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24.

 ラニーは本当にいいのか困っていたようだけれど、アニーに会わせてくれることになった。

 侍女を全員連れて歩くのもおかしな話なので、今回はサーラがついてきてくれることになったんだけど少し、不満そうだ。

 私の部屋は城内でも奥まった王宮内にあって、厩舎は当然もっと外。

 そこに行くまでに何人かすれ違ったりしてまあいつもの言葉も聞こえてきたので、もしかすればそれが嫌だったのかしら。


 そう思って私がサーラに隣に来るように言えば、彼女はすぐに応じてくれた。


「どうか、なさいましたか」


「サーラ。ねえ、もしかして途中で聞こえた私に対する言葉が原因で、そんな顔をしているの?」


「……顔に、出てますか?」


「なんとなく、だけれど」


 サーラは基本的にあまり表情に出ないし自分が嫌なこととかあまり言ってくれない。

 私の気にし過ぎなのかなぁと思うのだけれど……でも嫌な思いをさせたくはないから、こうして聞いてみるのは大事じゃないかな、と思って。


「クリスティナ様のことを、『残念姫君』と呼ぶ連中と、『ゼロの姫君』と呼んだ人たちの顔を、覚えた……です」


「……どちらもサーラは好きじゃない呼び方なの?」


 ゼロの姫君。

 それは私に対する尊敬とか、憧れとか、まあそういう御大層な名目だと思うから嫌なものでもないと思うけれどサーラは違ったみたいだ。

 どうしてだろうと私が彼女の方に視線を向けると、サーラは前を向いたまま、ぽつりと言った。


「当たり前だけど『残念姫君』は、論外。だけど、『ゼロの姫君』も、ダメ。クリスティナ様のこと、馬鹿にしてるのと変わらない」


「そ、そう?」


「だって、それは……まるで、クリスティナ様がなにも持ってない、みたいだもの」


「……」


 国王の娘。

 だけれど、生みの母はすでになく。

 家族の愛は、ある。それは義務とか体裁の為じゃない愛だって私は信じているし、きっとそれは正しい。


 だけれど、他の人から見たらどうだろう?


 家族の中でただ一人の銀髪を持つ娘。

 家族の中でただ一人、魔力の無い娘。


 一時期、あまりにも私が他の王族と違うものだから、側室がよそ(・・)の男との間に作った娘だから魔力がないのでは……と噂まで流れた。私の耳にまで届くんだから、相当だったに違いない。

 当然、不敬な話だから大っぴらに話されていたわけじゃないし見つかれば大きくとがめられたことだろうけれど、それこそ人の噂は止められない。

 似ていないことも、魔力がないことも、それに拍車をかけた。


「大丈夫よ、サーラ。私は何も持っていないわけじゃない。ゼロなのは、確かなの」


「クリスティナ様」


 けれど、その噂を大きく否定してくれたのは、お母様だった。

 私の実母についてあまり話が出なかったのは、お母様にとっての罪悪感だったのだと。

 側室だった女性の名誉を傷つける発言をするものを、第二王女クリスティナの名誉を汚す者を、王家は決して許しはしないと宣言してくれたのだ。


 まあ、『残念姫君』って呼ぶのを止めない辺りは懲りてないっていうか、そこは私の態度も悪かったんだろうけどね。

 その宣言のおかげで私と、私の実母に対する不名誉な話は聞こえなくなった。


 最近、ゆっくりお母様が私の実母について教えてくれた。

 お母様が抱えた罪悪感も、弱さも。

 王妃として立つお母様は、なんでもこなせる完璧な女性だとばかり思っていたし、それこそディアティナ姉様の太陽を凌駕する太陽? みたいに本当に憧れで尊敬で、見上げるばかりの相手だと思っていたから衝撃だった。


 まだ、この話は他の人にするにはちょっとだけ気持ちの整理が追いつかないけれど。


 私の銀髪は、実母譲り。

 魔力がないのはどうしてか、なんて多分前世の記憶を取り戻したのが理由じゃないかなと私は思うから、そこは気にしていないけれど。

 身体能力が低いとか、コミュニケーション能力が低いとか、人望や人脈がないとか、もうその他諸々は自己責任。そう思えるくらいに、私は大人になったの。


「ゼロだから、前に進むのよサーラ。今の私には、貴女たちがいてくれるもの。キャーラと一緒に支えてくれるのでしょう? グロリアにも私、たくさんのことを教えてもらいたいもの」


 ゼロの姫君。

 魔力がない、残念な姫君から転化したその呼び名。


 確かに、ゼロってあんまり良い感じでもないよね。

 なにもない、無を表す数値。

 だけど、何もないから。空っぽだから。そこから、新しくすることは、できるんじゃないのかな。だとしたら、この名前もそんなに悪いものじゃない気がする。


 だけど、私は弱虫で泣き虫だから。 

 前を向いて歩くのに、一緒にいてくれる人が一人でもいてくれたら、心強い。


 それが本当は、……レイジェスだったらいいなと、まだどこかで願っている。

 それこそが私の弱さなんだろうなと思うけれど、この想いはやっぱり捨てられない。捨てられないまま、大事に大事に、私の中にしまい込んでいくんだ。


 私が立派な『ゼロの姫君』になれた時、その想いは何重もの鍵をかけた箱にしまわれて私の中で思い出になってくれるに違いない。


 私の宣言に、サーラが少しだけ目を大きく見開いて力強く頷いてくれた。


「……も、勿論! です……!!」


 顔を見合わせて、お互いにちょっとだけ笑う。

 私たちの会話を聞いていたであろうラニーが、笑った。


「あんたたち、イイコだなあ!」


「む……アタシはいいけど、クリスティナ様に、不敬。そういえば、ラニーは何歳、なの」


「わたしかい? わたしは今年で二十三さ!」


「なら、アタシの方が年上。敬いなさい」


「えっ、えええ!?」


 まさかの! サーラ(とキャーラ)が年上だった……!!

 ラニーもびっくりした顔をして思わず立ち止まっちゃったし、私も目を丸くする。


 だ、だってだって!

 双子の侍女は、見た目だけなら私と同じくらいか年下か。

 そんな感じだったんだもの!!


「え、じゃああんたたちも実は結婚してるとか婚約者がいるとか、そういう……?」


「いない。ラニーは?」


「あー、わたしもいないねえ」


 幾分かほっとしたような顔をしたラニーが、また歩き始める。

 大分外に近づいているからか、あまり顔を合わせたこともないような文官や武官の姿もあって面白い。

 彼らからしたら、私のような女がこの国の王女だなんて気が付かないんだろうなあ。

 せいぜい、どこかのご令嬢が護衛武官と侍女を連れて暢気にお散歩、くらいかしら。


「わたしはあんまり身分が高いわけじゃないんで、あっちの一般厩舎の一角を借り受けてるんですよ」


「そうなのね、広さは足りているの? ……怪我の後遺症なら、あまり狭い所は好ましくないのでしょう?」


「よくご存知で。幸いにもここの厩舎の管理者たちは馬だけでなくランドドラゴンの世話もしたことがあるということでアニーも警戒は解いていませんが安心はしてるんです。さすが王城の厩舎だなあって思いましたよ!」


 にっかと大きく笑顔を見せたラニーに、私も笑顔を返す。

 ラニーにとって家族同然のパートナーが安心して過ごせているなら、良かったなあと素直に思うの。

 まあレイジェスが彼女を連れてきたのだから、そのパートナーを無下にするとは思えないしきちんとしたところを紹介もするだろうし、厩舎の担当官たちにもちゃんと言ってくれているって思うけれどね。


 できたら、その怪我について私も何か協力できたら良いのだけれど……。

 今のところ思いつくことがない。せめて厩舎とかで不満があれば、私の名前でどうにかしたけれどそれもなさそうだしね。

 さすがレイジェス、なのかな。ちょっとそう思って私はこっそり苦笑するしかなかった。

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