一章十五話《混乱》
「全員集まったわね。それじゃあ、今後について詳しく話すわ」
俺たちが突如リビングに集められてグリーダが話し始めた。
ちなみにジークは昨日のあの襲撃の後神世界に送り出されたので今はここにいない。
何でも、昨日の襲撃でのあの謎の現象が今後やばいことになるかもしれないから今後さらに警戒していかないとまずいとのことだった。
「まあ、私の考えは主にその辺ね」
「つってもよ、具体的にどうすんだ?不確定なものの対策なんてわかんねえよ。何だ?他世界の監視でもすんのか?」
ガルムが席を立ち多少の苛立ちを感じさせるような言葉遣いで言った。
ただ、ガルムの言っていることは間違いない。
相手のやろうとしていることがわからない以上、むやみやたらと行動に移せばどんな危険があるかわかったもんじゃない。
「まあ、そうね。《十ノ頂》それぞれ種族ごとに世界の監視をしてもらうのが一番ね。全員が行くのは流石に無理だけど」
「え、それって...」
「ええ、ザインの場合は人間界ね。もっとも、元々あなたがいた頃からすでに五年が経過しているから少し違うとは思うわ」
それを聞いた瞬間、俺の心情は少し複雑だった。
なぜなら、五年前の知人には黙ってこの《十ノ頂》に仲間入りしたのだから今更戻っても大混乱だろう。
もちろんまた会えるという点で考えれば嬉しくはあるのだが懸念すべきことは沢山ある。
「それじゃあ、今言った案で話を進めるわ。異論がある者は今言ってちょうだい」
グリーダがそう言って周りを見渡すが誰一人として口出すことはなかった。
「異論はないみたいね。決行日は後々相談して決めるわ。全員、気合いを入れなさい」
グリーダが喝を入れたことによってみんなが俺も含めて「おおー!」と掛け声を出す。
「さて、ワシも準備をしようかのう」
「私もそうしよっかな〜」
グランとミリアはそう言って部屋に戻っていった。
「なあガルム、今回の任務はガチでやばいやつなんじゃあ...」
「かもな、俺たちならまだしも一般の人間...いや、どの種族であってもタダじゃ済まないかもしれねえな」
どうやら、みんなも結構深刻な問題として見ているらしい。
「ザイン、あなたももう少し魔法の練習でもしておきなさい。あんたはまだまだ全然実力不足なんだから」
「わかってるよ。俺だって何もしてないわけじゃないからな」
「そう。ならいいけど」
ベルナードは部屋に戻る際に俺に忠告してきたが。
魔法の特訓なら部屋よりも外の方がいいと思ったのでとりあえず外に出たはいいもののどうすればいいのかよくわかんなかったのでいつもの特訓を開始した。
いつもの訓練といっても、魔力の制御力を高めるために魔力を体内で意図的に動かし続けながら、地中に魔力を断続的に送り込み、地下の土の成分を改変させ続けるという感じだ。
この方法は最近よく行っている方法で、この地面はしばらくするとどんなにボロボロでも元に戻ってしまうという、不思議な特性があるので前に試しに俺の魔法で改変したところそれでも元に戻ってしまった。
なので、俺の魔法の練習にはもってこいだと判断しこの方法を何ヶ月も続けていた。
「ハア、ハア、...やっぱ疲れるな、これ」
俺は魔法の訓練をしながら昨日襲撃にきた奴らのことを考えていたが、やがて魔力に限界がきて魔法を解除した。
もう周りはうっすらとした月光に照らされ、何とも幻想的な景色になっていた。
「そろそろ帰らないとな」
俺は立ち上がり拠点に戻った。
「遅い。夕飯は終わった」
リビングに入るとナーマが仁王立ちをしていて俺の目の前でジト目で睨んできた。
「今日はやけに大人しいな」
「あたりまえ。鍛錬してる人にお仕置きはしない。ザインはいつもサボってるからしただけ」
俺が少し挑発気味に言うとすぐに毒舌気味なセリフで返してくる。
「そうか、とりあえず風呂入りたいんだが?」
「今はミリアが入ってる。もう少し時間がかかる。それまでは...」
そこまでいってナーマは俺から離れて調理台に向かって行った。
「これ、食べておきなさい」
そう言って出されたのは、質素だが凄く丁寧に作られていた鶏肉と葉野菜サンドイッチだった。
「ナーマ...器用だな」
「う、うっさい」
俺が褒めたのがそんなに意外だったのか一瞬うろたえたが、すぐにいつもの調子でナーマはそれだけ言うと部屋に戻って行った。
「おう、遅かったなぁ」
「え、あー、まあ疲れた」
ガルムがナーマが部屋に戻り次第俺に声をかけてきた。
ガルムは、昨日も机の上にあった六つの世界中の罪人を表示する球体のような魔道具を眺めていた。
「それに映らないってことは昨日の奴らはジャミングでもしてるのか?」
「まあ、それしかねえだろうな。あとはベルナードと同じ隠蔽系統の魔法かどっちかだな。どちらにしろ厄介だ。早めに対処しねえと取り返しのつかないことになるぞ」
「だよなー。となると、対策としては実際に他世界に出向いて敵を見つけ出すしか方法はないか。それでも結構むずいな」
現在、昨日の襲撃を行った者たちはこの魔道具では見つかっていない。
つまり、見つからないように敵も何か工夫をしていることになるので、今までと同じやり方を続けていては間違いなく永遠に見つからないだろう。
そして、これを放っておけばどうなるのかわかったものではないので絶対に見つけ出さなければいけない。
「ふつうにまずいことになったな。大規模に破壊なんてしたら藪蛇になるおそれもあるし」
「そう思うならあんたも何かできることを探しなさい」
「そうかそうか...ってベルナードいつからそこにいたんだよ」
俺が後ろを振り返るとそこにはベルナードが立っていた。
全然気付かなくて今までガルムと話していたので結構驚いた。
「さっきからいたわよ...と言ってもあんた達が話してるから様子を伺ってたのよ」
「おう、お前影薄いからわかんねえよ」
「そう、喧嘩なら買うわよ?」
ガルムが行ったことに対してそれを挑発と受け取ったベルナードの額に青筋が浮かんで行く。
「喧嘩なら外でしなさい。別に喧嘩自体は反対しないけど、中の物が壊れたら元も子もないもの。さあさあ行った行った」
ベルナードとガルムのやり取りを見て、隣で紅茶を飲んでいたグリーダが二人に向かって手を扇いで出て行けとジェスチャーをする。
「いや、流石に今から大乱闘はないだろ」
「いえ、わからないわよ?前だってザインも見たでしょう?ミリアの人間界で買ったお菓子を勝手にジークが食べてミリアとジークが喧嘩をしたのを。結構みんな短気なのよ」
「そう言われてみれば...まあ、うん」
グリーダの説明でなんとかわかる気もするがどこか釈然としなかった。
「よし、ベルナード。外でやるぞ」
「言われなくてもそうするわ。ガルム、あなたと戦うのは久しぶりだけど手加減しないわよ?」
「上等だ!あとで後悔しても知らねえぞ」
ガルムとベルナードはお互い言い合いながら外へ出て行った。
「あの二人大丈夫かな」
「ふふ、仲がいいのね」
しばらくすると外から轟音が絶え間なく外から鳴り響き少しビクビクしながらその後もグリーダと他愛のない話をしていた。
とは言っても今後についての話を少ししただけだが。
それでも、この状況であの二人を仲がいいと言えるグリーダはすごいと思った。




