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『ボールは全て我が手中に』

vsパルスロスト戦の中での話です。

番号的には④に当たります。

1人、最前線でボールを待つ。FWとはある意味で孤高なポジションで、ある意味で誰よりチームのために身を捧げるポジションである。

かつて、祖父はこう言った。

「雫。サッカーはな、何よりも楽しくなくちゃいけん。勝ちにこだわるのもいい、競争するのもいい、だけどな、それでも楽しむ心だけは忘れるな。」

優しく、柔らかく、頭を撫でながら祖父は幼い私にそう言った。

その意味は当時はよく分からなかったが、サッカーに触れるにつれ、日々楽しいという感情が強くなった。

いつからだろう、そんな気持ちを忘れてしまったのは。

祖父が亡くなって数日が経ち、チームの練習に戻った私には、あんなに楽しかったサッカーがただの暇潰しのように思えた。

祖父のことを考える時間を減らすための時間つぶし。

なんとなくチームに参加し、なんとなくボールに触り、なんとなくサッカーをする。

そんな状態でもここまでやれたのは、幼い頃から祖父に教えられた技術があったからだろう。

ある日の試合後、ルナに呼び止められ、自分のプレーのやる気の無さを指摘された。

ただ落とすだけ、ただボールを繋ぐだけ、FWは点を取るポジションだ、そんなことを言われた気がする。

自分で点を取るだけがサッカーじゃないでしょ。そういうと、ルナは真っ直ぐこちらを見据え、はっきりと言った。

「じゃあ、誰が私達に勝利の喜びを教えてくれるの?」


その日以来、2人のプレーが合わなくなった。

シズクは変わらず落としを基本としたプレーを続けていたが、ルナからのパスは一本も来なくなった。

2人のプレースタイルが合わない。と言われるようになったが、それは間違いで、私が悪いんだと分かっていた。

それからどれほど経っただろうか。特に代わり映えしない日常なんて、大して記憶に残らない。

だからこそ、その日のことを私は鮮明に覚えている。突如現れた監督を名乗る男。急に組まれたミニゲームも、なんとなくやり過ごすつもりだった。あの言葉を聞くまでは。

「サッカーを楽しみましょう〜」

私の前でそう言った。かつて祖父が言ったように。サッカーは楽しむものだと。だから私は彼に興味を抱いた、そして同時に自分の本心を隠すことにした。これ以上踏み込まれたくない、これ以上思い出したくない、あの日々を、あの頃を。なんとなくで過ごしていた、あの時を。

勝利の喜びとはなんだろう。楽しむとはなんだろう。ただただ自問自答を繰り返したが、答えは出なかった。私には、一生分からないことだと諦めようとしたが、かつての自分がそれを許さなかった。


「サッカーは好きか?」

「はい?」

ジャンヌの超ロングシュートから失点を許した直後、不知火に呼ばれ駆け寄ると、そう尋ねられた。

「いいから、素直に答えろ。」

「...好き、だとは思います。でも、今は正直分かりません。」

「そうか。それなら今はそれでいい。」

なぜ、自分が正直に答えたかは分からない。

すると不知火はもう1つ、と言って耳に口を寄せ、こう言った。

「サッカーで1番楽しい時を教えてやろう。」

少し子供っぽい笑顔で不知火はシズクを見据えて、

「点を取った時、それが1番、サッカーが楽しく思える時だ。」

次に続きます。全身全霊を込めて書きました。

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