一章十二話《発覚》
みんなで夕飯を食べたあと、もう外は暗くなっているのにもかかわらずジークとガルムは外で模擬戦らしきものを始めるしベルナードとジェノは今日で3回目だ。
「まあ、いつものことよ。そう気にしなくていいわ。正直言ってしまうとみんな暇なのよ」
「あ、グリーダさんも行かなくていいんですか?」
「いいわよ。別に私は我先に戦いに行くような人柄でもないわよ」
そう考えると我先に戦いに行く人って結構おかしいように感じてくるな。
「あ、もうすぐね」
「え、何がで...」
言い終わる前に何かが目の前で爆発したような光が現れ、俺は目を咄嗟に閉じた。
屋内でこんな光を発するものなんてなかった気がするんだがどうなってるんだ。
「いやー、今日は疲れたね〜」
「買い物、楽しかったですね」
「あら、おかえりなさい」
目の前で愉快な会話が繰り広げられているのだが、眩しくて目がやられてしまってまともに開けられない。
しばらくして目を開けると目の前にミリアとマーナの姿があった。
二人はお出かけする用のラフな格好で、ミリアは膝丈くらいのスカートに飾りの少ない洋服で、マーナは長袖にロングスカートの格好だった。
見た目は全然違うが、まるで姉妹のように見えてしまうほど二人が互いに親しいのだと感じた。
「って、びっくりしましたよ...」
「あー、そっか。まだザインは知らないんだね。他の世界に行くときに使う魔道具」
そう言ってミリアは紫色に発光している手のひらサイズの水晶玉をスカートのポケットから取り出した。
「まあ、無制限に行けるわけではないわ。それはそこまで万能なものでもないしいくらでも作れるってわけでもないわ」
グリーダはそういうと、同じ見た目の水晶を取り出して俺に見せてくれた。
「これはね、魔力を込めると私の転移魔法が自動で発動するようになってるのよ。転移先はこのリビングで固定してあるから、この水晶で他の世界に行くことはできないわ。あくまでも帰ってくるための魔道具よ」
「なるほど...って、グリーダさんって転移魔法まで使えるんですね」
もう何でもありだな。
「それに、基本的にこの拠点の家具が稼動できるのはほとんど私の魔道具の力よ?」
「す、すごいですね」
「そうだねー。グリーダちゃんにはほんと感謝しかないよー」
ミリアはそう言ってグリーダの頭を撫でる。
グリーダは少し顔を赤らめたが行動を起こす気配がない。
代わりに「はあ、困った娘ね」と言って少し溜息を吐いていた。
「あの、疲れたのでお風呂はいってきますね」
マーナはそのまま風呂場へ行ってしまった。
「ああ、いってらっしゃい」
グリーダは撫でられながら返事をした。
そこまで動じてないってことはこういうことを日常的にしてるってことなのか?
女性同士のスキンシップはよくわからない。
バリバリバリバリ!
突然ガラスが割れるような音が連鎖的に外から鳴り響き、周りがわずかに振動した。
「もう、あの子達はバカなのかしら」
「えっちょ?!」
グリーダはそういってミリアから離れて物凄いスピードで外へ駆け出していった。
ミリアは変な声を出してグリーダが出ていった方を呆然と見ていた。
数秒後に前に外へ出ていった四人を連れて戻ってきた。
ジークとガルムは明らかにただ事じゃないことがわかる程服がボロボロになっていて、ジェノは所々傷が残っている。
ベルナードは無傷だが、明らかに疲弊してるっぽい。
「で、私の張った結界をうっかりブチ破ったのは誰かしら?」
グリーダの表情は笑顔だったが、凄い密度の魔力が空気中に流れていて息苦しい程だった。
「あ、あの、弁明の余地は...」
「あるわけないじゃない」
「ですよね〜」
ジークでもグリーダには頭が上がらないらしくビクビクしていた。
「ということはジークがやったのね」
「あ、しまっ!」
グリーダはジークの腕を掴んだ。
もちろんジークは抵抗したが、グリーダが速すぎてまともに抵抗できずに掴まれていまった。
「あああああ、ウグッ...」
ジークが苦痛によって悶え、そしてプツッと糸が切れたように意識を失った。
「はあ、今日のところはこれで許してあげるわ。ただし」
そう言って他のガルム、ジノ、ベルナードの方を一瞥した。
「次こんなことになったら全員こうなるわよ?」
そうグリーダが言うと三人はビクッとなってそそくさと部屋にそれぞれ戻って行った。
「あの、あそこまで言わなくても...」
「あの子達はこの世界の危険さを理解できてないのよ」
グリーダにそう言われ、俺はあんなに強くて何が危険なんだろうと思った。
だが、自分の張った結界を壊されたらそりゃあ誰だって怒るかと思い納得した。
「あの、それと...」
「はい?」
「気絶してるジークはどうするんですか?」
「そこのソファーに寝かせておきなさい」
グリーダに言われた通りにソファーにジークを寝かせた瞬間、再びミリアがグリーダを撫で始めた。
もう放っておこう。
数十分でミリアから解放されたグリーダは紅茶を飲みながら本を読んでいた。
「何を読んでいるんですか?」
「ああ、これは今日ミリアが人間世界で買ってきた魔導書よ。少し面倒ごとがあったみたいだったけれど」
そう言ってグリーダが見せてくれた表紙には俺では読めない文字がたくさん並んでいた。
「これなんの文字ですか?」
「これは、堕天族の世界の文字よ。それも結構昔のものだから読める人は少ないわね」
堕天族の文字なんて習ったことがなかった俺はその文字を見るとなんだか新鮮な気分になった。
「って、結構昔ってグリーダさん何歳なんですか?」
「あら、乙女に歳を聞くなんてなんてデリカシーがないのかしら?」
グリーダは俺の方をチラッと見てあざとく笑った。
「まあいいわ。私は二千四百年前に《十ノ頂》として生きることになったわ。それが何を意味するかはあなたにもわかるでしょう?」
グリーダはそういうとまたしてもちらっと見てきた。
二千四百年前、それは五種族全てを巻き込んだ種族大戦が勃発した年だ。
「...初代《十ノ頂》魔皇、グリーダ」
「正解よ。とは言っても《十ノ頂》変皇には遠く及ばなかったわ。いつも負けてばっかりで、あの頃が懐かしいわ」
グリーダが感慨深げに語り出し、愛想笑いに影が差していた。
俺の感覚では初代《十ノ頂》なんて童話のような感覚だったので反応しようにも現実味がなく、もちろん今の状況だって信じられないような状態だが、グリーダがまさか初代《十ノ頂》の一人だなんて思っていなかった。
「ふふ、そんなに怖がらなくてもいいわよ。これをいうとみんなビクビクするんだもの」
いつの間にか、俺の額から冷や汗が頬を伝っていた。
「まあ、今の状況ですら俺には完全に自覚できてません。怖いというか、現実味がないんですよ」
これはまぎれもない本心だ。
ここがどこかもイマイチ理解していないし、ここで生活していけるかも心配だ。
そんな状態で初代《十ノ頂》の一人に会うなんてそりゃあ緊張くらいする。
「正直ね、私はそこらへんにあまりこだわりはないわ。かと言って秘密にしているわけではないけれど、他の《十ノ頂》のメンバーだって誰もが世界を揺るがすほどの力を持ってる。さっき私は言ったわ。世界の危険さを理解していないって。それは、あの子達自身の力が危険を引き寄せる可能性があるっていう意味も含まれてるの。私はそんな肩書きじゃなく正真正銘実力でみんなを引っ張っていきたいの」
グリーダは立ち上がると勢いよく語り出した。
「でも、じゃあなんで指揮官の役割がグランさんなんですか?」
「それは、ザヴァゴが死んだ後すぐにグランが入ってきたからよ。実力があってもわたしには作戦司令なんてできないから指揮官なんてしないのよ」
グリーダはそういうと、また元の笑顔に戻った。
最初は結構警戒していたけど、今は結構話したおかげで少しグリーダのことをわかった気がする。
グリーダはリーダーたるべき者だと。




