二章八話
魔物を倒し終えたガルムとグランは、そのまま街の調査に向かった。
「街の中は特に異変はねえみてえだが、どうする?かと言って大規模なことをするわけにもいかねぇしよ」
「そうさのう。ワシらが大規模なことをするわけにも行かんな。じゃが、やりようはある。それも、意外と身近にな」
ガルムの言ったことに対してグランが返事をすると、グランはある魔法を使い魔力によって作った風をそこら一体に吹かせた。
「こんなことして一体何になるんだ?どうせあんたのことだから何か理由があるんだろうけどな」
「そりゃあそうじゃ。ワシだって理由もなくこんな魔法使わんよ」
グランはガルムに向かってため息を吐くとそのまま魔法の範囲を広めて続行した。
しばらく発動すると、魔力を止めて魔法を停止し、風も同時に消滅した。
「やはり、刺客はすでにおったか。ワシの想定以上に面倒なことになるぞ」
「あ?刺客だと?」
ガルムはさっきから気づかない様子だったが、グランは確信がないものの今こうして魔法を発動して確信に至った。
「ぶっ飛ばすか?」
「いや、相手から襲ってくれば対処はするのじゃが、まだ何もしてない者にワシらが一方的に攻撃するのはワシらの理念に反する。今は様子見が一番じゃ」
「なるほどな。それじゃ今は警戒しながら泳がせておくか」
ガルムは刺客に対しての動きには実際気づいているわけではないが、もし近くに来たならば迷わず叩き潰すだろう。
グランの魔法によって位置を特定されているので不意打ちは困難となった。
こうして、見えざる刺客は気づかぬうちに八方塞がりとなってしまっていた。
そんな二人はその後...。
「......」
「何見とるんじゃ?」
ガルムはあるお店の前で立ち止まって一つの商品を見ていた。
「ほぉ、それは誰にプレゼントするんじゃ?」
「は、はぁ?!テメェ、マジでぶっ飛ばすぞ!」
グランの冷やかしの言葉にガルムは若干焦りを浮かべてグランをにらんだ。
「別に、プレゼントとかじゃねえよ。少し昔を思い出しただけだ」
ガルムの記憶の中の、初恋人。
自分の戒め。
「お主の記憶については知っておるよ。まあ、これが好きだとは知らんかったがのぅ」
グランはそう言って、一輪の白い薔薇を手に取った。
「ただ思い出しただけだ。別に買うつもりもねえよ。そろそろ行くぞ」
「ふむ、その女は今もそばにいると言うのに、なぜそんな過去の思い出のように言ったんじゃろうな...」
グランは腑に落ちない表情で意味深なことを言いながら花を戻してガルムの後に続いた。
陽が傾き空も暗くなってきた頃、ガルムとグランの二人は適当なところで宿をとり、くつろぎながら今後のことについての詳しい方針を立てていた。
ちなみに、まだ敵に目立った動きはなくお互いに魔法で位置を特定して睨み合っている状況だ。
ある程度位置も近いのでもうガルムも気づいていた。
「しかしよお、魔物討伐部隊に申し込んで魔物を討伐したとはいえ、この稼ぎ方は目立つんじゃないか?今日のやり方は荒稼ぎにもほどがあるぞ」
ガルムは心配しながら金貨を一枚取り出して訝しげに聞いた。
「そこらへんは心配いらんよ。仮に異常視されたとしてもワシらはここに長居する気もないしのう」
グランはそう言って軽く笑って見せるとガルムはそれを見て納得したのか他の話題に移った。
「そろそろ、だな。敵の準備を待つなんてあんたも律儀だよなぁ。グラン」
「ふん、ワシらに歯向かう者たちに少し灸を据えてやらんとな。何をしても無駄じゃと思わせるのにはちょうど良いじゃろう」
グランは立ち上がると、魔法で作り出した実体のない風の槍を手に宿し、ガルムは手ぶらで何も持たずに外に出た。
宿の部屋は二階にあり、窓から飛び出してグランの風神魔法によって二人は浮遊し魔力を感じ取るがままに目的の場所に向かった。
「思ったよりも...ってかすぐそこじゃねえか」
ガルムは悪態ついて宿の近くにあった小規模な林の入り口に降りた。
「ガルム、くれぐれも燃やし尽くさないように気をつけとくれ。この街ごと滅ぶからの」
「あぁ?んなこと知っとるわ。魔法くらい馬鹿でも調整できるだろ」
ガルムはグランに注意されて苛立っているが、なんだかんだ言って林の中に入って行った。
「魔力が感じられるのは大体20...いや30か。またたいそうなことで。俺たちを罠にはめる気まんまんだな」
「そうじゃな。個々の力は弱そうじゃがここまで多いと大規模の魔法が使えない今ではなかなか厳しいかもしれんのう」
「そうだな。負けることはまずなさそうだが時間はかかりそうだな。ま、それでも数分だろうけどよ」
ガルムは魔力が感じられた方向に目を動かしながら敵の位置を詳しく把握して小型の火球を次々と作り出して行った。
「グラン、周りの木に燃え移らないようにしといてくれ。万が一があるかも知れねえからな」
「うむ、心得た」
グランは周りの木全てに風の障壁を作るとそこにさらに風圧によって作り出された敵への道筋ができていた。
「相変わらず、老いぼれにしてはよく気配りができてるな」
「ふん、伊達に数百年も《風皇》としてやってないわい」
ガルムはグランによって作られた道筋に沿って火球を放っていく。
「な?!もう気づかれたか!」
敵の一人が声を上げて撤退しようとするが火球によって吹き飛ばされて気を失った。
「それで、こやつらは殺すのか?」
「いや、死んだ奴は別にどうでもいいがこいつら自体別に市民に危害を加えてたわけじゃねえからな。単に俺たちをおびき寄せてただけだ。無理に殺す気はねえよ」
「そうかそうか。ならば殺戮よりも制圧が最優先じゃの。お主のことじゃからうっかりもありえるんじゃがな」
「うっせえぞジジイ」
グランは音もなく高速で数人を風で吹き飛ばして木にぶつけて気絶させていた。
「グラン、だいたい片付いたが何か魔力の異常に高い奴いないか?」
「そうじゃのう、ワシらよりは劣るがここら一体ではそやつよりも高い者を見た覚えはないからのう。どれ、ここは少しお手並み拝見といこうか」
二人は揃って上を見上げると、空に浮いている女が一人。
「ふーん、雑魚はみんな片付けた。あとはお前だけだって感じですね〜はいはい」
「テメェ誰だ?そこらへんの雑魚じゃないみたいだが?」
女は軽装に紺色の髪で、夜空の月に照らされてその細身の体が輝いているように見えた。
「二流じゃな。小娘よ、引き返すが良いわ。戦って勝てる何ぞと思い上がって後悔するかも知れんぞ?」
グランは眉間のシワを寄せて空中に居座っている女を睨み付けると忠告の言葉を言い放った。
「はぁ?世界の管理者だとかになって思い上がってるのはそっちじゃないの?私は全然思い上がってない。むしろ、私のことを見て侮っているのはそっちでしょう?」
「んだと?俺たちが敵を侮る...か。笑える冗談だな。だが、俺たちが油断してるのは事実かも知れないが」
ガルムはそこで一旦口を止め、すぐにまた言葉を続けた。
「いくら相手が弱くても徹底的に叩き潰すから関係ねえな」
ガルムははっきりと、そして淡々とそう言葉にして女を見据える。
「徹底的にねぇ。つまり油断してても変わらないってことね。なるほど了解っと。じゃあ、私も最初から本気出すからね。あ、精々死なないでね〜」
女はそう言うと背中に担いでいた物を手に取り振り上げた。
それは、布で包まれた身の丈ほどもある剣だった。
女はその布を解いてその剣身が露わになった。
黄金の剣身に、中心には燃えるような赤い宝石が埋め込まれている。
「どう?この剣は。火の精霊の力を宿した力に恐れなさい」
グランはその剣を見ても何も思わなかった。
だが、隣にいたガルムはそれを見て思わず鼻で笑っていた。
「贋作が。オリジナルの一割も力を出せてないのによく言うよなぁ」
ガルムはそう言うと手に魔力を込めて炎で剣を形取ってそれを空中で素振りした。
(どの種族も愚かね。私の力をなんだと思ってるの?いかにも自分の力のように言ってるけど)
ガルムの肩には赤い髪の手のひらに乗るような大きさの少女が乗っていた。
「イフリート、お前の剣の偽物だってよ。面白いことこの上ないな」
ガルムは女の顔を皮肉っぽく一瞥して肩に乗った少女と話し始める。
「な、何よ、それ。オリジナル...?そ、それって種族大戦で破壊されたって」
「馬鹿言うなよ。精霊が高々五種族の戦争ごときで壊れるかよ。実際うちのトップでも精霊には警戒するほどだ」
ガルムは薄く笑いながら軽くそう言うと、女は一転して化け物を見るかのような目でガルムを見た。
「こ、こんなの、ありえない!ありえないんだァァァァァァ!!」
女は狂ったように剣を振り上げると急降下してガルムの方に振り下ろそうとした。
「だから、二流じゃと言ったんだ」
背後から見えない斬撃で一閃、背中から血が飛び出して勢いで剣がそれてガルムのすぐ横に振り下ろされた。
「贋作でオリジナルに勝つにはなぁ、百倍は技量の差がねえと無理だぞ?」
ガルムは剣もろとも打ち上げて爆散させた。




