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信じる心

パルスロスト戦を前日に控え、チームは軽めの調整を行なっていた。

今回は相手からの申請だったため、試合はこちらのグラウンドで行われる。

普段、芝のグラウンドだけのこの場所に、工事の音が鳴り響く。

「なぁ、タマちゃん。この音なんとかなんないの?」

「まぁ、仮説スタンドの設営ですから、文句は言えないですし...」

カナデも辟易とした表情で答える。普段ならタマちゃんと呼ばれれば、カナデです!と返すのが定番なのだが、それが出来ないくらい彼女も工事の音にうんざりしていた。

というか、ネコミミって音の拾い方とかどうなってるんだろう。今度聞いてみよう。そう思いながら、気になっていたことを聞いてみた。

「これ、試合のたびに毎回やってるの?」

「いえ、普段はこんな大掛かりな工事はしないのですが、今回は国民の9割が来ると言われているので...」

「はぁ!?9割って10万人は超えるじゃねぇか!?」

「まぁ、スタンドの席はせいぜい5万人が限度ですけどね。後は外のモニターで見てもらいます。」

「なんでそんなに注目されてんだよ...」

「どの口が言ってるんですか...ハヤトさんの影響ですよ?」

「は?オレ?」

思わぬ所で自分の名前が出たため驚く。

「以前、街中でリフティングしたんですよね?噂で聞きましたが。」

「あー、そういややったな。んで、それが?」

「あれを見て王女様がハヤトさんを監督に選んだって噂が、一気に街に広がったんですよ。それで、王女様が選んだなら何の心配もない、皆で応援しよう!ってなったみたいです。」

「オレというよりかは、アリアの影響力がすごいな...」

流石王女様。文字通り国を動かしている。

「しかし、ホームっていうのはいいが、そこまでになるのも少し考えものだな。」

「そうですか?応援が多いのはいいことだと思いますけど...」

「応援する分には、な。ただ、ミスをした時のことを考えろ。5万人分の溜息が聞こえて来るんだぞ?」

その光景を想像してか、カナデは両手で自身の身体を抱く。

かつて不知火自身がヨーロッパのクラブで活躍していた頃、タイトルがかかった一戦で、チームメイトが失点に繋がる大きなミスをした。その日のスタジアムはおよそ6万人の観客が入っており、自身のチームのサポーターにも関わらず、およそ10分間ブーイングが鳴り止まなかった。試合に勝つのは勝ったが、その選手はそのシーズン終了後、チームを去っていった。

「タマちゃん、1つお願いがあるんだけど。」

そう言い、カナデの耳(Cat's ear)にコソコソと耳打ちをした。

「えぇ!?そんなの無理ですよぉ〜」

「まぁ、できる範囲でいいからさ。頼むよ、カナデ。」

「きゅ、急に名前呼びなんて卑怯ですよ!?」

顔を真っ赤にしたカナデは、ぴゃーっと遠くへ走っていった。恐らく頼んだことを実行しに行ってくれているのだろう。

「さて、そろそろ始めるか。」

走り去っていったカナデをよそに、選手を集め試合の作戦を伝えた。


「まず、フォーメーションは4-5-1だ。」

GKにはクロエが選ばれ、ルナもシズクも順当に名前を呼ばれる。

DF陣には経験の多いメンバーを揃え、無難なスタメンとなった。

「明日は状況によってだが、細かく指示を出すことある。指示を聞き逃さないようにな。」

全員が揃って返事をする。ミニゲームでの采配もあってか、全員が不知火の采配に従うといった様子である。

それはルナも例外ではなく、真剣に不知火の言葉を聞いている。

「明日の敵のキーマンは、間違い無く10番のジャンヌ・アルトリアだ。絶対フリーにはさせるなよ。無理にボールを奪おうとする必要はない。ただ、絶対にゴールとボールを結んだ直線上には身体を入れろ。」

まだ半信半疑ではあるが、恐らくジャンヌの特性は聖剣の名に基づいているのだろう。

そう予測して、DF陣の練習の際には、そのことを徹底的に指示した。

「でも、監督。もしその予想が外れたり、無理やりシュートしてきたらどうするの?」

GKのクロエが不安そうに聞いてくる。

「まぁ、外れた時は仕方ない。その時は修正するし、お前達には、すぐに対応出来る力があるってオレは信じてる。」

「信じる、なんてそんな根拠のないこと言われても...」

ルナが不服そうに言ってくる。

それでも、不知火はその考えを強調した。

「信じるよ。お前達を。どれだけ上手かろうが、どれだけ強かろうが、最後はやっぱり心だ。オレはお前達を信じる。」

だから、と一旦言葉を切り、全員を眺め不知火は強く言葉を放った。

「だから、お前達もオレを信じてくれ。」

クロエは満面の笑顔で頷き、シズクは凛とした、強い意志を持った目で頷く。ルナは少し目を逸らしながらもしっかりと頷いた。

「よし、それじゃあ明日に向けて、気合い入れていくぞ!」

おお!と全員の声が重なり、隣同士で肩を組み、円陣を組む。

「頼むよ、キャプテン。」

「分かってるわよ。」

ルナは全員の顔を見て、大きく息を吸う。

「絶対勝つぞぉー!!!!」

「おぉー!!!!!!!!」

円の中心に強く踏み出した足達は、皆、1つの方向へ向かっていた。

いよいよパルスロスト戦へ!

ジャンヌの特性とは、そして不知火がカナデに頼んだこととは。

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