二章三十一話
時はザインが死んだ直後まで遡る。
ここは...なんだ?
さっきまでみんなと戦ってそれで...。
「ここどこだ?」
真っ白な空間で上下も左右も分からないし、意識もハッキリとせずにまだぼやけている。
「君は死んだのさ」
「っ、誰だ?!」
声のし他方向がはっきりとせずでたらめな方向に魔法を放とうと腕を構える。
...が、魔法どころか魔力さえも全く感じられない。
「無駄だ、ここは現実ではなく君の精神の中さ。私は君の精神内に干渉して対話を図っているのさ」
何をいっているのか全く分からない。
「いったい誰なんだ?俺に何を求めているんだ?」
ダメもとで聞いては見たがそんなこと答えるはずもなく話し続けるのみだった。
子供のように高い声で、幼いような印象を覚えるがその言葉の一つ一つには確かな知性があり俺に対しての明らかな打算的考えがあって語りかけてきたのだろう。
「どうして、俺に語りかけてきたんだ?俺は死んだんだろ?」
「ああ、死んだよ。体の活動は止まり魔力ももうじき霧散してこの精神空間も消滅するだろう」
ますます分からない、この声が何者なのか、何を目的としてこんなことをしているのか、どうやってこのような状況を作り出したのか。
分からないものは仕方ない、考えるだけで答えが出るのなら話す意味などないし、相手も話の通じる相手だから情報をできるだけ引き出すことはできるだろう。
「あんたは何者なんだ?答えてくれよ」
「残念だがそれを答えた所でなんの意味もない。それに、再び合間見える事もあるだろうし」
再び合間見える?気になる事をいっていたようだがこれからどうすればいいかを考えないと、もう既に死んでいるから希望も何もあったものじゃないけど。
「それなら、どうして死んだ俺に語りかけてきたんだ?」
「そんなもの、聞くまでもない。君だってわかっているはずさ。この力が”この程度”で終わるはずがないと。まだ感じているだろう?魔力のない空間だからこそ感じられるエネルギーが」
「エネルギー?言われてみれば...」
なんだこれ?いつもは魔力の方が表に出てきて認識することができなかったが今はその存在が鮮明に感じとることができる。
「それは改変魔法を使うものだけが持つ...いや、これ以上は止めておこうか」
「だからこれはなんなんだ?」
饒舌に語り始めたと思ったらいきなりやめる、訳がわからん。
「とにかく、簡単に説明するとそれは魔力に浸透させるようにして使うんだ。それによって魔法の効果が段違いに上がる。今はそれだけ知っておけばいい」
「いや、待ってくれ、今ここは魔法がつけねえんだろ?そんなこと説明されたって...」
謎の声にたいして適当な方向に声を投げ掛けて意義を唱えるが、最後まで言い終わる前に異変が起こった。
「あとは、君次第だ。頼んだよ」
空間に亀裂が走りガラスが割れるような音が連鎖的に広がり意識が外側に引っ張られるように引き込まれるなか、消えそうな声が耳に入った。
「旧友の...大願を」
その言葉を残して。
現実に戻っていくと共にその惨状が露になる。
俺のからだの上半身と下半身が別れるように切り裂かれていたのだ。
周りでは乱戦となっていて俺を気にする余裕は誰にもないようだった。
さっき言っていた謎のエネルギーを使うことが頭に浮かんだ。
もう半分以上意識が覚醒しかけていて痛みが戻ってきている。
なぜ既に死んでいるのに意識が残っているのか分からないが、ダメもとの思い付きを試す。
邪魔をされたくないから別れた上半身と下半身を纏めて地面に人間大の穴をつくってさらに深い場所でやる。
あまり聞き心地の良くない肉が叩きつけられる音と共に地面に雑に着地?をして自分のからだに魔法を起動する。
なぜ体がこんなになっているのに何時ものように考えていることができているのかわからなかったが、ただ今は集中して魔法を構築した。
他の物質を改変させるのと同じ感覚でやれば確実に失敗するような術式で組もうとすれば頭が痛くなり目からは血が流れて魔力が制御仕切れずに魔法が崩壊しそうになる。
複数の魔方陣を歯車のように噛み合わせて効果を上乗せして膨大な相乗効果を生み出し成功率をあげる。
自分の体を改変するからにはそれだけ多くの魔力と技術、そして集中力が必要だと自覚した。
それでも、まだ死にたくなんてなかった。
死にたくないから死ぬ気で食らいつく、痛みが戻ってきて声が出そうになったがそんなことは気にせずにとにかく自分の体の構造を把握、改変魔法によって最適な部分を寸分たがわずに修復する。
「いってぇ、けど、死にたく...ねえ」
脳が裂けそうなほどの痛みが襲い術式の構築が崩れそうになっても、集中が切れそうになっても、それでも生きていたいと言う思いで持ちこたえた。
これまでこんなに苦痛の時があっただろうか、こんなにも生に執着したことがあっただろうか。
さっき説明されていた訳の分からないエネルギーも言われた通り魔力を扱うのとおなじ要領で操り術式に埋め込んでいく。
そのおかげか、効果が現れ俺の体を魔力が包み蛹のようになり、そのなかで俺の体は傷が次々となおっていく。
「やったぞ、生き返ったのか?」
体が繋がって傷は少し残っていたがそれでもたって歩ける程度には回復していた。
「一体なんだったんだろうな、あの声」
意味不明な事が立て続けに起こり理解が追い付いていないが、無我夢中で魔法を使って偶然生き残った。
「ここでおとなしくしててもいいけど、どうせなら戦うか。もう魔力も多くはないけど」
塞いでいた穴を開けて地面を隆起させ、高速で飛び出した。
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「いずれ、神の元へと至らんことを」
様々な本や薬品のはいった瓶などがところ狭しと並んでいる部屋で、一人の男が紅茶を飲みながら不適な笑みを浮かべて呟いた。
「なーにかっこつけてんの?ご主人」
「カッコいいとは思わないかい?」
「いえ全然」
「辛辣だね、それより彼は君から見てどうかな?」
「私は戦うことに関しては全くの雑魚ですけどはっきり言ってあれはひどい」
この男に対して辛辣な少女は、目の前にあるモニターを眺めて意味深な笑みを浮かべた。
「複製体なんてどうやって作り出した?あれって...」
「そうだね、明らかに確信犯だろう。それに、過去の遺産を使ってまでどうしてそこまで彼らを潰したがっているんだ?」
「ご主人、これ」
少女は男に一冊の古びてホコリを被っている本を手渡した。
「どれどれ...ああ、なるほどね。サンプル回収、といったところか」
「やつらが何を考えてたか分かってきたけど難しいですね」
「私が出来ることは全てしたさ。あとは彼ら次第。いや、グリーダ次第だね」
「あの脳筋に期待はしたくないよ。負けることはまずないけど」
「気持ちはわかるが現状これしかない。私が出向いてもいいがそれはそれで面倒なことになりそうだ」
少女はなれた手つきでからになったティーカップに紅茶を注ぎながら不満を口にする。
主である男は全くそれにたいして咎める事はなくむしろ肯定していた。
少女は従者のような服装だったが主である男に敬語ではなく馴れ馴れしくはなし、男はそれを当たり前のように接している。
「まあ彼らがどうやってこの場を凌ぐか以前に面倒なことになったのは事実かな。私も近いうちに出るとしよう、年寄りは辛いね」
「そのジョーク面白くない」
「まあまあ、その内私も戦うというのは紛れもない本気さ、出来ればそれはもっとあとにしてほしいところだけど」
あとにしてほしい、その言葉はこの戦いがまだ序章に過ぎないと言うことを暗に示していた。
そして、それが«十ノ頂»だけでは勝ち目が薄いものだと言うことも。
「さて、今は観戦に集中するとしようか。メノ」
「あのゴミ野郎。いつか殺してやりたい」
メノ呼ばれた少女はこの度の戦いの行方を主と共に覗き込んだ。
その視点はある少女一人に向けられ、
「確信犯だこれ」
と、一言呟いた。




