二章 最終話
本当に、全てが終わった。
みんな死なずに生き残り、転移魔導具で拠点に帰還してようやく長いようで短い戦いは終わりを告げた。
「は、はは、緊張が解けたら...痛みが...戻って...ちょっとやす...む」
足に力が入らずに後ろに態勢が傾き、地面に倒れそうになるところを誰かが支えてくれたみたいで途中で止まる。
「ありがとな、ガルム」
「無理すんな、死にかけ野郎が。テメエどうせ無茶して魔法使ったんだろ?自分の体くっつけて、おまけにあんな化け物倒すためにドデカイ魔法ぶっ放しやがって」
「全部、わかってたのか。俺が死にかけてるのも、魔力が残っていないのも」
「ザイン〜、大丈夫〜?」
ガルムに支えられてなんとか立ち上がり、ソファーに座ったら今度はミリアがおれのそばまで駆け寄ってきて体の所々を触って怪我がないか確かめてきた。
「いや、ミリアはおれのお母さんかよ。そんなことまでしなくていいよ」
「う〜ん、怪我はなさそうだけど魔力はもうほとんどないね〜」
「ザイン、よくあの状態から生き延びられたわね。逆にどうやったの?」
「どうやったって言われてもな...」
無我夢中で生き残るために魔法を...。
「そういえば、あの時の声。それに、旧友の大願って...」
俺が精神内に干渉してきた声と対話した時、いくつか気になることを言っていた。
改変魔法を使う者だけがもつエネルギー、そして再度の邂逅。
そして...旧友の大願。
「何言ってんだ?声っていつのことだよ」
「いや、おれの精神内に直接」
「それだけじゃわからないわ。その声はどんな風のものだったの?」
「男の声で直接精神内に語りかけてきたんだよ」
自分でも説明するのが難しく、またよくわかっていなかった。
自分でもわからないことを口頭だけで説明して理解されるはずもなくガルム、ミリア、ベルナードの三人の頭に疑問符が浮かんでいた。
「何者かは知らんが、感謝することじゃな。それがなければおそらくお主は死んでおった」
「誰だか知らないけどそこは感謝しておくよ。多分、また会うと思うからその時に礼でも言っておくか」
あの時の声の主はおそらくグリーダ関連、旧友というのも昔からの仲であることがわかる。
「あ、お帰り...ってザイン?大丈夫?本当に辛そうだけど」
「あ、ああ。ちょっと無理しちまってな。魔力を使いすぎてこうなった」
立っていられてはいるがそれでもフラついていつ倒れてもおかしくない状態。
「あの、おかえりなさい。それと、そこで寝てるのって...」
「マーナ...か」
マーナの視線の先にはミリアが背中に負ぶっていた姉の姿があった。
「お姉...ちゃん?」
「安心して、生きてるわ。ただちょっと問題が発生していまは気を失っているの」
と、その後軽くベルナードがマーナに事情を説明している間に、ミリアが俺の横腹を小突いてきた。
『ナーマちゃんが暴走したこと、言わない方がいいよね...?』
何事かと思って振り向くと耳元で小声でそう言って心配そうな表情でマーナを見ていた。
言わないという選択は勿論あるが、俺たちの立場上それはどうかと思う。
けど...。
『今は、言わないでおいた方が良さそうだ』
今後また暴走するかもしれないし、全員に情報を共有しておかなければならないという考えもあるが、それ以上に伝えるのはマーナには酷だと思ったからだ。
「哀愁に浸るのはいいけど、もう休んだらどうだい?君たちの体も心も魔力も、もうボロボロだろう?」
なんとも軽い話し方で気さくに話しかけてくる青年。
しかし、流石に五年も鍛えていればわかる、明らかに尋常じゃない魔力を持ち明るい表情とは裏腹にとんでもない実力を持っているだろうことは十分に伝わってきた。
「ええっと...誰?」
「そうだった、君とは直接会うのは初めてだね。元《十ノ頂》《双皇》のリングルだ。よろしく」
「え、ああ。そういう...」
ここにいるからそうかなとは薄々思ってたけど、リザリーと同じようにもう引退したような感じか。
「まあ、元と言っても今でもたまに顔を出したりこうして手伝ってはいるから完全に関係を絶っているわけじゃない」
「リングルは強いよ。多分僕が10回挑んだら全部負けるくらいには」
「ジークでも勝てないってそれもうグリーダじゃないと勝てなくないか?」
「いやあ、あの化け物と同類扱いも中々傷つくものだね。君たちからすればそう見えるだろうけど上には上があるというものさ」
「なーに偉そうに言ってるのかな?私よりも活躍できなかった泣き虫坊や」
二階からリングルさんを煽りながら階段を悠々と降りてくるのは、金髪を腰まで伸ばしてミリアのように派手な服装に身を包んだ女性、リザリーだ。
彼女はミリアの母でありながらグリーダとは長い付き合いの元《十ノ頂》の《龍皇》。
「リザリー、昔の話はよしてくれ」
「あんなの昔のうちに入らないでしょ?たった五百年前じゃない。私からすれば全然」
「え、なにそれ聞きたい〜。教えて〜」
リングルさんの話にどうやらミリアが興味を持ったらしくリザリーさんに教えてもらおうと頼んだ。
「うーん、どうしよっかな?」と言いながらも少し嬉しそうにリザリーさんがリングルさんの方へ顔を向けると額に手を置いて首を横に振っていた。
「流石にここで言うとリングルの心が折れちゃうかもね。とは言ってもグランは知ってるでしょ?」
「そうじゃのう。昔は可愛げがあったが今はただのキザじゃな」
「みんな容赦ないな、リングルさん泣きそうになってるぞ」
リングルさんは予想外に酷い扱いを受けたせいでちょっと赤面して沈黙していた。
流石にこれ以上は良くないと判断したリザリーが無理矢理話を別の方向へ持っていこうと話し始めた。
「それで?何かわかったことは?」
「俺にはよくわからないことがよくわかった」
「ガルム...」
ガルムがふざけてるのか知らないけどちょっと意味わかんないこと言い出した。
俺も現状よくわからないことが多いけど、それをここで直球で言うのはどうかと思う。
「でも、あながち間違ってないのがね」
「そうじゃのう。もう少し手がかりでもあれば話は変わってくるのじゃが...」
「そう簡単にいくならもう既に解決してると考えるとその望みは薄そうだ」
みんなも現状を把握するのに必死で新しい情報がないか考えてはいるがそれらしい答えはみんな持っていなかった。
それに、現在一番の頼みの綱であるグリーダが不在でナーマも意識不明、ある意味絶望に近い状態。
それでも、今ある問題を無視するわけにはいかず、かといってすぐに解決できる可能性もほぼない。
「あれ...?今結構やばい?」
「かもな、最悪の状況じゃねえが事態が好転してるとは言えねえな」
今のところ、どうにもならないことが多すぎる。
「そういえば、ベルちゃんが向かってった先になにがあったの〜?」
「あ、そうよ!それを言わなきゃいけないと思ってたわ」
ミリアの素朴な疑問に勢いよく食いついたベルナードがたった今思い出してみんなは耳を傾ける。
「あの奥には、巨大な魔法陣と明らかに何か儀式的なことをしようとしていると感じれるような空間があったわ。それに、仮面で性別はわからないけど謎の人物」
あー、それは確信犯だ。
明らかに何かしようとしてるのは明白、しかしなにをしようとしているのか特定できないとこれもどうしようもない。
「それで、魔法陣の性質は分かってるのかい?」
「...反魔法、それも相当強力な。国家規模で創り出すようなもの」
リングルの質問に手を震わせながら恐怖を表情に隠さずに答えた。
ベルナードが恐怖を抱くほどの魔法は俺じゃあ想像もできない。
あの時ベルナードに頼んだのは俺だけどそれでもそんなものが隠されているなんて思わなかった。
「ザインはなんでそんなものがあるって分かったんだ?お前が頼んだんだろ?」
「いや、ただ奥の通路を守るように敵がいたから何かあるって思っただけだ。そんなあからさまにヤバイものがあるなんて想定してなかった」
「なるほど、しかし分かっていても対処法を探す必要がある。そうすぐにはなんとかできそうになさそうか」
「そうだね。とにかく今はグリーダが帰ってきてからにしよう。多分生きてる」
ジェノもジークも、今は対策の取りようがないと言って既にグリーダに委ねている。
それが正しいとは思うが何かまだできることがないかと考えてしまう。
「あ、そういえば。こっちにきた敵を”一体”確保しておいたよ」
「一体?魔物かなんかか?」
「それに近いかな。まあ一応」
リザリーが地下室に続く階段を降りてって、俺たちはしばらくその場で待機した。
「あーこら、早くきなさい」
「離して!待っ...痛タタタタ」
しばらく待っているとリザリーさんが地下から男の子をがっちりホールドしながら登ってきた。
「お母さんそれ誰〜?」
「この子は龍族。トリニティヘッドっていう名前の龍だよ」
「一応高位龍だけどまだ子供だ。コレみたいな化け物には流石に勝てないよ」
トリニティヘッドと呼ばれた龍の少年はため息をつきながらリザリーさんを指差して忌々しく言い放った。
当の本人は当たり前だと表情に出てて得意げに笑っている。
「それで?どっから拾ってきたんだ?大方予想はついてるけどな」
「うん、大体ガルムの予想であってる。この子は今みんなが敵視してる奴ら、敵組織に理性抑制魔導具と心操魔法によって私たちを敵と認識させた状態でここに転移されてきたんだよね。まあ楽勝だったから魔導具破壊してついでにその魔法もこっそり解除したけど」
あんな異様な薬品で化け物の姿にさせるような奴らだ、龍を操ってけしかけてきたとしても理解できる。
けど、どうやってこの龍をここに運んできたのかわからない。
「誘拐か?高位龍っていうのは貴族だと思うけどそっちの問題はないのか?」
「ん〜?龍族は基本的に孤立して暮らしてるから国内での誘拐とかあんまりみんな興味ないんだよね〜。まあ自分がそうされないようにそれぞれで対策はしたりするけどね〜」
「まあ、そんな普通の誘拐なら俺たちだって気付...あ、今世界眼使えないじゃん」
そうだった、完全に忘れてた。
「つまり全部繋がったみたいだ。我々の情報を全て把握していると奴らは言ったのならそれにも合点が行く」
「そうじゃのう。ワシらとて動ける範囲は制限されておる。世界眼なしに全ての世界をカバーするのは無理じゃ」
「あーあ、これもっとすごいことされてる気がするよ。僕たちが気づけないことを知ってるならその可能性の方が高いよね」
なんだか、色々絡んできそうな事件だ。
どう考えてもこのままだと悪化し続ける一方で対策は世界眼が治るのを待ち、グリーダが戻ってきたら全力で潰しに行くしかない。
他にもないわけじゃないかもしれないけど、今のところ成功しそうなのがそれくらい。
「なんか色々考えてるけど、まずすべきことがあるんじゃないかい?」
「すべきこと?」
機嫌を取り戻したリングルさんがいきなりそんなことを言い出した。
「ナーマについてさ、彼女は今精神的にも不安定だ」
「え、なんでそれ知ってるんですか?」
「見れば分かるさ、魔力も不安定で乱れているし、気を失っているがどうもうなされているみたいだ」
「言われてみれば確かにのう。いつもとは違うような魔力の流れじゃな」
魔力に比較的に敏感なグランさんは、リングルの言葉に頷いてよく目を凝らしている。
俺も改めて見ると悪夢にうなされているように小さな声で唸り表情は険しくとても正常な状態とは言えない。
「こいつがこうなったのは奴らのせいだろうな。何を見せられてるか知らねえが本当にタチが悪い。戦いが始まったばっかの時切羽詰まって独走しやがったのも含めてな。まるでなんかに憑依されたみてえに」
「え?!ナーマそんなこともしてたのか。どうりではぐれたとか言ってたのか」
「おそらくそれも心操魔法の一種だろうね。ナーマちゃんにかけられているのは軽度のものだけど、精神がもともとナーマは安定していたわけじゃない。付け入る隙があったんだろう」
ナーマの精神がもともと安定しているわけじゃない...か。
俺もそれは薄々気付いていた、いつも無表情で薄情な感じなんだろうと結構前は思ってたけど、最近になって気付いた。
もともとナーマはそんな風じゃない、感情が薄い、表情に出ない、そんな人物を演じていると。
確信があったわけじゃない、根拠だって確たるものもない。
ただ、そう思っただけだ。
ご精読ありがとうございます




