一章十話《講義》
「まず、基本的なところから教えようかしらね。もう多分知ってるでしょうけど一応の確認よ。あと、私は魔法は得意でも教えるのは苦手だからわからなかったら遠慮なく聞いて」
俺はあの後拠点に戻り、みんなで昼飯を食べ、早速魔法を教えるということでグリーダにあるところに連れていかれた。
そこは、拠点の地下にある色々な器具が置いてあり、まるで何かの実験室のように思える部屋だった。
そして、俺とグリーダはいまお互い椅子に座って俺はグリーダから魔法の事を教わろうとしているのだが...。
俺の真後ろに転がっている人間大の土手っ腹辺りに風穴が空いているいくつもの人形が気になって集中できないでいた。
「って、聞いているのかしら?」
「え?!あ、すみません」
「まったく、別に焦る必要はないけれど、緊張しすぎよ。私は別にあなたを取って食ったりはしないわ」
いや、当たり前だ。
「あの、これなんですか?」
「ん?あぁ、これか」
グリーダは椅子から立ち上がりその人形を持ち上げた。
「これは私が昔魔法の練習のために使っていた人形よ。別に呪われるような代物ではないから安心しなさい」
グリーダはそういうとその人形を置いて椅子に戻った。
「さて、話を戻そうかしらね。まず質問よ。あなたは魔法のシステムを知っているかしら?」
「システム...ですか?」
「そうよ、今の世間だと教養の無い子が多いのよ。まずこれを聞いておかないと何から教えていいのかわからないから」
「そうですか。わかりました。えっと、魔法は空気中に含まれている魔力を体内の魔力器官に呼吸とともに吸収され、体内で自分の使う魔法に適した特性を持つ魔力に変換される、という感じで習いました」
「そう、そこがわかれば教えやすいわね。魔力を溜めるのはわかるけれどどうやって魔法を使うのか説明できるかしら?」
「はい、確か、体内にためた魔力を体の一部に集中させ、その魔力の特性によって特定の事象が生み出される...はずです」
「まあ、だいたい正解よ。私たちの中では例外があるけれどね」
「例外?」
魔法を使う仕組みはすべての種族も共通だと親から教わってきた。
そんな俺からすると例外というのが思い当たらない。
「例外と言っても普通の魔法とシステム的には大差ないわ。ただ、我々のように普通の属性魔法以外にも固有の魔法を使用する者は、属性魔法と根本から違う部分があるということよ」
「違う部分...か」
俺の魔法は確かに他の人とは違くて人間世界にいるときは結構注目されてたりしたな。
まあそれは子供たちの間だけだったけど。
固有の魔法を持ってる人なんて知り合いにも何人かいたからな。
「それで、その違う部分っていうのが...」
そう言ってグリーダは席をまた立って俺の真横に立った。
そして俺の腕をおもむろに掴んだ。
「え、何を、って!ああああああ!」
何か激痛とともに俺の体に入り込んでくるような感覚になり意識が朦朧とする。
そして、視界が霞んできて立っているのもやっとの状態だった。
そして、グリーダが手を離すとその激痛は収まり、普通の状態に戻った。
「な、何ですか?今の」
「今のことかしら?これはね、魔力の拒絶反応よ。固有の魔法を使う者同士の魔力が交わると相手の魔力に拒絶して激痛が走るのよ」
グリーダが淡々と説明しだした。
「まあ、私が一方的に魔力を送りつけたわけなのだから私に痛みはなかったわ」
今の一言でグリーダを殴りたくなったが今殴れば間違いなく殺されるのでやめておく。
「それじゃあ、俺が初めて会ったときに俺の魔力を吸収しましたよね?あれで痛みはないんですか?」
「いえ、痛みはあるわよ?ただ、もう慣れたわ」
「は?」
俺が気絶しそうになったほどの痛みをもう慣れたとグリーダは言ったが俺にはにわかに信じられなかった。
「私は相当な回数固有の魔法を使う者の魔力を吸収してきたのよ?もうすっかり慣れたわ」
常識外れが《十ノ頂》クオリティーだということがここ最近でよくわかった気がする。
《十ノ頂》なんておとぎ話のような感じの認識だったんだがな...。
「それと、詠唱と術式についての知識がどの程度あるのか知りたいからできるだけ具体的に答えなさい」
「え、あっはい。術式は魔法の基盤で基本的な術要素を組み合わせて作るもので、詠唱は精神に術式をより明確に刻むための言葉で別名魔言と呼ばれてる者です」
これは、《十ノ頂》に入る前、学校で習ったことだ。
魔法基礎学科は魔物狩りという職業になるために必要不可欠な教科であり、いまの世間では知らないとまずいようなことも多い。
恐らくこれで間違いは...。
「半分正解。けど、半分不正解よ」
「え?どうしてですか?」
いまの説明で不足してる部分が分からん。
「まず、術式は必ず必要なわけじゃないわ。簡易的な魔法ならそんな面倒な手順踏まなくても使えるもの。こんな風に」
グリーダさんはそう言って指先にろうそく程度の火を出してみせた。
「それと詠唱についてはほぼ正解よ。魔法の詳細な調整を式として組み上げて簡略化させたものを発音させるわ。違う点は召喚系統の魔法を使う者についてよ。召喚時の詠唱は召喚対象との以心伝心、共鳴的な役割を持ってるわ」
「テレパシーってやつですか?」
「そういう事、昨日戦ったミリアの魔物は詠唱なしだったからそこまで深い繋がりはなくて、強い状態じゃなかったわ」
「なるほど」
詠唱の種類も役割も違うのか。
「まあ、実際に見た事ないものを教えたところで理解はあまり深まらないでしょうから、とりあえず、今日はここあたりにしましょう。詳しい魔法の技術などは明日まだここで教えるわ」
「はぁ、了解です」
今日昨日で色々あったが、なによりもみんなの常識はずれっぷりが一番疲れた。
俺は地下から階段を登って拠点に戻ってきた。
「あ、終わったんだね。お疲れー」
ジークが気軽にソファに座ってすごくくつろいでいた。
「とりあえず死にそうです。はい」
「まあまあ、あれでもグリーダまだ優しい方だよ。僕が魔法教えてもらった時は本気で死ぬほどスパルタだったからね...あはは」
そう言ったジークはどこか遠い目をしていた。
一体、ジークの過去に何があったのだろうか。
「ジークさん、何があったんですか...?」
「ん?いやあ、魔法の特訓だとか言ってグリーダに一晩中しごかれたことがあったなーと」
ジークは相変わらずの笑顔で、それでも俺には愛想笑いのように見えた。
「そうだな、ここにいるやつらは全員グリーダに魔法を教えてもらった奴らばかりだ。この《十ノ頂》の中で現在トップだからな」
「あの、ガルムさん。いつからいたんですか?」
不意にいつのまにか話に入ってきてなんの違和感もなく輪に入れるのはすごいと思う。
「というか、グリーダさんってここのトップだったんだ。初めて知った」
「ああ、多分お前だったら殺すのに秒もいらないぞ」
この人たちは会話の中に物騒な言葉を入れないと気が済まないのだろうか。
「というか、他の人たちはどこですか、全然姿が見えないんですが」
「それなら、ナーマはそこで料理してるし、ベルナードとジェノはまた戦いだしたね。あと、ミリアとマーナは人間世界で買い物してるよ。グランは部屋だね」
「へーっ、そうですか、ってえ?!」
なんでナチュラルに人間世界で買い物なんてしてるんだよ!それでも世界の管理者か!
「あ、驚いてるようだけど今更だよ?《十ノ頂》のメンバーたちはみんな基本自由だし、人間世界の買い物に関してはザインの布団や着替え諸々は人間世界から買ってきた物だもん」
「そうだな、俺たちだって目立ちたくはねぇから人間世界やその他世界に行く時は基本魔法は使わないようにしてるからな。そうそうバレることはねえな」
おいおい、なんだそのバレなければ問題ないみたいな理論は。
「そうですか、まあ俺がどうこう言うことでもないんでそこはもういいですけど」
「うん、もうそれは気にしたら負けだと思うよ」
ジークにだけは言われたくない。
「ご飯できる。みんなを呼んできて」
ナーマはそう言って調理場から顔を出した。
「はいはい。ちょっとまってね」
ジークが気前の良い返事とともに外へ駆け出して行った。
「俺も呼んでくるか」
ガルムも外へ駆け出して行った。
俺は怪我をしたくないのでグランさんを部屋に行って呼びに行くことにした。
なんか呼び出しに行ってる途中でひときわ大きい轟音がなったのは気にしないでおこう。
俺がグランさんを呼びに行って後でくるとだけ伝えられてリビングに戻ってくると、ボロボロの格好をしたベルナード、ジェノ、ジーク、ガルムがいた。
「...どうしたんですか?」
「まあ、色々あったんだ」
ガルムは歯切れの悪い顔でそう言った。
「うん、今回のは全部ガルムが悪いかなー」
ジークはジト目でガルムを見つめていた。
「あのね、私たちが戦っているからと言って広域殲滅破壊魔法なんてぶっ放すんじゃないわよ。最悪私たち死んでたわよ」
ベルナードが珍しく(そこまで長くいるわけではないのでわからないが)キレていた。
「そうですね、結構な威力なので今も少しヒリヒリしますよ」
ジェノは穏やかにしゃべっているが内容が全然穏やかじゃなかった。




