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魔力ゼロの転生姫君~もう『残念』とは言わせない!~  作者: 玉響なつめ
本編

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10.

「……専属の侍女と護衛武官、か」


「はい。どう思われますか?」


「良いと思うが。……どういう心境の変化か、などとは聞かぬが花だろうしな?」


「……申し訳、ありません」


「お前が謝る必要性はどこにもない。胸を張って生きろ、今までも言ってきたことであるが、お前はこのターミナル王国の第二王女としてきちんと責任を果たし、そしてまっとうしている。なんら恥じることはない」


 私は、お父様の言葉にただ頭を下げるだけだった。


「キャサリンも、お前が最近顔を見せてくれないと案じていたぞ。……お前にとってはやはり王妃に会うのは周囲の目が気になるか?」


「いえ! お母様はいつだって優しくて私の理想で……!! ただ、このところは、その……環境があまりにも、変わり過ぎて」


「そうか、ならば良い。時間ができたならば会いに行ってやれ」


「はい」


 亡くなった愛妾が産んだ娘を、実の子と分け隔てなく愛する美しい王妃キャサリン。

 そう言われている『お母様』を、私も尊敬して愛している。私にとっては本当に、実の母親だと慕っている女性。

 本当に私を愛してくれていて、お忙しいのに時間を作ってはディアティナ姉様と私とお茶をしたり、手ずから刺繍を教えてくださったり、本当に素敵な女性で……むしろそんな風に愛してくれるのに、こんな娘で本当にごめんなさいって思うと段々と大人になるにつれ申し訳なくて足が遠のいて行ったのは事実。

 だけど、これからは頑張るから。

 まだ、間に合うかな。私を娘として愛してくれているのかな。


 きっとそんな言葉を口にすると、私の家族は優しいから、悲しい顔をしてしまうのだろうけれど。私が元気でいてくれたらいい、だなんて言ってくれる人たちだから。責任は自分たちが負うから、私は私の幸せを見つけてくれたらいいなんて言ってくれる人たちだから。


(だけど、もうあの事件は終わった。これから先のことは、不安なことが当然あってももう何が起こるかもわからない)


 記憶にあった物語は、もう終わってしまった。

 変えてしまった物語は、もう戻らない。戻す気もない。


 できるならば、可能な限り私が愛する人々が、幸せになれるように努力をしていこう。

 そう決めたのだ。できるかどうかはともかくとして。


「お父様とお母様がお勧めしてくださる侍女を、できれば二人つけていただきたいのです。その二人以外は今までと同じ体制で構いませんが、私が個人的に基本的なことをお願いする、信頼できる人物をお願いしたいのです」


「信頼できる人物、か」


「あっ、いえ! 今いる侍女たちが信頼ならないというわけではなく。現状、先だっての事件で城内に色々と不信感が出ていることを考えれば少人数で把握できる人間と一緒にいる方が安心だと思ったのです。私は……特に魔力がないため、自分の身を守ることすらままなりませんし。城内の施設を使うにも、難儀いたしますし……」


 そう、これがしんどい。

 機械は便利。それを使うには魔力が必要。

 じゃあ、その魔力がない私は?


 前回と同じように反乱が起きて、事前情報がなかったら?

 逃げる先々で、私がはぐれてしまったら。この王城内では詰む。隠れるったって茂みの中とかそういう原始的なことになってしまう!

 さすがにそれはどうかなって思うし、何かあった時に信頼関係のある侍女と逃げ回るっていうなら安心の度合いも違うと思うのよね。


「そして、これは私の我儘なのですけれど……熟練の侍女と、新人の侍女、それぞれ一人ずつお願いできませんでしょうか」


「ふむ。それはどうしてかな?」


「……私は、自分でも少々人の目を気にして生きてきたと……自覚、しております」


 残念な姫君、だから。

 でもそれは、今までの私。これからの私は、それに甘んじていてはいけない。


 ゼロの姫君、親衛隊隊長の婚約者、反乱の鎮圧に一役買った王女様。

 それらを演じて、国民を安心させて、家族を安心させて、レイジェスを本当に好きな人と結ばれても大丈夫なようにしてみせる!


「でも、これからは少しずつ、人と接していくことに慣れていきたいのです。外では絶対に姫としての品位を落とすようなことはいたしませんが、信頼できる侍女であれば、私が気を抜いても良いくらいの関係性を築くことができるのならば、もっと……前を向けるのではと思ったのです」


「クリスティナ……」


「そして、今までのように気ままな振舞いは良くないとも自覚しております。城内のどこに行くにも、これからは今まで以上に、今までと違った意味も含めて視線が向けられることでしょう。そのためにも、私は信頼できる人間にそばにいて欲しいのです」


 前を歩く侍女が、信頼関係にある人ならば、きっと私は周囲の視線にだって耐えれると思う。必要なら、レイジェスに会いに行くことだって耐えれるんだと思う。

 さすがに泣き言を聞いて欲しい、愚痴を聞きそして慰めて欲しいとかそこまで要求はしない。そんな関係になれたら嬉しいけど。


「……そうか。そうだな。やはりお前は思慮深く、多くのことを考えている。立派な王女だよ」


「ありがとうございます」


 お父様が温かい眼差しで私を見てくれる。

 けど、内心は申し訳なさもある。


 だって、私は……幸せを願ってくれるお父様を、再び悲しみに向かわせるかもしれない。

 可愛がっている娘が、婚約者に見限られて地方に隠居する未来なんて大抵の親ならいやなんじゃないかなって思うの。愛されているから、私が親ならきっと。


 それでも、レイジェスが好きなのはマルヴィナだもの。

 私も、マルヴィナが嫌いな訳じゃない。ただ年齢が近いから、比較されやすかっただけの話。ちょっと物言いが過ぎる時もあるけれど、素直で明るいマルヴィナは決して私を馬鹿にしたことはなかったものね。


 私のせいで、寧ろマルヴィナが逆に期待され過ぎた感もあったし……。


 大人になってからの交流は減ったけれど、彼女とレイジェスならきっと幸せになれるでしょう。マルヴィナも何故か婚約者がいないし、もしかすれば待っているのかもしれない。

 だとしたら、あまり待たせても申し訳ないもの。


(レイジェスが身分を慮って、マルヴィナに想いを告げないのだとしても)


 今や彼はこの国の英雄。

 王女を婚約者にできるのだから、本音を言葉にさえすればきっと誰もが諸手をあげて賛成してくれる。


 王位継承権はそもそもレイジェスに私が嫁いでしまえば消えてしまうものだし、子供が生まれれば可能性程度かな? そういう点では外戚のマルヴィナとどっこいどっこいだし。

 だから反対する理由ってそうはないだろう。


 そんな未来を勝ち取るためには、今、私が色々と動いて『ターミナル王国は安心である』と国民を納得させて、軍部には『王族は軍部を信頼している』と思わせて、レイジェスには『王女クリスティナを婚約者に据えなくても問題はないのだ』と納得させるしかない。

 そのためには、私のことを身近で見て判断してくれる人が必要なのだ。


 ……フラれるために、努力するってのも変な感じだけど。


「それで、どうでしょうか。お許しいただけますか?」


「勿論だ、可愛いクリスティナ。寧ろ今までお前に専属の侍女がいなかったことを、私たちは皆心配していたのだよ?」


「……申し訳ありません」


「ああ、責めているわけじゃない。お前が城内の人間になんと言われているか、知っている。それに対してお前が傷つき、それでも己の力でなんとかしようとしている姿も知っている。頼られた時には、なんでもしようと家族で決めていたんだ」


「お父様……」


「ようやく、お前が他人に対して諦めるのではなくなったのだと知れて、嬉しい」


 お父様が、穏やかに微笑んだ。

 ……他人に対して、諦める、か……。


 どうなんだろう。

 期待しなくなった、というのは諦めなのかな。

 諦めなのかもしれない。


 私のこの、魔力の無いという部分を受け入れてくれる人はきっと、大勢いると思う。

 まあ王族としては珍しいけれど、いないわけじゃないから。税金で暮らしている以上税金泥棒と思う人がいることもいるけど、生まれ方が選べるわけじゃないって理解をしてくれる人だっているはずだ。

 それよりも悪意ある言葉の方に耳を塞いで、閉じこもった部分は否めない。


「ありがとうございます」


 家族が、それを心配してくれていたのも勿論知っているけれど。

 頼って良いのかなってずっと思っていた私に、家族はただ待っていてくれたんだと知れて、私も嬉しい。

 きっと直接「なんでも頼ってくれ」って言われても、私はきっと素直に受け入れられなかったから……それも理解してくれていたんだろうと思うと、やっぱり嬉しかった。


「しかし、お前は取り乱さないな」


「そうですか?」


「……この部屋は、お前にとってあまり良い思い出はあるまい」


「それは、そうですね」


 つい最近、私はここで己の身体に魔石を差し込み、自身の命を代償に国宝の文字通り身代わり(・・・・)を務めた。

 そして国宝がない事に気が付いた反乱軍に囲まれて、命の危機に晒されて……。


(そうよ、あの時は死を覚悟した。だけど……)


 大きな悲鳴や、騒ぎ、剣の交わる音。

 それらは私にとってとても怖いものだったけれど、あの時、死を覚悟したけれど。


 だからこそ、もう一度会いたいと、思った。レイジェスに。

 その名前を、呼んだ。声には出さなかったけど。


 ――そうしたら、彼が来てくれて、助けてくれたんだ。

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