一章十四話《勝利...?》
ザイン達《十ノ頂》が感知した侵入者は、マーナの予想通り堕天族だった。
堕天族のうち一国の兵士たちが一斉に聖域に侵入し、隊列を組み《十ノ頂》の住む拠点に向かっている。
その数、約四万。
約四万の兵が一糸乱れぬ隊列で拠点に向かって果てのない草原を進行している。
「まだか!まだ見えんのか?!」
隊列の後方で他よりも明らかに派手な装飾を施された男が明らかに苛立ちをあらわにしながら怒気混じりに声を荒げた。
「も、申し訳ありません。たしかに近づいているはずなのですがこの世界が想像よりもはるかに広大だということが発覚いたしました。ですので、到着にはしばしかかるそうです」
「ふむ、そうか。我々の兵士には全員に加速の付与が施されたはずなのだがな。馬よりは全然早いはずだ。いずれ着くだろう」
怒気を含んでいた言葉が徐々に落ち着き、隣にいた兵士は先程から怒っていたその男を冷や汗をかきながら見ていた。
それもそのはず、その男は聖域に侵入した兵士の総長で、今でも魔物退治などで名を轟かせている剣豪だったからだ。
「いやーそれにしても、侵入者がこんなに早く僕たちのもとに来るなんてねー」
「な?!っ誰だ貴様は!全員、隊列を崩すな!」
兵士の総長の目の前に一瞬で姿を現したのは、青髮の少年でとても戦えるような格好ではなく半袖に半ズボンと楽な格好をしていた。
だが、その腰にさしていたのはいかにも業物と見受けられる剣で、その少年からは明らかに只者ではないオーラが出ていた。
「やあ、君たちが侵入者だろう?」
「だ、だとしたらどうする?俺と戦うか?」
兵士の総長は少年を警戒しつつも余裕の表情で様子を伺っていた。
「いや、戦う気は無いよ。もともと戦いになんてなるわけないじゃん」
「はっはっは、そうかそうか」
青髮の少年、ジークが少し挑発じみたことをいうと、兵士の総長は笑った。
が、次の瞬間に剣を素早く抜き払って横薙ぎに振り切った。
そして、ポトリと何かが落ちる音がした。
「それにしても、相当人が多いな〜。これならみんなで分けるべきだよね。現在暇人多いし」
ジークが兵士の総長の首を持ち上げると、そのまま遠くに投げ捨てた。
「ひいっ!ば、バケモノ!」
「てっ撤退だ!」
兵士は散り散りに走り逃げて行くが、すでにジークがいる反対方向に人影が複数あることに気づいた兵士達は、混乱をより扇ぎ、その者たちは悟ってしまった。
私たちはもうすでに死を確定されていたのだと。
手を出してはいけないものに手を出したと。
「お前らは俺たちに何の許可があって手を出したんだ?」
「そんなこと言ってないで片付けるわよ。取り逃がすと情報を持って帰られる危険があるわ。リスクはできるだけ避けなさい」
兵たちの行く手を阻むように立っているのは炎をその手に輝かせている男と、紅い髪の可愛らしい幼女。
だが、幼女だと思っていた子供があまりにも理知的な話し方をしているので警戒して足を止める。
「足を止めようがとめまいが、結果は変わらないんだけどな」
兵たちを囲むは六人、人数差ではあまりにも少ないがその実情は過酷であった。
「あーあ、もう終わりか...」
兵士たちの亡骸を前にその少年が一言いうと、そのまま立ち去った。
離れてその戦場を見ていたザイン、グラン、ナーマの三人は呆れていた。
「本当に楽しそうだな...」
「気がしれない」
「お主らも参加すればいいじゃろうて」
自ら敵を殺すことにあまり興味がない三人は遠くから見ているのみで参加はしない。
「私は仕事で殺すだけ。終わったなら帰ってやることがあるから戻る」
「まあもう用はないからな。俺も帰るか」
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「ふふ、計画通りね。あとは、あの死体をあの方に献上すれば...」
広い草原で、一人遠くから堂々と見ているものがいた。
その姿は白いローブにフードを目深くかぶっているなにかの宗教の正装のような格好だった。
だが、《十ノ頂》の誰もがその存在を知ることがなかった。
「私の魔法は誰にも知られることはない。この隠蔽魔法が破られることなんて万に一つもないのだ。クヒヒヒ」
気味の悪い笑みを浮かべながら兵士たちが次々と地面に飲み込まれて行くように消えてゆく。
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「いやー、範囲が広い魔法はずるいと思うんだけどね。私はこういうのは不利だなぁ本当に。ん?これは...」
ジェノが兵士の死体を眺めながら感慨深げに愚痴を吐いていると、明らかに様子がおかしいことに気がついたのだ。
「あーあ、これは一本取られたね」
兵士の死体が転がっている中ジェノが中心でその死体の数々を見ていて苦笑しながら額に手を当て汗を拭う仕草をしていた。
「一種の空間魔法でしょうね。それにしてもどこから術者はこの近くにいるはず...。まさか、ベルナードと同じ隠蔽魔法?」
グリーダは思考を巡らせているが確信にまではいたって無いようで考え込んでいる。
「そうじゃな。無理に行動に移すよりも、警戒しながら様子を見るのが得策じゃろう」
グランは落ち着いて周りの様子を伺っていた。
周りは代わり映えのないただの草原なので、どれだけ見渡しても草しか見えなかったが。
「全員、ここに集合して」
グリーダがみんなに呼びかけメンバー達がグリーダの元に戻ってきた。
「なんかわかったのか?」
「いいえ、みんなで当てずっぽうで探しても見つからないと思ったから集合させたのよ。みんなはもう戻っておいて。マーナが一人ぼっちなのは心配よ。マーナが絶対に安全とは言えないもの」
「なるほどのぅ。それじゃわしらは一旦戻るとするかの。それで、グリーダはどうなさるおつもりで?」
「そうね、私はもう少し探して見るわ。最悪の場合はマーナに頼ることになりそうだけど」
グリーダは少し申し訳なさそうにみんなに声をかけてから目を瞑った。
そして、目を開けた時には瞳の色が灰色から赤色に変わっていた。
そして、その直後に悪魔を連想させるような禍々しい翼が背中から生えた。
それを初めて見るザインはびっくりしていたがほかの《十ノ頂》のメンバー達ははそこまで驚いている様子はなく「頑張れよ」とガルムが言ってみんなはそのまま拠点に戻っていった。
一人残ったグリーダはそのまま歩き始めた。
しばらく進んだところでグリーダは足を止め、口を開いた。
「別についてこなくても良かったのよ?」
一言そう言ってまた歩き始めた。
(まさか、私に気づいていた?)
後ろにいた隠蔽魔法で隠れているベルナードが驚いていた。
「これじゃあ埒があかないわね。術者だってもう撤退した可能性だって考えられる...今回は諦めようかしらね」
グリーダは水晶の見た目をした魔道具を取り出し魔力を込めた。
「で?何よこの状況」
グリーダが戻るとリビングではナーマが仁王立ちでザイン、ガルム、ミリア、ジークの頭にたんこぶができていた。
グラン、ジェノは部屋の端っこで顔を引きつらせていた。
「敵を見逃すなんて...死にたい?」
ナーマから何か不穏なオーラが漂うが、グリーダを見た途端に落ち着いた雰囲気になりグリーダに近寄っていく。
「な、何があったのかしら?」
「みんながここにきた敵を取り逃がした。それだけのこと。グリーダが心配することはない。グランとジェノは地下室の魔導具を守っていたから今回は許す」
ナーマはそれだけ言って調理場に戻っていった。
「...ここに敵が、何のために」
グリーダはつぶやき考え始めたが結論が出ずに終わってしまった。
「うう、ひどいよナーマ。私たちにげんこつなんて。暴力だ〜」
ミリアはそう言ってソファーにバフっと飛び込んでふてくされていた。
「取り逃がしたあなた達が悪いでしょ?それに、マーナを危ない目に合わせたくなかったのにあなた達ときたら...」
「おいベルナード。いつのまにここにいたんだ?さっきまでいなかったじゃねえか」
「そう言えばそうだな。何でだ?」
ガルムとザインが不思議がっていたが当の本人は「内緒よ」と言ってはぐらかした。
「とは言っても本当に大変なことになったわ。あれだけの死体をどこかに転送するということは大魔法か死霊系の魔術、それか儀式的なものが近々行われる可能性があるわ。それも私たちに関係のないものとは限らないわ。各自警戒はしておいて」
グリーダの表情は深刻そのものだった。
自分たち《十ノ頂》は他世界の大魔法なんて食らっても大丈夫な者はいるが、もしそれが一般人が対象だったらと考えるとグリーダの頰から冷や汗が一筋伝った。




