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13.

 お父様が侍女については約束してくださったので、信頼できる人が来てくれることだろう。気が合う人だといいなあ。

 新人侍女についてはお父様の言う通り、まずそれを指導する立場の人に意見を聞くべきだった。これは私の見識不足というやつね。

 なんでこんな単純なことに思い当たらなかったのかしら。


 これからは『姫』としてそれが“どうしてなのか”を理解した上で人を使っていく、ということを実践していかなければ……。

 理屈や道理を知らずに偉そうにしたってメッキが剥がれるだけだし、それじゃあ意味がないものね。立派な王女になるって宣言しておいてそれじゃあんまりだ。


 私はようやく自分の部屋に戻って一人になれたことに、ほっと息を吐き出して考える。


(お父様からレイジェスには言っておいてくれるっていうし、ちょっとほっとしたなぁ)


 まあ王女の専属護衛をつけるにあたって、直接王女が任命するわけじゃないんだから親衛隊隊長に対して国王が命じるのは当たり前なんだけど。

 私とレイジェスが“婚約者”だけに、やっぱり一言くらいは……必要じゃないのかなあ、大丈夫かしら。


 でもだからって一人で軍部の方に足を向けるのは怖いし、かといって誰か侍女を呼んで……なんて考えられないし。

 レイジェスを私の部屋に呼んで話をする? もっと無理!!


 そりゃ私は婚約者だし、それ以上に仕えている国の『姫』だからね。来てくれるでしょう。来ない選択肢はないでしょう。

 だけどどう考えたって『仕事中に呼び出すとかこっちは暇じゃないんだ』って冷たい目で訴えられるとか怖くてそんなのできるはずないしその状態で相談とか無理。無理!!

 声に出さなくても目でモノを言うっていうか……とにかく、今までもそんな感じだったから。

 あっちから来てくれれば助かるけど、私の部屋を訪れるのだってあの婚約成立からだし……。あくまでご機嫌伺いっていうか、監視っていうか、そういうつもりだろうしね。


(まぁ、それは……うん、いつまでもそうじゃいけないだろうから、これから改善していくとして)


 苦手意識とか、子供の頃の勘違い、もあるかもしれない。

 私もレイジェスも、もう小さな子供じゃない。

 互いに立場もある大人で、それ相応の振る舞いが求められているんだってもっと自覚して相手のことを尊重しなくては。特に私は王女なんだから、怖がってちゃいけない。

 まあ、周囲から役立たずの王女って思われていた分、負い目も強いんだと自覚はしているから……。

 どうせなら、私の『専属』予定の侍女と話し合いをして、ちょっとした経験を積むためにその人を連れてレイジェスのところに行くのも良いかもしれない。言葉を交わせなくてもいい、彼の姿をちょっとだけ見るだけでもいい。

 今までの私からしたら、大きな一歩を踏み出すチャンスかもしれない。


(ああ、でも……お父様が選んでくれた侍女と合わなかったらどうしよう)


 お父様ならきっと大丈夫という信頼があったけれど、お父様が“良い”と判断したからって私とイコールで気が合うわけじゃないのよね。

 勿論向こうはお仕事だから、不満があってもそれを飲み込むだろうし、私がベテランがいいと言ったのだからそれを態度に出すこともそれで私に対してどうこうなんてこともないってわかってはいるけど。

 プロの侍女っていうのも言い方が変だけれど、そういう人が来てくれるんだろう。

 でもできたら、私としては公私ともに相談ができたり安心できる相手がイイわけで……いや、お父様にはそのことも含めてちゃんと言ったんだから大丈夫!!


(会う前からこんな後ろ向きな悩みを抱えているって知られたら、幻滅されちゃう)


 どんな相手かもわからないけれど、少なくともお父様に、国に忠誠を誓う侍女だろう。

 だとしたら、王族の姫君である私の専属侍女になると思うなら、どうせなら誇れる姫君の方がいいに決まっている。

 まあ、『残念姫君』の噂は城内の大抵の人間が耳にしているのだから、今度はそれを『ゼロの姫君』として塗り替えて行くんだ。そうするって自分で決めたんだから!


 そもそも冷静に考えたら、『残念』と思われているマイナススタートなら私が目指す『理想の姫君』を完璧に演じることができなくても、なんとなく、とりあえず! 周囲が思っていたよりは良い姫君なんだって見せることはできるんじゃ……?


(そうよ……根暗で引きこもり、魔力もないお荷物姫。それが私の『残念姫君』のイメージ! ……って自分で言ってて悲しくなるな……!!)


 とにかく、私が感じている『残念姫君』のイメージが正しいならば、私が普通の(・・・)姫君として振る舞えば振る舞う程、周囲は「あれっ? 思ってたよりも『残念姫君』じゃない……?」って思うってことじゃないかな?


「あっ……はい!?」


「失礼いたします、王女殿下。国王陛下より命じられた者が来ておりますが入室させてもよろしゅうございますでしょうか」


「勿論です。ありがとう、お役目ごくろうさま」


「……ハッ!? はい!!」


 ノックの音に思わず変な声を出しちゃったなと思って反省したから、ドア越しに声を掛けてくれた兵士に“優しいお姫様”のイメージでお礼を言ったんだけど……今までも言ってたけど、あれ? いつもと反応が違うな?


 まあ、それはともかく。

 お父様から命じられた人ってことはきっと希望していたベテラン侍女に違いない。

 もしかして外の兵士と何かあったのかしら?

 ……首を傾げる私だけど、当然答えは出ないままドアが開いてそこには初老の、背筋がしゃんと伸びて、凛とした侍女が入ってきたから私も思わず立ち上がって出迎えた。

 即座に「王女殿下は、どうぞそのままで。わたくしめ如きの為に、お立ちになる必要はございません」って(たしな)められちゃったけど。


 あれ? この侍女、ものすごく背が高くない?

 私の部屋の外にいる男性兵士さんと並んでも遜色ない高さだったような……城内で見かけた中でも女性としては抜きんでて背が高いかも。

 今までお父様のところで見かけたことがない女性だけれど……。


「お父様に命じられて来たということだけど」


「はい、さようにございます。陛下により本日今この時より王女殿下の専属侍女となりました、グロリア・ドラグノフと申します。どうぞグロリアとお呼びくださいますよう、お願い申し上げます」


「グロリア・ドラグノフ……ドラグノフ?」


 深々とお辞儀をしたグロリアの表情はちょっと見えないけれど、私はその名前を繰り返してちょっとだけ、気になった。

 聞き覚えのあるその家名は、あの謀反の時に私を気遣ってくれた老騎士の家名だったのではないかしら。


「グロリア、ジェリック・ドラグノフという男性は貴女のご家族かしら?」


「はい、夫でございます。先日の事件の折に、畏れ多くも王女殿下の護衛団の一員としてあの夜におりました」


「ああ……そうなの、そうなのね。グロリア、貴女に言うのもおかしな話かもしれないけれど、どうかジェリック・ドラグノフに私がお礼を言っていたと伝えてもらえないかしら」


「……お礼、で、ございますか?」


「ええ」


 驚いた、とは思いきり顔に出さなかったけれど、少しだけ眉を(ひそ)めたグロリアにまずかったかなと思うけれど。

 私は、あの日……声を掛けられて嬉しかったんだと落ち着いてから考えて、気が付いた。

 あの日まで、私はただの『残念』な姫君で、みんなの期待とかそういうものとは真逆を走っていて、自分の記憶の中にある謀反についてばかりに一杯で。

 周囲との温度差も何も考えずに突っ走っていたから、余計に私にみんながっかりしていたんだと思う。


 だけど、あの日、あの夜は、私は独りじゃなかった。

 いいえ、実質はまあ、その……謀反がもっと大掛かりだったら、私に構わず逃げてとか言っていた段階で、それを彼らに了承させていた段階で独りぼっちだったとも言えなくはないんだけど。


「ジェリック・ドラグノフは私に、唯一声を掛けてくれた人でもありました。きっとみんなを代表して、私がなにをするのか、覚悟があるのかを確かめたかったのだと思います」


「……」


「あのような危険な任務に、いいえ任務だからこそ彼らはあの場に残ってくれたのだと理解はしていますが、それに付き合うだけでなく……彼は、ジェリック・ドラグノフは、私に辛くないかと気遣ってくれた。その優しさを、私は覚えています」


 そう、辛くないかと、問うてくれた。

 あの時はいっぱいいっぱいだけれど、それは、間違いなく彼の優しさだったんだと思う。


 その時に私はなんて答えただろう。

 大丈夫、と彼の方を見向きもしなかった気がする。

 

「あの時の私は、あまりにも……余裕がなかった。姫として、やれることをやっていると、ちゃんとしていると思っていましたが。気遣ってくれた彼に、ありがとうと言うこともしていなかったのだと思い出してちゃんとお礼を言わなければと思っていたのにこうして時間だけが過ぎてしまって。本当に申し訳ないと思っているの」


「……」


 グロリアは、答えない。

 そうよね、家族からしてみれば危険な任務にあえて『老兵を』なんて結論を出して残した私の話なんて聞きたくないのかもしれない。

 お礼を言いたいならば、気が付いた時に呼べばいいのにって思っているかもしれない。


 でも「ありがとう」を言うためだけに呼び出すなんてできないし、残念姫君に呼ばれたと知れれば迷惑がかかるかもしれない。

 会いに行くには一人で出歩くわけにもいかないし、かといって不仲な侍女たちにお願いするのも気が引けた。


 だからこれ幸いに……って、ああ私は勝手だなあ。

 嬉しくてついついはしゃいだ自分に、呆れかえる。

 思わず目線を落とした私に、グロリアが顔を上げたのが気配でわかった。


「……王女殿下、いいえクリスティナ様。お傍に寄ることを、お許しいただけますでしょうか」

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