二章二十八話
私は...死んだのね。
いま私がどんな状態なのかもわからない、皆はどういう状態なのかもわからない。
けれど、まあいいでしょう。
あの子達ならきっとどうにかしてくれる。
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「ナーマ!ふざけんなよ、早く戻ってこい!」
ザインの叫びは虚しく響くがナーマの心には響かない。
「くそが、どうすんだよこれ...」
「こちらが動かぬ限りおとなしくしているのが救いじゃが、もとに戻すと決めた以上このままではじり貧じゃのう...」
「う~ん、ただ暴走しているようには見えないんだよね~。何て言うか、自衛?みたいな」
「自衛?」
ザインたちは、ナーマの動きに違和感を覚えていた。
自分からせめては来ないのだ、と言うよりもこちらの動きに合わせて対抗するように攻撃してくる。
排除と言うより牽制、近づいて欲しくないような、そんな気配を薄々感じていた。
「早くしねーとあっちが終わっちまう」
「まあ、それはそれでいいだろ」
一定範囲内に入ったり魔法を放てば反撃のように痛手を負う。
殺すほどの攻撃ではないのはまだ少しでも手加減する要因があると見て間違いないだろうと、そこまでは皆同じ考えだ。
「本気でこられれば死んでるだろうな、まあ、殺す必要もないと思われてるかもしれないが」
無暗に突撃するのもどうかと思い全員それぞれ目配せをして一旦距離をとった。
「どうするんだ?アイツを殺すよりよっぽど無理難題だが」
「まずナーマを救う方法を考えてからだな」
皆で作戦会議中、ナーマは虚ろな表情で焦点の定まっていない目を上に向けて微動だにしない。
「命の危険がなければ動かないみたい。はぁ、はぅ,,,うう」
方をひどく出血しているベルナードが合流して再度皆で集まった。
「今は...刺激しない方が...ぐぅ」
「魔力が残ってないならいい。少し休んでろ」
ガルムがベルナードの手をとろうと手を伸ばして時、ある魔力が消滅したのがはっきりと伝わった。
「まさか...死んだのか?グリーダ」
それと同時に真っ黒の格好をした顔の見えない奴が入ってきた。
「排除する」
「あ?やってみろ。ぶっ殺す」
ナーマのことは一旦保留にし、ガルムは目の前の敵と対峙した。
「俺も加勢を...」
「お前らはナーマを見張ってろ。何か異変があったら教えてくれよ」
「貴様が相手か」
「何だぁ?不服か?」
「否、強者と戦えるなど恐悦至極。慎んでお相手しよう」
黒装束を着た者は丁寧に定型文を並べると同時にちゃっかりと短剣をちらつかせていつでも攻められるように構えていた。
「おいおい、慌てんなよ。望み通り潰してやるよ」
ふう、と息をはいて最初からイフリートを顕現させて服の隙間から火が上がる。
「ミリア、俺たちも出来ることをやるぞ」
「言われなくても、っうう...」
ナーマから受けた傷が回復していない。
「ミリア...傷が」
「はは...はぁ~、情けないね~」
契約による再生の恩恵は魔力を使って傷の治りをよくする仕組みだ。
消費する量も目を瞑れるレベルじゃない。
「チヨとの戦いの後に発生した大量の魔法に被弾したのか?」
「そうだね、ごまかせると思ったんだけどな~」
(明らかに疲弊している。このままじゃ)
ザインの不安は現実となる。
ガルムとギシュウが衝突し、すぐに援軍が到着した。
グリーダが死んだと言うことは、奴らを阻む障壁はなくなったと言うことだ。
そうなればこうなるのも必然。
「あーあ、これは詰んだね。諦めた方が身のためさ?」
「グリーダを...殺したのか?」
「ああ、死んださ。ここに私らが言うことはそちらも結果はわかっていただろう?」
老婆が一歩前に出て得意そうに答える。
それを見て、ザインはため息をつく。
「はあ、安心した」
「何言って...」
一人激昂するもザインが続ける。
「お前らがグリーダに勝つ?グリーダが死ぬ?んな訳ないだろ。お前らじゃ逆立ちしても勝てない」
挑発するようにいったザインの言葉は、虚言やハッタリなどではないとその目が語っていた。
「ならば証明してみればよかろう。貴様もあやつの仲間なのだろう?」
「今ここで全員と決着をつける、それもまた良いじゃないか」
人数的なさは歴然、ミリアは疲弊しベルナードも再生したことによって魔力が大量に失われた。
(問題なく戦えるのは俺とグランだけ。俺も手傷を負ってるから流石に全力は出せない)
「どうやら、期待はずれみたいだね。このまま押しきる!」
「んな?!っくぅ...」
電流を纏った腕、そして何よりもザインが瞬きした頃には既に眼前に迫っているほどの速さ。
たまらず地面を隆起させて硬質化しようとするが間に合わない。
「ガフゥ...おぇ、ゲホッゲホッ」
腹に直撃した一撃で口から血が吐き出されて転がって壁に当たってとまった。
「弱いなー。少しは頑張ると思ったんだけど」
雷を纏う少年がザインに近づいてあおるように笑い上から見下ろす。
「く、ザインを...離してー!」
ミリアが怒りに任せて、リントヴェルが召喚された。
「伝説の竜の相手はこっちさ」
老婆がリントヴェルの前に立ちはだかりてを前に掲げた。
構わずリントヴェルが押しとおろうとするが、いきなり耳をつんざくような音と共に強力な衝撃がその巨体に襲い掛かる。
「グギャァ?!」
「な...っぅぅ」
その余波でミリアも後ろに飛ばされて受け身をとったが口から血が出ていた。
「何で...血?」
「この魔法は体内から蝕む。そんなしょうもない受け身をとったところで変わらんさ」
肺に血が溜まりむせて咳き込むミリアを嘲笑うように老婆はさらに立て続けに見えない衝撃波をミリアに放ち続けた。
「クソ野郎、止めろ!」
「ふん、敵の言葉を聞いておとなしくやめると?バカをいってんじゃないよ」
(ちょっと、不味いかも)
直感でミリアが敗けを悟りそうになったその時、頭に血が上ったザインが怒りを魔力としてぶつけるかのようにとんでもない物量の花弁のような形の硬質化されたオリハルコンの刃が宙を舞った。
「死ねよ、雑魚が」
その目はまるで、血のように赤く染まっていた。
ザインは、自分ではない何かの気配を感じながらも、それがなんなのかわからない。
まるで今の自分が本当の自分ではないと思ってしまうほどに感覚が違う。
激しい頭痛といきなりの大量の魔力の消費で体がふらつくがそれをこらえてザインはその圧倒的な物量をもつ魔法を発射した。
「な...まさか...ザヴァ...」
粉微塵に切り刻まれて最後の言葉すらまともに発せずに老婆はいきたえた。
「ザイン?!大丈夫?」
頭から血が抜けていく感覚と共にその場で崩れ落ちたザインをミリアが立ち上がって受け止めた。
「少し無理したかも知れないけど大丈夫だ。一応まだ戦える」
(今のは、一体なんだったんだ?)
ザインは正体不明な力に不気味さを覚えて自分の手のひらを見てもなにも変わら無いままだった。
「おらぁ!死ねや!」
ガルムは四方八方からの攻撃を正面から撃ち合って火花が飛び交い壁や床が今にも壊れそうだ。
ガルムも魔力を消耗しすぎて勝てるかどうか怪しい状態でとても優勢とはいえない。
周りにも複数の敵が残っていてこのまま戦えば戦力的に勝てる可能性は高くはない。
「このままじゃ...負ける。っ!ナーマ!」
ザインはナーマのことがどうしても放っておけなかった、自分でも今の最善ではないのはわかっていたにも関わらず無意識に走り出していた。
銀色の髪が前に垂れ下がりザインには顔が見えないがその表情は困惑と焦燥の縁にいるようで、とてもまともに思考をしているようには見えないものだった。
(俺の魔法をつまってもどうせ避けられて反撃されるのがオチだ。無駄に刺激を与える方が危険だしかといってなにもしなければ現状を打破することができない。それに自分から攻撃しないと言う保証もなにもない)
「殺...す」
「ああ、殺してみろよ!」
(もう、賭けるしかない!)
ナーマはスカートを翻して中に隠していたナイフを手に取る。
ザインはお構いなしに直線でナーマに単身で突撃した。
なんの魔法も展開せずに生身での特攻に理性をほぼ失ったナーマでもわずかながら同様を見せて、魔法の発動に若干の隙が生まれる。
「俺が言えることじゃないけどお前は優しすぎるな。それとごめんな、少し我慢してくれ」
ゴッと鈍い音を立ててナーマの頭を殴り付けた。
体勢を崩したナーマは後ろに倒れ額から少し血が流れた。
「ふう、やった...か?」
安堵の息を吐く暇のなく、下半身が軽くなったような気がした。
「あ...え?」
上半身と下半身がずれて地面に腹から上がずり落ちた。




