一章六話《圧倒的》
「いっけー、ジャイアントゲイザー」
金髪の少女ミリアが、禍々しい巨大な目玉を持つ怪物ジャイアントゲイザーとミリアが言っている化け物を従えて俺に走ってきた。
俺はガルムの時にもう既に鉄は使い物にならないということを悟ったので最初からダイヤの厚さ160の障壁を張った。
だが、その障壁は物凄い衝撃によってことごとく粉砕され何かが俺の肩を貫いた。
それは、ジャイアントゲイザーの触手だった。
その触手は何百と生えておりウネウネと気味の悪い動きをしながら俺の様子を探るように巨大な目は俺を凝視していた。
「ははは、そんな障壁じゃあ私のジャイアントゲイザーの触手に耐えられないよー。障壁を作るんだったらオリハルコンでも持ってきた方がいいんじゃないかな〜?」
ミリアは相変わらず笑顔でやばいこと言ってる。
俺は右肩を貫かれ右腕が垂れ下がり使い物にならなくなっていたが、瞬間的に回復して未だに動きは悪いが一応動かすことはできている。
「ぐっ、それなら、こっちから」
(性質変換土→オリハルコン、浮遊付与、遠隔操作、形質、刺突特化)
俺は遠隔操作型のさっきミリアがオリハルコンの方がいいと言っていたのでオリハルコンで槍を作った。
オリハルコンは、俺が知っている中で最も硬く加工のしにくい素材でさらに貴重な物なので魔物を狩る道具として使用されることは滅多にない。
つまり、現時点での俺の最硬の武器だ。
それにさらに俺の魔力でコーティングしてあるので槍に触れれば俺の魔法圏内になる。
そうすれば、相手の服や身につけているものを改変させて、刃にして体に突き刺してやれば勝てる可能性はある。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
「ほら、こんなちっぽけな槍だと私の魔力で中和して普通に触手で弾けば...ほらこの通り」
ミリアに軽く弾かれて終わってしまった。
「あのね〜、そんな槍何本私に撃っても絶対に効果ないと思うよー。どうせなら破城槌でも持って来ればいいのに」
「あの、破城槌は流石に今の魔力じゃあ」
「えー?ザインくんの魔力正直私より多いよー?流石にそれくらいつくれるでしょー?」
「いや、あの、流石にそれは」
「いや、事実だよー。私ザインくんの魔力見えるし」
まじかよ、そんなに魔力あるのは自覚してなかった。
ということは今までの魔法は自覚なしでセーブしてたってことか?
そう考えると相当恥ずかしいことしてたって今更ながら思う。
「わ、わかりました。やってみます」
俺はそういうと早速取り掛かった。
まずは身体中の魔力を再確認する。
体内の魔力がどれぐらいあるかを確認しないと今までの魔法と同じ結果になってしまう気がした。
今までは、自分の魔力を先に決めつけて見もしなかったからな、今は自分の魔力を確認してどれくらいの魔法を打てるかどうか...。
「うっ」
俺は体内の魔力を見て少し気持ち悪くなった。
なぜなら、体内にある魔力が今までとは桁違いにもほどがある程にあふれていた。
「どーう?見えたー?」
ミリアは俺の方を興味深そうに伺っている。
そろそろやるか。
俺は決意を決めてミリアに向き直った。
魔力を自覚したことによって、自分がどれほど魔力が使えるかを理解した。
(性質変換土→オリハルコン、浮遊付与、遠隔操作、形質変換刺突特化、太さ500、長さ600、加速付与、空気抵抗緩和)
さっきよりも巨大で強力な、さっきミリアが言った破城槌といっても納得が行く程度の巨大な杭のようなものが出来上がった。
「へー、やっとか」
ミリアはにっこりと微笑んでいた。
「行きます!」
俺はその杭を高速で打ち出した。
狙いはミリアではない。
「っ?!ジャイアントゲイザー!」
杭はジャイアントゲイザーの目玉の中心に深く突き刺さった。
ジャイアントゲイザーはそれを取ろうと触手を使ってもがいていたが、やがて動かなくなり光となって霧散した。
「そっかー、もう自分の魔力に気づけたかー。あはは、”これから大変”だね」
ミリアは、俺がジャイアントゲイザーを倒したにもかかわらず笑っていた。
「あの、これから大変っていうのは...?」
「あー、うん、いうの忘れてたね。あなたが魔力に目覚めたらみんなで鍛えさせようっていう話になってたんだよねー。いやー、本当にいうの忘れてたよ」
あー、俺死ぬかもしれない。
「あー、逃げちゃだめだよー」
俺は向きを変えて拠点にこっそり行こうとしたが、そりゃあミリアの目の前で帰ろうとしたら見つからないわけがない。
違うんです、俺なりの抵抗なんです。
いつの間にかさっきのジャイアントゲイザーが10匹くらいいて囲まれてるんですが。
「それくらいにしておきなさい。でも、ザイン、あなたを鍛えるのは本当のことよ。それとミリア、流石に舐めすぎよ」
「えー、そうかなー。正直ベルちゃんだってあれで戦力的には互角と思ってたでしょー?」
相変わらず俺の周りにジャイアントゲイザーが見張っている状態でベルナードとミリアが話し始めた。
...いつになったらジャイアントゲイザーを退けてくれるのか。
「というわけよザイン。あなたが実力的にほぼ最下位の実力であることがわかったはずよ。他にもまだの能力を把握していないメンバー入るでしょうけどそれは明日にでも模擬戦やらで教えてもらうといいわね」
ベルナードからの厳しい教えが俺の心に大ダメージを与えてきた。
うん、だいたいわかってはいたけど実際言われるとかなりショックだなこれ。
「まだ日は明るいが、そろそろザインが持たなさそうだからよお、とりあえず帰るぞ」
ガルムはそう言ってさっさと帰って行ってしまった。
「はあ、これから俺どうなるんだろう」
「あのねザイン、私達と同じ土俵で戦うのよ?そんなに簡単に私達のような実力を手に入れられたら苦労もないわ」
やはり、ベルナードの教えは説得力のある正論だが心に深く突き刺さる。
「そう言われてもな...俺が持つかわからないな、これは相当苦労しそうだ」
「当たり前、そんな程度で私達に勝つなんて自惚れもいいところ」
ナーマはやはり何故かムカつく。
「それじゃあ、僕もそろそろ戻るよ。部屋で剣の手入れでもしてるから、夕飯の支度できたら呼んでね」
ジークもさっさと帰って行ってしまった。
「ふぉっふぉ、わしもそろそろ帰るとするかの。晩飯の支度できたら呼んどくれ」
グランさんも帰って行った。
「それじゃあ私も失礼しますね〜」
ミリアも同じくそれに習うように帰って行った。
いつの間にかマーナは消えてる。
「いやあ、みんな手加減をするという考えが抜けてるみたいだね。大丈夫かい?相当ズタボロにやられてたみたいだったけど」
ジェノは俺を心配そうな声で聞くが俺には逆効果だった。
完全に哀れみの声にしか聞こえない。
「ザイン、私たちもそろそろ帰るわよ?いつまで突っ立ってる気なのかしら?」
「あの、結構言葉に棘がある気が...」
「そんなことないわ。いつも通りよ」
ベルナードはそれだけいうとさっさと帰って行ってしまう。
まあ、外はだだっ広い草原というだけなので特に迷ったりしない。
拠点はすごく目立つので一目見ればわかるし。
拠点に戻りそのまま部屋へ入りベッドに倒れこんだ。
相当疲れが来ていてなかなかしんどい。
ん?なんか張り紙が貼ってある。
訓練スケジュール。
1.組手
2.魔力操作
3.基礎体力づくり
という三つが主なものだった。
それを一日二つづつローテーションでして行く感じで訓練するらしい。
それはそうと...。
「これはなんだよ」
俺の目の先にあったものは、訓練スケジュールの上に貼ってあるものだった。
というかそもそもいつ誰がここに貼ったのか疑問に思うんだが...。
そこにあったのは《十ノ頂》のメンバー全員分の魔法の詳細だった。
「わー、ぶっ飛んだ魔法多いな」
俺の目につく魔法はどれもこれもものすごいものばかりだった。