二章二十九話
体が軽い、そう思ったときにはもう手遅れだった。
腰から下が無くなって遅れて血がどんどん流れ落ち、意識が遠くなっていく。
「や...っちま...った」
沈み行く意識と重いまぶたを開いて上を見るとナーマが虚ろな瞳でこちらを見下ろしてくるのが見える。
「俺、死...」
本当にここで最後だろう、もういきることはできない。
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「嘘でしょ、ザイン」
重い足取りでベルナードがザインのもとに近づいてまだ体温の残っている体を揺すった。
それでも目を開けることはない、もう死んだと頭のどこかではわかっていたのに、ゆすって声をかけ続ける。
取り囲まれて戦っているガルムもそれに気づいて駆け寄ろうとするが、それを«反逆者»の面々が許すはずもなく複数人で抑えられてしまう。
「クソが、どけ!」
「どくわけがないさ、勝手に自滅したのはそちらだ」
ガルムは頭に血がのぼり無意識に腰に下げていた剣の持ち手にてをかけていた。
額からは汗が一筋の線を作るように頬を伝り、口からは歯を噛み締めることにより鈍い音が聞こえた。
「パティオ、一旦下がった方がいい。やつは危険すぎる」
「平気さ、精霊の損傷は激しいがまだ戦える」
「そうではない、あの剣は...」
ルクスがパティオを説得しようと前に踏み出し危険だと伝えるが当の本人は全く危機感を覚えていなかった。
(ガルム、ダメ。周りを巻き込んじゃう)
「うるせえな、お前は黙ってろ」
肩に座っている少女、イフリートの警告も聞かずに剣を抜いて構えると体内の魔力が数倍に高まっていく。
グリーだとは違う意味で燃えるような瞳に吐息が燃えて炎を吹き出した。
(...巻き込まないように範囲限定するよ、流石に危ないからね)
「ああ、それでいい」
イフリートは諦めたようにため息をはくと指を軽く振って魔力を固めた。
「ビーノ、どうにかならないのか?!」
「全力で回避と防御に徹して良くて数人生き残る、運が悪ければ全滅だ」
「ええ?!まだ死にたくないよ!」
未来予知をもつビーノの答えにテディベアを握りしめた少女が慌ててわめく。
強大な魔力と危機感を感じ取ったナーマがザインの亡骸を放置してガルムに向かって神速魔法を使って圧倒的な早さで真後ろに移動した。
ナイフで切りつけようとしたところで、なにかに阻まれててが止まった。
それは鱗のように硬い炎の塊でナイフが溶けて地面に落ち、その熱でナーマは思わず後ろに飛び退く。
「お前のことを忘れてる訳ねえだろ?これくらい予想してんだよ」
ナーマを囲うようにして火柱が上がり包囲して動きを封じてそれを確認するまもなくレーヴァテインの準備をする。
「う、ぐぅ」
熱に唸って大人しくなり、動かなくなる。
「メノ、空間魔法で俺たちを飛ばしてくれ」
「クヒヒ、別にいいけどさ。その隙を与えてくれるかな?」
空間魔法を使うメノは一応のために側で見ていてルクスの要求にネガティブな発言をするが顔は笑っていた。
《魔術コード0001、魔術出力70%、圧縮倍率5倍》
「おい、詠唱が始まった。今なら」
「気づいてないの?逃がす気はないみたいだね」
(精霊を舐めないでね)
ガルムが詠唱に取りかかる間にイフリートが一帯の魔力の主導権を握って他の魔法の発動を牽制していた。
「形状《追尾分散型》。撃滅剣レーヴァテイン!!!」
「《詠唱破棄》荒神爆」
「《詠唱破棄》雷豪」
ルクスが咄嗟に放った竜を形取った光の魔法と雷鳴を轟かせ迸る鉄槌が煌々と輝く焔にぶつかり魔力の波動に後ろにいた全員が耳を塞ぎ三つの魔法が拮抗する。
「負けるかよ、俺は...強さだけが取り柄だからな」
ガルムの魔法はイフリートと合わせて二人分の威力となり、更にはその手に持つ剣は魔力を数倍にまで増幅する。
その一撃は、いくら《十ノ頂》を押さえる程の力を持つ者の魔法を二つ撃ち込まれたとしても、到底対抗することなどできはしなかった。
さらに、詠唱を省略したことにより、魔法の基盤が薄くなり数段オリジナルに劣る状況である。
そして、ガルムの放った魔法が周りを焼き払い、魔力を消耗しすぎたガルムが膝を付いた。
後ろからの殺気に振り向くと、火柱が消え阻むものが無くなったナーマがガルムを見下ろしていた。
「おい、お前。...いっても無駄だよな」
ガルムは見逃していなかった、表情は変わらないまま涙が流れ落ちるその姿を。
「そんな顔されたら、放っとけねえよな」
「殺す...全部、全部、全部...殺す」
うわ言のようにそれだけをナーマは繰り返していた。
「まだ、終わってねえ」
黒煙が晴れると全身に氷がはりついているにも関わらずに痛々しい火傷をおっているガレアが虫の息で立ち上がった。
少し遅れて精霊を盾にして完全に精霊をが消滅してしまったパティオ、粘膜のような魔力を何重にも展開していた少女のクノエはかろうじて生き残っていたが、ルクスと雷魔法を使うニイルは魔法を直撃して跡形もなく消し飛んでいた。
メノは空間魔法を自分だけに絞って回避に成功しガラトは黒こげで地面に倒れて死んでいた。
「ガラトは死んだか、けどなぁ、まだ、負けてねえ...よ」
「何が負けてねえだよ、テメエもボロボロで後ろのやつらも虫の息じゃねえか。そんなんで戦えんのかよ」
「もう魔力も使い尽くしただろう、君の敗けさ」
パティオが勝ち誇り、ゆっくりとナーマがナイフを振り上げ今にもガルムに向かって降り下ろそうとしていた。
「いいや、俺たちの...勝ちだ」
突然この地下空間につむじ風が吹きナーマを横殴りに巻き込み吹き飛ばした。
それだけではなく、でどころのわからない暴風が吹き荒れそれが無数の刃となり鎌鼬のように縦横無尽に«反逆者»を襲った。
鎌鼬が集まっていき竜巻のようになり何もかもを吹き飛ばしきり刻む災害となる。
「ガルムはようやった、あとは老いぼれに任せて休んでおれ」
その背中はいつもの穏やかな年よりの姿ではなく、風神の力を奪い取りし強者の姿だった。
「あーあ、私の粘膜破れちゃった。まいっか」
傷だらけのスライムのようなもののなかで余裕そうに笑うクノエと転移魔法を使ったにも関わらず腕に傷を負いちを流した場所をてで押さえているメノが残っていた。
「まずいなーこれ、あー負けそ」
「他のみんなは生きてるのもいるけど気を失ってるね、私たちだけ?」
「あれでも耐えるのかよ、っち、グランの魔力ももうたいして残ってねえしどうするか」
ガルムが指の爪をかんでイライラしたように考えていると、メノがガルムの前に歩いてきた。
「ねえ、さっき勝ったとかなんとかいってたけど、まだそんなこと言えるの?あー凄いね、まだ秘策でもあるんだー。早く見てみたいなー」
「大丈夫だよ...~。あともう少しだからね」
ミリアが辛そうに頭を押さえながら、それでも笑顔を絶やすことはなく立ち上がった。
その手には溢れんばかりの血がついていてそれは咳き込んだときに出てきたものだとガルムは察した。
「それに気づいてないのかな~?一個だけ地下空間に魔力の反応が増えている気がするんだけどね~」
「魔力の反応?ハッタリなら無駄だよ、さっきから回りの魔力を確認してるもん」
メノがいっていたことに嘘はなかった、"この部屋"に入ってくる魔力の反応が感じられなかったからだ。
「メノちゃん、今すぐあの死体転移させて」
「だから大丈夫...これって」
「お前らはあいつが死んだと思ってたのかよ。それに加えてグリーダまでなぁ」
地面に横たわっていたザインの死体はすでにそこにはなく、魔力をたどると誰も予想していなかった場所にいた。
「やっぱり二人で転移しよ。一旦退避」
メノは慌てて魔方陣を展開したが誰も邪魔などはしなかった。
その理由は簡単だ、追う余裕などもうみんなには残っていなかった。
「一番弱いって思って警戒してなかったんだろ?自業自得なんだよ!」
魔方陣を地面に展開しようとしていたのが不運だったんだろう、地面から亀裂が走り魔方陣の機能が停止し光を失い転移に失敗した二人が取り残された。
その亀裂が開き、そこから見知った姿が出てきて飛び上がりようをもって地面に着地した。
「く、なら、せめてわたしが」
粘液のような魔力を纏い地面から出てきた体の動きを封じる。
「ザイン、なに捕まってやがる!早くにげろ!」
「ナーマみたいな近接先頭が得意な奴ならこれは聞くだろうな、けど、俺の魔法はそんなの関係ないな」
魔力が硬質化してしまいからだが動かなくなったが、ザインの顔からは余裕が消えていなかった。
「後輩がおいしいところをもっちくのもどうかと思うけど、そんなこと言ってらんないな」
少し軽口をはさみつつも、ガルムの詠唱を参考にした詠唱を始める。
「改変物質オリハルコン、形状・薄刃、硬化付与」
地面から無数の牙のような刀が地面から口が広がるように現れて、包むようにして包囲していく。
「ぐ...」
「逃げないのか?あんたの魔法ならできるんだろ。何でしないんだ?」
メノは周りに危険が迫っているにも関わらず逃げるそぶりを見せなかった。
「さすがに俺でもピンと来たぞ。逃げないんじゃなくて逃げられないんだろ?」
「おい、ザインどういうことだよ」
ガルムがザインに詰め寄るがザインはいたって冷静に話始める。
「さっきガルムが使ってたでかい魔法も避けようと思えば転移魔法を使って遠くに逃げてれば無傷で済むはずだった。けどそれでもこの空間を離れずに短距離の転移で凌いだんだよ」
「ザインよ、なぜお主が無傷で立っておる。説明してくれんか?」
「グランさん、説明はあとでするから先に終わらせよう。ゆっくりしてるわけにもいかなそうだし」
急がなくてはいけない理由はもうあらかたみんなも想像出来たようで、再び話すのをやめて構えをとる。
「私もまだ...やれる」
「わ...私も~」
ベルナードとミリアもザインのもとに歩いてきて大きく息を吸い込み呼吸を整え心のなかで喝を入れた。
「それと、またあったな、ナーマ」
グランの魔法に巻き込まれてたっているのもやっとな状態でザインを睨み敵意をむき出しにするが、襲ってくることはなかった。
「死にたくなかったら大人しくしてろ。後で相手してやるからな」
ガルムはそれだけ言ってメノとクノエの前に立ちふさがった。
「なあ、この人数差で勝てると思ってんのか?それならその頭は馬鹿を極めてるな」
お互いに魔力の残っている者はおらずガルムも煽っているが心に余裕などなかった。
「無理でもなんでも、逃がすきないんでしょ?なら戦うよ」
「勝てる来はしないけどね」
無謀であるのにも関わらず、逃げるぞぶりを一切見せずに立ち向かう姿にザインは不気味ささえ覚えた。
まるで、勝つことではなく戦うことそのものが目的のように感じた。
「ベルナード」
「何?今少し辛いんだけど」
「頼みたいことがあるんだ」
「珍しいわね、それで?」
「ああ...」
ベルナードに近づいて耳打ちし、頷いた。
「ハードすぎない?」
「これはベルナードにしかできない」
ベルナードは自分にハードなお願いをして来たザインに苦笑いで振り替えると、隠蔽魔法で自分の姿、魔力、匂い、気配を完全に消した。
「お主、ベルナードに何頼んだんじゃ?」
「ベルナードには探し物を頼んだんだ」
「ザイン、セコいね~」
ミリアはある程度察したようで、あきれ半分、感心半分で笑っていた。




