゃあ目立つわけで、さっきから視線がすごい。


「いつまで歩くんだ?もう30分は歩いてるぞ」


「ですから、もうすぐです」


視線に耐えかねてガルムがオリヴィエにこのような問答をもう数回ほど繰り返している。


「はあ、着きました。さあ、入ってください」


「拒否権は?」


「この状況でそれを言いますか?敵意はありませんから、安心して入ってください」


一応、罠の可能性もあるから聞いてはみたが多分問題なさそうだ。


目の前の三回建てほどの建物の中に入ってみると、中は落ち着いた雰囲気のカフェテリアのようで少し安心した。


「それで、ここならば落ち着いて話ができるでしょう。防音の魔導具も完備ですしここの店員も口は堅いですから」


俺たち三人は椅子に腰掛けて、オリヴィエが話を切り出してくる。


「話ってのは、俺たちが何者か...って事か?先に言っておくが残念ながらそれは無理だ」


「ええ、あなた方が異様な強さを持っているという事で少し気になったんですよ。圧倒的な炎を操り、精霊が宿るとされる剣を持つ者」


「っ...?!」


おいちょっと待て、あの戦いが見られてたのか?というか精霊剣がなんでバレてんだ?


「疑いの余地は無いってのか?」


「こちらも残念ながら疑いの余地はなくあなた方の正体はほぼ確定しました。《十ノ頂テンペスト》焔皇ガルムさん」


「ッチ!コイツ」


「ちょっ、ガルム?!」


ガタッと立ち上がると飛び下がり剣を抜き放つとオリヴィエに切っ先を向ける。


「まあ、その様子ですと本当に正解のようですね。本当は半信半疑だったのですが」


「あ?カマかけたってのか?」


「ええ、ですが誤解なさらないでください。先ほども言ったように私に敵意はありません。ただあなた方が何者か確かめたかっただけなのです」


こいつ、魔物に襲われてた時は騎士道ぶってたクセに相当腹黒だな、正直気持ち悪い。


「まあ見た感じ偉い人だろうからいいんじゃないか?どうせ国のトップの人たちって俺たちのこと知ってるんだろ?」


「ああ、たまにグリーダが出向いて挨拶回りに行ってるからな。国の内部事情がどうだかで様子見てるんだとかでな」


俺が見てないところでそんなこともしてるのか、まあ転移魔法が自分で使えるグリーダならそこまで苦でもないのか。


「なら、なんで俺たちの正体をわざわざ突き止めようとしてきたんだ?勘だけで俺たちを見抜いたのは納得できるがそれをこんな厳重な場所で打ち明けてなんの意図が?」


落ち着いて椅子に座りなおしてオリヴィエにガルムが聞く。


今の状況からすると、とても前々から詳しく知っていたわけではなさそうだ、わざわざ確認を取っているあたりそうだろう。


となると、偶然俺たちがここに来て力を使ったところを見たから勘付いて近づいてきた...って考えられる。


「確かに、大体わかったよ。ガルムの正体に気づけたのも過去の文献か書物あたりだろうしな。けど、どうしてこんなに厳重なところでこんな話をするんだ?」



「別段厳重なことはありませんが...」


「警備体制はな、そうじゃなく防音設備の方だ。ありえないほど厳重で多分外にはここで大爆発が起きても音ひとつしないだろうな」


グリーダの魔導具なら可能ではあるが、個人で扱えるような代物じゃ無い。


国公認の騎士隊だとかチラッと聞こえたが、この魔導具を国が所持しているとなれば一応は納得できる。


「おいザイン、それだけじゃねえ。ここの店員には口封じがせれてやがる、精神内に直接影響を与える類だな。ここの情報を一切の方法によっても外に出すことが出来ねえし、外に持ち出す意思すらも持てなくなる」


「結構えげつないな、それ」


見た感じそれだけじゃ無い、侵入防止のために入り口に魔法での鍵と物理的な鍵の二重で構成されていて、万が一侵入されればたちまち国の上層部に即座に連絡が入るように、店自体が大きな魔導具と化していた。


「過剰だろ、どう考えても」


「...はあ、隠しても無駄ですか」


これで隠せているつもりなのか、と言いたい気持ちを抑えて座っているとオリヴィエは溜息をひとつ、本心を打ち明け始めた。


「実はここは、かの《魔皇》グリーダ様と定期的に謁見する場所なのです。実際に私はお会いした経験はありませんが、そのことは確かな事実です」


「ああ、それには納得だ。外に流したく無いことがそれならわんさか出る。それについては納得してる、ただ、俺たちとなぜそんな大層な場所で話すんだ?俺たちは増えた魔物をただ減らしてただけだ、大きな会議も大事なことを伝えに来たわけでもねえ」


そう、俺たちは魔物を討伐に来ただけだ、状況からオリヴィエの方も十分それは理解しているだろう。


「あなた方が《十ノ頂テンペスト》であることはほぼ確定していました。ですので話すにふさわしい場所を選んだだけです」


「立場上大事な話の有無は関係ないってことか。ったくよ、正直そんな隠し事なんてどうでもいいんだよ。結局俺が知りてえのはなんで俺たちをここに呼んだかだ。グリーダがここにきてるかどうかなんてどうでもいい」


それもそうだ、グリーダとの定例会議のための場所だとか、俺たちに隠しても意味がないし、ガルムも特に知りたかった情報ではなかったと思う。


「それについては今お話しいたします今この国で起こっている、正しくはこの国の近くのあの森で起こっていることです」


だろうな、とは内心思った。


魔物の大繁殖に加えて強化変異種に、これまでこの国の近くではありえないような災害に苛まれている。


隠したいことはその原因あたりなんだろう。


「で?その隠していたことってのはなんなんだ?ここまで俺たちを連れてきたんだ、それ相応の話なんだろうな」


しばしの沈黙が流れ、数拍置いてオリヴィエが話し始めた。


「魔物が出るようになったのは、今から約数日前でした。その当時は魔物が食べ物を求めて移動してきただけだとして警戒体制は敷いていましたがそこまでこの国も本腰を入れているわけではなかったのです」


「実際は違ったのか?」


「はい、実際は餌を求めて...ではなく、正しくは餌になりたくなくて、といった感じでしょうね」


「要は、魔物がここまで逃げてきたってことか。それで、なんでそんな大量の魔物が逃げてきたんだ?」


「それが、わからないのです。調査隊として何名か送り出し、結果を待ちましたが帰らぬ者となってしまい、精鋭の部隊を編成して私が率いていましたが先ほどの変異種に」


「そりゃそうだ、いくら調査隊でも兵器の一つ持ってかねえとすぐに死んじまうぞ」


「同感だ、あれをただの軍隊でどうにかするのは相当辛いだろ」


グレーターボアは仮にも厄介な魔物だ、数が多いし力も強いし臭いを頼りに際限なく押し寄せる。


1匹倒せばもう魔物を掃討するまでのデスマーチの始まりだ。


「誠にその通りです。森の奥にいるさらに強力な魔物がいるせいでこの惨状となっていることは想定済みですが、肝心の魔物の正体がつかめずに未だに後手に回っています」


「俺たちが力を見せて、少しは希望が見えてきたってか?」


「はい、そこであなた方のお力を是非貸していただけないかと思いまして」


「けど、流石に無条件で協力をするほど俺たちは善人じゃない。流石に正体がわからない以上俺たちでもリスクがある。森中の魔物が逃げ出すほどの強さなんだろ?そんなの勝てる保証がない」


もし本当に森の魔物が全て逃げるような魔物なら、低く見積もっても俺たち二人なら余裕で相手度れるようなそれこそ化け物だ。


少なくともあと一人は戦力が欲しいが、連絡入れて来てくれるのか?


「今すぐにはとりあえず無理だな、みんなと相談しよう。今日のところはこれで終わりにしないか?明日にでもまた話そう」


「そうだな、あいつらに話しとくのが優先だ。それじゃ、俺たちは一旦これから戻ることにするからな」


「わかりました、では、この話の続きはまた後日にいたしましょうか」


オリヴィエは頷いて席を立ち、お詫びと礼を込めてありがとうと頭を下げた。


そして、俺たちはこの建物を後にして外に出ると人気のない場所で帰還用の魔導具を起動させ、拠点へと帰った。


「あら、おかえりなさい」


ソファーで悠々と読書中のグリーダがチラッと視線を向けてそう言う。


「ただいま、そして大変なことになった」


「ええ、大変そうね二人とも。心なしか少し疲れているように見えるわ」


「昨日のこともあったからな、若干疲れてんだよ。大して辛くもなかったがな」


「嘘つけ、俺にはガルムが魔力すっからかんになるまで戦ってたように見えてたぞ」


ついでにイフリートに過剰負荷を背負わせて無理矢理魔法乱発してたってのも言おうと思ったけど、流石にいう必要もないか。


「うるっせえな、お前こそ体ブッタ斬られてたじゃねえか。人のこと言えねえよバーカ」


「あなたたち口喧嘩してるけど、どっちもどっちよ、私も一回死んだけど」


死んだ、死んだか...ん?死んだ?


「えっちょっと待て死んだってなんだ?じゃあなんで生きてるんだ?」


流石に比喩的な死ってことだよな、とりあえず限りなく死にそうだったけど魔法使って生きながらえた的な。


「あら、言ってなかったかしらね。私、完全な不死なのよ。...いえ、厳密に言えば死を無かったことにできる体質かしらね」


「えー...っと、初耳なんだが?」


「そりゃ言ってねえからな。いう必要もないことコイツはワザワザ言うようなやつじゃねえよ」


まあ考えてみればありえない話でもない。


どんな原理で死なないのかはとりあえず置いておくとして、種族大戦中に戦いに明け暮れて生き残るなんてそんなぶっ飛んだ力でもなければ不可能だ。


それに、老いがないとは言え過去に今回以上の敵が襲いかかってきた事例もあっただろうしうんよく全て生き残りましたなんて理屈が通るわけもない。


「ありえないと思うけど、事実なんだよな?」


「ええ、保証するわ」


「俺は昔に聞かされてたが、入ったばっかのベルナードとかナーマとマーナの二人、その辺はそのこと知らねえだろうな。それ以前に入ったやつらは知ってる」


「ベルナードってそんな昔からいるわけじゃ無かったのか、しかもナーマもか」


ここに来た順番とかも詳しく知らないからな、今度聞いてみるか。


「それで、なんで知ることになったんだ?だって普段そういうこと言わないんだろ?今回みたいに敵が攻めてきた、とか?」


普通に考えればそうなるだろう、グリーダでも殺されるレベルの敵が相当前にもガルムやグリーダたちと戦って、グリーダを殺すことができたのならその真実を知ることになるだろうから。


「いや、敵というか...あれはただの馬鹿野郎ね。本当に呆れたわ」


「へ?」


「ザイン、グリーダを殺した奴はお前もよーく知ってる奴だ。それに、グリーダと同格の強さのな」


え?そんな奴いたっけ。


と、考えているとリビングの先の玄関口の扉が開く音が聞こえた。


そして、過去にも...というか昨日も感じた膨大な魔力...これは。


「噂をすればね。適当にお茶でも出しましょうかしらね」


「おいおい、帰ったんじゃ無かったのか?泊まるか聞いて帰るっつったのにもう来たのかよ。来るんならそのまま泊まってけばよかったのによお」


そして、入ってきた人物はそのまま歩いてリビングまで入ってきて、近くの椅子に優雅に座る。



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