二章十六話
「おい、嘘...だろ?」
ナーマがやられた、それだけでザインの心になんとも言えぬ恐怖心が湧き上がった。
今までで何度か手合わせしたことがあったがだからこそ絶対に負けないだろうと思っていた。
だからこそ、今起こったことが直視できずに頭の中が真っ白になった。
「...ン、ザイン!避けろ!」
ガルムが叫びザインの視界は真っ白になった。
ゴリアテが残る魔力の殆どを消費してザインに照準を合わせて砲撃した。
回避不可能、防御不可能の一撃は正真正銘光の槍となりザインの腹に風穴を開けた。
「あ...何だよ、これぇ」
口から血が溢れて明らかに再生が間に合っていないようで血が流れ落ちる。
立っていられなくなりその場に倒れ辺りが血に染まり地面が真っ赤になる。
(俺は...もう死ぬのか)
たった五年鍛えただけで慢心していたことも原因の一つかもしれない、そう思った。
《時空逆行》
ナーマの声、だがそれはどこか必死に思える声色はザインにとってナーマであってナーマでないような気がした。
体が輝き時計のような模様の魔法陣が風穴を開けられた腹に形作られて反時計回りに回転していた。
カチッカチ、っとまるで秒針が時を刻むかのような音とともに輝きが増してザインが何かに気がつきナーマの方を見るとナーマにも同じような魔法陣が刻まれていた。
「傷が...何で?」
ザインの傷が全て治り何事もなかったかのように立ち上がれた。
「危なかった。これがなければ死んでた...かも」
ナーマの傷も治っており、その手に持っていたのはもう既に動かなくなっていたナーマの髪と同じ銀色の懐中時計だった。
「大丈夫か?って...ああ、大丈夫そうだな」
ガルムとジェノがザインに近づいて安否を確認してすぐになるほどと頷いて納得したようですぐに攻撃に戻った。
「何だったんだ?今の」
「これ、《時空逆行》を使うときに魔力が足りなかったからそれを補った。使い捨ての緊急魔導具」
その後ナーマは《時空逆行》は、対象の時を戻して傷や魔法、呪いまでも完全に打ち消す魔法だとザインに説明した。
「それで自分と俺の傷を治そうとして魔力が足りなくて補助用の魔導具を最大出力で使って魔導具は壊れたけど俺たちは助かったのか」
「そういうこと。ザインを助けたのは気まぐれ。感謝しなさい」
ナーマは素っ気ないそぶりを見せてからチラッとナーマが吹き飛ばされた場所にある穴を覗き込んだ。
「ザイン、即刻グリーダにここにきてもらうように。冗談にならない、私だけではどうしようもない」
「あ...ああ、わかった。すぐ戻る」
「これは時間稼ぎしかできない。早く」
いつも通り淡白な対応だがザインにはそれが取り繕っているようにしか見えなかった。
現在グリーダはミリアと共に山から離れた丘の上にいる。
ベルナードに事前に隠蔽魔法をかけてもらっていてザインたちじゃなきゃ見えないようになっていた。
「グリーダ!ナーマが状況的にやばいって」
「知ってるわ。まさか...ザインと戦ったときに魔力を抽出していたなんて」
グリーダは珍しく表情が崩れて落ち着きをなくしていた。
「私が出るわ。ミリア、ここから街の監視と遠距離の援護射撃をお願い」
「ほいほ〜い。ナーマちゃんのことよろしくね。あとベルちゃんも。一緒だったはずだからね」
「無論よ。ザイン、私の手を握りなさい」
「お、おう」
ザインは言われた通りにグリーダの手を握ると光が溢れた。
その光がなくなる頃には二人の姿はなかった。
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「ククク、ヨウヤクフクシュウノトキダ」
穴から化け物が這い上がってきた。
「ぐっ、はぁ!」
所々が血で滲んでいてもなお攻撃を繰り出すベルナードを完全に無視するように這い上がってくるその姿はまるで不死者そのものだった。
「マジかよ。敵が増えやがった」
「そうだね。この状況は少しまずいよ」
ガルムとジークもこの状況はまずいと思い始めリザリーとジェノは意に介さずそのままゴリアテを攻撃していた。
「負けを覚悟するのはまだ早いわよ」
突如光が溢れて山の頂上付近、ゴリアテの目の前に二人の男女が現れた。
ゴリアテの照準である一筋の光に触れてしまい即発射された光の槍はその男女、ザインとグリーダの方に寸分違わずに飛んで行った。
「私をなめないでほしいわね」
グリーダは目にも留まらぬスピードで光の槍を魔力を纏った足で蹴り上げて真っ赤な閃光のように見える速さで空中に舞い上がると打ち上がった光の槍をさらに蹴飛ばして跳ね返した。
それは、砲弾の中に突き刺さり煙を上げた。
「《十ノ頂》を舐めすぎよ。私は誰も犠牲にしないわ」
「クソガァ!シネェェェェェ!!」
かつてカーレアだった化け物はグリーダに向かって猪突猛進と言わんばかりにどこから取り出したかわからないが身長ほどもある剣を振り上げながら突進した。
「そんな見え見えな攻撃簡単に...な?!」
魔法でカウンターを、と思ったが咄嗟に作った魔術式を打ち消された。
「かはっ?!」
「グリーダ!奴に魔法は効かない!私もそれでやられた」
ナーマはハッとしてグリーダに助言をした。
「なるほどね...。わかったわ」
グリーダの傷は一瞬にして治り、ある一つの術式を作った。
「これに頼るのもどうかと思うけど、やるしかないわね」
グリーダが取り出したのは一振りの刀だった。
片刃の剣ですらっと滑らかな刀身、美しい黒く輝く鞘から抜かれた刃はそれはまた黒く魔力が込められていた。
「万魂刀。私にこれを使わせるなんてなかなかのものよ。少し感心するわ」
「フ、フハハ!ドンナモノデモオレニハキカヌ。クルガイイ」
お互いが対峙し一方は刀を構え、もう一方は身長ほどもある大剣を構えた。
ゴクリっと誰かが固唾を飲んだ音をゴングにそれは始まった。
お互いの姿が見えなくなりいくつもの金属音が重なって鳴り響き衝撃波がまるでハリケーンのように渦を巻いた。
「退避だ。全員!距離を取れ」
ガルムの掛け声とともに全員がそれぞれの方法で距離を取りその戦いの行方を見守った。
いつのまにか月が紅に染まり魔力がそこら中に充満していた。
「ブラッディ•メアリー」
ザインはポツリと呟いてグリーダが戦っているであろう場所を見る。
「やはりあの境地に踏み込むのは俺たちでも無理だな。見守るしかねえ」
「同感、あれは勝てないね」
もう皆は諦めて見守る方針をとり勝負の行方を淡々と待っていた。
(やはり、これは...《十ノ頂》の血?それを投与したというの?)
グリーダは現在カーレアが何故このような姿をしているのか、どうしてここまでの力を出せるのかを仮説を立てて考えていた。
刀で攻撃をさばきながら考えて反撃に転じようと思えばいつでもできるのだろう。
だが、今は何に代えても情報が欲しいとグリーダは思っているのでこうして何度も打ち合っていた。
そして、グリーダが決めきれない理由はそもそももう一つあった。
傷が、カーレアはありえない速度で再生して何事もなかったかのように戦っていた。
心臓を貫いても、首を断ち切っても体をほぼ粉に等しいくらいに切り刻んでも瞬時に再生されて元に戻り攻撃が全く意味をなさない。
グリーダも傷をすぐ再生できるために両者一歩も引かずに猛攻を続けた。
「いい加減、鬱陶しいわね」
「フン、キサマゴトキニマケルモノカ!」
グリーダの目は既に月同様に真っ赤に染まっていて表情も好戦的な印象を受ける風になっている。
「不死身に近い敵と戦ったことがないわけないでしょ」
グリーダは少し笑みを浮かべながら刀から手を離した。
「バカガ。ミズカラブキヲホウキスルカ」
カーレアはそれを見て嬉々とした声をあげながらグリーダに大剣を振り下ろした。
「不死身の敵は、殺すことはできない...けれど、無力化はできる」
グリーダは距離をとったみんなの方をチラッと見てさらにこう言った。
「少し、醜い姿を見せることになるわね」
グリーダは大剣を片手でそっと触って勢いを逸らして空振らせて剣を思いっきり踏みつけて地面にめり込ませた。
「ナ...ナニヲ?」
「さあ、食事にしましょうか」
グリーダがカーレアに手の平を向け、手の平が変形して一輪の花のようになった。
その花の花弁が広がるようにしてカーレアを飲み込んで行きついにはカーレアの姿は完全になくなり手の部分にある花は縮み蕾のようになりやがて手は元に戻った。
「こんなのが何人も出てきたら...本格的に不味いわね」
グリーダは穏やかな白く輝く満月を見上げて呟いた。




