一章四話《戦闘開幕》
俺がナーマに腕を折られ、速攻治ったがまだ痛みが相当残ってる中、拠点に戻ってリビングに当たる場所の机に座って頬杖をついていた頃、偶然一緒にいたガルムと話をしていた。
「くっそ、ひどい目にあった」
「お前なぁ、マーナのことに対して口を出すとひどい目にあうってことは今朝言っていたはずだと思ったが?」
ガルムは、呆れ半分煽り半分でそう言った。
別に、悪いのは俺なので反論する気は無いが、何だか釈然としない。
この拠点での生活をまだ慣れていないのにこうも酷い目に合うのでストレスは溜まる。
ガルムは、不良っぽい見た目で態度も荒いが、内心は案外人付き合いが良い。
「そういえば、皆がどんな魔法を使うのかまだわからないんですけど」
俺がガルムにいうと、ガルムは少し考えてこう言った。
「そんなら後でまた全員で魔法見せ合うとかどうだ?それならお前も納得だろ?」
そう言ってガルムは立ち上がった。
「ほんじゃ、後でまた外に行くぞ」
ガルムはそういうとそのまま自分の部屋に戻っていった。
今は俺にはやることもないのでこれから本格的に暇になりそうだなと思いながら、俺も部屋に戻った。
「やぁ、君が新たに入ったザインくんだね。初めまして」
唐突に声をかけられて振り返ると、そこには中年くらいの軽装の男性が俺に対して声をかけていた。
「なんでしょうか、今は暇なので話し相手にはなりますけど」
とりあえず他愛のない返事をして様子を見ることにする。
「そうか、自分の自己紹介がまだだったね、私は《獣皇》のジェノと言う者だ。種族は獣系族だ。これからよろしく」
そう言ってジェノと名乗る男は手を差し出してきた。
俺はその手を握って握手をする。
「いやぁ、遠征から帰ってベルナードから話を聞いて驚いたよ。新たな《十ノ頂》が誕生したなんてね」
そう言ってジェノはにっこり笑った。
俺も愛想笑いで返しておいた。
「あと、さっきの戦い見てたよ。ナーマに対してなすすべなくやられてたのを」
「あー、見られてましたか」
俺は若干そのことに対して落ち込んでいるとふと疑問に思うことがあった。
「あの、ジェノさんは獣系族特有の耳と尻尾が見当たらないんですが」
俺は疑問に思いジェノに聞いてみた。
「ああこれはね、獣系族なら誰でも使える初級魔法の変化を使っているんだ。ちなみにベルナードも獣系族だよ」
俺は、その驚くべきことに一瞬固まった。
別に、変化魔法のことではない。
そこも驚くべきところなのは間違いないが、一番はベルナードが獣系族であると言うことだ。
種族に関してはあまり聞いていなかったのであり得る話ではあったが、予想外すぎてびっくりした。
「あー、俺はベルナードさんのことは人間族だと一人で思ってましたけどね」
そう、その考えで行くと人数的には獣系族の人がいないことになるが、俺はベルナードのことが人間だと思っていた。
神族がジークさん一人だけだというのも少しきになるが、諸事情はあるのだろう。
だが正直な話別に、ベルナードが獣系族でもだからどうしたんだと思う。
「そうだ、ガルムから後でみんなを集めて外に来いとか言われてるんだよ。ザインも行ったほうがいいんじゃないか?」
ジェノは話を変えて俺にそういった。
そう言えばさっきガルムからみんなに魔法を見せてもらうように提案されたんだ。
それでみんなが集まっているのを今更ながら思い出した。
「あ、俺も行きます」
「じゃあ、私はもう外に行くよ」
そう言って窓から飛び降りて行ってしまった。
...と言うか今更だがここ俺の部屋なんだった。
数分後俺が外に出ると既にほとんどの人が外に出ていて、格好も動きやすいものになっている。
特にミリアなんかは普段スカートだが、今はジャージのような格好になっている。
...ジークとガルムはいつも動きやすい服装なので変化はあまりない。
ベルナードも半袖の洋服に長い柔らかい生地のズボンなのでそこは運動を意識したのだろう。
マーナとナーマはそれぞれワンピースのようなヒラヒラとしたものを着ていて、とても戦闘をするような服装ではない。
グランさんは老人なので少しみんなに比べれば厚着をしていて、セーターとまではいかないが、ジャケットを羽織っている。
そして、ジェノは先ほどと同じ格好で軽装だ。
ちなみに俺は適当に長ズボンにTシャツだった。
「おし、だいたい集まったな。一人を除いて全員集まったことだし、そろそろ始めるか」
ガルムは俺たちを見回してあらかた集まっていることを確認すると頷いて話し始めた。
ちなみに一人いないと言うのはグリーダのことだ。
まあ、そのうちやってくるだろうと思いながらガルムの言葉に耳を傾けた。
「それじゃあ、新人のやつが俺たちの魔法を見せて実力が見たいと言ってたからな。こうして集まってもらった」
うん、だいたいあってるけど説明が雑だな。
「と言うわけで、俺たちは順番にザインに向かって魔法をぶっ放す」
その瞬間俺は頭の中が真っ白になった。
いや、俺にぶつけるのかよ。
「それなら、誰が順番?」
ナーマは結構乗り気なようで俺に早くぶつけたがっていた。
いや、1日で同じ方法で体痛めつけられるのは困る。
「えーっと、流石に直接ぶつけるのはまずいと思うかな。ザインくん、消滅しちゃうよ?」
どれだけ強いのか、そりゃあおとぎ話のような存在なんだし見たいに決まってるけど流石にそれで消えたくはない。
「それなら、ザインさんとみなさん一人づつ順番に手合わせをすると言うのはどうかしら。それなら何も問題はないわ。みんなも致命傷になるような攻撃はできるだけしないように意識すればトラウマになるようなこともないわ」
ベルナードが話が決まりそうなところで割って入ってきた。
この提案は俺の安全は考えられていて俺としてはいい案だと思う。
皆も異論はないみたいなので結局この案で決まった。
致命傷にならないなら別に危険なことはないか。
「それじゃ、最初は俺からやるぜ」
そう言ってガルムは一歩前に出て首をバキバキと鳴らした。
その瞬間、ガルムの手足から溢れんばかりの炎が吹き出して身体中にまとい始めた。
俺は固唾を飲み目を見開いてその様を見ていた。
それはまるで焔の如く紅く染まり先ほどまでの態度とは打って変わって紅き焔とは裏腹の冷酷な表情に成り代わっていた。
「さっさと構えねえと火傷どころじゃすまねえぞ」
そう言って右手を俺の方にかざしてきた。
俺は急いで改変魔法で地面を隆起、鉄へ物質変換して防壁を展開した。
急いでいたので、自分が隠れられる程度のものくらいだったが、正直これでいいと思った。
だが、そうではなかった。
全てが冗談のように防壁が焼かれ鉄が溶かされ自分の方に向かってきた。
それはさながら炎の暴嵐のように。
そして、燃え盛る龍のように。
だが、それが俺に届くことはなかった。
「チッ、まだ使いこなせてねぇのかよ」
ガルムは今の魔法を解除してそう吐き捨てて見ていた他の人の方に戻って行った。
「はあ、これはすごいな」
俺は思わずため息を吐いてしまった。