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シズクの相談

シズクと母親が帰ってきて、しばらくはケーキを食べ談笑をしていた。

シズクの両親は吾郎譲りなのか、サッカーに詳しく、昨日の試合を楽しそうに話していた。

すると、一息ついたところでシズクが自分の部屋に来てくれと、不知火を自身の部屋へ案内した。

案内された部屋に入ると、女の子の部屋特有の少し甘い匂いがし、少しドキッとしたが、シズクはそれに気づいてない様子で不知火に座布団に座るように促した。

お互い、机を挟んで対面に座る。

「えっと、まずは今日はわざわざお越し頂きありがとうございます。」

「硬い硬い。」

えらく畏まった様子に思わずツッコム。

「その、父親以外の男性が部屋に入るのが初めてなもので...」

モジモジしながら話すシズク。

その様子はどこか小動物のようで、どこか愛らしく感じた。

「それで、話って何だ?」

シズクがショートする前に話を始める。

「えっと、実はですね...」

少し真面目な顔になりシズクがこちらを見る。

「私に、ドリブルを教えてもらえませんか?」

「?別にいいけど、シズクならドリブルくらい普通に出来るだろ?」

「実は、そういうわけでもないんですよ...」

「というと?」

一旦言葉を区切り、改めて話始める。

「ボールをトラップして、ターンするまでは出来るんです。それで、そこからボールを前に進めるくらいは。」

「まぁ、昨日もそれで点取ってたしな。」

理解できないといった様子で不知火は相槌を打つ。

「でも、例えばボールを持って相手と1対1のような場面になった時、どうしようもなくなってしまうんです...」

「真っ直ぐにしか進めないってことか?」

「いえ、そういうわけではないのですが、ただ...」

「ただ?」

不知火が先を促すと、意を決した様子でシズクが言った。

「フェイントが、出来ないんです。」



フェイントとは、相手を欺くための技術。

ルナがミニゲームの時に見せた、キックフェイントもフェイントの1つである。

FWやMFは、相手と1対1になる場面も多いため、必然的にフェイントを使う機会が増える。

現代では、某アルゼンチン代表の選手などがその華麗なテクニックって相手を翻弄していると聞くと、おそらく想像しやすいのではないだろうか。

上半身の動きや、足先の動き、相手の目線を誘導するなど、その種類は多岐にわたる。

「けど、出来ないと言っても全くってわけじゃないだろ?」

「いえ、全くなのです。」

不知火の質問に、断定の形で答えるシズク。

「相手と対峙したら、自分でも理解できないのですが、止まってしまうんです。」

技術でいうならシズクは申し分ないモノをもっている。それなのにポストプレーに徹していたのには、そういった理由もあったのか。

不知火はどこか納得した様子でシズクに笑いかけた。

「言っておくけど、昨日の1点目、あれも立派なフェイントだぞ?」

「え?」

驚いた顔をするシズク。不知火は話を続ける。

「ジャンヌを背後に背負って、ルナへパスをすると見せかけてターンしただろ?パスをすると見せかけてパスをしないのは、立派なパスフェイントだ。」

形はどうであれ、相手を騙せればフェイントなのだ。

「でも、それだけじゃダメだと思ったんです。」

シズクはしっかり不知火の目を見て言った。

「昨日の試合で、自分はFWとして、エースとしてまだまだ力不足だと思いました。チームを勝ちに導くためなら、どんな技術だって身につけたいのです。」

力強い目でこちらを見てくる。そこまで言われて動かないはずがない。

「分かった。それなら今からでも始めようか。準備出来るか?」

「はい!」

飛びきり嬉しそうな表情でシズクが頷く。

シズクが部屋で着替えるというので、部屋を出て玄関へと向かう。

「ほんと、頼もしいエースだよ。」

17歳の少女が、ここまでチームのために尽くそうとしているのだ、監督としてなんとしてでも力になってやりたい。

「それに、FWに必要な素質が芽生え始めてきてるみたいだしな。」

FWに必要な素質。それは、自分が点を取るという強い気持ち。ジャイアニズムといえば理解出来るだろう、自分がなによりもいう強い気持ち。強くなり過ぎれば独りよがりになり危険ではあるが、シズクのチームへの想いを見る限りその心配は必要ないだろう。

『エゴイスト』その名を冠するのは、果たしていつになるのだろうか。不知火は逸る気持ちを抑えるように、ゆっくりと靴の紐を結んだ。


シズクの家には庭があり、全面が芝生になっている。流石にサッカーコート程の広さではないが、一般家庭の庭からしたら充分広いものである。

準備を終えたシズクが案内をしてくれ、庭に着くと、シズクの両親の姿があった。

「監督のプレーをする姿を見てみたかったんですよね〜」

シズクの父が楽しそうに笑い、母親も同じように楽しそうにしている。

2人に庭を借りる礼をいい、シズクに話しかけた。

「シズク、フェイントは誰かがやっているのを見て真似るのが1番手っ取り早い。これからの練習で同じポジションのやつらと練習するだろうから、その時しっかり見ておけよ。」

「分かりました。」

シズクはしっかりと頷き、不知火の意図を汲み取った。

「まぁ、今日は色々世話になったし、特別に1対1をしてやる。」

高圧的な態度で不知火が言うと、シズクは少しムッとしてその挑発にのってしまった。

「不知火さんは監督としての腕は認めていますが、プレーヤーとしては別ですから。本気で来て下さい。全部止めて見せます。」

そう言って、シズクも負けじと挑発してくる。いいねぇ、それでこそFWだよ。と心の中で思い、ボールを足元で転がす。

「ハンデは今日の服装な。靴も普通の靴だし。」

今日は家に招かれるだけだと思っていたので、運動に適した服装ではない。

「それとも、もっとハンデを増やしてやろうか?」

シズクの目が本気になった。

「始めてください。」

「分かった。それじゃあ...」

ボールを転がしシズクの方へと向かう。

「ちゃんと見とけよ?」

次回、不知火の力が明らかに

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