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12.

「――クリスティナ?」


「あっ、いえ。申し訳ございません、お父様。少々、ぼうっとしてしまいました」


「……やはり、思い出すと辛いか。当然であろうな……あの機械兵にお前のことを覚えさせる良い機会だと思ったのだ。許せ」


「いいえ、お父様、どうか謝らないでください。私は何ともありません」


 ちょっと思い出していただけで、怖かったことはもう過去の話なのだから。

 そういう意味では確かに、さっきも少し体が震えたし怖いという感情そのものがきえたわけではないのだけれど、別にそれに振り回されるほどかと問われるとそうではないと思うし。


「確かに、あの時は恐ろしい思いをいたしましたけれど……ファール隊長、いいえ、レイジェスが……助けて、くださいましたから」


 線引きをしなくては。

 そう思うけれど、ここで彼のことを役職で呼べばお父様はきっと、私と彼の婚約に対して待ったをかけてしまうだろう。

 国王として、褒美を問うた結果だとしても、お父様はお優しい方だから。

 功績ある身は私も同じ、と言い出してしまうことは簡単だし多くの人は納得もするかもしれない。

 だけれど、王族として、その長として約束したことを反古することはあまりにも問題として大きすぎる、そんな泥をお父様に被らせるわけにはいかない。

 これがただの貴族だったら、どれだけ楽な話だったろうと思うけど……『もし』『たら』『れば』と考えるのは、昔から思い過ぎて無駄だともう知っている。いくらそんな風に考えても、現実は変わらないのだから。


「……そう、か」


「お父様も兄様も、“増幅の魔石”も全てが無事です。あの日私の護衛として残ってくれた兵のみなも無事で、これ以上ない結末であったと思います。国民には確かに不安を……感じさせたかもしれませんが、まだ挽回はいくらでもできる、そのように思うのです」


「ああ」


「ですから、私はこの部屋を恐れはいたしません。あの日のことを恐れることもございません。ターミナル王家の一員として、凛然としてありたいと思っております」


 私が姫らしい言葉で返すと、お父様がちょっと困った顔で笑う。

 ……娘としては、可愛げのある言葉ではないと思っているし、それは理解している。でも、私はあまり器用ではない、というか不器用なので。


 家族の前でも、いいえ家族の前から始めなくちゃ。

 良き、王女であるということ。


 そう、人々が望む『ゼロの姫君』であることを上手に演じることを。


 お父様は、そんな私の浅い考えに気付いていると思う。だけど、何も言わないのはそれが王家としては必要だと国王として判断していらっしゃる……んだと思う。


「侍女については理解した。お前の希望に沿う人材を今日にも向かわせると約束しよう。新人侍女についてはその熟練の侍女と話し合い、雇う人数を変えれば良いのではないかな。何も一人と絞る必要は感じないからな」


「ありがとうございます、お父様」


 そうか、一人じゃなくてもいいんだ……二人もつけてもらうのが申し訳ないって思っちゃってたけど、私専属だからって少人数は少人数で私の姫としての立場がないのかな。

 お父様としては私が安心できる環境を作ってあげたいと思ってくれているんだろうけど。本当に、優しいお父様だなあ!


「それと、護衛兵についてだが。……やはり、レイジェスに任せるのが一番だろうな」


「はい。私も、そう思います」


「レイジェスには話してあるのか?」


「いいえ。まずはお父様にと思いましたから」


「そうか」


 にこりと笑ったお父様は、ちょっと安心したみたいだった。

 私が今までのように引きこもることを案じていたのだろうか、それともレイジェスとの婚約で戸惑う私を案じていたのだろうか。どちらにせよ心配をかけていたことは確かだから、……安心してもらえるよう、頑張ろう。

 何せお父様の、というよりも国王が褒美として尋ね、応えた……いわば国公認の婚約。これを穏便且つ円滑に私とマルヴィナをチェンジ、というのは体面的には色々問題があるわけで……。

 家族のみんなも納得、軍も国も納得、そしてレイジェスが幸せになる。

 なかなか難題だけれど、私としてもただ我慢して生きていくのは辛いだけだ。家族にも……こうして心配をかけているのだから、せめて……『私が我慢すれば良い』なんて考えで誰もが不幸になる結婚をすることはないと思うの。


 私が努力をすれば、きっとみんなそれなりに満足する結末を迎えられるんじゃないのかな。それがまだ、具体的に何をどうしたら、なんていうのがわからないけど……。


(そう、とりあえずは私が『残念姫君』から名前だけじゃない、ちゃんとした『ゼロの姫君』として表に出れば)


 まずは、そこから。

 お父様が、私の頭を撫でてくれる。温かくて、大きな手。それが嬉しくて、安心できて、私は心から決意する。


「お父様」


「うん?」


「私、……この国に恥じぬ姫として、『ゼロの姫君』として。立派になってみせます」


「クリスティナ。何もそんなに気負う必要はない。確かにお前に負担を強いたことは事実だし、軍部や一部の貴族たちがお前をそうやって担ぎ上げ、民衆の関心をそちらに向けようとしていることは知っている。だがそれでお前が無理をすることは、本意では」


「いいえ」


 お父様が私を案じてくれる、その気持ちが嬉しい。

 だけど、……そう、その優しさに甘んじていては、私自身が成長しない。

 成長しないままでは、何も変えられない。もう私を助けてくれるような“記憶”も“知識”もない。

 それでも私が望むのは、私の好きな人と、私の大切な家族の幸せ。

 それが、私自身が不幸にならないことを含むのであれば、私は私を幸せにしなければならない。


 愛されず憎まれる、国のための結婚よりも。

 国のために尽力し、愛する人をその人が愛する人の元へ堂々と行ける権利を返そう。

 あの人が笑えるように。

 そうなれば、あの人はより一生懸命に、一心に、今でもそうだけれど今以上に王家に仕えてくれるだろう。

 従姉のマルヴィナだって悪い気はしないはずだ。なぜか美貌も権力もある身でありながら、今も婚約者がいないのはそういうことかもしれないのだから。そこは、まあ、確認してみないといけないなとは思うけど。

 マルヴィナだって私と同じで幼い頃からレイジェスと接していて、何度もかっこいいと言っていたんだから憎からず思っていたんじゃないのかしら? 彼女には兄がいるのだか

ら婿養子を取らなければならない話でもないし、浮ついた話も耳にしていないし、……ああ私ったらレイジェスのことばかり考えて、マルヴィナの都合をまるで考えていなかった! なんて酷い従妹だったんだろう。

 ……今度会ったら、それとなく聞いてみよう。彼女は良くも悪くも身内には嘘を言わない人だから、きっと答えてくれるはず。


 そちらがまとまれば、姉様は私が利用されたと憤慨せずに安心してカエルムで過ごせるし、兄様もお父様もお母様もみんなみんな、安心してくれるはず。

 そして穏やかに婚約破棄をした私にそう縁談は続かない。表向き傷心だからということでこの件を騒がれたくないから地方で静かに過ごしたいと言えばきっと誰もが納得するに違いない。

 その時、心許せる仲となった侍女が付いてきてくれたなら寂しくないはずだ!


 将来のことまで見据えた大計画!

 我ながら細かいところはさっぱりだけど、まぁまぁ悪くない人生設計だと思う!!


 そうして私が我慢するのは、その最後の一瞬だけ。

 最後の最後……レイジェスの手を離すその瞬間だけでいいように。


「大丈夫ですわお父様。幸せになれるよう、このクリスティナ……尽力してまいります」


 言い切ってみせた私に、お父様も少し安心したらしく微笑んでくれた。

 そうよ、幸せの形は人それぞれ。今、私が思い描いた計画だって当然完璧とは程遠いけれど、『このまま』よりはマシなはず。


 だけど、それなりに収まりのいい形がきっとあるんだからそれを見つけて実現させるんだ!

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