二章十一話
ジークの屋敷で泊まって行ったグリーダは、今日から本格的な調査を開始した。
とは言っても町中を駆け回るのではなく、他のメンバーの様子を確認して状況を見たり、昨晩に襲撃してきた奴らの場所を特定したりなど受け身の調査で自分から行動することはしなかった。
「炎の精霊の贋作に最高峰の暗殺者...後者の方はザインを舐めすぎて叩き落とされてだけど、流石に無視できる範囲を超えてきたわね。さてと、どう対処したほうがいいかしらね」
「相手も必死だね。放っておけばさらに手強い敵が来るのは間違いなさそう。だけど敵の本拠地を見つけられなければどうしようもないよね。ぼくにも特に対処法はないかな」
二人は対応策を考えていたが特にいい案が見つからずに頭を抱えていた。
「それに、敵にも転移魔法が使える手練れがいることは確かね。ナーマの場所に敵が来るのはそれしか考えられない。それも考慮して対応策を考えないと」
「うん、それと、敵の実力の全容が見えてないから想定外のことだって起きる可能性があるし、余裕綽々ではないかな」
出店の立ち並ぶ街道を買い食いしながら二人で歩いてずっと話していた。
「それにしても退屈ね、まだ遠征二日目なのにこうもやることがないとまたガルムをシバきたくなるわ」
「それってガルム完全にとばっちりだよね。可哀想に、今からでも祈っとく?」
「ん?大丈夫でしょ。あの子なら私がぶん殴ったってしぶとく生き残るから」
本当にグリーダは冗談の常軌を逸してると思ったが自分も同類だったことに気づいたジークだった。
「ここら辺、人間世界の食べ物に比べたらまだまだだけど美味しいね。ナーマにも今度作ってもらおうかな」
「それはいいわね。あと、人間世界の食事は技術的にも他世界を明らかに超えてるわ。それも、種族戦争の時に魔力や力がない代わりに鍛え抜かれた発想力の名残でしょうね。それがなければ今頃人間族は滅んでるわよ」
ジークとグリーダはパン生地の中に肉が挟んである料理を頬張りながら歩いていた。
「ひさびさにこんな長い仕事したよ。今は事故と言えるのか謎だけど」
「そんなに気張る仕事でもないから仕方ないわよ。それでもサボるのは許さないから、そこは頭の中に入れておきなさい」
「はは、肝に銘じとくよ」
ジークの言葉に満足そうに頷いたグリーダは小型化されたモニターを片手間に覗いていた。
「やっぱりそれぞれで行動してるけど有用な情報は出てないみたいね。戦闘能力は高いけど情報戦じゃ圧倒的に不利ね」
「それは仕方ないといえば仕方ないけど、今までマーナに頼りきりだったのが今になってよくわかるよ。意外と強いだけじゃどうにもならないね」
「当たり前よ、諜報役に特化したのがマーナしかいないんだもの」
「それ、メンバーを選抜したグリーダのせいじゃない?」
ジークの言葉がよほど心にくるのか、グリーダは視線をそらすとジークがそれに笑う。
「それよりも、よ。まだお昼頃だし、やることはやりましょう。最近魔物がだんだんと増えてるらしいから、処理しきれない分は私たちでやるわよ」
「脳筋ってことは否定しないんだね...。魔物に関しては問題ないよ、暇だし。でも、また懐にお金が入るね、使い道ないけど」
「ジーク、あなたそろそろそういうジョークはやめなさい、ガルムみたいになるわよ?」
「うーん、それは嫌だな。てか、なんでグリーダはガルムをイジメの対象にするの?」
「ああ、それはね、頑丈で負けず嫌いだから何度やっても折れないからよ」
グリーダの返答に苦笑いを浮かべながら進路を変えて魔物の生息地に向かう二人。
その姿を屋根伝いから様子を見ている人影があった。
「あれが...か。昨日のを見る限りまだまだ実力の全容は見えないか。殺すのは無理そうだな」
細々とした体型のいかにも魔術師らしい格好の男がグリーダとジークの様子をじっと見ていた。
「ま、精々楽しませてくれよな」
その男は、血のように紅い瞳を煌びやかに輝かせて醜く笑っていた。
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「これで1000っと、ようやく終わったわ。ゴブリンなんてそこらへんの腕利きの魔物狩りを雇えば倒せるでしょう。なんでこんな大繁殖させるのやら」
二人は魔物の巣窟である洞窟に入り魔物をかたっぱしから倒していた。
「あのね、これただのゴブリンじゃなくてダークゴブリンだよ。強さだけでいえば普通のゴブリンの数十倍はくだらないよ。普通の魔物狩りが倒せるならそれこそおかしいから」
「どっちでも変わんないわよ。ダークゴブリンなんてミリアが魔物用の家畜として育ててたじゃない。ただの餌よ」
グリーダがジークの言うことを軽く流してその後も魔物を狩り続けるが、日が暮れてきたので切り上げて屋敷に戻った。
「はぁ〜。やっぱりいいわね。この屋敷、なんでも揃ってるんだもの」
グリーダが魔道具の材料をいじりながら深くため息をついた。
魔道具の材料の中には、魔力を込めやすい金属や魔物の内臓、ゴーレム種のコアなんかがある。
「まあね、でも、グリーダが魔道具を作りたいって言うだろうと思って取り寄せたんだけどね。だから好きなだけ使っていいよ」
「それは助かるわ、私たちの拠点の中にある魔道具の素材が減ってきて最近作るものが減ってきてたのよ。だいたい暇つぶしで作ったものだけどね」
グリーダが暇つぶしにと言っているがいくつかは本当に世界を滅ぼしかねないほどのものがあると言うことをジークは知っているのでただただ遠い目をするしかなかった。
「それにしても、不可解なことには変わらないけど、それよりも僕達に送ってきた戦力が他のところよりも明らかに弱いんだよね。ガルムのとこには贋作ではあるけど精霊剣を使う恐らく妖精族...かな。ベルナードのところには普通に手練れだったね」
「そうね。ザインのところに関しては人間世界の誰でも勝てそうにないほどの強さだったわ。ザインもあのまま戦っていたら多分負けてたわね」
「だね、あの判断は正解。戦力的に明らかに差がありすぎた」
「ナーマは...完全に一番戦力を割かれてたわね。理由は恐らくだけど予想はつく」
「世界眼だね。理由としては合点が行くし」
相変わらずまだわからないことだらけだが、この調子なら負けることはまずないだろうと踏んだジークとグリーダはひとまずの目標として敵のアジトを見つけると言うのを作った。
「アジトなんて、いつもなら見つけようと思えば案外簡単に見つかるけど、世界眼がないと少し難しいわね」
「いや、それならマーナが倒れる前からあるんだとしたら関係ないよ。どうせ世界眼の情報も知っていてベルナードと同系統の隠蔽魔法と転移魔法使いを雇ってやりくりしてただろうからね」
「そこまでは私も予想できるわ。今知りたいのは奴らの行動よ。半端でもそこそこの連中をこちらに送ってきた以上、近いうちに大きく動くことは覚悟しておいたほうがよさそうだと思うわ」
「うん、だよね。実力を測るためにあんなのを送ってきてるとするならあれ以上は確実だし、奴らは僕たちの動きをほぼ予測して的確に刺客を送ってきてる」
ジークのいつもの明るい表情に少し陰りが見えていて現状に対して少しネガティブになっているのが目に見える。
「...戦力的な問題はあまり心配してないわ。ただ、それでも楽観的な考えじゃいつ足元すくわれるか分かったものじゃないわ」
「まあ不幸中の幸い、民に被害はないからね。奴らが何を考えてるか知らないけど無差別な傷害を望んでるわけじゃないってのはわかってきたね。それに、多分誰かを理由もなく傷つけるような輩でもない」
「傷つける輩じゃないって...私たちに奇襲してくるような奴らによく言えるわね」
「そりゃあね、僕たちは魔力を察知できるから奇襲は意味ないってのは承知の上であんなコソコソしてる。つまり、正面からやれば周りの被害が大きくなることを危惧してる可能性は高いよ」
「そう...よね。いえ、そうであってほしいわ」
グリーダは、最初から自分達のことなど微塵も心配していなかった。
グリーダにとって世界眼が機能しない今、町や国の民が理不尽に殺されたり傷つけられたりすること、それが最も危惧していてなおかつ最も怒りが湧いてくることだった。




