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45.

 なんとなく、お互いに気持ちを吐露することができたと思った。

 だけどそれは多分、自分たちの年齢に少し足りないくらいの時間分、拗らせてしまっていると少なくとも自分の気持ちに関しては言い切れるので全部を言い切れた気はしないし、言える気がしない。


 かといって、じゃあお互いに悪い感情ではありませんでした、すれ違っていたからこれで万事解決!! とはいかないのが現状なのよね。

 仲直り……とこの場合は言うのかしら?

 でも、じゃあここからどうしたら良いのかしら。


 お互いにやり直しましょう、そう言ったのは私だけれど、私たちはもうすでに婚約者という立場になっていてどうやって気持ちを伝えていけばこれまでの想いを伝えきれるんだろう?

 いいえ、その前にこれからはどんな態度でレイジェスと接したら良いの?


「え……っと、あの」


「なんだ」


「……座りましょうか、グロリアももう戻るでしょうからお茶を淹れなおしてもらいましょう」


「お前がそれを望むなら」


 短くそう返すレイジェスも、どことなく居心地が悪そう。

 ……私たちは、ひどく長い遠回りをしてきたと思っていいのかしら。

 お互いに、あまりにも言葉が足りなかった?

 

 まあ、そうかもしれない。

 だとしたらこれからもお互いに多弁に気持ちを語るなんて柄じゃない。

 そうなると、またこんな風にお互いにボタンの掛け違えみたいなことが起きてこんがらがって大変な思いをするのかしら。


(……それは、困る、かも)


 少なくとも、私たちはいずれ結婚するのだろうと思う。今の段階では。

 レイジェスは叔父様にもそう宣言しているようなものだったし、私の事を手放すつもりはないと何度も言葉にしていたから。


 でも、レイジェスが私の気持ちを綺麗で可愛いものと思っているように彼が私に対して夢見がちになっている部分はきっとあると思うから、現実的に……お付き合い? とは違う気がするけれど、お互いを見つめ直したら幻滅する事もきっとあると思うのよね。

 私の方がレイジェスに対してどうこうっていうのはないと思う。

 あれだけ嫌われるためにって彼が行動しても私自身呆れる位、彼の事を諦められなかったんだからそこまで変化はない気がする。


「ねえ、レイジェス。少し思ったのだけれど」


「なんだ」


「叔父様の言葉を、私なりに考えてみたの」


「……なんだ」


 そう、あの時はあまりの事にびっくりして追いつかなかったけれど。

 二人の会話に、相槌を打つくらいしかできなくて、でも冷静になってみたら思ったことがあった。


「レイジェスは、きちんとそのつもりがないと言ってくれたわ。だけれど、国益として見た時に魔力のあるマルヴィナと、魔力の無い私で考えた時に優秀な騎士である貴方の後継を得るならば多くの人はマルヴィナを推薦すると思うの」


「……」


 それは、私たちの感情を無視した事だと思う。

 だけれど、私たちには地位という義務が存在する。


 私は王女として。

 彼は騎士として。


 それは、国のためにどちらも尽くすべきであり国民を守るものであり、それ故に個よりも全を優先すべき時が存在して然るべき。

 少なくとも、私は王族教育としてそのように学んできたから、自分で言葉にして少し寂しいけれどそれが現実だと受け入れている。

 勿論、レイジェスもその事は重々承知しているからとても不満そうではあるけれど、否定はしなかった。


「万が一、ディミトリエ皇子、またはカイマール殿下が私を望みそれに相応たる約束を持ってこのターミナルに貢献してくれるというならば、貴族院も国民もそちらを支持すると思うわ。そこまであちらが望む価値が私にあるかどうかは別として」


「……ああ」


「そうなれば、王家はレイジェスに対して補填としてマルヴィナだけでなく領地と栄誉、……そうね、永代貴族として、爵位も与える事になるでしょう」


 妥当なところとして考えたけれど、言っていて私自身の価値って何だろうって笑ってしまいそう。知恵者だなんてとんでもない、買い被りなんて説明できるわけもないし。

 転生だの物語だの、説明するにはあまりにも荒唐無稽すぎるもの。


「でもレイジェスはそれを望まない、……そう思っていいんでしょう?」


「先程も、俺は言ったはずだが」


「ええ、ただの確認よ」


 不機嫌な様子を隠さないレイジェスに、私は少しだけ慌てる。

 疑ったわけではない、というか……まあうん、正直なところ信じ切れてはいないのだけれど。レイジェスの感情が、私と違うというならそれがどういうものなのかよくわからないんだもの。

 執着? それはどちらかと言えば私の方だと思う。

 どんなに足蹴にされても追い縋るだなんて、そう考えると自分でも呆れる。何度目かもうわからないくらいに。


「私もレイジェスと、きちんと向き合っていきたいと思った事は先程も言った通り、真実よ。王家の名前に誓っても良いわ」


「……そんな真似をしなくても、疑わない」


「ありがとう」


 少しだけ、ほっと力を抜く。

 そうよ、ここまではわかりきったこと。


 叔父様の言葉によれば、公爵としての叔父様の立場で話されたあれは、他の人間も考えているであろうということならば何かが起こる前に私は行動を起こすべきなんだ。

 レイジェスがする事は何もない。


 私が魔力のない『残念姫君』という認識の人々からすれば、レイジェスの隣に立たせるよりも他国にやって利益を得る方が断然お得。

 それを覆さなければならない。


 私が、『ゼロの姫君』としての立場を強めるにはどうするべきなのか?


「まだ具体的な事は何一つ決まっていないけれど、私は国内で立場を強める必要があると思うの」


「……」


「まずは王女として、社交界に顔を出すこと。王族の一員として魔力を使った魔道具使用は無理だから、政策の面で何かできればとは思うけれど……後は今思いつくのは、慰問に行くくらいかしら」


「無理をする必要はない。どのように要請されようと、俺はお前以外を娶るつもりは」


「国王陛下の命となれば別でしょう。騎士としての貴方も、アルバの名を貰った立場としても、……ターミナルの国民としても、それを断ることは出来ない」


「……」


「同じように、私も。ターミナル王国の、王女として国益のためにそうせよと命じられれば諾としか答えられない」


 それは、私たちに課せられた義務。

 国を守るために、何が最善か。


 その上で、私たちは私たちの心を守るために、何をすべきなのか。


「レイジェス、……元々私は、立派な王女として……『ゼロの姫君』として、立場を強めようと思っていたの。貴方が本当に好いた人と結ばれるために、円満に婚姻破棄をするにはどうすれば良いのかと思った結果だったのだけれど」


「馬鹿な」


 吐き捨てるように言われて、私は苦笑する。

 だって、貴方の気持ちを知らなかったの。今もまだ、知ったとは言い切れないけれど。


 それを責めることは出来ない。

 私は、今まで目を背けてきたと知っている。

 今だって、レイジェスの心がいつ離れるのだろうと思うばかりで、周囲の人たちにどんな努力も無駄だと笑われるあの瞬間がぶり返すのではないのかと疑ってばかり。


 そんな私なのに、目指すのが立派な王女なんだから笑ってしまう。

 だけど、今はそんな内心を表になんか出せるわけがない。


「ええ、目的は変わったけれど、それまでにやらなければならない事は変わらない。レイジェスからすれば私は相変わらず、どんくさいだろうし考えも足りないように見えるだろうし、意気地なしだと思うし、弱々しいし、それがみっともないかもしれないけど――」


「全部が全部本心じゃないぞ、言っておくが」


「――……それでも、私を信じて、とは難しいかもしれないけれど。貴方はただ、親衛隊隊長として、いつも通りでいてください」


 これは、私の戦いなんだ。

 王女としての、私の。

 残念姫君ともう二度と呼ばせないための、私自身が立ち向かうべき戦いなのだ。

 

 でも、もし許されるならば。


「そして、……時々で良いから、私の婚約者として、私のために時間をください」


 愛をくださいなんて言えない。

 今もまだ、貴方の心を図りかねる私の弱さを許して欲しい。

 信じたいのに信じれない弱い私を、許して欲しい。

 それでも、好きだと思っているこの心を、認めて欲しい。


 そんな気持ちを込めて私が微笑むと、レイジェスは何とも言えずに眩しそうに目を細めたのだった。

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