二章十七話
「グリーダ、大丈夫か?」
ザインがグリーダに近づくと「大丈夫よ」と安心させるように笑ってみせた。
ゴリアテはグリーダの跳ね返した砲弾によって砲身の内側から壊され煙を上げていた。
「ねえ、あれくらいならリザリーだけでもどうにかなったはずよね?なんで私を呼んだのかしら?」
「不死を相手にリザリーの場合相性が悪い。対応策を持ってるグリーダに戦わせた方が合理的」
グリーダの質問に間髪入れずに答えたのはナーマだった。
「たしかにそうだな」
いつのまにかミリアはドラゴンに乗ってグリーダがカーレアを倒したあたりで到着していた。
「あ、あとグリーダのあの技なんだ?魔法?にしては魔力が全然感じられなかったけど」
「ああ、あれは私の腕を犠牲に戒術を使ったのよ。戒術ってのは現在じゃ全く使えるものはいないとされてる術式のことよ。基本的に魔力じゃなくて体の一部を代償に使うから普通の魔法と同じ要領で使えないの」
「戒術って少し聞いたことあるけど、そんなに易々と使っていいものなの?」
「いや、使えないわよ。私じゃなかったら一生残るような傷になるようなものだったり下手をすれば腕や足が無くなるもの」
「それ全然大丈夫じゃないですよ。さらっと自分しか使えない発言みたいなこと言ってね...」
ジェノが突っ込んでため息を吐く。
みんなが一悶着ついたかな、と思ったところでハッと何かに気づいたようにグリーダが上を見上げた。
「カラス...?...え?!」
グリーダが見上げた先にはカラスが飛んでいてチラリと月に照らされた瞳が反射して光った。
「グリーダ、カラスがどうかしたの?」
「どうもするわよ!なぜここにカラスが飛んでいるのか...だって、ここは...」
「グランの張った結界の中で、事前に生き物がいないか確認したのよ?」
そう、山のふもとでグランは戦いが始まる前からずっと防音用と飛来物をはねのけるための結界を張っていた。
つまり、中と外は完全に隔離され、絶対にカラスなんて入ってこれないようになっていた。
さらにグリーダは戦いの前にこの辺り一帯の生物の魔力を感知しようとしていたが既にゴリアテのせいで微小な虫を除く全ての動物は結界の外に逃げていた。
「さらに悪いニュース。あれ、魔導具掴んでる。おそらく投影系統」
ナーマが補足すると、タイミングを見計らったかのようにカラスが投影機であろう魔導具が光を放ちカラスはそれを落として逃げて行った。
キューブ型の魔道具は地面に落ちてからさらに光を増して真上に人型を形成して輪郭を徐々に鮮明にしていった。
『えー、こほん。拝啓、世界最強の十人へ。この度は大変ご迷惑をしております』
「は?」
子供のような声で、あまりにもふざけたことを言っていたのでこの場にいた何人かが「は?」と口に出した。
『その理由につきましては、貴殿方が破壊した魔導兵器ゴリアテの上位品は貴殿方の力を調べるべく投入したものですが、予想以上に実力が脆弱である上に連携もずさんだという結論が出されました...故に...』
この場にいる全員がこの声の続きを聞こうと固唾を飲んで見守りさらに言葉が続けられた。
『故に我々は、貴殿方にただいまを持って宣戦布告を行おうと思う』
「あ?何言ってんだこの魔導具は?」
『期限は10日。それまでに至上の戦力を揃えて迎えうちたまえ。余興はすでに終わっている』
ガルムの言葉を無視してさらに魔導具から声が出てくる。
最後にそれを最後に魔導具は光を失い形成されていた人型も無くなった。
「ゴミみたいな捨て台詞ね、バカバカしいにも程があるわよ。...でも、売られた喧嘩は買わないといけないわね」
「そういうと思ったよ。グリーダのことだから何か予想はしてたんだろうけど...、これからどうするの?」
ジークの質問を聞いてグリーダは不敵に笑い皆を見渡した。
「それじゃ、みんなに質問よ。ここに宣戦布告に恐怖して逃げようとする腰抜けはどこにいるというの?教えてほしいわね」
「あ?ぶっ殺すぞテメェ」
グリーダの少しふざけた物言いにガルムが反発して突っかかる。
「ふふ、先輩に対して殺すなんていうような連中よ。そんな具体的な策を立てるまでもないわ。やるなら徹底的に潰す。それが私の策よ」
「わあ、頼もしいことこの上ないね〜。それじゃガルムお願いね〜」
ミリアはガルムに丸投げしようとしてガルムは「ふざけんな!」とだけ返答した。
「それに、この宣戦布告はもはや自滅だからねぇ。何か罠があると考えるのが妥当だろうけど...そんなの関係ないわ」
ベルナードはそう言った後、敵のしてきた宣戦布告を利用して正面衝突しようとみんなに伝えた。
「...だから、その日までは準備して当日に正面から叩き潰すのね。分かったわ、そしたら旧《十ノ頂》で生きてる奴らをいくつか招集したほうがいいかしらね」
「すごいさらっと言ってるけどはっきり言ってオーバーキルだな。...で、どこを戦場にするんだ?最悪無理矢理転移させて俺たちの拠点近くで戦うとかできそうだけど」
「うーん、それがいいわね。それなら町の被害を考えなくて済むし何より他人に見られる心配がないから好きなだけ暴れられるわ」
「なら、転移魔導具の簡略化や消費魔力を抑えることが必要。軍隊で来られれば今のままでは転移できない。グリーダ、引きこもる?」
「ナーマ、私を引きこもり扱いしないで。でも、それはそうね。軽く三日は引きこもる予定よ。それと、そこに転がってるスクラップも研究材料に使えるかもしれないから持って帰るわ」
グリーダがそう言って指差した先には煙を上げて壊れたゴリアテがあった。
「何はともあれ解決じゃな。して、これからどうするんじゃ?一旦全員で戻るかのぅ」
「...いえ、街中の監視をしておいたほうがいいと思うわ。十日という宣言をしてきたからそれまで下手なことはしてこないだろうけど保証はないからいつでも対応できるようにしないと」
「そんじゃ、全員それぞれ再転移ってことでいいか?なら早くしてくれ。俺はここだけどな。グリーダはナーマと戻るか?」
ガルムの言葉をはじめにみんなそれぞれグリーダに転移魔法を起動してもらい情報収集兼監視目的で転移した。
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グリーダは地下で魔導具の整理や予告された十日までに新たな魔導具の作成、既存の転移魔導具の改良などをしていた。
「んー、一度の転移の消費魔力を単純に減らすのは無理として...今のままじゃ無理よね〜。どうしようかしら...」
グリーダは魔導具の構想考えながらため息をつき水晶型の魔導具を眺めた。
「おやおや、ここにいましたか。お疲れの乙女は」
「...あなたねぇ。乙女ってわかってるなら勝手に忍び込んでノックもせずに入ってくるのをやめなさい。ねぇ、リングル」
グリーダは振り向きもせずに声のした方向に声をかける。
そこには紫色の髪でいかにも美男子という言葉が似合う男が立っていた。
背にはジークのベルセルクと引けを取らない程の大きさの槍が装備されていて臨戦態勢でグリーダに話しかけていた。
「で?敵拠点の視察を終わらせて今日は報告に来たんでしょう?ザインに向けた暗号の手紙を置いて...ね」
「さあ?なんのことかな」
「とぼけてるの?あなたじゃないなら誰がここに忍び込んで手紙を置くようなことをするのよ?」
グリーダは納得できずにリングルを問い詰める。
「その手紙とやらのことについてはそちらで考えていてくれ。奴らは本気で君たちを殺しにかかっている」
「やっぱり...ね。このまま適当に正面からぶつけてねじ伏せようとしたけど、そうもいかないみたいね。でも、嬉しいわ。こんなにもできた部下がいて」
「褒められて悪い気はしないが、今は報告が優先だ。敵の魔法については植物魔法、異空魔法、雷電魔法、無属性精霊、光魔法、氷結魔法、怨霊操作魔法、そして...転移魔法」
「他にも魔法ではないものも含めるとそれ以上いる。合計で戦力数は?」
「わからないが確認するだけで強いのは十以上は目星をつけた。少しは気をつけてくれ。あの子らを死なせたくはないからね」
「元部下にそんなこと言われるなんてね。...しっかり肝に銘じとくわ」
グリーダはそれだけいうとリングルのことは無視して魔導具の改良に取り掛かった。




