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支配者の未熟者  作者: まっつん
人間世界調査編
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二章七話

リアナを連れて大衆浴場にたどり着き、職員の人にお金を渡し(王族金貨を渡したことによって一悶着あったが今は置いておく)、リアナを風呂に送り出して、外のベンチに座って一息ついていた。


「あとは職員の人がうまくやってくれる...かな。さてと、適当に宿でもとるか」


ここは、リルグ子爵家という貴族の領地内で、俺の実家とは結構距離の離れている場所だった。


実家帰りなんて一瞬考えたが前に家族の記憶から俺の存在を消したと言われたのを思い出したので意味がないと思いもう諦めた。


正直もうそこらへんは割り切っているのでもはやどうでもいいとさえ思ってしまう。


家族に忘れられるって地味にやばいことだがこの際もう仕方がない。


時間も有り余っているので、グリーダに渡されていたバックの中身を確認する。


中には、帰還用の魔道具、金、着替えがいくつか、あとは日用品として最低限必要なものが数個入っていた。


「資金的に余裕はあるか。リアナを養えるだけのお金もあるし今後も大丈夫そうだな」


俺はバックに持ち物を戻すと、しばらく暇なので周りの景色を見ながらぼーっとしていた。


家は大体れんが造りで色鮮やかな服を着た人が比較的多い。


廃れていないところを見ると治安は良さそうで、道行く人は皆顔が明るかった。


「多分時間的にも今宿をとりにいけるかな。さっさと終わらせるか」


ベンチを立ち上がり、そのまま宿を探しに行こうと歩き出した。


街には出店が立ち並び、道行く人がそれを見て買ったり話したり活気が伝わってきてなんとも言えない心地よさがあった。


程よい風が頬を掠め、色々な人の話を通りすがりに聞いていく。


どれも、不満などではなく幸せを感じて生活している人が多かった。


だが、俺の心には何か靄がかかったかのように納得できない自分がいた。


リアナ、彼は貧民街でその日を暮らすだけでも大変だと思う。


不公平、不平等、完全に取り除くことができないなんてとうにわかっていたことだったがこうして実際に見てしまうと仕方ないと割り切ることさえできなくなりそうだった。


それでも、俺にはどうすることもできない。


俺は、あくまで罪人を罰するのが仕事だから。


その後、近場の宿でチェックインしてからもう一度大衆浴場に様子を見に行った。


「あ、戻りましたか。まさかお風呂に入れるなんて思ってもいなかったです。今日はありがとうございました」


リアナは風呂上がりに若干火照った体で満面の笑みでお礼をした。


「まあな、体洗ってもらわないと俺が困るからな。リアナは何日も風呂入ってなかっただろ?」


風呂に入る前にこっそり確認したが、手足が薄汚れていたし、臭いも結構あった。


「は、はい。お恥ずかしながら。家から追い出されていくあてもなくこの貴族領に迷い込んで、私の元いた場所では黒髪はすごく嫌われていたので」


やっぱりそうか。


黒髪を嫌う人は少なからずいる。


理由は簡単、かつての種族対戦を終わらせたのが黒髪の男、ザヴァゴだからだ。


俺の髪は黒というか茶髪なので全然そういうのはなかったし、俺の周りにも黒髪を嫌う人はそこまでいなかった。


では、何故か。


それは、戦争を終わらせた方法が問題だった。


戦争を終わらせるために何万人もの人を殺し、他の種族も同様に敵意のあるものから片っ端から殺して行った。


そして、戦いを鎮圧した末に世界を五つに分断し、平穏を築いた。


よく言えば戦争を終わらせた英雄、悪く言えば大量虐殺を当たり前のようにする狂人。


現在では統治する貴族によって認識が大きく変わっていて貴族領内での黒髪への考え方も大きく違う。


場合によっては、ザヴァゴのことを崇拝する勢いの派閥も存在しているらしい。


「それならここで正解だったみたいだな。見た所黒髪に対しての差別は見当たらないし、さっきもそこまで嫌な対応はされてなかったからな」


「は、はい。その...前とは全然違う雰囲気の街ですけど、みんないい人ですし私に対して差別的なことは言ってきませんでした」


リアナは俺と会った直後よりは笑顔の質が良くなったように見えた。


「よかったな。あと、もう宿はとってあるから今から行くけど、今から他に行きたいところあるか?」


リアナに聞くとリアナは首を横に振ったのを確認して二人で宿に向かった。


宿の作りは簡単で、二人用の部屋を頼んだだけあってそこそこ広い。


ベットが二つに収納用のタンス、事情を宿の職員の人に話したら着替え用の仕切りまで貸してもらえた。


着替えるときはこれを使えば大丈夫だろう。


「わぁ〜!ベットで寝れるなんて感激です」


「大袈裟だな...。リアナにとってはそうでもないのか」


まともな暮らしができなかったリアナにとって、ベットなんて夢のまた夢だったのだろう。


「宿は確保できたし、リアナの日用品を買うついでにこの街の構造なんかも見ておくか」


「あ、はい。何から何までありがとうございます」


リアナはペコペコと頭を下げて礼を言った。


「あと、あなたの名前を聞いていませんでした。お聞きしてもいいでしょうか?」


「ああ、そう言えば言ってなかったな。俺は...」


ザイン、と言いそうになったがグリーダから偽名を使うように言われていたのを思い出した。


「ギルグ。俺の名前はギルグだ」


ギルグは今適当に思いついた名前だが、リアナは納得している様子だった。


「それじゃ、必要な物買いに行くぞ」


「わかりました」


宿に必要のない荷物を置いてから再び外に出て大型市場に向かった。


大型市場には沢山の商人がいつも商売をしているので色々なものがある。


それに、帝国の外から商人が渡ってくることも珍しくないのでこの国では手に入らないものを探すのにも都合がいい。


とは言ってもそこまで珍しいものを買いに行くわけではないので今はそんなことはいい。


市場についた俺たちはとりあえず服やタオルなどを買いに行くために布製品の場所を見に行った。


「リアナ、服を適当に選んでおいてくれ」


リアナを服が売っている場所でそう言って選ばせている間に俺は市場をでて人気のない路地裏まで歩いて行った。


「魔力丸出しでよく俺に近づくよな。流石に五年も特訓してたら嫌でも気づくぞ」


俺は一瞬で数十個の剣を浮かばせて魔力の出元を睨んだ。


ガラクタ置き場のように古い物が積まれて人が隠れるには十分な大きさがある。


「やれやれ、ただの坊主かと思ったら案外そうでもないようだ。やれやれ、気づかれず暗殺しようと思ったのに」


俺の前に現れたのは紫色の髪を短く切った顔立ちの整っている青年だった。


一見ただの青年だが、その内に秘めている魔力は《十ノ頂》を退けるかもしれないほどだった。


「へえ、俺を暗殺...か。そんなに魔力放出してよく言うよな」


「まあね、これでも平気だと思ったんだけどね。少し調子に乗ってたかな」


男は飄々とした態度でありながら全く隙がない、と言うよりかは常時臨戦状態で高密度の魔力をまとっている。


「《十ノ頂》なんてたいそうなこと呼ばれてるけど、実際大したことないのかもね。君は技術的には私よりも下だ」


「何だと?」


この青年は俺とは一度も戦ったこともないしあったこともない。


当てずっぽうや挑発の意味だけで言っているとも思えない。


「どうしてそう言える?」


「簡単さ。私は君たちの情報は何から何まで入手済みだ。だから上は全員のところに刺客を送ったし、君のところには私が送られてきた。君が《十ノ頂》最弱だと言うのも含めて...ね」


「...どこまで知ってるのか、なんて聞いても意味ないか」


この男は今、何から何まで知っていると言った、ならばマーナの事も知っているのだろう。


そして、奴の言う通り俺よりも技術的にも経験的にも奴の方が強いのは明白か。


さて、どうするか。


「街を巻き込みたくないんだがな」


「そうかそうか。なら、死ね」


青年はどこからかナイフを取り出し高速で投擲した。


俺は空中待機していた剣をナイフにぶつけて相殺したが、その隙に接近されて腹に拳が入る。


「ふむ、確かに殴ったはずなんだけどね」


「そっちの力が弱かったんじゃねえのか?」


実は、殴られた時に服の内側をオリハルコンでコーティングしていた。


今はもう元に戻っており、緊急用に作った魔法だ。


「どんな原理か知らないけど、要は粉々にすれば変わらないよね」


「どうだかな」


俺は空中に待機させている剣を一斉に射出し、さらに追加で製作、連射して隙を作らないように撃ち続けた。


「これで死ぬなら苦労はない...か」


「その通りだね」


「うお!?後ろか!」


あっぶね、あとちょっと遅かったらナイフで終わってた。


とは言っても肩にナイフが刺さって超痛いし、無理な体勢で躱したから尚更だ。


しかし、これで確信した。


相手は魔法はそこまで得意ではなく、身体能力や暗殺技術に特化した生粋の暗殺者。


魔法はおそらく身体強化、魔力は多いが出力はそこまで高くないので単純な身体能力なら素の状態のミリアくらいだろう。


ジークよりは早くないのが救いではあるが、技術面では恐らく相当なもの。


一般人や魔物を狩っている人であっても暗殺は造作もない事だろう。


だが、解決策はある。


それでも、奴がわざと姿を見せたのは何故なのかわからないが、そのおかげで何とか勝てそうだ。


俺は地面に魔力を送り込んだ。


「結局は最弱の俺を相手にして嘲笑いたいだけなんだろ?いたぶって自分の強さを誇示して、そんなんじゃ俺以外の誰にも勝てねえな」


「...へえ、君の仲間はそこまで強いのか。またのタイミングがあれば是非殺したい。だがまずは君を殺すのが先だが」


「殺す殺すって、身体能力と暗殺技術が高くても姿が見えてる相手にそう簡単に殺されるほど俺も弱くねえよ」


もちろん、この話は時間稼ぎのためだ。


そして、相手を挑発するように言って感情を高ぶらせる。


俺の技が決まりやすいように。


さっきの剣の乱射によってすでに路地裏が大変なことになっているのでこれ以上の被害は避けたい。


だからさっきまでは相当抑えて魔法を放っていたので、このままでは拉致があかない。


だから、場所を変える。


「なら、見せてあげよう。これが私の力だ」


奴の魔力が一気に高まり身体能力が何倍にも膨れ上がった。


音のせいで誰かが来るのはまずいか、早く終わらせないといけないな。


「やるしかないか」


「何をだい?」


そう言うと青年は大きく踏み込んで今にも走り出そうとした。


だが次の瞬間、奴は地面に飲み込まれた。


正確に言えば踏み込んだ瞬間に地面が割れて大穴が出来て落ちていった。


「んな!?」


「地上じゃ手加減しなきゃいけないからな」


グリーダと戦った時のようにミスリルの翼を作り出し空を飛び、青年を見下ろす。


もちろんそのまま見下ろすつもりもなく、無数の剣をさっきよりも圧倒的な数生成して全方位に待機させる。


そしてそのまま射出し、剣が全て穴の中に入ったのを確認すると穴を改変魔法によって塞ぐ。


...これで死んだとはつゆほども思っていないが、流石に手傷を負って諦めるほどにはなっていてほしいと思う。


<><><>


人間界、裏の理。


「まさか、ここまで落とされるなんて思っても見なかった。正直予想以上だね」


青年は傷だらけの体を起こしてあたりを見渡すと周りには陽の光がないにもかかわらず光り輝いていた。


「でも、一応目的は達成した」


青年は、ザインの血が付着したナイフを握りしめた。

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