二章十五話
「前はよくもやってくれたよ。ザインだったね、名前は。奴は実力こそないが運と発想力は素晴らしいものだ」
「ザインのお世辞はいい。殺されたくなければ逃げることを勧める。さもなくば...殺す」
壁に突き刺さった短剣を勢いよく抜くとカーレアの方に向けた。
薄暗い廊下にもかかわらず綺麗な銀色の光沢を放つ短剣はかすかに魔力を宿し、ナーマのわずかな動きに合わせて呼応している。
ドクン、ドクンとどこからか聞こえそうなほど緊縛した空気の中、両者相手の一揆一同を見逃さんとにらみ合っていた。
「フッ!」
カーレアが瞬きをした瞬間、ナーマは一瞬にして距離を詰めありえないような速度で斬撃、さらに蹴りともう一方の腕でさらに追撃の斬撃。
蹴り飛ばされたカーレアは壁に激突し、瓦礫によって砂塵のごとく土煙が捲き上る。
「流石にこれで傷を負ってれば楽なんだけど...。どうかしらねぇ」
横で申し訳程度に気配を消して見ていたベルナードが横からため息をつく。
「この程度で死ぬようなら私たちに反抗なんて無謀。ガルムの腕を吹き飛ばすような兵器を使うような奴らがこの程度で死ぬわけがない」
ナーマは油断なく両手それぞれに剣を構えて土煙が晴れるのを待つ。
「参ったな、ここまで強いとは予想外だ。ここに戦力を中途半端に割いたところを叩く予定だったが...どうやらそう簡単にはいかないか」
「それは私たちを馬鹿にしすぎ。あのねぇ、どれだけの時間鍛えてると思ってるのよ。それを数年しか生きてないような餓鬼に負けるなんてありえないし私たちのプライドが許さないわよ」
ベルナードの髪が真っ白になり、狼の尻尾と耳が現れ、本来の姿となったベルナードは淡々とそう言ってのけた。
「へえ、よく言うよ。私に対してこんなにも本気で戦っているのに。餓鬼に対してそこまでの力は少しおかしいのでは?」
瓦礫を押しのけて軽く笑いながらベルナードに笑いかけるとベルナードとナーマの二人はさらに警戒を強くしてナーマは腰を低くして一方の短剣を腰の後ろに、もう一方は腕を前に出した状態でカーレアの頭に真っ直ぐな位置で構えた。
いつでも距離を詰められるように後ろに踏み込んでいる足に力を込めていた。
ベルナードの方は色とりどりの魔法を展開しながら隠蔽魔法による見えない魔法の罠を織り交ぜていつでも迎撃できる状態だった。
ナーマの目からは罠の魔法は見えているがカーレアからは見えていない。
「さて、そちらが本気を出してくれるのなら、私も本気を出しましょうか」
コートの内ポケットから何やら注射器のような物を取り出した。
「...させない」
その時ナーマは危険を察知して一瞬にして距離を詰め注射器を奪い取ろうと手を伸ばした。
「その行動...予想通りだ」
注射器をナーマに押し付け横っ腹を蹴り飛ばした。
「ガハ!...うっ、くぅ」
壁に激突して腹を抑え悶えるナーマ、そこにゆっくりと嘲笑いながら近くカーレア。
さらにナーマに追撃を入れようと足を振り上げたそのとき。
「私のこと忘れているようね」
カーレアの顔にハンマーで殴られたかのような衝撃が伝わり錐揉み回転しながら吹き飛んだ。
「ベルナード...感謝。あのままじゃやられてた」
ナーマはよろめきながらも立ち上がり服についた埃をパンパンとはたいた。
「ああ、いいなぁ。これだから戦いはやめられないよなぁ!」
瓦礫の奥から現れたのは、もうカーレアではなかった。
それは、肥大化した腕、魔物かと思うような形相に3m程はある体躯。
ナーマはそれをみて先ほど押し付けられた注射器を見る。
「予備があった...想定外」
ナーマは注射器を投げ捨てて再び武器を構えてカーレアだったものと対峙した。
「フフフ、コノスガタナラオレガマケルハズナイ!サア、サイセントシヨウ」
怨念のような声をあげながらその化け物はナーマに向かって突進してきた。
「だから、なんで私を忘れるのかしら?」
「フン、モウソレハミタワ!」
ベルナードに向かって回し蹴りをして吹き飛ばしどんどん距離を詰める。
ナーマはさっきの衝撃でいくつかの骨を損傷して口からは血が流れていた。
「これが...最後」
そこに、ナーマの姿はなかった。
気づけば後ろにいて剣も鞘にしまわれていた。
「フン、サイゴノチカラヲフリシボッテヨケ...ガァ、グァァァァァァァァ」
「あなたの攻撃ごときで倒れるわけない。途中で演技と気づけなかったのが運の尽き」
その化け物の両腕と両足、さらに首が切り裂かれバラバラになって倒れた。
「さらに再生するようなら全て切る」
そしてナーマは心臓部に剣を突き立てるとそのまま刺して貫いた。
「ナゼ...カテナイ?!ワタシハ...」
首が体から離れたというのに声を出して苦痛の表情になる。
「ワタシハ...シナナイ!」
突如、バラバラになった腕がそれぞれで動き出して体にくっつき何事もなかったかのように傷が治った。
「...反則。それは少し不味い」
ナーマの方もグリーダとの契約により得た恩恵の再生能力によって傷はほとんど癒えていたが、そのあまりにも冗談のような光景に唇を噛みしめる。
「サア、ツギハドウクル?」
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「ジェノ、そっちは任せた!」
「わかっている、そちらの方も頼んだ」
ガルムとジェノは左右にそれぞれ回り込み脚を集中的に攻撃した。
「おー、やってるね」
「まじで規格外だな...」
そこにジークとザインも合流して遠くのグリーダとミリアの援護射撃も加えると計六人でゴリアテを攻撃していた。
『それと、私の方から助っ人を読んだわ。流石にこの兵器に対して私たちの魔法は部が悪いと思ったから』
「助っ人?」
「あー、なんとなくわかった気がする」
ザインは全然わからなかったがジークは心当たりがあるようだった。
「それで、多分わかるんだがあいつが来たところでこの状況が変わるかどうかだな」
「現状全員で攻撃してもビクともしない。こちらは消耗しかけているから時間の問題だ」
ガルムとジェノは少し悲観的に現状を見てどうするか考えていた。
「へぇ、私が助っ人でそこまで不安がられるとは思ってなかったよ後輩共」
金髪をなびかせながら一際大きな木の上に優雅に立っていたのはリザリーだった。
『お母さんなら勝てるでしょ〜。頑張ってね〜』
「いや、あんたも私の娘なら頑張りなさい。強いんでしょ?昔は私を超えるとか言ってたくせにねぇ」
『ねぇ〜、挑発的なの少し嫌なんだけど〜。お母さんの方が強いのは当たり前じゃん』
『はいはい、言い合いは後にして今はあのデカイのをスクラップか何かにしちゃいましょう』
魔道具を介してミリアとリザリーが言い合いを始めてグリーダが収めた。
「うーん、そうなると私の魔法なら大丈夫か。あれ、術式見る限り魔力そのものというよりは魔法が完成した後の魔法術式の要素を吸収してるからね」
「それ、何が違うの?」
「んとね、つまり簡単に要約すると純粋な魔力は吸収できないってこと。要するに...」
リザリーの体が淡い光を纏って魔力が溢れた。
「こういうこと。龍脈強化《IV》」
数秒で数十メートルもある距離を詰めて思いっきり殴った。
すると、先ほどまで全然ビクともしなかったゴリアテが空中に投げ出された。
「身体強化は効くってこと」
山肌に墜落したゴリアテの砲身の根元が大きく凹み殴られた跡がくっきり残っていた。
「そうか、ジェノも力はあるけど獣化魔法は純粋な魔力じゃなくて魔法で強化したものだから効かなかったのか」
「え?てことは純粋な魔力を纏っただけでこの威力なのか?!それは凄いな...」
ザインはこの威力に対して驚き自分もまだまだだなと思い攻撃を続けた。
しかし、誰も予想していないことがこの瞬間に起こってしまった。
突如、山の奥が爆発して何かが打ち上げられた。
それは空中で何回転かした後に地面に再び激突した。
「な...ナーマ?」
ザインは思わず絶句してそれを見た。
全身ボロボロで傷だらけのナーマを。




