二章二十三話
「なんか、やばくないか?」
「ん〜、魔力がどんどん大きくなってるね〜。何が起こるんだろ」
ザインとミリアが相対しているチヨがまとう魔力はさっきの少なくとも数倍は高まっていた。
「私の魔法、異空魔法だけではありませんわよ?ふふ、さあ、楽しみましょう?」
所々に開いた異空魔法の入り口から飛び出したのは、無数の様々な属性魔法だった。
「なるほどね〜、あらかじめ入れてたってわけね〜」
「うわ、面倒だな」
百を超える魔法の数々の迫力に圧倒されかけたザインは思わずそこら中に散らばった迷宮の破片や壁を使って障壁を展開し、ミリアは自分の魔物を一旦戻して魔法を身軽に避けていく。
「すごい身体能力ですわ。その動き、魔物を従えている者とは思えませんわ」
「えへへ〜、お母さんに散々教わったからね〜。近接戦闘はできるんだ〜」
魔法を避けながらジリジリと距離を詰めるミリアに対してチヨは少し眉をひそめて不快感をあらわにして、異空魔法の入り口を増量した。
「私の貯蔵されている魔法の数は約4万発ですわ。それを全て避けきれますか?」
「え?なんで?そんなの全部撃たせるわけないじゃん」
ミリアは話しながら魔法を全て避けて首をかしげるというなんとも器用なことをやってのけて、相変わらずザインはドーム状に展開された障壁で自身の身を固めていた。
「ん〜と、これで30秒。もう頃合いかな〜」
「何を言っているのかわかりませんわ。魔法なら後何発でも...」
「違うよ〜。準備が整ったんだよ〜」
ミリアはそう言って飛び上がると、蝙蝠型の魔物を掴んで空に浮き上がった。
「捉えましたわ!」
「そっちがな」
突如地面から生えた金属の腕にチヨは足を取られて動けなくなった。
「この方法は最近できるようになってしかも成功する保証もないけどな。...術式もやたら時間かかるし」
「くっ...離しなさい!」
ザインは無防備な状態で歩いてチヨに近づこうとして、チヨは急いで多彩な属性の魔法をザインに放った。
「石化」
ザインが放ったのは、濁った灰色の光線、その光に当たったものすべてを石に改変する。
そして、これによってザインは遂に人体にまで影響する改変魔法を使えるようになった。
飛来する数々の魔法をことごとく石に改変し、尚もその威力は衰えずチヨを襲う。
「そんな...私が...」
チヨの体が端から灰色になり、数秒と経たぬうちに全身が石化した。
「うまく行く保証はなかったが、まあ結果オーライか。はあ、疲れた」
「おつかれ〜。私ザインのこと背負おっか?」
「それは無理。絵面的に完全にアウト」
と、間の抜けるような会話を交えて石化したチヨに目を向けるが、他人が命を落とすくらいでは動揺しないことをザインは自覚してすぐに目をそらした。
だが、ザインはハッとしてもう一度チヨの方に顔を向けた。
(気のせい...か?)
「多分、気のせいじゃないよ〜」
「それはわかった。が、当たり前のように心を読まないでくれ、ちょっとびっくりするから。ミリアってエスパー?」
「違うよ。様子を見てだいたい察しただけだってば〜」
ザインは呆れた顔をするが、ミリアはあはは〜と笑ってごまかして手をザインに差し出した。
「早く離れよ?」
「お、おう」
ザインはミリアの手を握ってそれを確認したミリアは、全身に魔力を流して身体能力を強化して地を蹴って加速した。
その時、丁度石化したチヨの周りから空間が切り裂かれるようにして様々な属性の魔法が無差別に飛び散った。
「うひゃぁ〜。本当に4万発も貯蔵してたんだ〜。ここ持つかなぁ〜」
「わかんないけど、とりあえずここから逃げることを考えた方がよさそうだな」
ザインは走っているミリアの手をに握って地面を氷に改変することによって地面の摩擦をなくして滑り、ミリアの進行の邪魔になる飛来してきたものや魔法を剣で弾いていた。
こうすることで、ミリアの負担を軽減して邪魔するものはないので相当な効率で走ることができた。
「異空魔法に封じられてた魔法が解き放たれて大変なことになったな。これ、他のみんなは無事なんだろう...あぐ?!」
「ん〜、問題ないんじゃないかな〜?」
ザインはミリアの手を握りながら悠長に喋ると、迷宮内の破片に足を引っ掛けて一瞬舌を噛みそうになった。
「あ〜!、ガルムだ〜」
「って!、うお?!」
ミリアは進行方向にガルムの姿を確認して走る足を止め、その衝撃でザインは前に吹っ飛びガルムを飛び越えて壁に激突した。
「おいおい...、再開して早々忙しいやつだな。で?聞きたいことがあるんだが?」
「ん〜?この状況のこと?それはカクカクシカジカで...」
ミリアは今の現状をガルムに説明して、ガルムは無言で何度も頷いた。
「それ、自爆用の捨て駒じゃねぇか?普通無視安定だろ。お前ら馬鹿か?」
「ガルムにだけは言われたくない」
ザインは壁から抜け出してガルムに駆け寄った。
「それと、お前らナーマを見なかったか?」
「え〜?見てたら多分私一緒にいたと思うよ?だってそっちの方が戦力的に都合がいいしね〜」
「そうだな。俺も見てない」
「...わかった。お前らもナーマを探すのを手伝ってくれ。あいついきなり突っ走って行きやがったからな」
「ええっと、大丈夫じゃない?たぶんナーマがピンチになることはありえないからな」
「私も同感〜」
ザインとミリアはナーマのことは全然心配していない。
理由は明白、ナーマがこの程度で負けるとは到底思えないからだ。
カーレアと戦った時は魔法を完封されて殺されかけていたが、流石に今回もそうなるとは思えない。
そんな風に思ったからこそ二人は微塵も苦戦する姿を想像できなかった。
「今頃本拠地のど真ん中にいたりしてな。まあ、そんなことはないだろうけど」
「ないだろ。流石にそれは馬鹿だろ」
「うん、たぶんないかな〜」
ザインが当てずっぽうでそんなことを言ってガルムとミリアも軽く笑って一蹴する。
その予想が当たっていることも知らずに。
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「...ここ...どこ?」
暗くてよく見えない場所で目覚めたナーマは、周りを確認しようとして体を動かそうとした。
だが、ガチャガチャと音を鳴らすだけで体が動かせない。
「くっ...油断した。まさか捕まるなんて」
周りを確認したが、どうやら周りは硬い壁に閉ざされた強固な部屋で、ナーマの手は後ろ手に枷が嵌められて鎖で壁に繋げられている。
そして、首に恐らく魔法に干渉する魔導具であろう金属の首輪をつけられて、完全に拘束されていた。
(いくら私情で急いでいたとしてもこれでは不甲斐なさすぎる。自分でなんとかしないと)
「お目覚めが早いですね。まだ20分程度しか経過しておりませんが」
「誰...?」
ナーマの閉じ込められた暗い部屋にもう一人、メイド姿の淡い緑色の髪を腰まで下ろした奇妙なまでの美しい笑顔を持った女性だった。
「名を名乗る必要はありませんが。別に隠す必要もないのでお教え致しましょう。私は《反逆者》の一人。ムヨウと申します」
「...私をどうする気?殺すなら殺して」
「それはできない相談です。あなたは有用な素材にもなりえますし人質としても使える便利な道具。少なくとも殺すのはその後になることでしょう」
「ッチ、この体じゃ自害もできない。下を噛み切っても再生する。してやられた」
相変わらず目の前のメイドはニッコリと笑ってナーマを眺めていた。
(魔法も使えない、自害もできない。この後拷問に掛けられるとすれば対処法は...確率は1割未満)
「もし、あなたが拷問されるとお思いでしたら。それは杞憂ですよ」
「何故?私は敵。それくらいの覚悟はある」
「いえ、情けなどではなくただその必要性がないだけですよ。私たちはすでにほぼ全ての情報を得ています。従って拷問によって得られる情報に有用性がありませんので」
「...つまり、現状私はしばらくここに監禁状態。特に何もせず放置...」
「そうなりますね。一応私が監視としてここに残りますが、危害等は一切加えないと約束しましょう」
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一方、その頃マーナのいる拠点の近くで転移魔法が使用され、何者かが聖域に入り込んだ。
「さあ、これで世界眼は我々のものだ。ああ、期待していてくださいヴェンサー様。必ずやあなたの為に」
狂信的な発言をしていたのは、ボロボロの肌に黒と灰色のオッドアイ、黒髪で狂ったような表情の男だった。
「さて、見せてもらいましょうか。《双皇》リングル。元《十ノ頂》の力を」
「お望み通り、見せてあげようか」
マーナの眠る拠点である神殿の上に立ち、正眼に槍を構えたリングルは男を上から見下ろしていた。
「不意打ちは、しないのですか?」
「もう俺に気づいてる奴に不意打ちをしても意味がないだろう。反逆者グロウ。いや、傀儡の王」
「なぜ、その魔法を知っている?貴様らは我々の情報を知らないはずだ」
「知らないわけないだろう?そっちが調べてきたならこっちも調べたまでだ。うちにはそういうのに詳しい伝手もいるし、大体の事情と過去に起きた事件なんかを照らし合わせればある程度は把握できるさ」
「ぬぅ、だが、貴様は傷を負っているはずだ...。それで私に勝てるはず...」
そこまで言って、グロウの表情は焦りから驚愕にに変わり自分の足元を見て歯を食いしばった。
まるでダーツを投げるかのようにリングルは槍を男に向かって投げ、それが足元に突き刺さった。
「傷か、なんだって?ああ、言ってなかったね。傷なんてグリーダの契約による恩恵ですぐに治った。俺が《十ノ頂》をやめたのは、俺よりも優れた奴がいたからさ。あいつはまだ、才能を開花していないが、俺は見逃さなかった。だから俺の席を譲った」
リングルはさらにそこから言葉を続けた。
「今ここにいる全戦力を相手取ってあげよう。皆殺しだ」
「...ふっ、ふざけるな!貴様に我が軍勢を退けることなどできるはずがない。自惚れるなよ、今こそ黄泉返れ!《悪魔の怨嗟》!」
「悪魔を一時的に使役するか。まあ、ベルセルクには遠く及ばないだろうが。本気で戦ってあげよう《一本槍》」
「そして、《突貫》」
リングルの手を離れ地面に突き刺さった槍が突如として魔力を帯び、高速回転しながら浮遊しリングルの手元に戻った。
相対するグロウの周りに巨大な魔法陣が地面に幾つも生成され、そこから無数の腕が這い出てきた。
その絵面はまるで、地獄からの怨嗟に裁きを与える戦神。
全てを穿つ神槍と全てを飲み込む《深淵》が衝突する。
音を置き去りにした槍に射たれた無数の怨念のこもった黒い腕は、瞬く間に消滅して進行を阻むべくもなくグロウの心臓を穿った。
「ふ、貴様一人で...ここから先止めることなど...できはしない」
「ああ、大丈夫だ。まだ想定内だからな」
リングルは軽く返して手のひらを広げると槍はそこに収まった。
「世界眼に執着しすぎじゃないかな?流石にもう損もいいところだよ」




