一章二話《自己紹介》
「...なんだ、これ?」
身体中に蝕まれるような激痛が走り、草原に俺は倒れて、起き上がれないほどだった。
今にも意識が無くなりそうで、視覚は機能していて、ベルナードの顔がギリギリ確認できた。
さっきの男はベルナードの隣で少し苦笑いをしていて、なにやらベルナードと話をしていた。
「あー、こいつ運ぶの俺なのかよ。辛くはないがめんどくせぇな」
「ぐちぐち言わないで運んで頂戴。私はこの子の魔力を見込んで育てるって決めたのよ。とりあえず適当な空き部屋のベッドにでも運んで起きなさい」
「ったく、魔力暴走印なんて設置したらグリーダがなんていうかわかったもんじゃねえがな」
「ん?...うーん」
俺が目を覚ますと、誰かの私室のようなところにいた。
机に椅子に俺が今寝ているベッド。
生活感は今は使われていないのかあまり感じないが、確かに家具はある程度揃っている。
「ここは...?」
「やっと起きましたかお騒がせ野郎」
そんなバカにしたような呼び方をされて声がした方に振り返って見ると、無表情の白銀の髪を腰まで下ろした少女が立っていた。
「初対面の相手にそれはないだろ」
俺はそう言ったが、その少女は華麗に無視して、机の上に何かを置いて部屋を出て行ってしまった。
「あいつ、一体誰なんだ?」
俺はそんなことより、机にあるものを確認しようとベッドから出て机に歩いて行った。
立ち上がった時に、ふらついて倒れそうになったが、なんとか歩けるようだ。
机の方に歩いて行ってそれを確認した。
お椀?
俺はそれを見た瞬間、俺の中でのあの少女の評価が一段階上がった。
お椀の中には琥珀色のスープが入っており、具も野菜がメインで入っている。
そして、次に目に入ったものは、一枚の紙だった。
それにはこう書かれていた。
{それを食べたら部屋から出てみんなに挨拶すること}
うん、あの女の子は滅茶苦茶いい人だった。
俺は、スープを一口飲んだ。
うん、予想よりもはるかに美味い。
俺は即効でスープを飲み干して、部屋を出た。
俺の部屋は二階にあったらしく、俺の部屋の真ん前に下に降りる階段があった。
俺は、お椀を持って階段を降りて行った。
階段を降りると、大きめなリビングにつながっていて、そこにキッチンがつながっているタイプだ。
ちなみにこの家?は中は木材が中心で外から見れば石の神殿のように見える。
っていうか、なんかリビングに勢ぞろいしているんですが...。
「えーっと、皆さんは...」
俺は、戸惑ってしどろもどろに話し始めようとしたが、じっとみんなに見られているのでなかなか言葉が続かない。
前にあったのはあの男とベルナードさんだけ。
あとは本当に初対面なので、緊張しないわけがない。
むしろ、こんな世界の管理者のような存在が勢ぞろいしていて平静を保っている方がおかしい。
「おいおい、そこまで緊張されるとこっちまで居心地悪くなるからよ、少し落ち着け」
前にあったことのある男(この際ヤンキー男とでもいうべきか)が話しかけて来た。
「うん、あなたはここに初めて来たからわかんないかも知んないけどね〜、私たちって結構適当だから、別にそんなに固くならなくても良いよ〜」
俺より少し背が高いだろうか、少しフリフリがついた白を基調とした服を着ていて、金髪を肩くらいまでで切りそろえている女性がそう言った。
見た目は俺くらいの年頃で、まだ若干の幼さが残る印象だ。
「あなたはやんちゃ坊主なくらいがちょうど良い」
おい、さっきのスープ渡して来た女の子がまた俺に悪口言って来たんだが?
「あの、それならまずは自己紹介とかしたいんですけど。皆さんのことわかりませんし」
俺は、緊張で心臓が今にも止まるかと思っているが、なんとか話すことはできる状況なのでとりあえず自己紹介をするように促す。
「そうね、それは賛成よ。私たちもあなたのことを知らなければ色々と不便だし。まあ、あなたも私達のことを知ってもらう必要もあるものね」
ベルナードが、自己紹介をすることに対して賛成なようだ。
他の人も異論はないみたいで、とりあえずは自己紹介をする流れになっている。
自己紹介をするということなので、俺は一旦手に持っていたお椀をそこら辺の机に置いておいた。
「じゃあ、私はもう名乗ったから、他の人からでお願いね」
ベルナードさんがそう言って他の人に目配せをして、さっき?じゃなくてもう結構時間経ってるのか?に力試しを要求して来た男が一歩前に出た。
「おう、俺は《焔皇》のガルムだ。俺の種族は堕天族だ。よろしくな」
ガルムと名乗ったヤンキー男は俺に手を差し出して来たので、恐る恐る俺は手を握った。
「次は私ね〜、私は《龍皇》のミリアよ。ガルムと同じで私も堕天族だからね〜。基本的にミリアって呼んでいいよ。これからよろしくね〜」
次に名乗りを上げたのは、さっきの金髪を肩で切りそろえている女性だった。
ものっすごいハイテンションだった。
「次は僕だね。僕は《剣皇》であるジークだよ。僕のことはジークって呼んでくれればいいよ。これからよろしくね」
ジークと名乗った少年は青い髪に、髪と同じく青い瞳を持ち、軽い服装で見た目は十歳よりも少し上くらいに見える。
どれだけ子供っぽいとはいえ、この世界の管理者だ。
実力は多分俺よりも圧倒的に強いのは確実だろう。
「次は私。私は《刻皇》のナーマ。基本的にここの拠点で炊事の担当をしている。さっきのスープは私が作った。感謝しなさい脳内単細胞」
おい、こいつまた俺に悪口言って来たぞ。
ナーマと名乗った少女は、俺に対してさっきから悪口しか言って来ないんだが...。
あれ?なんか、ナーマの後ろに隠れるようにして誰かが引っ付いてる。
「こら、マーナ自己紹介しなさい」
ナーマは、相変わらず無表情のまま、後ろに引っ付いてる人に声をかけた。
「やだ!だってそこの人すごく怖い」
そう言ってマーナと呼ばれた女の子は俺を指差して不安を爆発させるようにそう言った。
おい、俺怖いとか言われたぞ。
周りにいる人の方がよっぽど怖いわ。
「大丈夫。このチンチクリンは私よりも弱い」
ナーマはナーマでまた俺を馬鹿にするし。
「あの、俺ってそんなに怖いですか?」
俺は試しにベルナードに聞いて見た。
「そうね、あなたが怖いというよりは、マーナは警戒心が強すぎるのよ。あの子は初めて見るもの全てに恐怖心を抱いちゃうのよ」
ベルナードは若干呆れているが、周りの人はさもそれが当たり前のように見ている。
「なあマーナ。あいつは別に悪いやつじゃねえよ。お前に対しても別に危害を加えようとはしねえと思うしな」
ガルムは、マーナをなだめようと声をかける。
ガルムは、マーナとは多分結構長い時間一緒に過ごしてるので、見た目がヤンキーでも警戒心はある程度取れているのだろう。
「でも、初めて会う人とどんな風に話していいかわかんないです」
マーナは、ナーマの背中から少しだけ顔を出して、こちらをじっと見て来た。
その顔はとても不安そうで、ナーマとは違い髪の色は翡翠色で、黄金色の瞳からは少し涙目になっていた。
いつのまにか、ナーマの目からは殺意があふれていた。
これ、今日で俺は死ぬんじゃなかろうか。
その時、覚悟を決したのかマーナはナーマの背中から離れてナーマの横に立った。
「えっと、私は《界皇》のマーナでしゅ」
(あ、噛んだ)
周りの人の思考が一瞬だけ一致した。
マーナはもじもじしながら恥ずかしそうにナーマの後ろにまた隠れてしまった。
「ふぉっほぉ、次はわしが自己紹介をしますかのぅ」
次に声を上げた者は、白髪にローブを着ている男性の老人だった。
だが、その威圧感に俺は一瞬固まってしまうほどに、この人は強いと察することができる。
「わしは《風皇》のグランという者じゃ。大規模の戦闘なんかじゃ基本的に作戦の立案をしておったりするもんじゃ。お主をここに呼んだのもわしじゃよ」
グランと名乗る老人はなんと、俺を呼んだ張本人だという。
別にそれについてはもういいが、まさかこの人がと思うと心底意外だと思う。
「では、次は私が」
そう言って俺の方に近づいて来たのは紅い髪に濁った灰色の瞳の女の子だった。
その子は俺の目の前まで近づいてきて、俺の手をおもむろに握り始めた。
なんだか雲行きが怪しくなったところで俺の体に異変が起きたことに気がついた。
いきなりの身体の脱力感。
それに伴い立つことすらできなくなった俺は、その場で崩れ落ち、床に手をついて、今にも思考が途切れそうな状態の脳をフル稼働させている。
「何を...した?」
俺は今にも倒れそうなのを必死にこらえて、その質問を残った力を振り絞って吐き出した。
「ふふ、私は《魔皇》のグリーダというの。あなたの体にある魔法をかけたわ。それと、あなたの血を少し分けてもらったのよ」
「なるほど、あなたは堕天族の中でも特に強力と言われる...”吸血族”」
吸血族とは、太陽光を極端に嫌い、身体能力に長けた存在。
1番の特徴は、他人の血を吸い生活する。
詳しくは、他人の血液から魔力を抽出して自身に取り込むということをしている。
これは、昔本で読んだことがあった本の情報だ。
「あら?意外と物知りね。大丈夫、別にあなたに害意があるわけではないの。これはあなたが《十ノ頂》になるために必要なこと。少しの我慢よ。明日になれば元どおりになってるはずよ」
「...そうか...ならいい」
グリーダと名乗る女の子との話は数秒の出来事だったが、話している間にギリギリ歩けるようにはなっていた。
「じゃあ、俺はさっきの部屋に戻って少し休みますね」
俺はそう言って前いた部屋に戻っていった。
(そういえばあと一人が見当たらなかったけどどこかに行ったのだろうか)
俺は、一つだけ気になることがあったが、そのまま部屋に戻ることにした。