二章二十一話
「なんでこんなところに...。閉じ込められたみたいね」
マーナを除く全員がそれぞれの迷宮の入り口に転移した頃、グリーダは透明な壁に全方位囲まれていた。
透明な壁の外は薄暗い研究室のような場所でいくつか魔法陣が見えることからこれが魔法によるものだということがわかる
転移先で特殊な結界に閉じ込められたグリーダは試しに結界を触って術式に干渉しようとしたがどういうわけかすぐに弾かれてしまった。
「魔法が...いえ、魔力が使えない?それに少しだけ虚脱感があるわね。どういう事?」
「全て計画通りだ。お前を捕らえたこともな」
結界の外側にいつのまにか細身の男が得意げに勝ち誇ったように笑っていて、それで大体を察したグリーダは落ち着いて聞いた。
「今回の企み、”私”が狙いだったのね」
「.....」
男は何も答えずにただ笑っているだけだった。
「沈黙は肯定を意味するのよ。なるほどねぇ。私を殺しても意味がないことを悟って結界の中に閉じ込めようとしたと...。それで残ったみんなを戦力総出で片付ける」
「お前はそれを事前に知っていたのだろう?では何故大人しく転移されてきた?」
「干渉できないように細工したのはそっちでしょう?内心ではまだ油断してないみたいだけど」
「ああ、初代《十ノ頂》いや、種族大戦を武力のみで終わらせたような化け物だ。結界に閉じ込めたくらいで油断していれば命がいくつあっても足りない」
細身の男はやはり気味の悪い笑みを浮かべてグリーダの方を見ていた。
(こんな結界、殴れば壊せるだろうけど...今無闇に刺激を与えるのは危険かもしれないわね。一番確実なのは...)
グリーダはここら一体の魔力を探り誰がどこにいるかなどを一瞬にして徹底的に調べた。
「これじゃあ、大規模な魔法を考えなしに使うのは危険ね」
グリーダは独り言をつぶやき今どこにいるかの情報を整理した。
上に沢山の魔力が移動しているのがわかる。
どうやらここは地下空間のような場所で上では普通に人が生活しているだろう。
大きな魔法を使えば間違いなく上に被害が出てしまい迂闊に使えない状況だ。
「姑息ね」
「そうでもしなければ勝ち目は薄い。勝つためならなんだってするさ」
男は顔に余裕の表情を浮かべてグリーダと対峙していたが、その瞳の奥には余裕とは違うもう一つの感情があった。
それは恐怖だ。
グリーダがどれだけの化け物かを知っているからこその感情だった。
グリーダはそれを確認すると今すぐにどうこうしてくるわけではなさそうだと判断した。
(あとは、他のみんなが勝てるかどうか...ね)
グリーダは抽象的な不安感を抱きつつもいつでも脱出できるように周りを確認しながらみんなの無事を祈っていた。
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「クソ!化け物が...!」
「フ、ハハ、アハハハハ!」
迷宮内に潜伏している敵をもれなく一撃で屠り、ベルセルクを握った状態で狂ったように笑っていた。
それを影ながら見ている人影が三つ。
「相変わらず...はぁ」
「これまた随分と暴れて、後片付けはしたくないな」
「そうじゃのぅ」
ベルナード、ジェノ、グランが隠蔽魔法によって見えなくなった状態でジークの暴れっぷりを呆れながら見ていた。
ちなみにグランとジェノはベルナードとジークに合流することができ、殲滅も兼ねてジーク単独で切り込んでいるというのが今の現状。
そして、ジークが無差別に暴れることにより、敵が無視できないようにすることも目的の一つであった。
案の定、少し離れた場所から膨大な魔力が近づいてきた。
「ここら一帯で待機してたら思わぬ収穫だな。ま、早めに片付けるか」
「......」
迷路のつくりになっている通路の奥から現れたのは筋骨隆々の体躯に巨大なハルバードを担いだいかにも重戦士のような格好の男だ。
ジークは無言で剣を構えてその男を真っすぐと見据えて数秒の沈黙。
理性が消えているとはいえ本能的に危険だと訴えている自分がいた。
ジークは獣のように態勢を低くして呼吸を整え、いつきてもいいように迎撃の姿勢に入った。
「どうやら、雑魚ではないようだ」
男は大きく踏み込んで一気に近づきジークにハルバードを振り下ろした。
「ウァァァ!...グゥァ」
ジークもベルセルクを振り上げて応戦するが明らかに膂力の違いが目に見えてわかる。
すぐに力負けしたジークは壁に吹き飛んで大きくめり込んでしまった。
「ジークを助け...」
「シッ!」
ジェノがジークを助けようと駆け出しそうになるのをベルナードが手で静止させる。
「このまま出ていけば私たちも危なくなる」
「いや、この人数で負けるわけが...」
「いいから見てなさい」
ボロボロと壁が崩れて、小さな傷がいくつも体にできたジークがゆっくりと立ち上がった。
その瞳は、グリーダと同じように紅くなりさっきまでとは比べ物にならないほどの魔力があふれていた。
「...よくも起こしてくれたよなぁ。三流以下の雑魚がよぉ」
ジークは剣を握っていなかった、なのにもかかわらずいつもの状態の戻っていなかった。
「暴走している状態では喋らないと前情報があったはずだが...調査班が間違えたか?」
男は不審に思い訝しげにジークを見ていたが、明らかにさっき対峙していた”ソレ”とは訳が違った。
「眠りの邪魔をしたやつはタダじゃおかねぇ。死んで償えクソッタレ」
男は再度ハルバードを振り上げてジークの真上から振り下ろした。
「だから...何も学ばねえのか?さっきと違うんだよ。何もかもな」
巨大なハルバードを片手で受け止めると空中で回し蹴りをした。
明らかに直接当たらないような距離だが、足が黒い魔力を帯びてそれが斬撃のように放たれた。
濁った音と共に腹の肉が抉れて血が吹き出す。
「あーあ、やりすぎたか?まあいい。どうせ俺が殺すんだ」
「...強いな。クソ」
「弱い訳ねぇだろ?俺が誰だかわかるか?ベルセルク、精霊とは違うが俺が認めたやつに魔力を与える存在だ。まあ魔力体で実体はないがな。だからこいつの体を借りてるんだよ」
元はジークだった者はベルセルクと名乗ると指を動かして挑発のサインをする。
「伝説の存在か、それ以上の実力はありそうだな。くっ、一旦撤退するか」
男はグリーダが作った転移魔導具と似た水晶玉を取り出して魔力を込めた。
「逃すか...!」
ベルセルクは力強く踏み込むと見えない速度で突っ込んだ。
だが、一瞬早く転移魔導具が起動してベルセルクの拳撃は空振りに終わった。
「...ッチ!外したか。...はぁ、終わったぞ」
「久しぶりね。ベルセルク」
「ああ、こいつの体でまともに戦ったのは久々だったからな」
「私たちを巻き込まないように手加減していたでしょ?」
「弱い奴に余計な力を振るう必要はない」
ジークの体に取り憑いたベルセルクはベルナードと親しげに話し始めた。
「...もう少し悠長に話していたいがそうもいかないようだ。まだ万全じゃない、そろそろ眠る」
「ええ、また、然るべき時に」
ベルナードは笑うとベルセルクの頰にそっと手を触れた。
ジークの体は事切れたかのようにバタッと倒れて意識を失った。
「ベルセルクが起きるほどの力...ね。奴は警戒したほうがいいかしら」
「ジークは私が引き受けよう。まずは全員の合流が先決だ」
「じゃな、そうと決まれば急ぐぞ」
ジェノはジークを担いでグランとベルナードと共に迷宮の奥に乗り込んで行った。




