一章三話《不可抗力》
俺は部屋に戻ってそのまま寝ることにした。
もしかしたら、これも何かの夢だというオチもあるかもしれないと考えながら、部屋に戻り眠りについた。
だが、その予想は大いに外れていて、朝がきて、起きても部屋は変わらずに残ったままだった。
大きくあくびをしながら部屋を出て一階に降りると、ものすごい速さで何かを切る音がした。
「あ、ナーマ...だっけ?」
「今話しかけないで、調理の邪魔」
調理場から流れていたその音は、ナーマが調理している音だった。
「いや、俺が邪魔というなら側にいるマーナだっけ?その女の子はなんなんだ?」
俺は少しばかり調子に乗っていたとこの言葉を発した後に後悔した。
ナーマは調理をしながら俺に目だけを向けた。
「あとで外に出なさい。叩きのめしてあげるから。手加減はしない」
ナーマは額に青筋を浮かばせて真顔で言い放った。
「いや、お前相当にシスコ...」
「それ以上口出しするなら本気で殺す」
「はい、すみません」
ナーマは妹が本当に大好きなようだ。
...これ以上口出ししたら本気で殺されかねないのでこれ以上の言及はしないが。
「もうこの件はあとでじっくりあなたを叩きのめすとして、みんなを呼んできなさい。朝ごはんの支度ができた」
「いや、いつから俺はあんたのパシリに...」
「いいから行ってきなさい」
「...はい」
俺はこの人に逆らうことはできないと思う。
うん、多分仕事はきっちりこなす人だ。
俺はこの人が嫌いだ。
みんなはそれぞれ個室で過ごしているため、それぞれの部屋に呼びに行かなければならない。
ものすごくめんどくさい。
基本的にはみんな俺に対して敵意を持っていない(ナーマは対象外)ので、多分扉を開け次第攻撃とかはないだろう。
「あの、朝ごはんができたそうなので起きてください」
俺はまず、ガルムの部屋にコンコンとノックをして起こしに行った。
だが、返事がないので俺は恐る恐るドアを開けていく。
ドアを開けると、もう既にガルムは起きていて、ベットの端に座ってぼーっとしていた。
「あ?てめえ、なんで俺の部屋に来てんだよ」
ガルムは不機嫌を爆発させるように言い放った。
「いえ、あの、ナーマにパシられてみんなを呼んで来いと言われたので」
俺は事の経緯とそれについて思ったことを包み隠さずそのことを伝えると。
「はっ、あいつは本当にマーナのことが大好きだからな。マーナのことを少しでも否定するとブチギレるぞ」
ガルムはさも当たり前のように言った。
「それじゃ俺はもう行くわ。朝飯できたんだろ?」
そう言ってガルムは部屋を出て行ってリビングの方に歩いて行った。
次は...ジークだっけ?
「あの、朝ごはんできたんですけど」
俺は部屋をノックして、ドアが開いた。
「あ、ごめんごめん、今いくよ」
ジークは軽い口調で部屋から出るとリビングに歩いて行った。
ジークの隣の部屋からは、グランさんが出てきた。
「ふぉっふぉ、年寄りは寝起きが早いもんじゃよ。さてと、いくとするかの」
グランさんは少し体制が不安定だが、普通に歩いてリビングに向かった。
「あとは、えーっと?」
流石に女性の部屋に行くわけにはいかないので、ナーマに頼んで代わりに起こしてもらうことにした。
「あの、ナーマさん?流石に女性の部屋の場所に行くのはちょっと...」
俺はナーマに代わりに行くように頼んだ。
「それ以上言うならあとで外で殺してあげる」
返答がこれである。
俺は内心やけくそになりながら女性の部屋を訪ねて行った。
ちなみに、今まで他の人の部屋の場所がわかったのは、部屋の前に名札が書いてあったからだ、そりゃ嫌でもわかる。
とりあえずミリアと書かれた部屋をノックした。
「あのー、ミリアさん?朝ごはんの用意ができましたが...」
俺はノックして声をかけたが、静まり返って何も返事がこなかった。
流石に開けるのはまずいか?
後でまた来ることにしよう。
「あの、ベルナードさん?朝ごはんできましたよ。起きてください」
俺は次にベルナードの部屋の前に立ちノックをして声をかけた。
「はい、今行きます」
ベルナードは少し物音を立ててから部屋から出て来た。
下着姿で。
いや、なんで?!
「あの、ベルナードさん?その格好は...」
俺は戸惑ってベルナードから背を向けるが、ベルナードはまだ気づいていないみたいで。
「あ、朝ごはんね。行きましょう」
「いや、その、服きてください」
ベルナードがそのままの格好で朝食に向かおうとしたので俺はなんとか止めようとした。
だが、その選択は間違いだったのかもしれない。
「え?何のこ...と?」
ベルナードはやっと自分の姿を認識したらしい。
俺はため息をつきながらベルナードの方を振り返った。
振り返ってしまった。
「鉄•拳•制•裁!!!」
ベルナードは俺の顔面にストレートをぶっ放してきた。
とっさに避けようとしたが、ギリギリ間に合わなく顔面に直撃した。
「ん?朝から何を...、ってうわー!」
ベルナードに鉄拳を食らって倒れたところにミリアがちょうど俺のところに来て叫んだ。
「待って違うこれはゴハァ」
立ち上がって言い訳をしようとした瞬間に腹を思いっきり殴られた。
俺は腹を抑えてぐったりとする。
「全く、どう言う思考で女子の部屋の場所まで来るのか訳がわからないよ〜?」
ミリアはそう言って俺の首を掴んでそのまま朝食の場所まで運んだ。
いや、この人怪力?
「今失礼なこと考えたでしょ〜?」
「いえ、別に」
よく考えたらミリアの方が俺よりも身長が高いので、絵面的に問題には...いや、間違いなくシュールだなこれ。
とりあえず俺たちは全員席に着いて朝食をとった。
腹と顔が物凄く痛いけど。
朝食を食べて、俺はナーマに呼び出された。
俺は言われるがまま外へ出て、だだっ広い草原に出た。
「で、要件は何でしょう」
「あなたを張り倒す」
「えーっと、よく分からないんですけど」
「分からなくてもいい。あなたを張り倒す」
ナーマは真顔で俺のことを張り倒すとか言い出して、本当にやばい人かなとか思ってしまった。
「いや、張り倒すのは流石に勘弁...」
「それなら捻り潰す」
「え、それ何も変わらないんじゃ...」
俺がそこまで言った瞬間、腕に衝撃が走った。
「どう?関節が動かないでしょ」
ナーマがいつのまにか俺の腕を掴んで関節を曲げてはいけない方向に曲げようとしていた。
「あの、ちょっ、それはマズ...」
「これならどう?」
「イダダダダダダダダ」
俺の肩がバキバキ言ってる。
「それくらいでやめて起きなさいよ」
そこに割って入ったのは、昨日俺の血を吸った吸血族のグリーダ。
「言っておきますが、あなたの力ではナーマは逆立ちしても勝てないわよ?」
グリーダはそう言って不敵に笑う。
「いや、俺勝負なんか痛ダダダダ」
ちょっとナーマさん!関節ゴリゴリするのやめてください...。
「大丈夫よ、私の魔法であなたの傷はすぐに治るようになってるから」
グリーダはニッコリといたずらっぽく笑った。
「それなら、何も気にしなくてもいい」
そう言ってナーマは俺の腕を思いっきり曲げた。
曲がってはいけない方向に。
その時、拠点の中で断末魔が聞こえたことが静かに噂となった。(俺の悲鳴)