二章十三話
ガルムとグランは堕天世界のとある街で何か手がかりがないかを探っていた。
既に堕天世界に来て二日が経過して三日目に突入してもう昼ごろ、やることもないのでこうやって探しているが一向に見つかる気配がない。
「グリーダはああ言っていたが、事態は結構深刻だな。こりゃあ旅行を楽しんでる場合じゃねえぞ」
「そうじゃな、ワシらも手がかりを探してはいるが一向に見つからん。いっそ前の刺客を拷問でもすればよかったのじゃがのう」
グランは、前に襲ってきた奴らを捉えてはいたものの、口封じで呪いか何かが発動したのか次の日にはそのまま絶命していた。
「一筋縄じゃいかないっつうか、俺たちだけじゃ大した情報はつかめなさそうだな。大まかに俺たちが知っていることは多分全員が知ってるだろうからな。あー、どうすっかな」
ガルムが愚痴を呟きながら周りを見渡すも、平和としかいえないような風景が広がっているだけで特に怪しいと言えるものはありませんでした。
「しかしのぉ、何も起こらないに越したことはない。気長に待つのが正解じゃろう」
どこからか葉巻を取り出して優雅に吸っているグランを見てガルムはため息をつきバツが悪そうな表情をした。
「今頃、ベルナードあたりは敵のアジトなんて見つけてるんじゃないか?あとグリーダあたりもな。俺たちは何もできないのが悔しいが」
ガルムは、今回の騒動に何もできずに少し悔しい表情を浮かべていることにグランは察しがつき、少し申し訳なさそうにしていた。
「そうじゃのう、ガルムは立派な戦力じゃ。そう悲観するでない」
グランはガルムに励ましの言葉を入れてガルムの方を向くが、当のガルムはそれには全く反応せずに、ぼうっと上の方を向いていた。
正しくは、上向きの前方を見ていた。
「ガルム、一体どうし...」
「グラン、ここら辺一帯に結界を張っておいてくれ!」
「何をいきなり?!どうしたと言うんじゃ」
「良いから早くしろ!でないとここの市民全員死ぬぞ!」
ガルムは切羽詰まった声でそう言い残し、炎を纏って上空に飛び上がった。
かろうじて見える紅い光は遠くの山に物凄い速さでまるで流星の如く流れていた。
グランは言われた通り街全体に結界を張ってその場を待機することにした。
「一体...、何が起こっとるんじゃ?」
いきなりの事態に周りの堕天族は少しパニックになっていたものの、グランには全くそのことは意味を成さなかった。
しかし、次に起こった現象には流石のグランでも驚きは隠せずに目を見開いた。
街が、瞬く間に輝いたのだ。
正しくは、街の上空のグランが張った結界に何か特大の魔法がぶつかり魔力が悲鳴をあげていたのだ。
「ぬぅ...ううう」
グランは結界を維持するために絶えず魔力を流し、額にはベットリと脂汗を流していた。
明らかに異常な光景と街を覆い尽くす結界が瞬時に張られそれを防御したのを目撃した堕天族たちの頭の中にさらなる混乱が押し寄せてもう大パニックだった。
中には頭を抑えて悲鳴をあげるものまで。
結界はボロボロになりながらも何とか形を保っていて、グランの魔力も少しは残っていたが、明らかに異常な強さのこの魔法は何だろうかと考えた結果、数百人単位で行われる国家的な術式ではないかと結論付けた。
だが、その考えは一瞬にして吹き飛んだ。
「なっ...?!」
結界を解いた瞬間片腕は千切れ、所々焦げていてボロボロのガルムが降ってきたのだ。
「あい...つら、や、やりやがった...」
グリーダからの恩恵で再生力が強化されたガルムの、ちぎられた腕が瞬く間に再生して、身体中の傷もすぐに治った。
「ガルム、いったいどうしたと言うんじゃ!」
「ああ、グラン。奴らはただの有象無象じゃねえ。本気で俺たちを殺しに来てやがる」
グランはガルムの今の状態をあり得るはずがないと思っていた。
なぜなら、今まで《十ノ頂》同士で戦ったとしてもこんな傷を負うのは稀だったからだ。
それが巨大な魔法一撃でこの有様、それほど今回の魔法が規格外であり圧倒的であったと言うことだ。
グランが顔に焦りを浮かべながらガルムが飛んで行った先をよく見てみると、何やら大きなものが緑の生い茂る山から顔を出していた。
先ほどまでは木々で見えなかったが今の砲撃によって周りが全て吹き飛び全容があらわになっていた。
それは、生き物ではなくどちらかというと金属のようなもので八本の脚に蜘蛛のような形状で正面に砲台が付いているいかにも兵器のような見た目だった。
その砲台から膨大な魔力によってガルムを吹き飛ばすほどの魔法を放ったと考えると流石に《十ノ頂》一人だけでは太刀打ちできない。
『ガルム、グラン聞こえるかしら?』
その時、どこからか二人に向かって声がした。
「あ?ってこの声はグリーダか?!」
『二人は早く撤退しなさい!あの魔導兵器は二人じゃ無理よ!』
どこからともなく聞こえてきたグリーダの言葉を聞き二人はお互いの顔を見合わせた。
「...ッチ、撤退だ、グラン」
「ああ、そうじゃな」
ガルムとグランはその遠くに見える魔導兵器を一睨みするとその場を後にした。
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数時間後、再びの連絡によって遠征中にもかかわらず全員召集され拠点に戻った。
「グリーダ、あれは一体何なんだ?」
マーナを除く九人が集まったところでガルムが机をドンと叩いてグリーダに問い詰めた。
当のグリーダは紅茶を飲みながらガルムを見てため息をつくと言葉を続けた。
「魔導兵器ゴリアテ。その名を聞いて思い当たることはあるでしょう?」
しばらくの沈黙、しかし直ぐに一人が口を開いた。
「魔導兵器ゴリアテって...伝承では種族大戦の時に欠陥品としてお蔵入りになった神族の兵器だよね。ねえ、本当にそれなの?」
神族であり歴史は一通り理解しているジークはその兵器のことを知っていたようでグリーダの言葉に反応した。
「ええ、あの魔導兵器はあらゆる魔法を打ち消し破壊不能の固定砲台。そして威力は国家レベルの魔術に引けを取らないまさに無敵の要塞」
それを聞いてみんなはどこに欠陥があるのだろうと疑問を浮かべたが直ぐにグリーダがそれについて話した。
「ゴリアテはね、魔力を威力に変換する装置に大半の容量を使っているから多くの魔力を貯蔵できないのよ。だから、連射もできないし魔法を打ち消すためにも魔力を使うから直ぐにガス欠を起こす。それが理由で実戦で使われることはなかった...という感じね」
「それじゃあ、魔力を使い切らせれば勝機はあるのか?なら...」
「それで真正面から挑むのは馬鹿ね、あれは昔のとは違うわ。見た目から遠くからでもわかる魔力器官の構造。明らかに既存の魔導兵器とは格が違うわ。今の状態の私なら壊せるだろけど無傷とはいかないわね」
そう聞いて、ガルムが吹き飛ばされた場面を見たグランと当の本人は苦虫を噛み潰したかのような表情になった。
「あれ、多分表面に満遍なく魔力変換装置の代わりになる物質を使ってると思う。だから、ガルムの攻撃にビクともしなかった」
魔力変換装置とは、魔力を吸収する性質を持つ物質に魔力を変質させる効果のある魔導具を合わせたものだ。
それを使うと、魔力を吸収しながら実用可能な質の魔力に変換して自身の魔法の糧にすることができるという代物だ。
「つまり、ガルムの魔力を吸収してその魔力を砲撃の魔法に回した...と」
ジークの説明した仮説は大いに可能性のあるものだったのでその線で破壊の手順を考えることにした。
「つまり、あの兵器の魔力が暴発するくらいに魔力を叩き込めばいいのね」
「さっきから思ったけど一番脳筋なのグリーダだよな。発想からして」
グリーダのあまりにもゴリ押しな発想にザインは思わず突っ込んだ。




