二章十二話
やべ、音出しすぎた。
路地裏での戦闘によって大穴が開く爆発音やナイフなどの金属音によって既に近くに人の魔力を複数感じる。
「さてと、どうするか」
とりあえずここから逃げる手として色々考えたが一番楽そうだった手を使うことにした。
手順は簡単、地面に潜る、以上。
改変魔法で地面を変形させて地面に潜り人がいなくなるのを待つだけだ。
「ここだ。さっき爆発音が...てあれ?」
「何もないじゃないか。気のせいだったのか?」
「そんな馬鹿な、確かに俺は」
そこに、若い二人の男が神妙な顔で入ってきて何も起こっていないことに首を傾げながら話し合っていた。
よし、この調子ならバレなさそうだな。
「ま、まあ、戻ろうぜ」
「そ、そうだな」
男二人は何もないことに疑問符を浮かべながらもその場を後にした。
「さてと、リアナの元に戻るとするか」
大型市場に戻ると、俺に気づいたリアナが俺の方にかけよってきた。
「ギルグ様、服を選んできました。本当によろしいんですか?」
「ん?ああ、衣服はないとダメだろ。着替えとかもいくつか必要だしな。あと、様はつけなくていいから」
リアナは可愛いが控えめな色合いの服を数着選んで俺の方に持ってきた。
「あの、じゃあギルグさんって呼びますね。それでギルグさん、戻ってきたとき気になったんですけど、その肩の傷は...?」
「あ、いや?なんでもないから」
「でも、結構血が...」
もう傷は治っているが服に血がついてしまってさらに服が破けていたのでそりゃあ気づくわな。
なんで服直さなかったんだろう。
「それ買ってからリアナは宿に戻っておいてくれ。俺は大衆浴場に行ってくるから」
「は、はい。宿の場所は覚えてるので私は一人で戻りますね」
リアナはそう言って宿の方向に向かって歩いて行った。
さてと、風呂に入るか。
いつも入る時間よりかは少し早いが特に問題はないので普通に入る。
傷がすぐに治る体になったからと言って痛みが消えるわけでもなくしばらくは痛い。
なので風呂に入っている間痛みで少し表情が苦渋の色になっていただろう。
それにしても、今日戦ったあの暗殺者みたいな男は何者だろう。
明らかに普通じゃないし、常人が到達できる力をはるかに超えている。
多分、あのまま街を気にしたまま戦っていればおそらく死んでただろう。
...タイミングがあればグリーダにでも聞いておこう。
あの男の力について。
「あ、戻りましたか、ギルグさん。夕飯は宿の人が作ってくれてましたよ」
宿の部屋に戻るとリアナがベッドに座ってくつろいでいて机の上に食べ物が置かれていた。
「リアナはもう食べたのか?」
「はい、ついさっきまで食べてました」
リアナはそれはもうハッキリとした笑顔をして答えたのを見ると美味しいのだと思う。
「わかった。じゃあ俺は夕飯を食べてまた少し外に出るから、暇なら本屋にでも行っててくれ。しばらく暇だろ?」
「あ、今日は疲れたのでもう寝ようと思います。それに、私には娯楽なんてとんでもない...」
「そうか、気にしなくてもいいんだけどな。疲れてるなら早く休んでくれ」
その言葉を聞いてリアナは大人しくベッドに入って目を瞑った。
窓越しに外を見るともう真っ暗で、綺麗な三日月が浮かんでいて綺麗だった。
宿の食事は簡易的だが結構な味で、なかなか癖になる。
肉なんて皿に骨つきのデカイのがワイルドに乗っかっていた。
ナーマの料理は基本オシャレで上品なものが多いが、こんな風にガッツリしたものもいいな。
リアナはこれを全部食べたのか...。
よほど腹が空いてたんだな。
横目でリアナをチラッと覗いたがもう寝息をたてて気持ちよさそうに眠っていた。
数十分かけて夕飯を食べ終わり、気晴らしに外を少し歩いていた。
あの拠点は周り草原で代わり映えがないから街を歩いているだけでリラックスできる。
それと理由は他にも...。
「今日のやつとは違うか...。ただのチンピラだな。これが俗に言う待ち伏せってやつか」
好戦的な魔力を感じ取って来てみれば、いかにもゴロツキの集まりで金品漁ってるような奴らがお出ましして来た。
「マーナが倒れて管理が行き届かなくなるとすぐこうなるのがな。あとで対応策でも考えるか。俺じゃ多分解決できないけど」
やっぱり、ここ数日で明らかに情報は出回っているな。
確実に世界眼とまではいかないけど管理が手薄になったとの情報はここいらに出回ってるんだろうな。
「はあ...、馬鹿なことやってないでさっさと帰ればいいのに。なんでわざわざそんな人を狙って集るのか」
「あ?見ねえ顔だな。この辺りの奴らじゃねえだろ。体格からして魔物狩りじゃなさそうだが?大した物言いだな」
「その有り余る体力で魔物狩ってれば国に貢献できて報酬ももらえるのにな。頭が悪いのか?それとも魔物と戦うことすらできないか」
少し様子見で挑発したが、あまり有用な情報は出てこないか。
これは今俺たちが問題視している奴らとは無関係っぽいな。
...よし、軽くシバいて注意だけして帰ろう。
数は四人、まあまあな人数だな。
「頭上に気をつけたほうがいいよ」
「あ?何言って...」
男の一人がそう言った瞬間、四人の男全員の頭に衝撃が走った。
全員の頭に拳大の鉄塊を降らせるといういたってシンプルなお仕置きだが男たちは頭を抱えて悶絶していた。
「これに懲りたらもうこんなことするなよ。次は命の保証はないからな」
こんなことは正直に言って日常茶飯事だったので、これくらいで灸を据えてやれば大抵の奴らはしばらくは大人しくなる。
またやろうもんなら本当に本気で潰しに行くから一旦はこの辺でのさばらせとけばいいだろう。
「腕は上々、五年にしてはよく実力が伸びている。このままいけば更に強くみんなと肩を並べられる...なんて、思ってないよね」
月夜に照らされ、華やかな装飾が一層引き立つドレスを着た金髪の女の子がいつのまにか後ろに立っていた。
だが、俺はその子を知っていた。
「なんでここに...なあ、先代《龍皇》。グリーダから聞いてるよ。今回の敵の解析を依頼してるって聞いたからな」
「うん、だってさ、”娘”のためだからね。あの子が少しでも危険なら助けるよ。私は親バカだからね」
《龍皇》、ミリアと同じく金髪の女性。
そして、ミリアの先代でもあり親でもある。
名前はリザリー。
親とは思えないほど若く、人懐っこい顔つきはたしかにミリアに似ていると思うが初めて知った時はびっくりした。
初めて知った時は、三年前ほどに俺たちの元にやってきて話したことがある。
来たのにそこまで大した理由はなく、ただミリアの顔が見たかったのと暇だったかららしかった。
グリーダは定期的に来ているといっていたのでそれ自体にはそこまで驚きもしなかった。
だが、初めて会った時に驚いたのはその圧倒的な魔力。
グリーダと同等、いやそれ以上なのではないかと思うほどにその魔力は計り知れなかった。
いや、本当に魔力の全容が見れなかった。
「一つだけ言っておくよ。《十ノ頂》をなめない方がいい。今のメンバーがどれだけの実力がわからないからなんとも言えないけど、力があるからって任務なんかを適当にこなそうとすれば...間違いなく死ぬ」
今回この人が来たのは俺への忠告、それと警告...そう言ったところか。
「わかってる。本当にこれは命のやりとりだ。一歩間違えれば死ぬなんてこともあるだろうしな」
「...よろしい。わかってるなら、単身で敵のアジトに突っ込むなんてことはやめてね」
...リザリーはこの時何を言っているのかわからなかった。
だが、この後この言葉を軽く解釈してしまった自分を呪うようなことが起こるなんて今の自分は知るよしもなかった。




