一章十一話《お出かけ》
ザインがグリーダに魔法を教えてもらっている頃、ミリアとマーナは人間世界で買い物を満喫していた。
「ねーねー、次はどこ行くー?」
「そうですね...、洋服にスイーツにアクセサリー店を回りましたからね。魔導書店なんかどうでしょうか」
ミリアとマーナの二人は、とても楽しんでいる様子だったが、その背後に忍び寄る気配があることに気づいていない。
訳ではないが、とある理由で今はそれをあえて放置しているのだった。
「まあ、いいんじゃなーい?帰るまでに暇つぶし程度にそこに行こうか」
「うう...暇つぶしって言ったぁ〜」
「ああ、ごめんごめん。そんなつもりじゃないんだけど、その、ね。任務のことが頭から離れなくってさ〜」
そう、この二人は罪人を誘き寄せるために人間世界で買い物をしているように装っているのだ。
元々、マーナが罪人をリストアップしていたので現地に行ってさらっと処理するだけでいいのだが、確実性を求めるのと、ただ単に買い物に二人が行きたかったからと言う二つの目的で今に至る。
「まあ、奴らが行動起こした瞬間フルボッコにすればなーんも問題ないか。それよりも早く行こうよ!」
「えっ?!あ、待ってください」
ミリアはマーナの手を引いてどんどん先へ進んで行く。
「ふっふっふ、今夜はいい獲物が採れそうだな。いくらになることやら」
その背後には金目当てで卑しく笑う罪人の姿があった。
「ここね、魔導書店」
「はい、ここであってるはず...ですが」
いかにも胡散臭いボロボロの建物があった。
「いらっしゃい」
剣呑な雰囲気を漂わせる老婆がカウンターに立っていた。
「すみません。魔導書の購入を...」
「そちらにあるものが商品さ。ま、気軽に触れていいようなもんじゃないやつもあるからせいぜい気をつけな」
ミリアでさえ警戒するほどの覇気のようなものをまとった老婆は窓の外をチラッと横目で見た。
(っ?!気づいてる?)
老婆は窓の外に隠れている男を見逃しはしなかった。
「さて、あんたらさっさと決めないとまずいことになりそうだよ。早くお決め!」
「あ、あはは〜。バレてたか」
まさか、本当にバレてるとは思わなかったミリアはおどけた口調でそう言った。
「ちょっとミリアさん!バラしてどうするんですか」
「いや、つい、ね?」
「ね?じゃないです」
今度はマーナがミリアの手を取って外に出ようとする。
「待って、マーナ」
ミリアがとっさにマーナの手をこちらに引き寄せ抱きとめる。
次の瞬間、爆発音とともに店の出入り口のマーナがいたところは丸焦げになっていて、無残に炭となっていた。
「...かこまれてるね。あんたら、何者だい?見た所只者じゃないね」
老婆はそういうと、マーナとミリアに詰め寄って行く。
「それよりもー、この人たちやっつけるのが先だと思うけど?」
ミリアは相変わらずおどけた態度を保ちながら余裕の表情で言った。
「この状況でも余裕とは、なかなか恐れ入るもんだよ。わたしゃ若い頃は随分とやんちゃをしたもんだけどねぇ」
「あの、まずはどうするんですかこの状況」
マーナは流石に慌てているところで、さらにミリアと老婆の余裕な態度にそれはそれで嫌な予感がすると感じていた。
「まーまー、見ててね。おばさん、マーナ、ちょっと離れててねー。死んでも知らないよー?」
「私に対しておばさんとはね。まあいい、面倒はごめんだよ。全く」
老婆は少し呆れながらも店の奥に入って行った。
マーナはミリアの後ろに隠れた。
「あはは、遠くに離れてって言ったんだけどなー。まーどっちも同じか」
ミリアはそういうと、手を前に掲げた。
「《十ノ頂》龍皇、ミリアが命ずる。狂乱の渦から顕現せし暴虐の獣よ、我が問いに応じてその姿を表せ!汝は血を求むか?!」
その瞬間、ミリアの足元から巨大な円陣が現れ、その中に幾何学模様が規則正しく次々と刻まれて行く。
そして、天空にも同じような模様が刻まれ、天と地の模様に挟まれているという構図になっていた。
これは、魔法陣というものだ。
魔法陣は、高位の魔法を使用する際に魔力の制御を補助する役割がある。
より高位な魔法ほど、必要な魔法陣の数や大きさは増えていく。
天と地に二つの魔法陣が形成され、それがミリアの意思によって呼応する。
魔法陣の中心が光り、そして二つの魔法陣の中心に地上から天空にかけて一筋の光が伸びる。
その光がやがて魔法陣全体を埋め尽くし、魔力が増大する。
「あの、やりすぎじゃないですか?」
「んー、これくらいがちょうどいい気もするんだけどなー」
ミリアはそう言って魔法の形成を続ける。
魔法陣の中から何かの輪郭が現れ、それが徐々に形になって行く。
魔法陣がガラスのように弾け飛び、現れたものの見た目があらわになった。
それは、瘴気を放ち殺気をあふれんばかりに漂わせた黒き獅子だった。
「な、なんだこいつ!」
「て、撤退だ!」
茂みなどに隠れていた男たちは皆逃げようと我先に走って行ってしまった。
「え?逃がすわけないじゃん」
黒い獅子は前足を持ち上げ、爪で何かを切るように勢いよく振り下ろした。
その瞬間、逃げる男たちを次々と風切り音とともに切り刻まれていく。
「あーあ、これは死んじゃったね」
「だからやりすぎって言ったのに」
「いや、別に殺してもいいってベルナードが言ってたから大丈夫じゃない?」
「そうですけどぉ〜」
マーナはもう泣きそうな目になっていた。
「もうさー?そろそろ慣れた方がいいんじゃない?マーナもう《十ノ頂》に入ってから数十年経ってるんだよ?」
「怖いものは怖いんです!」
「うんうん、やっぱりマーナは可愛い」
「ひゃっ!な、何ですか?!」
ミリアはマーナの頭を撫でてマーナはそれにすごくびっくりしていた。
「いやー、これがいつもナーマのものだと思うとついこういう時に撫でたくなっちゃうんだよね〜。あと普通に可愛いし」
「や、やめてください」
そういうマーナも満更ではないみたいなのであまり抵抗はなく顔を赤らめながらミリアから離れた。
黒い獅子はそのまま光となってミリアの体の周りに収束し、そのまま消えた。
「さてと、マーナ、帰ろっか〜」
「そ、そうですね」
ミリアは水晶のようなものを取り出し、魔力を込め始めた。
そして、二人を光が包み込み消えた。




