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支配者の未熟者  作者: まっつん
入団編
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一章十六話《陰謀》

人間界、裏の理。


それは、人間界の最深部、地下深くにある誰もが住む事のできない場所。


だが、そこには数年前からある者たちの動きがあった。


地下深くの洞窟に大聖堂のような神々しい雰囲気を醸し出すこの場所は、《十ノ頂テンペスト》の監視を妨げ防ぐ事のできる結界が張り巡らされ絶対に地上に情報が漏れることはない。


「クヒヒヒ、ヴェンサー様、奴らの調査が終わりました」


ローブを着てフードを深くかぶった者は、大きな玉座の前に跪き醜悪な女性の声で笑声をあげ、事の報告を始めた。


ヴェンサーと呼ばれた玉座に座っている者は、ドス黒い瘴気によって顔が隠れていて、豪華な装飾の施された衣服を身に纏うのがかすかに確認できる。


ヴェンサーは無言で青い宝石が付いた杖をローブを着た女と思われる者に向けた。


すると、ヴェンサーはその杖から手を離し、杖が浮遊しその女が杖を手に取った。


「では、成果をお話しいたしましょう」


そうしてその女は説明を始めた。


説明が一通り終わると、その女は杖を手放しヴェンサーの手元に収まった。


「さて、これからどうなるのやら...クヒヒヒ」


その女の後ろには、数日前に死んだと思われる死体が山のように積まれていた。


人間界でそんなことがあったとは知らずに、《十ノ頂》達は日々鍛錬を続けていた。


<><><>


「ちょっ!グランやり過ぎ...死ぬ死ぬ!」


俺はさっきグランから手合わせを頼まれて付き合っているのだが...。


見えない刃が次々と現れてそれを全て避けなければならないという何とも鬼畜な試練を強いられて死ぬ気で頑張っている今日この頃。


魔力をいち早く察知して弾道予測に、それを捌ききる反射神経を鍛えるのにもってこいだが普通に死ねる。


「ふぉっふぉ、その程度で根を上げておったらこの先辛いだけじゃぞ?そうれ、追加じゃ」


「うえ?!まだ増えるのかよ」


とりあえずオリハルコンの壁を改変魔法で量産して風の刃を八割ほど防ぐも全方位防げているわけじゃ無い。


「横も後ろもガラ空きじゃぞ。近頃の若いもんは...」


「いや、これでも精一杯頑張ってるよ!あんたが強すぎるからだろ」


もはやこうしたツッコミも何回めだろうか。


風神、神族とは違い正真正銘伝説の神様であり、風という概念そのものだと結構前にジークから聞いたことがある。


神族と神は根本的に違う。


神族は最も神に近いとされる五種族の中でも最も数が少なく、代わりにどの種族よりも個の力が強いのが特徴だ。


そして、地方によって様々な神を崇める風習があるとかも言っていた。


寿命も何万年と生きるものも珍しくはなく、寿命で死ぬものは戦争があった頃はほとんどいなかったそうだ。


神は、圧倒的な強さを持つ者が世界からこの次元にいてはならないと判断された者が神となると言われている。


要は世界から追放された者たちだ。


なので、この世界では実際に姿を表すことは絶対にできないらしい。


グランでさえ契約してその片鱗を使うのがやっとだと言っていたので相当な強さなのだろう。


「ほれほれ、考え事せんで戦いに集中せんか。ワシはまだちっとも攻撃されておらんぞ?」


グランが煽ってくるがまったくもって余裕がない。


俺もグランに攻撃してはいるが全然当たらないしむしろこっちが先にやられそうだ。


一撃食らえば間違いなく戦闘不能だ、そんな攻撃が何発も何発もぶっ放されれば攻撃なんてまともにできるはずがない。


壁を地面から改変魔法で作り出しても一瞬にして切り刻まれるのが関の山だ。


「ほれ、この程度じゃったらワシらと同等の任務はこなせんぞ?もっと気合を入れて取り組まんとのぅ」


「いや、これ気合どうこうじゃないだろ...」


かれこれ三時間くらいぶっ通しで戦って息が上がって足が震えて呼吸が荒くなり体の節々が苦痛で悲鳴を上げていた。


魔力も底をつきかけ今はなんとか牽制している程度でもうまともに戦える気力すらない。


「はあ、はあ、もう...駄目」


これ以上立つのも限界で地面に倒れ伏した。


「ほう、もう終わりとはの。しばし休息をとるがいい。なあに、お主は最初と比べて明らかに成長している。そう暗い顔するでない」


グランは地面に倒れ伏した俺に近寄り慰めの言葉を言っているがそのグランの余裕そうな顔を見ていると逆効果になるので半ば聞き流して息を整える。


「それでも、みんな強すぎだよ。俺が五年本気で自分を鍛えてそれが身に染みるよ」


俺はこの五年間みんなに追いつこうとして鍛えて鍛えて力をつけた。


だが、足りない。


当初よりも圧倒的に強くなった自覚はあるがやはり力及ばず全然肩を並べて戦える気がしない。


そりゃあ考えてもみればそうだろう。


俺以外の他の皆は何十年何百年と鍛えて鍛えて努力し続けた結果としてあの強さを身につけているのだ。


それに比べて俺はたかが五年鍛えただけで追いつくはずがない。


だが、それを自覚した上で悔しいと思ってしまう自分がいることにも自覚している。


「俺、もう戻ります」


「ほう、もう今日は終わりかの」


グランは地面に腰を下ろして休憩していたが俺の言葉に立ち上がり横目に俺の方を見ていた。


「まだまだ俺が強くないことは自覚してるつもりだよ。でも、いつかはきっとみんなと肩を並べて戦えるようになる。それが俺の目標だからな。今日のところはこれくらいにする」


冗談半分でそう言って俺は拠点に戻った。


「ザイン〜、暇だよ〜」


拠点に戻ってソファで寝転がっていたら、ミリアが俺の方によってきてそんなこと言いながら肩を揺すってきた。


「いや、俺今疲れてるから。他をあたってくれ。頼むから休ませて...」


すまん、切実に死にそうなんだよ。


「そっか〜、残念。あ、それならこれ置いておくから枕にでも使ってね」


そう言うとミリアは白い顔サイズのモコモコした塊を俺の目の前に置いていってマーナの部屋にダッシュして行った。


とりあえずそのモコモコを枕がわりにしてそれに顔を埋めるとほんのり温かくふわふわした触覚ですぐに眠りについた。


<><><>


「ん?あれ」


俺が眠い目をこすって起き上がるとナーマが夕飯を作っているのが見えた。


「もう直ぐご飯。ザインは眠りすぎ」


「それは正論だな」


俺はソファーから起き上がりふと枕のことを思い出しミリアに返そうとその枕を持ち上げようとしたその時だった。


「モフ〜」


「って!うわ」


さっきまで俺が枕がわりにしていたモコモコの毛玉のような物が突然動き出した。


つぶらな瞳に可愛らしい口と俺の顔サイズの相変わらず小さめの外見。


そしていつの間にか尻尾まで生えていて外見だけ見ればまん丸の白い毛玉に猫っぽい顔に尻尾が生えていると言うなんとも奇妙な見た目をしていた。


「ザイン、それは?」


「ああ、ここで寝るならこれをってミリアに言われたんだよ。それで枕に使ってたんだが...」


そう行ってもう一度その毛玉のような生き物を見るとソファーに座っている俺の腰あたりにすり寄っていた。


普通に可愛い。


「とりあえずミリアにこいつのこと聞いてみるか。見た所危険はなさそうだけど」


「ザインが枕にできるなら危険はない」


そう行ってナーマは料理の方に集中しだしたので俺はミリアの部屋の方へ向かった。


ミリアの部屋をノックして「どうぞ〜」と返事が返ってきたので部屋のドアを開ける。


「ミリア、これなんだ?さっきまで気づかずに枕にしてたんだが...魔物か?」


そう言ってミリアに手に持っていた例の毛玉を見せると予想外の答えが返ってきた。


「うん、そうだよ〜。この前たまたま見つけたからお持ち帰り...いや保護したんだよね〜。この子はこんな見た目だけど結構強いからね〜。まあ、どの種族にもすごく懐くから人間族にも危害を加えることは多分ないけどね...多分」


「おい、今多分って言ったよな。本当に大丈夫だよな?!」


その言い方に俺はちょっと戦慄したがミリアがこう言うんだし多分大丈夫だろう...多分。


「モフー。モフッモフ」


「っていうかこいつ名前なんていうんだ?全然わからないんだが」


「それは毛獣だね。私たち含めて五種族全員にはほとんど危害を与えないけど他の魔物に対しては殺意剥き出しで殺しにかかるから、私は基本この子を自分の部屋に置いてるんだ〜。私も枕にしてるからこの子も枕にされるのは慣れてるんだよ〜」


「なるほどな。どうりで俺に懐くわけだ。こんな見た目で強いとは思えないけどな」


この毛獣は今はすごく穏やかな雰囲気を醸し出し、いかにも愛玩動物ですと言っているような見た目をしていて、そんな殺意を剥き出しにするところなんて想像もできない。


「まあ、見た目も相当変わっちゃうからね〜。想像つかないのも仕方ないよ〜」


そう言ってミリアは俺が両手で抱えていた毛獣を受け取って「夕飯できたら呼んでね〜」と言ったので「わかったよ」と返して扉を閉めた。

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