ミニゲーム②
カナデはコートに並んだ選手たちを見て、開いた口が塞がらなくなった。
「なっ、なっ、なっ...!」
そりゃそうだろう。だってDF0人だし。
とはいっても、守備的MF、いわゆるDMFがCBをしていた2人が務め、SBの2人が左右のMFに動いて、後は前半の通り、といった感じである。
それでも、この采配には面食らった様子で相手側のベンチを、不知火を見つめていた。
「いったい、ハヤトさんは何を考えているの...?」
状況が飲み込めない中、後半開始の笛が鳴った。
〜後半開始前〜
「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」
不知火の采配に、全員が驚愕の声をあげた。
「まぁ、そうなるだろうな。」
不知火は納得した様子で頷き、采配の意図を伝えた。
「まず、前半を振り返っての守備だが、別に対応が悪かったり反応が遅いというわけではない。抜かれはするが、基本的にクロエが全部止められる範囲内で、シュートを打たせているからな。」
クロエの反応が驚異的であっても、全てのシュートを防ぐことはまずあり得ない。
打たせる場所を限定することでGKも自分の力を発揮できる。
「じゃあ、何が問題だったか。簡単だ。ボールをキープ出来てないし、前に運べてないんだよ。だからほとんど自陣側でプレーされるんだ。」
ボールを繋げなければ、必然的に相手にチャンスを与えることになる。
「だから中盤を固める。ディフェンスをするなって事じゃない。真ん中でボールを繋げ。回せ。それで前へ持っていけ。」
それと、と一旦言葉を止めクロエの方へ視線を向けた。
「最後の砦はお前だ。信じてるぜ、クロエ。」
この采配を敷くには、なんといってもGKへの信頼がないと出来ない。
その言葉に彼女は大きく頷き、満面の笑みを浮かべた。
「よし、それじゃあ行ってこい!」
掛け声と共に、11人がコートに向けて飛び出していった。
後半開始の笛が鳴る。
ボールを持ったのはルナ。
相変わらず敵に囲まれるが、少し辺りを見回して難無く味方にパスを出す。
「よしよし、お前はそれでいいんだよ。」
1人でボールを持ったって、1人でサッカーをやったって、そんなの何の面白味もない。
中盤を多くしたため、ボールが回るに回る。
ルナからサイドへ展開し、囲まれたら近くにいる選手へ戻す。簡単なように聞こえるが、ミスを起こせばカウンターで一発を食らう。全員が集中出来ている証だ。
「さぁて、そろそろ仕掛けたいよな。」
今、ボールはルナの元にある。攻撃の選手が圧倒的に多いため、守備側はマークを分散して付くしかない。そのため、ルナへのマークは前半より甘くなっていた。
ドン!と足を踏み込む音がして、ルナがキックのモーションに入る。ディフェンダーは、そうはさせまいとルナに詰め寄りボールを奪おうとする。しかし、それは罠だ。
「キックフェイント!」
隣でアリアが叫ぶ。この王女様思ったより詳しいな。後で話ししてみるか。
と頭の中で思いながらルナのプレーへの賞賛を胸の内でする。
「ちゃんと相手と味方を見てプレー出来てる。さすが司令塔だな。」
ルナはシュートのモーションを途中でやめ、詰め寄って来たディフェンダーを嘲笑うかのように、隣をスルッと抜けていく。
「さぁ、これでフリーだ!」
ゴールまではおよそ45m。シュートを打つには遠く、パスやドリブルで敵を躱していくしかない。
「ここで出さなきゃ、お前の『見えない弾丸』の名はただの飾りだぞ。」
不知火の声が聞こえたか否かは定かではないが、ルナの足からボールが消えた。
しかし、次の瞬間には、左サイド20m手前を走っていた選手の足元にボールが届いていた。
『見えない弾丸』まさに、足元から出たボールの行く先が見えない。気付いたらボールが渡っている。このパスがルナの特性。
「周りを活かせるのがルナの力なのに、1人でプレーをしようとするから、勝てなくなるんだよ。」
たしかにルナのドリブル力も目を引くものがある。しかし、何よりもルナの力を活かせるのはこのパスだ。
「シズクに入れろ!!」
左サイドから、真ん中へクロスが上がる。
しかし、少し焦ったのかそのボールは少し高めに浮いていた。
これは取れない、誰もがそう思った。ルナと不知火以外は。
シズクは軽くジャンプすると、そのボールを難無く胸で受け止め、足元にボールを落とした。
|『ボールは全て我が手中に《オールボールインマイハンド》』
シズクへ向けられたボールは全て、シズクの足元に収まる。
全てのボールをトラップすることが出来るということは、そこにボールを蹴りさえすれば、何百パターンもの攻撃をそこから繰り広げられることになる。そんなの、驚異以外の何物でもない。
「そこからは、分かってるよな。」
シズクにシュートを打たせまいとディフェンダー達が立ち塞がる。
しかし、シズクが選んだのはシュートでもドリブルでもなく、後ろにいるルナへのパスだった。
シズクの得意なプレーは『落とし』。自分がボールを持って周りへボールを供給する、ハタキ役。
それが分かっているルナは誰よりも早く、シズクのトラップからのプレーの流れを直感で感じ取っていた。必ず自分にパスが来る。必ずこのタイミングでボールが来ると。
「よし。ドンピシャ。」
不知火がそう呟く。
完璧なタイミング、完璧な位置で来たボールにルナが足を踏み込む。
「振り抜け!ルナ!!!」
その声は聞こえたのだろうか。
表情の全ては見えない。心の内も分からない。それでも、少し楽しそうに口角を上げた少女の蹴ったボールは、およそ30m付近から、ゴールの左隅へと強烈な軌道を描き、吸い込まれていった。
まだ続きます。
チームプレイが得意なのにワンマンしてしまうって、本人も辛いだろうな...