二章三話
「まずはどうしましょうかね」
長い黒髪が風に吹かれてさらさらとはためかせ、黒を基調とした飾りの少ないワンピースを着ていて、まるでどこかの令嬢のような格好のベルナードが妖精世界に降り立った。
「金銭問題はまずまずね。ある程度の金額はグリーダからもらってるから大丈夫そうね。調査に関しては時間がかかりそうだから...今はそこまで焦って何かすることはないわね」
ベルナードは魔物をそこまで狩るつもりはないためある程度の金額はグリーダから支給されていた。
「先に宿を取るのが先決ね。調査に関しては焦らずにやっていけばどうにかなる...とはいかないかもしれないけれど今はそこまで手をつけなくてもいいか」
ベルナードは妖精世界の地理についてはよくわからないのでとりあえず情報集めから始め宿の場所やあらゆる施設の場所なんかも頭の中に叩き込んだ。
その際、怪しい情報なども聴き込んだが有力な情報は聴き込むことができなかった。
「はあ、今日のところはこんなところね。さて、みんなはどうしてるか...」
宿に戻ったベルナードは、グリーダに頼んで前々からある魔道具の製作を頼んでいた。
「遠隔録画装置なんてあまり良いことじゃないけど、この際仕方ないわよね」
ベルナードが隠蔽魔法を解除してその場に現れたのは大きなバッグで、中には色々な魔道具が入っている。
「やっぱり私は情報は大事にしようと思うのよね」
独り言を呟きながらモニターのようなものを取り出し、魔力を込める。
「ええと、ザインは...何やら凄い落し物ね。女の子を拾うって...ミリアとジェノは相変わらずね。ガルムにグランはもう魔物と戦ってる...もう何やってるのよあの二人は...はあ、で、グリーダとジークはもう合流してるみたいね。それならそれでいいか」
ベルナードはみんなの様子を一通り確認した後、ついでにナーマとマーナの様子を確認しようと録画を切り替えた。
「な?!こ、これって」
そこには、おびただしい数の魔物に先頭には細身でいやらしい笑みを浮かべている男が歩いていた。
「まさか、こうなることをわかってて...今すぐみんなと...」
ベルナードはすぐにバッグから帰還用の魔道具を取り出し起動した。
「きゃ?!」
魔道具は突然激しい光を放ち、転移を拒絶するようにベルナードに激しい痛みを与えた。
「こ、これは...ジャミング?」
ベルナードは帰還用の魔道具をバッグに戻してこれからどうするか考えた。
「ナーマとマーナが無事ならいいけど...」
ベルナードがナーマとマーナを心配して考えを巡らせている時、遠くから轟音が鳴り響いた。
「なんで...全ては仕組まれていたのね」
ベルナードはあることを悟りそのまま外へ歩いて行った。
「いいわ、今は手のひらで踊ってあげるわよ」
ベルナードはそう言って町外れの平原まで走り出した。
町の外にある広い草原に緩やかな丘。
穏やかな風が吹き、妖精族の憩いの場として使われていた場所でもある。
「ふん、《十ノ頂》...私の目的のため、ここで果ててもらおう」
一人の男のそばに控えている女。
「私はね。あなたに協力するのはあくまでヴェンサー様のため。あなたの目的なんてどうでもいいの。それと、私の邪魔だけはしないで」
女は少々トゲのある言い方で男に忠告していた。
「いやはや、それはすみませんね。私はそこまで信用なりませんか」
「ええ、とっても」
女はそれ以上何も言うまいと前に手を突き出すと、平原に何十という魔法陣が刻まれた。
そして、すぐに魔法陣は消え何もなかったかのように元のままだった。
「へぇ。随分と面倒くさい小細工ね」
「ようやく到着ですか。遅かったですね」
「ふぅん。今日の獲物は《麗皇》...か。まあ、初回にしてはいい方じゃない?」
男と女はベルナードを値踏みするように睨むと、そのまま話し始めた。
「あなたたちに構っている時間はないけど、どうせ放っておいたら街でも破壊するんじゃないかしら?」
「いやいや、そんなことはしませんよ。ただ...街にいる妖精族はどうなるかわかりませんけどね」
「...そう。なら」
ベルナードは少し腰を低く片足を後ろに下ろして、まるで突進するかのような体制に入った。
「少々手荒だけどせいぜい死なないで」
ベルナードは、自身にかけた隠蔽魔法を解除した。
「な?!その、姿は...」
男と女二人ともベルナードの本当の姿を見て驚愕していた。
狼を思わせる獣のような耳に尻尾。
銀色の瞳に白い髪。
「私は本当に時間がないのよ」
ベルナードは駆け出した。
目視できないほどの速度で真っ直ぐに。
だがそれは、奴らの思い通りの展開だった。
「エレメンタリアトラップ、起動」
女はそう言うと周りからベルナードに向かって鎖が追尾するように伸びた。
「たしかに凄いトラップね、けど。私には届かない」
その鎖は、ベルナードに巻きつき絶対に離すことのないよう拘束した。
バギィィィィン!
鎖が甲高い音を上げて砕け散った。
「言ったでしょう?時間がないのよ」
男と女はベルナードが目の前に来た時反応できなかった。
気づけば吹き飛ばされ、空中に放り出されていた。
「くぅ。エレメンタリアトラップ、第二陣起動」
「あら、それなら私も」
女は空中に放り投げられながらもトラップを起動して牽制しようとしたが、それよりも先にベルナードが魔法を起動させていた。
周りには色とりどりの魔力弾がいつの間にか現れて二人を包囲する形になっていた。
空中で避けられるはずもなく、ただこの身が崩壊するのを待つしかなかった。
「な、なんだと...。この、私が?」
「あなたたちは《十ノ頂》を舐めすぎよ。少しは悔いなさい」
そして、魔力弾が次々と二人を貫いていった。
「ふう、これでやっと...」
「まだ終わるわけない」
ベルナードがナーマとマーナのところに戻る手段を探りに行こうとこの場を後にしようとしたその時、次々と魔法陣が地面から浮かび上がりベルナードは何かを察知して飛び退いた。
その瞬間、ベルナードのいた場所は爆発してその爆発した場所は焦げてその威力を物語っていた。
「調子に乗りすぎよ。何様のつもり?」
「私は調子に乗ってないよ。まああいつは調子に乗ってたかもだけど」
男はそのまま力尽きたように横たわっていたが、女の方は傷はすでになくなり何事もなかったように立ち上がった。
「一応聞くけど、あなたの目的は?」
「そうね。時間稼ぎとでもいっておく」
「それはそうっぽいわね。それじゃあ...慈悲も容赦もなく叩き潰すわ」
「うん、私は死にたくないから死にそうになったら逃げるけど」
女は空中に飛び上がり手のひらから何か光の粒のようなものが空中に散りばめられていたのをベルナードは見逃さなかった。
「悪いけど、もう小細工はうんざりよ」
ベルナードは空中に散りばめられたものは粉状の魔力だと気づき...。
「え?」
そのまま全て残さず消しとばした。
「ふう、単純な魔力の衝撃波だけどあれだけ細かいものなら吹き飛ばすのは造作もないわ」
「う...嘘、砂状炸裂魔力弾が全て...」
「それじゃあ...死んで」
ベルナードは獣のような爪をその手に形成して女の首を切り落とした。
「加減なんてしてられないわね...」
ベルナードは帰還用の魔道具が起動できるのを確認すると、そのまま魔道具を起動した。




