一章十九話
聖域の拠点近くでいくつもの打撃音と爆発音が炸裂していた。
「オラオラァ!そんなもんか?!決戦まで後数日しかねえぞ!もっと力入れろ!」
「あはは、ガルム本気だねぇ。まあ僕も手加減はしてないけど」
「暑苦しいわ。なんで自分たちの仕事ほっぽってガルムと戦ってるのか今になって疑問に思うわ」
ガルム、ジーク、ベルナードの三人で三つ巴の大乱闘が行われていた。
それを遠くでナーマとザインが見ていた。
「暑苦しい。見てられない」
「わー、こりゃあ凄い」
火山が噴火したかと思うような衝撃が断続的に体を震わせていた。
ナーマは自分で作ったお菓子を一口食べて一瞬消えてまた現れた。
「ミリアにもあげてきた。ザインもあげる」
「お、おう。なんの風の吹き回しだ?ナーマがお菓子をおすそ分けなんて...」
「ただの試作品。たまにお菓子作ってる。けど基本はミリアに感想を聞いてるけどたまたまとなりにザインがいたから。それと特別な材料を使ってるから危険がないかの検証」
「俺毒味役かよ」
「私も試食したから安心していい。そこはぬかりない」
ナーマが言っている特殊な材料とは正しい方法で養分を抽出しなければ強力な劇毒の薬草のことだったがザインが知ることはなかった。
「で、他のみんなは?グランさんとかジェノとか。後グリーダも」
「グリーダは神世界の監視すっぽかして引きこもって魔導具の調整。ミリアは部屋で小型の魔物を愛でてる。ジェノはミリアがサボった分を代わりに働いてる。グランも同様」
「意外とみんな自分勝手だな...そういえばマーナの容態はどうだ?魔力器官は完治してないだろうけど体の方は少しはマシになったか?」
「ん。マーナの容態は良くなってる。魔力の方も少しづつ戻りつつある。最初は数ヶ月かかる予定がもっと早くなりそうなのが現状。治るのも時間の問題」
「そっか、なら良いか」
話しながらもザインとナーマは飛んでくる魔法の破片や魔力の塊を避けたり弾いたりしていた。
「ザイン、一つ質問。あの女の子は誰?」
「ナーマも知ってたか...魔物に襲われてて死にそうだったから保護しただけだ。特にそれ以外の理由はない」
「あの子の面倒を見ながら後数日の襲撃を対処できるとは思えない。早めに対処を要求する」
「わかってる。だから寮付きの学校に通わせてしばらくは帰ってこないようにしたよ。これで今回の件は心置きなくやれる」
「別に反対はしない。ただどうなってもみんなは責任を負わない。ザインが一人でどうにかする問題」
「わかってる。独り立ちするまでは面倒見るよ」
遠くの爆発音をボーッと見ながらナーマと話していたザインはふとナーマに聞いた。
「ナーマは、みんなと模擬戦とかしないのか?いつも買い物やら料理やら家事諸々やってるけど...」
「みんなが家事をしないから私がすることになっただけ。それと、私がみんなと闘ったところでお互いに得られるものが何もない」
そう言ってナーマは首に下げた銀色の懐中時計を優しく触った。
「確かにな。ナーマの魔法はここにいるみんなの中で誰も止められない。けど、みんなのようにナーマは殲滅力がないから軍隊なんかの対処はできない。一対一の勝負で誰にも負けないとわかってるわけか」
「極論その通り。他にも理由はある。まず私の魔法自体がイレギュラーなものでみんなが私の魔法に対処できたところで使い手がいないのなら意味がない」
「それはなんとなくわかるな。ナーマの魔法は汎用性が低いから似たような性質の魔法を使える奴はそういない。闘ったところで参考にもならない...か」
ナーマの魔法である神速魔法は、過去に例のない魔法であり世界眼のように遺伝などで受け継がれることの無い魔法だ。
そうなればどの世界にもナーマ以外に使い手がいないのは当然であり、みんながこの魔法についても学習することに対して意味はないという認識だった。
「単純な戦闘訓練くらいならできるんじゃないか?速度の制御できるんだろ?」
「できる。定期的に体が鈍らないようにグリーダと戦ってる。体を動かす事が目的の場合速度は基本16倍速程度」
「ごめん、それは俺無理だわ」
流石にザインはナーマの16倍速の戦闘についてこれる気がしなかった。
「...速度落とせばやるつもり?」
「久しぶりに身体動かしたいからな。もうすぐ本番みたいな感じだしな...って?!あっぶね!!」
ザインが言葉を続けている途中でナーマは高速で蹴りを繰り出しザインは間一髪で避け、よろめいて後ずさった。
「まずは...4倍速」
殴打や蹴りなどの武器を持たない攻撃でも当たれば吹き飛ぶだろうという事が容易に想像できる事に息を飲むザインは慎重に一つ一つ攻撃を改変魔法によって作り出した円盤型のオリハルコン製の盾を空中で展開してナーマの攻撃を受け止めていた。
盾は壊れないもののけられた瞬間遠くに吹き飛び殴られればその部分は凹んでいた。
「...6倍速」
「加速すんのかよ!」
目で追えるギリギリの速さで格闘するナーマの攻撃に対応するので精一杯で攻撃なんてザインは夢のまた夢だった。
「ガハッ?!ぐ...うぅ」
ザインは腹をナーマに殴られて草原をピンボールのように吹き飛び転がり腹を抑えて苦悶の表情を浮かべた。
肺が潰れてうまく呼吸ができずに立ち上がることもままならない。
「その程度?」
ナーマが加速して一瞬で目の前に来てザインを冷たい目線で見下ろした。
「ああ、強いな...やっぱり」
ナーマの目は冷たくつまらないと言うように目を細めて睨みつける。
「やっぱり、まだまだ壊れるのが早い」
ナーマはそっぽを向いて拠点に戻って行った。
「少しは...追いついたと思ったんだけどな」
あれだけの速さの戦いに追いつける自信はもうザインの中には残っていなかった。
「無様に負けて...懲りないわねぇ」
ため息をつきながらベルナードが俺の前にやってきた。
「懲りないって...ナーマとはそんな何回も戦ってないって。まだ誰にも勝った事ないけど」
「そのことを言ってるのよ。強くなりたいのはわかるけどむやみに挑むものじゃないわ」
ベルナードは今までにザインがみんなと戦って惨敗記録を継続していると言う事実を思い出してさらに深いため息の後「ほどほどにしなさい。今日は帰るわよ」と言ってザインの腕を引っ張って起こし上げた。
「ありがとう。もう俺は帰るよ」
「そうしなさい、今日はゆっくり休んで挑むならもう明日にして」
ザインはベルナードから離れて一人で帰った。
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「あと三日か。クヒヒ、楽しみ」
真っ暗な部屋に薄っすらとロウソクの灯りに照らされて小さめな杖を眺めながら、女の子が一人不気味な笑い声をあげながら上の空で微笑んでいた。
「あと三日...どうなるかな?」
「メノ。そんな所で何してんだ?」
「ガラトか、なんでもない。ただ楽しみで仕方ないからここで妄想にふけってたんだよ」
筋骨隆々な体格のガラトと呼ばれた男は巨大なハルバードを担いで身長差の大きなメノを見下ろした。
「奴らを仕留めるフィールドはできたんだろうな?それが勝敗に大きく関わるぞ」
「問題ない。あとは殺すだけだよ」




