二章二十五話
「仲間への連絡は満足ですか?」
その男の言葉を無視してグリーダは問いかけた。
「ねえ、あなたたちの戦力どうやって確保しているのかしら?」
全方位を結界によって閉じ込められているグリーダが外で見張っている研究員のような格好の男に質問した。
「それを知りたいのなら自分で調べればいいだろう。貴様なら可能だろう?」
その男は、余裕な表情でグリーダを見やりはなでわらった。
「まあ普通答えないわよね。正規軍を引き込んだにしろ買収にしろろくでもない方法なのは間違いないものね」
(しかし妙ね。兵の質に差が有りすぎる。反逆者とか言う奴らが居るのはたしかみたいだけど私たちと拮抗しうる実力を持つのはさすがに予想外だわ)
「ふ、苦悩しているようだね。君は強いがあまり頭がよくないようだ。簡単に考えたまえ。君の考えはあらかた読めるさ。そう、何故こんなにも戦力が集められるのか」
「それもひとつの疑問ね。でも、私が知りたいのはそう言うことじゃない」
「ではなんだと言うんだ、君の疑問と言うのは」
グリーダは結界にてを当てて威圧する様に男を睨み付けた。
「どこで盗んだの?私の血を」
「ふむ、なんのことですか?」
「取り繕うのは構わないけど、大量の死体を回収して魔力を抽出して私たちの血と同じ効果を及ぼすクローンを作り出し体に打ち込む」
「そんな根拠が成り立つわけ‚‚‚」
「へえ?からだが耐えられず異形と化した者がいると言うのにまだしらばっくれるつもり?」
グリーダの言葉に意外そうな面食らった顔をするのもつかの間、男は直ぐに表情を緩めて笑い始めた。
「それを知ったところで何になる?我々は使えるものは使う。当たり前のことをしたまでだ」
「そうね。確かに戦いにおいてそれは間違ってるとは思わないわ。それが、ノーリスクなら、ね」
「リスクだと?張ったりもほどほどにしたまえ」
「なら、あんな駒は必要ないと。ただの捨て駒だとあなたはそういいたいのね」
ビリビリとはりつめた緊張感が回りに迸り、結界が悲鳴をあげるようにヒビが入る。
「ねえ、私は自分が絶対な正義だとは思わない。けれど仲間を捨て駒のように扱うやつがどうしようもないクズだと言うことくらいなら私でもわかる」
「敵に対して説教とは大きく出たな、紅の化け物が」
「化け物でもなんでも、私は私。そんなこと言っても現状が変わる訳じゃないでしょ?」
「現在は我々が優勢だ」
「そう思うなら、周りをよく見てみればいいでしょう?魔力を探知することくらい貴方でもできるはずよ」
「そんなもの見るまでも,,,」
グリーダに促されて魔力を探り周りの状況を確認した男は驚愕した。
「流石にナーマが捕まったのは予想外だけど、あなたの方はどうかしらね?」
「こんな、馬鹿な,,,」
「私抜きならどうにかなる、だって普通そう考える。前にゴリアテを壊したのも、同じくあの化け物を鎮圧したのも私。正直あのときは私がやらなければリザリーがすべて終わらせていた。けど結果私がすべて倒す形になってあなたたちが他の皆を甘く見てしまった」
「何が言いたい。こんな我々を見て笑いたいのか?」
グリーダはにらまれたことなどお構い無しに話続けた。
「仕事なのよ、これ、あなたたちどうせ放っておけば被害が出る、そう判断したから。それとそもそも私たちに喧嘩を売ったのもそっちでしょう?ロクでもないことをしておいて怯えて、情けなくて笑いも起きないわ」
「情けないか、貴様らから見ればちっぽけなものだろう」
「そう思うのなら今すぐやめて。今なら全員殺さずに見逃してあげる」
「何だと?貴様の今の立場がわかっているのか?」
「そうね。今確かに私は結界の中にいて魔法が使えない」
「ならなぜ、そこまで余裕で,,,」
「私が魔法しか使えないと、誰がそんなことを?戯れ言も大概にしなさい」
その瞬間、腕から先が花弁のように赤い形容しがたいなにかに変わり、それが開いたかと思えば結界に触れた瞬間拒絶したように結界そのものが吹き飛んだ。
「それと、ナーマは返して貰うわよ」
紅い瞳で男をひと睨みして研究室の空気が悲鳴をあげるようにビリビリと肌を揺らした。
「殺意だけで,,,これ程とはな」
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「ねえ、何あれ」
「不味い、流石にこれは,,,」
ベルナード、ジェノ、ジーク、グラン、の四人は迷宮を探索し皆の魔力を目指して合流しようとしていたところで余りにもおかしな光景を見てしまった。
魔法の津波、そう表現するのが妥当なほどの数の魔法の数々。
「ジェノ、ジークを背負って退避して、グランは結界で魔法をいなしながら危ないと判断した魔法だけ弾いて」
「ベルナードはどうするんだい?」
「私は魔法をできるだけ相殺する。できるかわからないけど」
「魔法の数はこっちに向かって来るものだけで数千、無差別攻撃、と言った所じゃな」
魔法を分析しながら丁寧に結界を小分けにして魔法にぶつけて、それでも向かってくるものは向きだけをそらしてしのいだ。
ベルナードのほうもかなり魔力を使うかたちになるが、魔法を見極め同じ魔法で相殺した。
それでもすべて防ぐのは不可能で、二人とも生々しい傷に表情を曇らせる。
「何て威力,,,物量だけでも相当よ!」
「ぐう、このままでは不味いのう、何か対策を,,,」
「無茶言わないで。このまま凌ぐしか方法が,,,」
と、ベルナードがそこまで言ったときあることに気づいた。
「これはかけだけど、やるしかない」
「やるって何を,,,」
そのとき、魔法の展開を切って後ろに退避した。
「ここは迷路、追尾式じゃない魔法の場合複雑な地形なら身を守るだけなら少しは楽になるはずよ」
「分かった、私に乗ってくれ」
ジークを背負って狼の状態になったジェノに素早く二人は乗り込みジェノは走り出した。
「あともうひとつ思い付いたこと」
「何となく分かったわい」
ベルナードが言おうとした作戦を悟ったグランがジェノの行方を阻むように立つ迷路の壁を風の魔法で打ち破りそのまま突っ切った。
「やっぱり、大きな魔力かと思ったら,,,」
「ん?いったい何がグア?!」
狼に姿を変えているジェノの進行方向にいた男はそのまま突進を直で受け止め横に吹き飛んだ。
「てめえ!何しやがる!ん?ああ、お前らがあいつのいっていた敵か」
「これをくらって生きているなんて大した頑丈さね。ジェノ、どうしよう?」
「恐らく戦うしかないだろう。負ける気はないさ」
「おいおい、随分と余裕そうじゃねえか」
と、その男の後ろからさっきの魔法が次々と襲ってきた。
「チヨの奴しくじりやがったか?それとも他の奴の仕業か?」
男が襲い来る魔法を見て鬱陶しそうに手を掲げた。
「黙れ」
その言葉だけで、向かってくる数々の魔法が凍りついた。
「,,,強い。あなた何者?」
「あ?俺は《反逆者》の一人、ガレアだ。名前をいったところで意味はないが、最後に聞く名前としてはちょうどいいだろう?」
「成る程、どうりでそこまで強いわけか。油断はできないな」
ジェノは狼の姿からもとに戻り、ベルナードの横にたった。
「隠蔽魔法解除。ふう、ほどほどに頑張るわ」
「ジークはわしが守っておこう。援護はしておくからのう」
「テメエ等本気になりやがって,,,、無性に腹が立つ」
「ならその怒りとともに死になさい!」
ベルナードが打ち出した拳撃をガレアは意図も容易く避ける。
「だから,,,俺さっきも言ったよな?黙れって」
「何,,,これ?」
ベルナードの体に巻き付くように現れたのは氷、それも魔力によって作られた魔法の氷。
「ジェノ,,,グラン,,,逃げ、」
体に巻き付く棘の氷が広がりベルナードの体を完全に覆った。
「これは,,,グラン、ジークを結界で保護して本格的に援護してくれ」
「言われんでもわかっておる、じゃが、未だ強さは未知数。油断はするでない」
ジェノは魔力を腕に集中的にまとい二足のまま腕を獣化して、グランは周りに気流を発生させて大型魔法の準備に取りかかる。
「まずは一人、お前らも順番だ。死ぬのをおとなしく待ってればいいのになあ。生意気なんだよ」
口から白い冷気を吐き、ジェノとグランは気温の低下に気がついた。
「死にたくないから、抗う。当たり前のことさ」
「あ?うるせえな。とっとと死ね」
ジェノの拳をいともたやすく身軽に避けてしまいなかなか当たらない。
正拳突き、回し蹴り、掴もうとしてもするりと抜けられる。
「魔法を使う身ながら強力な身体能力だ。なぜこれほど」
「おいおい、そんなもんか?見かけ倒しもいいところだなあ!」
ガレアは反撃にジェノの身長の数倍程度の氷を数個飛ばしてきた。
「何が起こって,,,速すぎる」
グランから見ても、明らかにジェノが翻弄され追い付けていなかった。
「世界の管理者つってもそんな強くねえじゃねえか。的はずれだなおい!」
「このままでは,,,」
負ける、そうジェノが言おうとしたときあるものが目に入った。
「チッ!なんだこの虫は!鬱陶しいんだよ!!」
(これは,,,)
「まだ、敗けを認める段階ではないみたいだ。頼む、グラン!!!」
後ろにいるグランに大声で呼び掛け、それを合図に準備していた魔法を解き放つ。
「フン!!!」
突如吹き荒れる暴風に不意を突かれたガレアは体制を崩して、この期を逃さんとジェノは大きく振りかぶり一撃を叩き込んだ。
「死んではいない、魔力がまだ残っている」
「そうじゃな、渾身の一撃も期待は出来んの」
「しくじったな、油断した。はあ、次は殺すか」
土ぼこりが晴れてそこにいたのは余裕の表情でたたずむガレアだった。
「おかしいな、力を込めて打ち込んだはずだが」
ジェノは自分の拳を見て不思議そうに首を傾げる。
「あーあ、数がいるのは面倒だな。こっちも呼ぶか」
「呼ぶじゃと?一体どうやって,,,」
「簡単だよ、こうするんだよ!」
ガレアはこれ見よがしに地面を殴り付けた。
地面にヒビが入り、ゴウッという音と共に亀裂が入る。
「おいおい、変わったのは地面だけじゃねえぞ?」
「仲間を呼ぶ,,,明らかに強引なことだ」
周りの壁がすべて吹き飛びそれは最早迷路ではなくなっていた。
そして、ここを囲うように氷の壁が作られた。
「強すぎる。このままでは」
「よそ見すんなよ、雑魚が」
ガレアが一瞬にしてジェノの懐に潜り込み、殴り付ける。
「ガフ?!」
その痛みにたまらず膝をついてしまった。
「なあ、お前らが強いのはわかるんだよ。けどなあ、俺より弱いじゃねえか」
ガレアは地に伏したジェノなど興味がないと言わんばかりに視線をはずし、凍ったベルナードに向かって歩き出した。
「戻ったら面倒だな、殺すか」
ガレアは淡々と拳を振り上げた。
だが、その拳がベルナードに届くことはなかった。
「なぜ、だ,,,」
「さあ、何ででしょお~」
降り下ろそうとしたがレアの拳を止めたのは、金髪の女の子、ミリアだった。
背後の氷の壁が粉々に砕かれており、蒸発していた。
「バカだよね~。事前に情報を集めておいて、こんなバカなことをするなんて」
「ぐ,,,あぁ」
がレアの手首がメキメキと音をあげ、握りつぶされる。
「残念だけど~、皆に発信器の魔物着けてたんだ~。さっきもちょっと邪魔してたでしょ~?」
ガレアは直感で危険と判断し、腕を振り払い距離をとった。
「他の仲間は来ないのか?」
「ん~?必要なら呼ぶけど、こんなの私一人で勝てる」
「なにいってんだ?さっきまで仲間がなす術なく一方的に負けてたじゃねえか、もうじき俺の仲間もくる!お前らは勝てねえんだよ!」
「そっか、そうだよね~、こんなに寒いんだもん。動きだって遅くなるし集中力も下がっちゃうもんね~」
ミリアはニッコリと笑ってある魔物を召喚した。
「ガルムがいれば存在価値は本当はないんだけど、こういうとき役に立つからね~」
ミリアのそばに召喚されたのは、膝丈程度の大きさの炎に包まれた猟犬。
「ブレイズ、ファイアエンチャント」
ブレイズと呼ばれた猟犬が炎を発し、ミリアを包み込む。
「一瞬で対策しやがって。勝機は薄いか」
「ふーん、意外と冷静だね~。まあ、関係ないな~」
親譲りの黄金の髪が炎と混ざり美しく彩る。
「っ?!寒くない?」
ジェノも寒さがなくなったことに気付き体がきちんと動くことを確認する。
「それと、ブレイズ。ベルちゃん解凍しといてね~」
「ガウ!!!」
ブレイズが勢いよく返事をして炎の体を凍ったベルナードに押し当てる。
「しばらく放っておけば大丈夫かな~」
ミリアが改めてガレアの方を見やる。
「あと少しで増援がくる。お前らは勝てねえんだよ!」
「うるさいな~。仲間に依存してよくそんなこと言えるよね~。それにさ~、この迷路を壊したってことは~,,,」
ドン、ドンと爆発音が鳴り響きそれがすごい早さで近づいてくる。
「ね、やろうよ、正面決戦。こっちの方が手っ取り早いし~」
全体の氷が砕かれ、ガルムとザインが入ってきた。




