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61.

「ぎ、議会に参加ですか……!?」


「うん。まあ今日あったばかりだからね、次に開かれるのは来週だからそのつもりで。変更があったら報せるし、当日は迎えを寄越すから安心していい」


「で、でも私に参加資格は……!!」


「クリスティナは、陛下により『増幅の魔石』を守った王族としてその功績を称え国宝の間への立ち入りを許された身だ。それは僕と同じだけの資格だと思うけれどね」


「それとこれとは違います!」


 確かに国宝の間への立ち入りは、王と王太子だけであとは極々僅かな、許可を得た者だけが立ち入れる場所。

 私があの部屋へ足を踏み入れる許可をもらったというのは、対外的にも大きな功績を立てたからだと誰にもわかる褒美だったと思う。

 だけれど、それは褒美だ。

 私が議会に参加する、つまり政治に参加する資格があるかどうかはまた別問題でしかない。それがわからない兄様じゃないはずなのに、そんな、誤魔化すような言い方をされても私には納得できなかった。


「お前にしてみたら納得できない事だとは思うが、王女としての立場から考えればおかしな話じゃないだろう。市中の視察だって最近になってようやく、とまで声が上がったんだ。……知恵者と名高い『ゼロ姫』がそのまま何もせずに大人しくしたまま英雄の所に輿入(こしい)れでは外聞も良くないだろう?」


「……そ、それは……」


「それに、僕はちゃんとクリスティナにとって無駄にならない時間だと思うからこそ、参加すべきだと思うけれどね。まだまだ粗削りだし直すべき点は多くあると思うけど、さっきも言った通り着眼点は悪くない」


 兄様が私の頭をぽんぽんと軽く叩いて立ち上がる。

 ああ、もうこの話はおしまいだと態度でも示された。これはもう覆らない決定なのだと、兄様はただ優しく私に告げに来ただけなのだと今更知った。


(……私は、立派な王女になりたいと思ったけど、でも)


 でも、まだ何も足元にも手元にも、自分が誇れる実績は何もない。

 ゼロの姫君、そう呼ばれる時に胸を張って前を見る、それだけじゃだめだってわかってはいるけれど唐突に議会へ参加と言われても混乱するばかり。


 いいえ、言われるままに意見書を提出したのだからそこに参加の意思がないなんて誰が信じるだろう?

 すべて兄様はお見通しだったのかもしれない、私が兄様の期待に添えるようであれば舞台を整えて私がどこに出しても恥ずかしくない、ターミナル王国の王女であると輝けるように。


「それじゃあ僕は行くよ、もう少しゆっくりクリスティナと話もしたいけれどね。……またすぐに時間はとれると思う。あまり思い詰める必要はないから、クリスティナはクリスティナのやりたいようにやってみるといい」


「兄様」


「邪魔しようとするのはせいぜいレイジェスくらいだよ。あいつはお前に自立されたら寂しくてしょうがない病なんだから!」


「……もう、兄様ったら」


「そうそう、笑うんだよクリスティナ。その方がずっと可愛いからね。自慢の妹だ」


 兄様が、笑う。

 優しく、いつも見守ってくれる笑顔。


 私はいつもその笑顔に、励まされてきた。


「良いかい、どんな時でも笑顔を忘れてはいけない。僕たちは王族だ、常に誰かの視線に晒されている。どんな時でも俯いてはいけない、笑って見せるんだ。どんなに辛い時でも、どんなに悔しい時でも」


「……」


「嘲笑うのではない、僕らは国の矜持を体現する。だから笑うんだよクリスティナ。泣きたい時は、僕の所においで。ああ、くれぐれもレイジェスの所になんて行ったらだめだ、アイツは監禁とかしかねないから」


 物騒な単語が聞こえた気がする。

 いやなんでだろう、冗談に聞こえないし私もレイジェスがそういうことしそうだなあって少し思ってしまって、笑うに笑えなかった。


 だけど兄様は本当に忙しいらしくて、ちらりと外を見てため息を吐き出して、私の事をぎゅっと抱きしめてくれた。


「僕はお前の味方だよ」


「……はい」


「近いうちに軍部も回るのだろうけれど、その時には僕の言葉を思い出して」


「……兄様?」


「それと、お前が新しい家庭教師と一緒に何か研究を始めるようだけれど」


「は、はい」


 もう行かなければいけないのだろう、早口で矢継ぎ早に兄様は私に忠告をしていってくれる。それを私は覚えなければと思うのだけれど、ちょっぴり自信がない。


「彼はカエルム出身の学者だと言っていたから、近日中に城下の魔石市場に誰か案内をつけて行かせるといい。国から許可が出た人間しか買い付けができない市場だけどね、お前の家庭教師で授業に必要だという事ならあまり大量に買うのでなければ許可が下りるはずだ」


「……! 兄様……!!」


「今のお前なら、いちいち誰かの顔色を窺わなくても良いはずだよ」


 兄様の言葉に、知らず知らず息をのむ。

 ああ、でもだって。私が何かを言うたびに、役に立たない王女がまた我儘を言っているといわんばかりの眼差しを向けられるから、私はいつも俯いてしまって。

 でも、それじゃいけない。いつまでも『でも』とか『だって』って言い訳をしていられる、子供のままじゃいけないんだった。


(私は立派な王女になりたい。……ゼロの姫君になりたい)


 なら、堂々とすべきなのだ。

 兄様が言うように。


 もう私は『残念姫君』と呼ばれて俯いて引きこもる女ではないのだ。


「わかりました、兄様。早速手配したいと思います」


「……うん。ああ、ちょっと面白くなってきたねえ」


「え?」


「これでどんどんレイジェスがやきもきすればいいさ、僕としてはいい気味だと思うからね」


 それじゃあ、と笑って立ち去る兄様を見送って、私は苦笑する。


 兄様にとってレイジェスは幼馴染で学友で、今だって信頼していて将来的には片腕ともなるのだろうに、私のためにああやって心配してやきもきしてきたんだと思うと申し訳なく思った。

 だからその分、私はやっぱりちゃんとした王女になってみせるべきなんだろうと思う。


(レイジェスに見合った女性になりたいからだけじゃなくて)


 王女として生まれ、王族である家族に愛されてきた私が、愛し返す方法がただ命を差し出すばかりじゃないとようやく理解したのだから。


「グロリア」


「はい、クリスティナ様」


「……私の名前で手配を。何か問題があるようならば責任者を私の元に連れてきてくれる?」


「かしこまりました」


 私の言葉にグロリアが笑った。

 

 以前の私ならば、グロリアにすべてをお願いして、寧ろお父様たちを頼って円滑に、問題なく手配が進む事を優先していたんだと思う。

 だけど、そう、私の名前で手配をしよう。

 なんで残念姫君の命でそんな事をしなければと不満に思う役人はきっと後を絶たないだろうけれど、その都度私は彼らの前に『王女として』立って見せよう。


 兄様が言っていたように、微笑んで彼らに王女として再び命じよう。

 私は俯いて、お荷物で、厄介な存在ではない。そんな存在にならず、今前を向いて、この国のためにできる事をしていこう。


 そうして胸を張って、レイジェスの隣に立つのだと決めたのだから。


(ヴァッカスは魔石市場を見てどう思うかしら)


 王族という立場上、私も直接は見た事がないけれどそれはそれは見事なものだという。

 クズ石から輝石まで、それこそ多種多様な属性の魔石が販売されているそこに足を踏み入れられるのはごく限られた人間だ。


 きっと許可が下りたと知れば、ヴァッカスは興奮するんだろうなあ。

 そしてまたサーラにお説教されるに違いない。


 その光景を思い浮かべて、私はそっと笑ってしまったのだった。

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