一章十七話《危機到来》
「で?グリーダは今後のことについての方針はどうなるか少しでもわかるか?」
俺たちは夕飯を食べたあとみんなそれぞれのやることのために部屋に行ったり外に出て戦っていたりなど諸々しているところで俺は地下にある部屋にいるグリーダと魔法の練習兼講義のついでに今後のことを話していた。
「わかるわけないじゃない。でも、今の所敵になりうる者たちを探しているところよ。それでも、ベルナードほどじゃないけれど高い隠蔽魔法を使っているんでしょうね。全く今の所は収穫なしよ」
「なるほどな。俺は今の所探しようがないからわからないけど結構探すのに手こずりそうなことだけは聞いててよくわかったな」
今の所俺のやるべきことは自分の力を最低限足手まといにならない程度には鍛えることだ。
「まあ、今一番警戒すべきことは他の五種族全ての世界で何が起こっているかの把握が最優先よ。敵がいつ出てきても良いように対処しておいたほうがいいわ」
「ああ、そこはわかってるんだが...マーナがずっとそれで警戒しっぱなしなんだよな。今日も夕飯の間ずっと世界眼発動しっぱなしだったし」
マーナと俺は直接話すこともは少ないがそれでも様子くらいは見ることが多い。
それに、ナーマとミリアも表情には出てないものの心配している雰囲気は出ていた。
「全くあの子は...私が魔道具と世界眼を連動させて他のメンバーにも観れるようにしたのに全部自分でやるなんて」
グリーダもマーナの負担を少しでも減らそうと世界眼と連動させた魔道具をリビングに結構前から置いていたのだ。
本人の魔力器官と遠隔接続して同期し、魔法の性質を借りて魔導具を作るという仕組みだ。
魔法の媒体であるものが魔力に異常をきたしてしまうと使用できなくなるというのが問題点だが、それでも汎用型の魔導具とは比べ物にならない性能を発揮する製造法で、他にもその方法を使った様々な魔導具をグリーダは製造している。
最近は暇つぶしによくガルムがのぞいて愚痴をつぶやいているところをよく目にしていた。
「そういえば話が変わるけどジークはまだ帰ってないのか?」
「ああ、多分あの子は結構時間がかかりそうよ。神世界で問題が発生したらしいの」
「おいおい、それって結構やばいやつか?」
「やばいやつだから時間がかかってるのよ。まあ、政治的な問題だから死にかけるなんてことはないはずだけど...警戒するに越したことはないわね」
ジークが政治関連でちゃんと対処できるか不安だがまあそれなら時間が解決しそうだからいいか。
「まあ、マーナの件に関しては私から少し休むようにあとで言っておくわ。ジークの件は別に私たちがむやみに首を突っ込む必要はないから放っておきなさい」
「ああ、そうするよ」
グリーダはそういうと満足そうに頷いて地下室から出て行った。
俺もそれに続いて地下室から出て、リビングに入るとその光景に驚嘆した。
「で、ジェノはなんでそんなにげっそりしてるんだ?何があった?!」
ジェノがげっそりして死にかけてソファーに座り込んでいる感じでそれをベルナードが介抱していた。
「ああ、気にしないでザイン。ジェノさっきナーマと腹ごなしに戦ったらこの通りよ。しばらくすれば治ると思うわ」
「あ、ザイン。こんばん...わ」
「お、おう」
「しかしよぉ、ナーマと戦うとか流石にジェノでも正気を疑うんだが?」
ガルムがナーマとジェノが戦っていた様子を見ていたそうなのでその様子を聞いてみたところ、ジェノがいきなり吹き飛んでいったらしい。
神速魔法...恐るべし。
「自業自得。ここの戦いに手加減はない。武器なしの戦闘だから致命傷はない。遠慮なんてするわけがない」
相変わらず無表情で夕飯の皿を洗っているナーマはそれだけ口にした。
「いや〜...我ながら死ぬかと思ったね。私は今物凄く死にそうなんだよ」
「そう。なら早く力尽きればいい」
「はは、ナーマは冗談きついな〜」
「これ、ほんとにジョークだよな?」
ナーマの場合、本気で言ってそうで怖い。
「で?なんでナーマに挑むなんて自殺行為も同然のことをしたんだお前...」
ジェノに対してガルムが若干呆れていた。
「いや私はね、ただ少し運動をしたいと思っていただけなんだけどね...はは」
なんだろう、ジェノがどこか遠い目をしている。
だからってナーマ相手はダメだろ...。
「まあ、傷は大丈夫でしょうし放っておきましょう。私もそれは自業自得だと思うわよ?」
ベルナードも呆れてため息交じりでそう言った。
「大変!マーナが疲労で気絶しちゃった!」
「は?」
いきなりリビングに走ってきたのはさっきまでマーナのところにいたミリアだった。
そして、グランとグリーダも一緒に出てきてみんな少し焦っている気がする。
「そん...な。嘘...」
ナーマが絶望したような顔で洗っていた食器を落としそれにすら気づかないようだった。
「ナーマ、取り乱しすぎよ。私たちがベッドに寝かせたから大丈夫。多分、世界眼を常時発動し続けた結果ね」
グリーダが首を横に振って言った。
今思うのはどうかと思うが、グリーダはいつからマーナの部屋にいたんだ、さっきまで俺と話してたのに。
「こうなること、知ってたの?」
ナーマがグリーダに詰め寄った。
「落ち着きなさい。私だって別にマーナにこんなになるまでして欲しかったわけじゃないわ。あの子が倒れるまでやるなんて予想もしてなかったもの」
ついさっきの雰囲気から一転して緊迫した雰囲気になりしばらく沈黙が続いた。
「魔力の使いすぎ...だよな、やっぱり」
「ええ、そうよ。いくらマーナでもあんな量の魔力を消費し続けたらこんなことになるのは本人も分かっていたはずなのだけど」
「っ!」
ナーマは切羽詰った様子でマーナの部屋に走って行った。
「そういえばミリアは最近マーナの部屋に行くことが多かったけど何してたんだ?」
「え?ああ〜。私も心配で...ね。ちょくちょく様子を見てたんだよ〜」
ミリアもすごい落ち込んでいた。
というかちょっと涙目だ。
なるほど、だから最近少し焦ったり不安そうにしている印象があったのか。
昨日もグランとの戦いで疲れて寝た時もちらっとマーナの部屋に入るところを見たから多分それも心配でのことだったんだろう。
「マーナの体に異常はないわ。ただ、体内の魔力器官が疲弊しきって数ヶ月は魔法が使えないわ。今世界眼なんて使ったら間違いなく...」
「...どうなるんだ?」
唾を飲む音がどこからか聞こえあたりから緊張した空気が流れている。
「間違いなく魔力器官は暴走または損傷。それだけで済めばまだ幸運ね。失明もありうるし最悪死ぬことだって考えられるわ」
グリーダは悲しそうにそう答えた。
「でも、時間が経てばまた治るんだよね?!」
「え、ええ。そうね」
ミリアが切羽詰まって焦りをあらわにしていた。
「でも、それ以上に困ったのは数ヶ月の間他世界の状況を確認できないのよ。世界眼を基にした魔道具も、マーナの魔法が使えないんじゃあ起動できないから」
「直接他世界に乗り込むしかない...か」
多分、他世界に行けば状況もわかるし何もここに戻ってこれないわけじゃない。
だが、ここと連絡を取れないから逆にここの状況がわからなくなる。
「まあ、近いうちにそうするつもりよ。それでも全員が行くわけじゃないからそこは把握しておいてちょうだい」
「ああ、わかった」
「そうだな」
「了解だよ」
「そうね」
「りょ、了解」
俺、ガルム、ミリア、ベルナード、ジェノがそれぞれ返事をした。
これから、どうなるかなんてわからない。
もちろん、しばらく人間界にも行ってないから他世界なんてどうなっているかなんてすらもわかるはずがない。
「久しぶりに行ってみるのもいいかもな」
「そんなに陽気なものでもないわよ?」
「だよな〜」
俺が人間世界を離れてもう五年が経つ。
俺の家族はもう多分俺がこの姿なのがありえないだろうな。
なにせ、今の俺は五年前と変わらないのだから。




