一章十八話《緊張走る遠征会議》
「それじゃ、誰がどの種族の世界に行くか決めて頂戴。ただし、別の種族の世界に行く場合は絶対にバレないようにしなさい」
リビングにまた集められたマーナと神世界に行ったジークを除く俺とガルムとミリアとナーマとベルナードとジェノとグランにグリーダは話し始めた。
「いきなりか...」
「何か文句でも?」
「いや、別にねえよ」
ガルムが何か言いたげだったがナーマに諌められ黙ってしまった。
「わしはどこでも構わんがのう」
「私も〜」
ミリアとグランは別にそこら辺のこだわりはないそうだ。
「私はそこら辺のこだわりはないですね」
ジェノも特にないらしい。
「で?ザインは?」
「え?俺?」
そうだな、どこにするか...。
まあ安定なのは人間世界だろう。
そんな地理に詳しいわけではないが帝国内ならほとんど地名くらいならわかる。
他の世界に行ったらどこに何があるかなんてわかるはずないので多分不審者扱いされる可能性だってある。
不審に思われるのとかなんかいやだしな。
「じゃあ俺は人間世界で」
「そうね、それじゃあお願い」
「え、軽くね?」
あまりにも投げやりな返答だったので少し拍子抜けした。
「いや、別に何年も人間世界を見張っていろなんて言わないもの。長くともマーナの世界眼が問題なく使えるようになるまでね。数日から数カ月程度の遠征なんてそこまで重大視するほどのことじゃないわ。ただ」
「ん?なんだよ」
グリーダが歯切れ悪く言葉を詰まらせていたので気になって聞いた。
「前の襲撃の件よ。あの時は堕天族の襲撃だったから人間世界は関係ないと思うけど警戒はしといたほうがいいと思っただけよ」
「あ...なるほど」
グリーダの懸念しているのは前の堕天族に襲撃されて撃破したら死体が消えたあれだ。
儀式やら大魔法やらの生贄にされてる可能性が高いから堕天世界はやばそうだな、なにが起こるかわかったもんじゃない。
「ま、そりゃ気にしなくて良いだろ。ザインでもあんな雑魚なら倒せるしな」
「おい、それ等回しにバカにしてないか?」
ガルムの言うことが少し釈然としないが、まあガチガチに警戒するほどのことでもなさそうなので大丈夫だろう。
「あ、そういえばナーマ。マーナちゃんの様子どうだった〜?」
「大丈夫。死ぬほどのことでもない。マーナは数ヶ月で戻る」
ミリアの質問に相変わらず無表情だったが、どこかナーマの顔には安堵したように感じられる部分があった。
「ふふ、妹思いなのは相変わらずよね」
ベルナードはナーマの妹思いな部分に共感して首を「うんうん、そうだよね」と言うかのように上下に動かしていた。
「うっ、うっさい!妹を心配しない姉なんてこの世には存在しない!」
ここに、ロリっ子クールシスコンが誕生したのだった。
と、いうのは置いといて、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
「マーナの事は後でちゃんと自分の体に気を使って魔法を使いなさいと言っておくから今は話に集中しなさい」
マーナの話の件をグリーダが一蹴して話を強引に戻した。
「しかしよお、全員が行ったらマーナがここで一人になるが誰か残るのか?」
「あ、たしかに」
最初はそう俺も思った。
ただ、多分ナーマは残るんだろうからその心配はあまりしていなかった。
「ああ、それなら大丈夫よ。ナーマが残るもの。ナーマがいないとマーナ食事ができないでしょう?流石にかわいそうよ」
なるほど、そう言う理由か。
とはいえ、他の人もそれぞれ他世界に行くことになるしここにいるのはナーマとマーナ姉妹だけになるのか。
「そしたらいつ出発するかの予定とかはどうするんだ?流石に今すぐは無理だろうし...」
「そうね、そこの心配はいらないわ。もう決まってるもの」
「そうなんだ。俺は聞いてなかったが?」
マジで初耳なんだがそれは...。
とにかく予定は決まっていると言う事はこれからグダグダになると言うこともないだろう。
「と言うかそもそも、そんな緊張していくようなものでもないわ。ある程度調査や警戒を怠らなければもはや旅行と同じようなものよ?」
グリーダがいきなり爆弾発言しやがった。
それ、一般人からしたらとんでもない事だぞ?
それで良いのか世界の管理者...。
その後、數十分間くらい話し合った結果、みんなの遠征先はこのようになった。
グラン(堕天世界)
グリーダ(神世界)
ジーク(神世界、現在不在の為帰還後報告)
ベルナード(妖精世界)
ミリア(獣系世界)
ガルム(堕天世界)
ジェノ(獣系世界)
ザイン(人間世界)
ナーマ(待機)
マーナ(待機)
「って、俺一人かよ」
「仕方ないじゃない。全員の意見を集計してこうなったんだもの。それに、なんども言うけどそこまで深刻でもないだからいいじゃない」
「まあ、そりゃそうだけど...」
初めての遠征がボッチとか最悪なんだけど。
「それと、ジークには私が神世界に行って用事が終わっても調査をするために引き続き神世界にいるようにって言っておくわ」
「それなら今回はこれで解散でいいのか?いいなら俺は戻るが」
「そうね、今回はここでお開きにしましょうか。じゃあみんなそれぞれ解散していいわよ」
ガルムの言葉にグリーダは承諾し、みんなはそれぞれ思い思いに散って行った。
「今からどうするかな」
「あら?いつもの特訓はどうするの?」
「いや、毎日あれはきつい。魔力が持たないからな。とは言っても暇だしな...」
俺たち《十の頂》は基本暇な時が多い。
なぜなら、決まった習慣などはなく、他世界の罪人を処罰したり特訓したりするくらいしか基本やることがないのだ。
みんなと雑談してるだけで時間が潰れるようなこともないし、そもそも話題がそこまでない。
「なら、マーナの様子を見てきなさい。心配なんでしょ?」
「いや、そりゃあ心配だけどマーナの部屋に入ったらナーマに殺されるかもしれないからな。あまり気がすすまないんだよな...」
俺だって様子見くらいはしたいけど、ナーマに殺されそうな気がしてならないので昨日からマーナと顔を合わせてない。
と言うか最近そこまで話してない。
「はぁ、ザインはナーマのこと少し勘違いしてないかしら?あの子はそんな理不尽に怒ったりしないわよ。そりゃあマーナの部屋に無断で進入しようものなら躊躇なく殺すでしょうけど、むしろお見舞いに行かない方が怒るわよ?あの子は」
グリーダは呆れてため息混じりに説明し始めた。
ナーマの性格は俺よりもグリーダの方がよくわかっていて言っている事は筋が通っているので納得はできるが、ここにきた当初からなんども叩きのめされている俺からすればナーマの短気なところを否めない。
なので、また叩きのめされる気がして正直に言うと疑心暗鬼になっている。
「そこまで心配しなくてもいいわ。不安ならナーマに私が行けと言ったとでも言っておけばいいのよ。そう言えばナーマであってもむやみには怒れないでしょ」
「ああ、たしかに。それで怒ったらグリーダに怒ってることになるのか」
「そうよ。それで怒りたいなら私に直談判するように言えば私がうまいように説得すればなんとかなるわ」
「なるほど...」
グリーダの権力はここでも相当大きいようだった。
「ほらほら、そうと決まれば行った行った」
グリーダは俺の背中をグイグイと押してマーナの部屋まで歩いていく。
「なあ、なんで俺をそこまでマーナの部屋に行かせたがるんだ?」
さっきから気になっていたが明らかにおかしい。
いくらなんでも強引すぎる。
「あのね、マーナとあなたはきちんと腹を割って話したことほとんどないでしょ?それは仲間としてどうなのって思ったのよ。たしかにあなたとマーナは用事がなければ話さないような間柄だけど、ちゃんと意思疎通できないとこれからもきついわ。だからきちんとしなさい」
グリーダは口早に説明してマーナの部屋の前で俺の背中をトンと叩いた。
「分かった。やってみるよ」
俺は、マーナの部屋をノックした。




