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47.

 レイジェスに言われて申し訳ないと思いつつも、少しだけ休憩をする旨を伝えればグロリアは直ぐに応じてくれて、私はあっさりと眠りに落ちた。

 その後サーラが起こしに来てくれるまでぐっすり眠ってしまった事に、私は自分が思っていた以上に身体を緊張で疲れさせていたんだなあと反省した。


「……準備、万端」


「ええ、そうね。サーラ、キャーラ、ありがとう」


「も、もも、もったいないお言葉、です……!」


 目が覚めた私は双子に身支度をしてもらって、ヴァッカス殿の到着を待つ。その間に目覚めの紅茶をグロリアが淹れてくれて、ほっと息を吐き出した。

 勿論ヴァッカス殿とは話をすることが前提だけれど、もし光明が見出だせるならばアニーの所にも行って理論だけではなく、その様子を見てヴァッカス殿の意見を聞きたいと思っているから動きやすい恰好を選んでもらった。


(サッカス殿もご一緒してくださると仰ったから、きっと……ヴァッカス殿も緊張せずに過ごしてくださると良いのだけれど)


 あの人は学者としてはきっと優秀なのだろうけれど、人間との距離感が苦手な人。

 そんなようなことをあのパーティの時も聞いた気がするし……。


「レイジェスからは、あの後何か……」


「いいえ、何も。ただ、キャーラが耳にした事によればカイマール殿下が人払いをしてお二人でお話をされておられたようです。探りますか?」


「……え? い、いえ大丈夫よ」


 探るってなにを!?

 あまりにも普通のことのようにグロリアが聞いてくるから一瞬返事が遅れたけれど、……普通じゃないよね?


 それにしてもカイマール殿下とレイジェスが話をしていたって……叔父様の話の後だから変な感じがするだけで、きっと何か別の事だとは思うのだけれど心配。

 後でレイジェスに聞いたら、教えてくれるかしら。

 余計な事を知りたがる面倒くさい女だって、詮索するなって言われてしまうのかしら……だったら今まで通り黙っていたら良いのかしら。


(それじゃだめなんだったら……!!)


 いつものような思考に入り始めたところで私は自分を叱咤する。

 だって、それじゃ本当に何も変わらない。

 私たちは今まで遠回りした分、お互いをきちんと見定めた上でどうするか決めていこうって、一人で勝手にしていたらだめだ。

 それは独りよがりなんだから。


 嫌な顔をされたなら、それはしてはいけないこと。

 聞くなと言うならば、それは彼にとって口にできない話。

 そうやって知っていけばいいだけの話だって頭ではわかっているつもりだったのだけど、気持ちがまだ追いつかないのかもしれない。


「……あとでレイジェスに明日の昼食もこちらで食べるのかを確認してもらいたいのだけど、サーラにお願いしても良い?」


「……当然」


 言い方は冷たいぐらい端的なのに、私の言葉に満足そうに頷いたサーラは仕事を頼まれるととても嬉しそうにしてくれる。

 私が王女としての何か仕事を見つけたら、それを手伝ってもらえたらいいなぁ……まだ具体的には何も決まっていないのが難点だけれど。


(あ、でもそういえば……)


 眠っている時に見た夢。あれは『物語』の中の話だったけれど。

 王女として期待を一身に受ける『ディアティナ』は兄である王太子と共に国をどうやったらより良くできるのかという事について悩んでいたのよね。

 その時、夢の中の『ディアティナ』は……国民全員がもっと豊かになれる事を目標になにかしたいんだって言って……それを重臣たちに、夢見がちだと笑われるんだ。

 誰もがそれを望んでいるけれど、容易ではないことを彼女があまりにもきっぱりと言葉にしたから。


(……ディアティナ姉様は、どう思っていらっしゃるのかしら)


 未来の王太子妃として今も多くの事を学んでいる姉様は、もしかして『物語』よりもずっとずっと前を歩いているのじゃないかしら。

 だとしたら、私は何を目指したらいいのだろう?


(魔力がない私にできる事……)


 うぅん、と小首を傾げるとキャーラが私の傍らで心配そうに手を胸の前で組んでいるのが見えて、私は彼女を見上げる。

 座っている私の目線からだと、キャーラの眼鏡が邪魔をして彼女の表情はあまりわからなかったけれど、もしかしたら泣きそうな目をしているのかもしれなかった。


「どうしたの?」


「あ、あああ、あの。あの。あたし、は……」


「え?」


「あたし、には、あの、お役目を、……いただけない、で、すか?」


 キャーラの問いに、私は目を瞬かせる。

 もしかして、私がサーラばかりにお願いしていると彼女は思ったんだろうか?

 そんなつもりはなかった。


「キャーラには、私のそばにいてもらうつもりで……だめ、だった?」


「い、いえ! ……あ、あのあのあのっ、あ、あたしで、よ、よよ、宜しいんです? か?」


「ええ、今日はキャーラにそばにいて欲しいの」


 当たり前のことだけれど、みんなそれぞれに良い所がある。

 それは私自身にも言える事だけれど、私のそばにいてくれる彼女たちはみんな個性が強いと思う。


 グロリアは勿論とてもよくできた侍女だけれど、身長が高くてとても厳格な雰囲気がするから、初見の人からは敬遠されると思う。

 その分それは牽制にもなるし、大事な場面ではきっと私も含めてみんな背筋を正したくなると思うからとても頼りになる。


 ラニーは大らかで太陽みたいに笑うけれど、堅苦しい所が苦手だというから身分の高い人を前にするとちょっと苦手意識が出るのか、視線を逸らしがち。

 だけどその分、身分が下の人たちとは誰とでも分け隔てなく話せるのは強みだと思う。


 サーラは子爵家の令嬢ということで所作はとても綺麗だけれど、あまり表情豊かな方ではなくて言葉も端的だから人に誤解を与えやすい。

 その代わり、嘘もないから彼女の言葉は信じられる。


 そしてキャーラ。

 彼女は自信がなくていつもどもってしまうけれど。


「私もね、初めての事や異性だけじゃなくて、人と話すのが苦手だから」


「……クリスティナ様?」


「もし、私が怖がって俯いてしまったら、キャーラ、私のそばで大丈夫って言って欲しいの」


 私が怯える事を、彼女はきっと誰よりも理解してくれる。

 そんな優しさを。人の様子を。誰よりも察して、私のそばにいてくれる人だと思う。


「か、かか、かしこまり、ました……!!」


「よろしくね」


 ぐっと握り拳を作ったキャーラが笑顔になってくれた事が嬉しくて、私も笑えたと思う。

 やっぱり、一人じゃないって、とても良いなと思う。

 レイジェスがもし明日も一緒にお昼を食べられるようなら、この事を話したいな。くだらないと思われるかもしれないけれど、私にとって大切だと思えた気持ちを知ってもらえたら、嬉しいから。


「クリスティナ様。モーネンご兄弟が到着いたしましたが、こちらにご案内してもよろしいでしょうか?」


「ああ、グロリア勿論よ。キャーラ、お茶の準備をお願いね。ラニーも同席をよろしくね」


「はい、クリスティナ様。わたしなんかがいてもやっぱり役に立てるとは思いませんけどねえ」


「誰よりもアニーの事を知っているのは貴女だもの。何か間違いがあった時は遠慮なく発言してね」


「それがクリスティナ様のお心に添うなら」


 グロリアに連れられて、二人の青年が部屋に入ってくる。

 サッカス殿は堂々と、ヴァッカス殿はどこか落ち着かない様子で。


 それでも二人は私を見つけると、すぐに綺麗なお辞儀をしてくれたのだった。

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