三章二話《魔物狩り》
ミリアの部屋での用事が終わり、リビングにもう一度やってくると、ジェノ、ガルム、ジークがそこにはいた。
みんな少し眠そうで、ジークに至ってはまだ少し寝ぼけてる。
「大丈夫か?まだ寝てたほうが...」
昨日ので魔力を消耗してて、それが体調にまで影響を与えて強い倦怠感を引き起こしている。
体内で魔力を回復させようとする働きによって体が重く頭が働かなく感じる。
俺も多少はそうだが、みんなと比べるとまだマシなほうだ。
「大丈夫だ、それよりも早く飯食うほうが回復は早いだろ」
「私は昨日あまりよく眠れなかった。色々と考えてしまってね。まあ心配するほどのことでもない」
「大丈夫ならいいんだけどな」
かなり疲れている様子で四人で座ってしばらくすると、さっきまでナーマの部屋にいた三人がリビングに入ってきた。
「やほ〜、おまたせ」
「ご飯が冷める。先に食べててもよかった」
「おまたせしましたー」
ミリア、ナーマ、マーナが入ってきて残るはグリーダ、グラン、ベルナードだけとなった。
グリーダはもうすでに起きてる(と言うか寝てるか怪しいけど)し、ベルナードはまだ寝てる、グランは起きてるだろうけど疲れてるっぽいから多分まだ来ない。
「まあいいや、食べるか」
朝飯が冷めてはもったいないと、全員が揃う前にみんな食べ始めた。
いつもの食卓で、料理が体に染みる。
1日も立っていないはずなのに久しぶりに感じる。
「昨日は波乱だったな」
「元はと言えば大半はナーマが独断専行でどっか行くのが原因だったけどな」
「む、それは悪かった」
「でも多分、あの時から既に精神的に魔法の影響を受けてたと思うよ〜?全部が全部ナーマちゃんのせいじゃないってば〜」
事の発端は奴らが俺たちに勝負を仕掛けたからだが、ナーマのせいで事がややこしくなったのも事実。
攻めるのも納得できるし、むしろ俺がナーマを攻めないのがおかしいんだと思う。
「ナーマがやらかしたのは事実だけど、それはたまたま奴らがナーマを狙ってたからだろ?もしガルムを狙ってたとしたら同じ状況になってたかもしれないしな」
「そうだよ〜、攻めるなら同じ状況になって乗り越えられると確信がなきゃダメだよ〜」
ミリアも肯定してガルムがそっぽ向いて黙ってしまった。
「あれは...私だから暴走してしまった」
「は?」
ナーマがサラダを少し口に運び、咀嚼し飲み込むとボソリと呟いた。
あまりにさりげなく言われたものだから一瞬何言ったかもわからなかった。
「ナーマだから?そんなことあるのか?特定人物だけがかかる催眠か?それとも妖精族に対してだけ効果がある魔法か?...まったく理解できねえよ」
「種族は関係ない。けど、今は言いたくない」
ナーマが言い出したものの、よほど言いたくないのか口ごもりそれ以上何も言わない。
「ング...もぐ...まあいいんひゃふぁい?んっぐ...ナーマが言いたくないなら僕たちが無理強いする必要はないよ。それよりも優先すべきことがあるんだから」
「ジークさん、口に食べ物入れながら喋られると何言ってるかわからないです」
ジークが口に食べ物を入れたまま喋るせいで途中よく聞こえなかったけど、まあ言いたいことはなんとなくわかる。
俺はあまり気にしなかったが、マーナは文句を言っている。
「食べながらお喋りは行儀が悪いから、食べてからじっくり話合いしたほうがいい」
「「「あっ...」」」
ジェノの一言で、みんなそれ以上の話し合いは控え、ささっと朝食を終えた。
「さて、暇だしどっか遊びに行ってくるか」
「戦い明けなのにもう遊びに行くの?遊びに行くって言ってもどうせ魔物の討伐でしょ?ほかにやることなくても今行くのはあんまりいいとは思えないけどね」
ガルムの発言にジークは呆れているが、別段止めるようなことはしなかった。
魔力が底をついている状態なら止めるべきだが、ただの魔物程度なら止める理由もない。
「狩り過ぎて他の魔物狩りをしてる人の仕事取るのはやめたほうがいいけど、加減はわかってるだろうからいいか」
「おう、そこは意識するから大丈夫だ」
ザインが言ったことに得意げに返して胸を張るが、みんなからは不振な視線を浴びせられている。
「な、なんだよ」
「いや、なんか嫌な予感がするんだよな」
「同感〜、ガルムってはっちゃけるとすーぐ調子に乗るんだから〜」
「そのおかげで街への魔物の進行を防ぐことができたこともあったから、完全に否定はできないんだよね」
「お前ら俺をなんだと思ってんだ」
「「「お調子者」」」
「よしてめぇら表に出ろ。ぶっ潰してやるから覚悟しとけ」
ガルムは返答に満場一致でお調子者と帰ってくるとは思わなかったのかすこし怒気を混ぜてそう言い放った。
「ま、冗談はこのくらいにして、適当に魔物の生息数が多い場所に転移させればいいんでしょう?」
「おいグリーダ。テメエいつからいやがった?背後から無言で近づいてくんな」
「騒がしいから来てみただけよ。話の内容は概ね知ってるからもう準備もしたわ」
みんなで話していたリビングのそばの床に簡易的な即時転移魔法の魔法陣が展開されていつでも発動できるように既に発光していた。
「ガルム以外にも行きたいなら一緒に連れてくけど、行くの?」
「あ、私買い物したい〜。グリーダ、お金ちょーだい」
「僕はいいや。暇だけどまだ少し眠いから寝てるよ。それか剣の手入れでもしてるから」
「じゃあ俺も行かな...いや、やることもないし俺は行くよ」
ミリア、ジークに続いてザインも断ろうとしたが、することもないので行くことにした。
「それじゃ、転移魔法は妖精世界の森の中につなげたわ。どうにもその付近に魔物が多いらしいのよね。私の伝手から聞いたからそこら辺で不自然にならない程度に倒してきて」
「おう、魔物狩りをしてる奴らにバレないように気をつければいいんだろ?」
「言うのは簡単でもやるのは難しくないか?ガルムの魔法派手だし」
ガルムの魔法は炎、それも並みの威力ではなく相当大規模なものを扱う。
考えなしに魔法を使えば森なんて一撃で焼き尽くしてしまうだろう。
ザインの魔法は派手にもできるが、使い方次第ではこっそり魔物を倒すことは可能だ。
だが、妖精族は魔力に敏感でさらに耳がいいので下手なことをすれば察知されて異常視されることは間違いない。
それだけならまだしも、もし顔や格好を覚えられれば正体を探られる危険性もある。
「やっぱ行かないほうがよかったかも」
「おいザイン、着いたぞ」
ザインが考え事をしている間に転移が完了して、二人は鬱蒼と茂る森の中にいた。
「いつのまにだな。まあいざとなったら転移魔導具で戻れるからいいけど」
「うっし、標的の魔物は小型のやつな。でかいの狙うとどうしても派手なの使わなきゃいけねえから」
「ピギィィイ!!!!?」
ガルムは小さな火の玉を指先に出現させて後ろに振り向いて軽く投げる。
すると、かくれていた兎の魔物が断末魔をあげながら炎に包まれた。
「加減は完璧だな」
「おお、皮はちょっと焦げてるけど肉は程よく焼けてる。このまま食えるんじゃないか?」
食料調達をしに来たわけではないのだが、地味に繊細な技術を見せられたザインは少しテンションが上がって肉を持ち上げて感心している。
「その魔物は食べ物じゃねえ。ザイン、そこに置いといて少し離れるぞ」
「え?ああ、わかった」
これから何をするのかわかっていないザインは疑問を持ちながらもガルムの言うことを聞いて兎の魔物だった物を地面に置いてその場を離れて木陰でガルムと二人で死体の様子を見ていた。
「来たな、豚どもが...」
「豚どもって...そう言うことか」
ようやく意図を理解したザインは魔物の姿をよく見て相槌をうつ。
兎の魔物の死体におびき出されたのは豚にも猪にも見える魔物のグレーターボア、強力な脚力と骨格を持ち、少量ではあるが魔力を使って身体能力を強化する術を持つすこし強めの魔物だ。
ここら一帯のエリアではこのグレーターボアよりも強い魔物はほとんどおらず、また、グレーターボアは繁殖力が非常に高いために魔物狩りをしている者たちの間では非常にタチの悪い害獣という評判であった。
外皮は真っ黒で鋭い爪や牙はイノシシや豚ではなく虎や獅子の類いのもので、目は草食動物のように左右ではなく正面を向いていて、猪に関わらず肉食動物特有の特徴を持っていた。
ガルムやザインたちにとってはそこまで強い敵ではないが、ある程度の数のグループで生活している点と、強靭な脚力によって危険な魔物として認識され、民衆は基本的には刺激しない方針をとっている。
「こいつらを今日中に掃討するぞ、多分グリーダが言っていた異常繁殖ってのはこいつのことだろ」
「ガルム、最初からわかってたのか?」
「まあな、妖精族の森の中で繁殖力の強い魔物はこいつとゴブリン程度だ。ゴブリンは弱いから魔物狩りどもが早々に狩り尽くすだろうからこいつしか候補はいねえよ」
「なるほどな、でもなんで今になっていきなり増えたんだろうな。計画的に狩ろうと思えば集団で囲めばなんとかなるだろ?」
「こいつらはいくつかの集団だ、ほらよく見ろ。あの兎にもう6匹も釣れやがった」
ガルムが視線を向けた先にはすでに兎の魔物の死骸に飛びついて食らわんとするグレーターボアが大量にいた。
だが、それぞれに統率なんてものはなく我先にと飛びつこうとしては押しのけられてもみくちゃになっている。
とてもこの森で強者となっている魔物にはザインは見えなかった。
「あれが本当に強い魔物なのか?」
「あいつらは馬鹿だ、ただ強いだけで頭の中は空っぽなんだよ。罠を設置すれば簡単に殲滅できるだろうな」
死骸に群がるグレーターボアを簡単に見下ろせる木の上へと飛び上がり、他の場所には何体いるか確認した。
「全部で近くに20はいるか。おいザインそこの群れは頼んだぞ。それは周りの奴らをやるわ」
「わかった」
ザインも木の上に登ると詳細の位置確認、魔力を込めて術式を頭の中で構築する。
派手なものは使えないと言う制約の中で効率よく魔物を掃討するという条件はただ強い魔法を使うのよりも圧倒的に難易度が高い。
「どうするかな...音も出さないで見た目も派手じゃなくてって。難しいな」
「ザイン、それと下手に傷つければデケェ声で鳴きやがるから気をつけろよ。何匹も同時に倒せば地獄絵図だからな」
「うげぇ...面倒だ」
あまりの難易度にため息を吐いて仕方なく木から飛び降りて、着地した。
「一気に倒そうと思ったけど普通に各個撃破が妥当だな。すこし時間かかるけどいいか?」
「ああ、全然いいぜ」
ガルムからの了承も得てザインは勢い良く走り出す。
(まずは1匹)
グレーターボアの頭をオリハルコンで作られた剣で切り落とす、その際についでに喉奥も魔法でオリハルコンの剣の形状を変えて一緒に切り裂く。
そうすることで、鳴き声をあげられることもなく仕留めることができた。
「2匹目だな」
「ビヒィィ?!」
すぐ近くにいた2匹目も後ろ足を切り落として動きを止めて首を刎ねた。
その後、多少の音は仕方ないと妥協して3匹4匹と順調に討伐が進んでいった。
「これで40匹目か。本当に多いな」
「まあな、豚どもは豚どもの死骸も食う。死体が同胞を呼ぶんだろうな」
「そりゃあ魔物狩りも手が出せないわけだ。仮に殺しても群がってきてリンチにされるだけだしな」
実際、倒すペースが群がるペースよりも遅ければ確実に囲まれてなすすべなく殺されるだろう。
対処が難しく、なおかつ数が多く被害の大きい魔物がいきなり大繁殖を起こしているのがどれだけ痛手なのか、改めてザインは実感した。
「そろそろ場所を移すぞ、ここら辺のは全部狩り尽くした」
「周りに巻き添えで襲われてる魔物狩りがいるかちょっと見てくる。流石にこの数だと近くにいたらタダじゃ済まないだろうからな」
ザインは討伐中に被害に遭っている者がいないか見るために木の上へと登って辺りを見回し始めた。
「あ、あれ襲われてないか?グレーターボアではないと思うけど」
「あー?どれどれ...よし、行くぞ」
ガルムはザインの向けた視線を読み取って察知し、迷いなく炎を上げて突き進んだ。
「おーい、それ目立つ...って聞いてねえ」
ザインもガルムを追いかけるべく木の上を伝って移動し始めた。
(なんか忘れてる気が...ま、いいか)
地面には放置されたおびただしい数の死骸が乱雑に放置されていた。




