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支配者の未熟者  作者: まっつん
入団編
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一章二十一話《紅の戦争》

「さてと、準備できたかしら?」


「ああ、だいたい持っていくものは揃ったぞ。あとは転移で人間世界に行くだけだ」


ついに、俺が人間世界に遠征に行く日がやってきた。


かと言って別にそこまで緊張しているわけでもないし不安要素はあるがそこまで気に止めるようなこともあんまりない。


要は、少し長めの旅行と考えればそこまで気が重くならずに済むのだ。


もう、俺はみんなに毒されているのかもしれない。


現在、グリーダに最後の確認として荷物の確認を手伝ってもらっている。


...本当に旅行気分だな。


「で?行く時間はどうしたいのかしら?」


「うーん、今から行ってもいいけどどうせなら今日もいつもの特訓してから行くか」


荷物の確認も終わったことだし、最後にいつもの特訓をして少し名残惜しいが人間世界でしばらく調査に浸るとしますか。


俺がそう心に決めたところでグリーダからありえない申し出があった。


「もうしばらくは会えないものね。今日くらいは私も特訓に付き合ってあげましょうか?」


グリーダはいたずらっぽく笑いながらしばらくは会えないと言う部分を強調して俺に提案してきた。


「なんか嫌な予感がするな。まあ、グリーダはいつも暇な時は地下室に引きこもってばっかで戦ってるところなんて見たこともなかったからな。お願いするよ」


「そう。嫌な予感がするってところは少し失礼だと思ったけれどまあ良いわ。それじゃあ外に出ましょう」


グリーダに連れられて外に出た俺とグリーダは少し距離をとって向かい合った。


「あの、最初から疑問に思ってたんだが...」


さっきまではギリギリ我慢してたがもうこれは我慢できない。


「ギャラリー多くないか?!」


「良いじゃねえかよ。減るもんでもねえんだしよお。第一俺たちだってグリーダの戦いなんて久しぶりなんだぜ?」


「そうなんだよ〜。グリーダちゃんいっつも地下室にいて遊んでくれないんだ〜」


ガルムとミリアが抗議しながらグリーダに向かってため息をつく。


他のメンバーは黙って頷いていた。


満場一致でグリーダが引きこもり扱いされていたのは少し意外だったが。


「ザイン、ギャラリーに気をとられる前に私との特訓に集中しなさい」


「あ、はい」


もう、諦めた。


「それじゃあ、まずは...っな?!」


視界にさっきまで普通に写っていたグリーダがいきなり消えた。


「撃つ魔法なんて一瞬で決めなきゃ負けるわよ?成長してるのかしら?」


「くっ?!」


後ろから声が聞こえて聞こえた方に改変魔法により作ったいつものオリハルコンの刃を発射する。


バギィ!


「グッ...ウウ。痛ッテエ」


全方位に隙間なく刃を飛ばしたにもかかわらず、それを簡単に全て躱し勢いの乗った拳が肩に撃ち込まれる。


「どう?女の子に殴られた気分は」


「どうって、もともとグリーダは女の子とか言える歳じゃないだろ」


「それもそうね。それじゃあこの質問は無粋だったかしら?」


グリーダはそう言ってまたしても俺の方に向かってきた。


「痛っ、ああクソが!」


遠距離で飛び道具を飛ばしたところで簡単に弾かれ避けられ...どう考えても回避不可能な軌道の場合被弾しても即再生。


全く持って鬼畜だ。


紅い魔力が視認できるほどに圧縮され拳に秘め、俺に衝撃が伝わる。


「ゲホッ、ゴホッ、魔拳なんてアリかよ」


「戦いにアリもナシもないわ。これは模擬戦だけどなんでもありの真剣勝負」


グリーダは再度突撃してきた。


だが、数分間見てるとギリギリ目で追えるようにはなってきた。


「そこだ!」


俺はグリーダが方向転換した直後に刃を発射し、刃はグリーダに高速で迫っていた。


「よし!」


グリーダの腕に刃が命中しグリーダが地面を勢い余って転がったも受け身を取り難なく立ち上がる。


「どうやら、成長はしているようね。ここにきた当初はこれで余裕でお陀仏だったのに。残念ね」


「いや、そこ残念がるとこなのか」


俺はそう言いつつも、次の攻撃に備え地中に大量の刃を待機させていた。


もし、いきなり動くようなことがあれば、剣山にするような勢いで地中から刃が溢れるだろう。


「ふふ、それなら...」


さっきからあいかわらずの余裕の表情で腕に刺さった刃を抜き一瞬で再生した腕を確認し少し動かしてからもう一度こっちに向き直った。


「少し本気を出しましょうか」


「あ〜あ、グリーダちゃんやっちゃった」


「こりゃあやべえな、死ぬことは無いだろうが、ここまでテンション上がってるグリーダを見るのはいつ以来だ?」


ザインとグリーダが戦っている一方でミリアとガルムが二人の戦いを見ながら雑談していた。


「本当にね〜。私達とはあんまり模擬戦とかしないけど、本当はやりたくてうずうずしてたんじゃないの〜?」


ミリアがそう言った瞬間、空気を揺らすほどの衝撃がミリアとガルムの二人にまで届いた。


「血の舞姫ブラッディメアリー


「グリーダちゃんのあの姿久しぶりだなー。私もこの姿のグリーダちゃんに一回やられたんだっけね。えへへ」


ガルムが奥歯を噛み締めながらグリーダの過去に呼ばれていた二つ名を言い、ミリアはそれに感慨深そうに過去をしみじみと思い出していた。


「前言撤回だ。あいつ、死んだな」


「そうだね〜。生きてたら後で褒めてあげようかな〜なんてね」


一方、ザインとグリーダの方は...。


いや、死ぬ死ぬ。


可視化できるほどの濃密な魔力が辺りを覆い尽くし、夜のように暗くなった。


そして、真っ赤な月。


「初めて見たよ。グリーダの本性」


「そう、もうこの時点でわかると思うけど、さっきと同じだと思っているなら...本気で死ぬわよ?」


グリーダの目は紅く染まり腕から先は巨大な爪のようなものが形成されていた。


「善処はするよ。ただ、手加減ないなら多分こりゃあ死んだも同然だな」


むしろ、手加減があっても俺は勝てる気がしないし、本気でやられようものならコンマ一秒もかからずに死ぬだろうな。


「そう、なら」


グリーダの周りに複数の赤い血のような球体がふわふわと浮いている。


「せいぜい死なないで頂戴」


「うおっと?!」


グリーダの言葉と同時に赤い球体全てから光線のようなものが俺めがけて迫ってきた。


それをギリギリでかわすも、グリーダ自身が身体中に魔力をまとって拳撃を打ち込んでくる。


その度に体の所々に切り傷を負い回復してまた傷を負うという風に繰り返していた。


(このままじゃ...!)


俺はそう思い前々から編み出していた一つの技を試す。


(物質変化:ミスリル、形質変化:粉状、浮遊、連結、遠隔操作、硬質化、加速付与)


そして、改変魔法によって作り出した粒子の様なミスリルを魔力操作の要領で背中に連結させる。


そして、付与した連結の効果で服にミスリルがくっ付いた。


ついでに服と体を魔力で連結、連動して擬似神経を確立、痛覚はないが羽を体の延長戦のように扱うことを可能にする。


「いきなり何をしたかと思えば...。羽なんて何の役に立つのよ」


グリーダはそう言って少し呆れている。


「一応、飛ぶためだ」


こんなこと言っている場合ではなく絶賛戦っている最中だ。


俺のしたことに動揺して一瞬攻撃の手を緩めたのでその隙に翼を展開した。


飛べればいいが...。


グリーダの拳が俺の目前に迫ってきたあたりでミスリルの翼に魔力を送り込み浮遊が起動された。


連結の効果は、何も張り付いただけではない。


結論から言ってしまえば、連結したすべてのものに付与効果が適応される。


つまり、今の状態は翼にぶら下がっているだけという状況は心配しなくていい。


そんなことになれば普通に痛いししんどい。


なぜ、オリハルコンではなくミスリルにしたのかというと、オリハルコンよりもミスリルの方が魔力を通しやすいので付与が容易なのだ。


ミスリルの翼によってだいぶ上に登ったが、全然赤い月が戻らない。


「範囲とかは決められてないのか?」


「そうね、これくらい飛んだだけじゃ範囲の外には出られないわよ?」


上空に飛んで範囲の外に出ることができないことを確認したところで、後ろから声が聞こえた。


「上空にまで追ってくるって、本当に化け物だな...グリーダ」


「そう?私にとって化け物は褒め言葉よ」


「褒めたつもりはないんだが」


俺は羽を少し切り離し形を整えた。


短剣くらいの刃物が空中にいくつも浮遊しその全てがグリーダに剣先を向けている。


「これじゃ効きもしないだろうがな」


「まあやってみなさい。効くかどうかはもうわかってるでしょうけど」


そういうとグリーダは巨大な鉤爪の付いた腕を振り上げ構える。


「さあ、第二ラウンドだ」

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