二章十四話
夜も更けて数時間前に起こった騒動によって起こったパニックは少し穏やかになり、いつもの活気溢れる街並みに戻ったのを確認すると、山に向かって二つの人影が高速で移動した。
一つは真っ黒な狼の姿となったジェノ、もう一つは炎を全身に纏い闇夜を照らす様に輝くガルムだった。
「ジェノ、合わせてくれ!」
「承知した!」
二人は高速で山を駆け上がり魔導兵器に向かって特攻するかのような勢いで接近して行った。
一方で、山から遠く離れた場所からその様子を眺めている二人、ミリアとグリーダはいつでも魔法が打てるように待機していた。
「これ、ベルナードに隠蔽魔法してもらわなきゃ大騒ぎね。ミリアのその魔物、相当な大きさだしねえ」
「あはは〜、今回の敵はこれくらいじゃなきゃダメかな〜...なんちゃってね」
「それについては私も納得よ。その魔物は相当な強さ、あの魔導兵器を壊すことのできそうな魔物の一匹ね」
ミリアの横には、鋭い眼光をギロリと光らせた全身銀色のドラゴンだった。
「頑張ってね〜。リントちゃん」
このドラゴンは秩序の竜と呼ばれ、神話にまでされていたドラゴンでリントヴェルという名だ。
ミリアが飼い慣らしているがそんなことができるのはおそらく他にはいないだろう。
「さてと、そろそろみんな位置についたみたいね。あっちに連絡して置こうかしら」
『ほいほい、こっちは準備できたよ。いつでも撃てるから』
『グリーダ、こっちも終わった』
ジークとザインの方も準備が整い山のほとりに待機していた。
「それじゃあ、ガルムが特大魔法放つからそのタイミングに合わせて全力で攻撃しなさい。程よい時間差で攻撃できると思うから。けど、砲撃の感知射程には入らないで、最悪死ぬわよ?」
『了解。あの何本か伸びてる光のやつだね。あれに触れると即発射されるから気をつけないと』
魔導兵器ゴリアテ、その砲台がどうやって標的を捕捉するか、それは砲台部分についているレーザーのような小型の発光する魔道具によるものだ。
その光に一定量の魔力が触れると、全力の砲撃を自動でするという仕組みをしている。
つまり、その光に触れなければ砲撃される心配はない。
昼間の時、ガルムとグランにピンポイントで砲撃してきたのは一般人の魔力じゃ反応しないようになっていて《十ノ頂》レベルの魔力でようやく反応するということになる。
いきなりの山の爆発。
噴火かと勘違いするような爆発によって辺りは一瞬にして真っ赤に染まり、高密度の魔力が収束して砲身に直撃した。
「それじゃ、行くよ」
「あ、ああ、わかってるよ」
ジークとザインは準備していた魔法を発動させた。
「ザイン、ベルセルクを持った僕にはあまり近づかないでね。ちょっと危険だから」
天から降り立つ真っ赤な大剣を握ろうと手を伸ばして掴む直前にジークはそう言った。
「ああ、わかってる」
ザインは空中にいくつも一軒家のような大きさの杭を数十個空中に待機させていた。
そして、自分の背にはミスリルで作った翼と、申し訳程度のオリハルコンの鎧を顔以外に身につけて空中に飛び上がった。
ガルムの放った魔法によって作られた煙が無くなり、八本足のメタリックな蜘蛛のような砲台があらわになりザインは(あれでも無傷か...)と内心呆れながらも空中にある杭を一斉掃射した。
山のふもとにいたジークはボーっとゴリアテを眺め剣を肩に担いで足をトントンと軽く叩いた。
次の瞬間、ジークは消えて数瞬遅れて地面が大きく凹みクレーターのようになった。
自身の身長よりも大きな剣を持ちながら数十メートルの跳躍に山の途中に着地、そこから縮地の要領でゴリアテに向かってさらに地面を蹴って距離を詰めた。
それだけで山の頂上付近まで行けてしまうジークの身体能力にザインはデタラメだと思いながらも杭を打ち続ける。
だが、小さな傷を作ることが精一杯でなかなか大きな破損をさせることができない。
「アハハ...ハ」
ジークは血走った目に口角の上がった表情でさらに跳躍すると思いっきり大剣をその巨大な砲身に叩きつけた。
その衝撃波は砲身から地面に伝わり土煙を上げながら大きく地面を凹ませた。
『ザイン、ジークと一緒に離れなさい』
「了解。ちょっと手荒になるけどやるか...」
ザインはジークに全速力で近づくと、思いっきり手を伸ばした。
それにジークが反応して反射的に避ける、そのことからいつものジークではなく人格ごと入れ替わっていることがよくわかる。
ザインはワイヤーをジークの腹に勢いよく突き刺して長さを縮めて一気に距離を詰めそして...。
ジークの体にこれでもかと魔力を流した。
それは、何度かグリーダがしていてザインたちがみんな苦い記憶のあるものだった。
質の違う魔力を無理やり体に流れ身体が拒絶反応を起こし激痛が走る。
「ちょっ?!ザイン、やりすぎだってば!」
「あとで叱りは受けるから、今は退避して欲しいんだけど」
その痛みによって地面に落ちて文句を言うジークを後回しにしてゴリアテから距離を取る。
その瞬間、視界を覆い尽くすほどの真っ白な光を放ちながら一筋の大きな槍のような魔法がゴリアテに向かって飛来してきた。
だが...。
「あー、あれでもダメなら壊せなくないか?」
「同感だね。どうしようかな。これがダメならジェノとガルムの全力攻撃でもダメだろうし」
ザインとジークはゴリアテを見ながら思案していたが、山から離れて見ていたグリーダは不敵な笑みを浮かべて温和でありながら鋭い視線をゴリアテに向けていた。
「ありゃりゃ〜。これじゃ壊せないね〜。どうするの?グリーダ」
「そうね、今のところは想定内...あとはあの子達がどうするかだけど」
グリーダはゴリアテの方をじっと見つめていた。
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「全く...、これが狙いだとするなら本当にグリーダは抜け目ないわねぇ」
「同意、少し怖い」
ベルナードとナーマがゴリアテがいた場所のさらに奥、グリーダの視点で山の後ろ側に来ていた。
そこは、地下に続く階段があり胡散臭さがにじみ出るような雰囲気だった。
「ここまでくると少し尊敬するわ。大体、何でこんなところに研究施設が」
「ベルナード、油断大敵...誰かくる」
二人は隠蔽魔法で姿は見えなくなっているので大抵の魔術師程度では見破ることはできない。
そして、見つかったとしても強引に突破できるくらいの力はあるのでそこまで気張らなくても問題はないといえばない。
「それでも、警戒することに越したことはないわね」
薄汚れた廊下にコツコツと何者かが歩いてくる音が聞こえ、さらに隠蔽魔法を強化して通り過ぎるのを待った。
「明らかに、あの兵器に関係していた可能性は大きいはず。どうにかしてあの兵器の管理棟か何かにたどり着ければいいけど」
「多分、そう簡単にはいかない」
「ナーマ、誰か一人捕まえて来てくれない?少し情報が欲しいわ」
「了解」
ナーマは一瞬にして姿を消して次の瞬間にいかにも研究員の格好をした男の首を掴んで現れた。
「オーケーオーケー。それじゃ、適当に情報引き出すわよ」
「そうする」
「な、なぜ貴様らがここに...、ウグ」
男は大声で周りに知らせようとしたが、ナーマが首を掴む力を強くすると苦しそうにもがいた。
「大声出しても無駄よ。もう私の隠蔽魔法で音も姿も魔力さえも外に漏れる心配はないわ」
そこから先は、拷問あらため情報収集を開始した。
「大体わかった。あの兵器、砲撃自体は自動で行う。けど、もし何かあったときのために遠隔操作ができる管理棟がある...」
「そうね、それが本当ならそこを目指して機能停止させればどうにかなるわ。さて、それがどこにあるか...だけど」
「シラミ潰しに探すしかない」
薄汚れた廊下を二人は進んでいくと、いくつかの部屋が順に並んでいてそれぞれが研究室のような場所だった。
中には魔道具の構造や魔物の肉や魔力を使った実験の資料が見つかった。
だが、肝心の管理棟にはたどり着けなかった。
「色々とやばい研究資料は沢山出てきたけど今の問題であるアレをどうにかできるものは未だになしね」
「大丈夫、最悪の場合うちの拠点近くまで無理やり転移させて強引にバラすらしい。グリーダらしい」
いくつかある部屋のうちの一つの中の研究資料の書類やら機械やらガラクタやらを漁りながらナーマは言った。
「それ、転移する時に山ごと抉って持って帰るんじゃない?座標指定の転移魔法なんてそうでもしないとピンポイントに転移なんて無理よあんなでかいもの。生物じゃないんだし」
基本、転移魔法は物体を転移させることは制御できる魔力の量によって転移魔法の正確さは変わってくる。
いくらグリーダの魔力が規格外でもあんな複雑な魔力機構を搭載した巨大な魔導兵器をピンポイントで転移させることは難しいなんてものじゃない。
「本当にまずい場合は山ごとなくなるのは覚悟の上。私は関係ないけど」
それに関してはナーマは無関心で資料を漁り終えて次の部屋へ向かおうとした。
「っ!」
ナーマが何かに気づき反射的に神速魔法を発動し、腰に下げている短剣の内一本を見えないような速さで投擲した。
「チッ、外した...」
短剣は壁に深く突き刺さりガスっと思い音が鳴り、その時に初めてベルナードが気づいた。
「まさか、見つかるとはね」
「あなたは確か...ザインと戦ってた...」
「ああ、そうだそういえば名乗っていなかったね。私はカーレア。以後お見知り置きを、そして...さようなら」
カーレアは不敵な笑みを浮かべて二人を見つめていた。




