二章二十六話
「お前ら、ずいぶん勝手にしてくれたなぁ、覚悟できてんのか?ああ?」
右手から爆発寸前まで込められた魔力による炎をちらつかせながら怒りの表情を見せるガルム。
「流石にこれだけいれば負けないだろ、ガルムもやり過ぎんなって」
ザインは合流できたことに一息、戦闘体制に入る。
だが、合流したのは両方だった。
「ふむ、別地点で待機していたのだが,,,中々に辛そうだ加勢しよう」
黒の混じった青い髪にむらさきのローブ、瞳にはうっすらと魔力を宿している。
「へぇ、強そうだ。前の戦いぶりからは想像できない。素晴らしいよ」
白髪の、腰にナイフを身につけ、子供っぽい男。
その声に皆は聞き覚えがあった。
「お前、あの時の,,,」
ゴリアテを倒したあと、からすが運んできた魔導具の声と同じだったのだ。
「特に意味はないが自己紹介をしようか、僕はパティオ、さあ始めようか。殺し合いを」
パティオと名乗る少年の瞳には、殺し合いといったにも関わらず殺気を発していなかった、それどころか感じられる感情は歓喜、否、凶喜だ。
「ではついでに私も、《反逆者》の一人、ルクスと言うものだ」
ルクスは敵だというのに丁寧にお辞儀をして、礼儀を崩さなかった。
「気持ち悪いな、お前らまとめてさっさとかかってこいよ。全て終わらせてやるよ」
「怖い怖い、君らはいつもそうさ、相手を痛め付けることしか脳がない。だからこそ、それ以外の方法が思い付かないのさ」
「んだと?てめえ,,,」
「ガルム、言い合いは意味ないよ~?」
頭に地が上ったガルムをミリヤがなだめ、落ち着いたところで話始めた。
「そんなの仕方ないよ、だって仕事だもんね~。手を抜いたらそれこそ終わりだよ~」
「そうか、君たちの言い分はわかったよ。元々僕たちが引き起こした戦いだ、これをいうのはお門違いだったよだ。だが、それとは別に僕は血に飢えていてね,,,こんな理性的な話をしないとやってられないんだよ」
「チッ、ヤバくないか?これは」
パティオのまわりを渦巻く魔力、特に特別なことはない、だがその圧倒的な圧力でこの場にいる全員が重力が重くなったと錯覚するほどだった。
「ねえ、精霊って宿すと人格が変わることがあるのを知っているかい?僕はね、圧倒的な力を求めた。正義のために、自分の正義のためにさ。でもそれは矛盾さ。力は暴力を生む、暴力は悪の道へ引き込む鍵だ。そして、僕は暴力なしじゃいきられなくなったんだよ」
パティオの魔力が凝縮されていき、背後に白いガラスのような半透明な鎧と装甲に包まれた拳が姿を表した。
「おい、これ、合成精霊じゃねえか!やべえ、離れろ!」
「させるかよ!もう戦いは始まってんだよ!」
パティオの異変にいち早く気づいたガルムがみんなに警鐘を鳴らすが、それを察知したガレアが氷の鏡を展開した。
「がふ?!なんだ,,,?これ」
ガルムの土手っ腹を何かが貫いた。
「油断は禁物ですよ」
「お前,,,ふざけん,,,あ?」
ザインが隙をついて生成した剣を投擲しながら、対局の配置になるように遠隔で《石化》の光線を撃ち出した。
だが、それは合成精霊に阻まれ石化もせずに効果はなかった。
それどころか、ルクスの魔法、光の槍がガレアの氷の鏡を利用して反射し、ザインの方を貫いた。
「ガルムにもこれを,,,くそ」
「ザイン、下がってて~。《簡易召喚術式》。リントヴェル!」
「獣化、最大出力」
「魔術回路圧縮、魔術コード00011、魔術出力35%、圧縮倍率3倍、形状円域型《剛嵐》」
「隠蔽魔法解除、全属性魔法展開」
それぞれの強力な魔法を発動し、元迷宮だった空間が魔力で埋め尽くされる。
「バースト,,,ファイア」
「《氷結破砕》
「《光燼》」
計七つの魔法が威圧感を放ちながら互いの魔力を削りながらぶつかった。
眩い光と共に、それぞれの魔法がぶつかったとたん全てを飲み込む大爆発を引き起こした。
「っつう、いってえなあ」
「し、死ぬかと思った」
「え?なにこれ?結界?」
「あ~、遅いよ~」
魔法が物かかった直後に結界が展開されて、《十ノ頂》の面々とミリアの召喚したリントヴェルは無事だった。
そして、その結界を張ったのが,,,。
「遅くなったわね、少し話し込んでしまったわ」
「やっときたかのう、これで、あとはナーマだけじゃな」
「その件は後回しになりそうだ、どうやら相手も無事なようだ」
ジェノの言う通り、パティオの合成精霊がボロ雑巾のように今にも砕けそうになっていたがそれ以外は無事なようだった。
「その状態だと,,,どうやら戦闘続行は不可能なみたいね」
「いいや、俺たちはまだ,,,」
「ああ、僕たちのまけさ。全く強すぎる」
「,,,いったいなんのつもり?」
明らかに素直すぎる、と思ったグリーダは、警戒をさらに強める。
「今回は撤退だ、クソ!」
「まて、逃がすと思ってんのか?」
「はっ、今回は負けてしまったが、またいずれ」
ルクスの言葉と同時にその三人の足元に魔方陣が現れて姿を消した。
「転移魔法ね。やつらのなかに使えるやつがいたみたい。それにどこかで見張っていたやつがいたか,,,」
「どちらにせよ、もう一度戦うことになるじゃろうな」
転移をした、と言うことはどこにいったかの特定は難しい、それにみんなも魔力を大量に消耗してしまった。
戦闘を行うことは避けたい状況だ。
「取り敢えず、ジークを起こさないか?眠ったままだし、グランが魔法で守ってたはいいけどこのまま起きないと少し不味いぞ」
「そうね、それは第一に考えることね。そのあとはナーマと合流しましょう」
「なあグリーダ,,,今ナーマがどこにいるのかわかるのか?」
「,,,捕まったわ」
その一言が、今を語るにもっともふさわしかった。
ナーマが捕まった、それはグリーダ以外誰も予想していなかった事態であり信じられない様子でみんな唖然としていた。
「ナーマがしくじった?そんなことが?」
「恐らく精神異常を引き起こす魔法ね。ナーマの心を不安定にして正常な判断をできなくしたのよ。そうでなければ私でもナーマを捕まえるなんてほぼ不可能よ」
そう、神速魔法を最大限使用した状態のナーマは文字通り無敵、こんなところでまけるはずはないのだ。
これはザインでもわかりきったことであり、他のみんなもこれに異論を唱える者はいなかった。
「あいつ、だから俺の前から消えたのか。半強制的に思考を偏らせて掌握しやすいようにさらに不安定にさせる、そうした上で焦りを増長させ独断行動をするようにさせる,,,ってところか。たちが悪いぜ」
「それが事実だとすれば神速魔法の対策で動きを封じる手段を持っていれば冷静な判断力を失ったナーマをとらえるのはそう難しくないってことね。焦れば魔法の制度も落ちるわ。神速魔法のような精密なものはより顕著に、下手をすれば効果は半分以下になってしまう恐れもあるほどよ」
この現状の解決策はひとつしかない、救出だ。
「んん?あれ,,,みんな?」
「やっと起きたか、ベルセルクが覚醒したみたいだな」
「うん、すぐに寝ちゃったけどね」
ジークがようやく目を覚ました。
「いいタイミングね。ジーク、ベルセルクの起動は出来るかしら?」
「いや、たぶん無理だね。眠っちゃってるし、剣は召喚できるけどいつも通り力を使うのは無理かな」
「ジーク、ベルセルクが覚醒ってどう言うことだ?全くわからないんだが」
ザインはジークの持つベルセルクにたいしての知識はほとんどない。
疑問を持つのは当然だった。
「ベルセルクはいつも寝てるんだよ。でも、僕が少し負けそうになっちゃってベルセルクの意識が覚醒したんだ。それで普段以上の力を出しちゃって反動でこのざまさ」
ジークが手をひらひらと青ずんだと手のひらを見せた。
「しばらくは安静にしておいた方が良さそうね。余裕があるなら戦闘に参加してほしかった所ではあるけど」
「うん、そうするよ」
「ジーク、契約で再生能力があるなら何で直らないんだ?」
「これはね、怪我じゃなくって悪性魔力の塊っていった方がいいかな。溜め込みすぎると体に侵食して魔法の効果が落ちたり、放置しすぎると最悪死んじゃうかな」
ジークの腕の青いアザは魔力によるものでグリーダの再生でもどうにもならない。
時間はかかるが一応は自然と魔力が抜けて落ち着く症状だ。
「ねえ、今からいくの~?ナーマの救出」
「取り敢えず、一度帰還して状況を整理しましょう。一度連絡は入れていたけどそれでも心配ね」
「リザリーはともかくリングルは心配だ。それには賛成する」
「待って、シッ!」
この場にいる全員が一斉に気づいた。
コンマ数秒、グリーダが黙るよう口元に指を当てるサインをする。
異質で暴力と言い換えられる魔力が、直接触れていないと言うのにいたいほどに伝わってくる。
その魔力は何もなかったかのように数秒で収まりむしろ何があったのか分からなくなるくらいに静かだった。
そして、変質しているとはいえその魔力はザインも分かるほどはっきりと覚えているものだった。
「ナーマ,,,まさか,,,な?」
「これは、僕は戦える気がしないね。みんないってきてよ」
「私とガルム、そしてミリアは来なさい。ザインも無事ならお願いするわ。ベルナードは余裕そうではないけど行けそうね。ジェノは傷が敵の魔法を受けすぎて魔力を消費し過ぎね、再生はできているけど戦うのは辛そうね。グランは行けるかしら?」
「面目ないね。グリーダの言う通り余裕はないな」
「ふむ、ワシはまだまだ戦えるぞ」
その返事にグリーダは満足したように深くうなずいた。
「さあ、一発殴りに行きましょう」
「「「「「おう!!!」」」」」
皆は知らなかった、神速魔法を使う者を敵にすると言うことを。




