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西園寺雫

ミニゲームから一夜が明け、不知火は枕に顔をうずめ、物思いにふけっていた。

今朝出された朝食は日本の和食に近く、味も見た目も満点と言えるものだった。

身の回りのことは、お手伝いさんがほとんどしてくれ、まさに至れり尽くせりの状態であった。

成り行きで監督となったものの、こちらの生活に今のところ何の不満もない。ただ、それでもやはり元いた世界のことを考えてしまう。

「今頃、佐藤のおっさんとかブチギレてるだろうな。」

現実世界の皆に想いを馳せ、ベッドから飛び起きる。

「考えたって仕方ねぇ。」

悩んだらボールを蹴ればいい。

そのうち自然と答えが出るさ。

かつての恩師の言葉を胸中で呟き、グランドへと向かった。


グランドへ向かう道中、だだ広い廊下の真ん中でアリアの姿を見かけた。

何やら多くの書類を持っており、ふらふら歩いているのを、見て見ぬ振りも出来ず、不知火はアリアに駆け寄った。

「王女様が何やってんだよ。持ってやるから貸してくれ。」

ヒョイっと書類の束を取り上げアリアの顔を見ると、驚いた表情をしていた。

「もぅ!先に声を掛けてください!ビックリしたじゃないですかぁ!」

半分涙目で詰め寄ってくるアリア。驚かされるのに弱いのか、覚えておこう。

「すまんすまん。というか、何でお前がこんな雑用みたいなことやってるんだ?」

「ずっと座っているだけっていうのも退屈ですから。私がこういった仕事をする際には、必要な時以外手出ししないように言ってあるんです。」

どちらかというと行動的な性格のアリアには、ただ至れり尽くせりの生活はうんざりらしい。

「そういえばさ、聞きたいことがあるんだけど。」

「なんでしょう?」

廊下を歩きながら会話を進める。

資料を持っていくのはグランドと同じ方向にある部屋らしいので、遠回りにはならない。

「序列45位のパルスロストの10番。資料にはジャンヌ・アルトリアって書いてあったんだが...」

オレの世界でアルトリアと聞くと、某ゲームのキャラを思い出す。まさかそんなことはないだろうと内心思いつつ、アリアに質問を続ける。

「まさか、聖剣の名前ってエクスカリバー、じゃないよな...?」

「わぁ、隼人さんよくご存知ですね!そうです、聖剣の名前はエクスカリバーです!」

「やっぱりかよ!!!!!」

全てに納得がいった。そりゃ欲しがるよ。こっちの世界でどういう扱いになってるかは知らないけど、アルトリアって名前ならそりゃエクスカリバーを必要としても何もおかしくないよ。

「えっと...何か問題がありました...?」

ビクビクした様子でアリアが訪ねてくる。

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ。というより、なんでそんなモノがこの国にあるんだ?」

「なぜ、と言われましても...」

アリアは戸惑いを浮かべながら、こちらを見てくる。

「だって、私が作りましたから。」

満面の笑みで答える王女様。何でもありかよこの王女様。伝説の剣だよ?というか、太古にあったから伝説の剣じゃないの?

とやかく考えていたら目的の部屋に着いた。

「隼人さん、ここまでで大丈夫ですよ。ありがとうございました。」

「おう。了解。あ、最後に1ついいか?」

「はい、何でしょう?」

「未だに国王に挨拶すら出来てないんだが、どこにいるんだ?」

アリアは不知火の質問に、少し言葉を飲んだが、それも一瞬、普段の表情で答えた。

ほんの一瞬のことで、アリアの表情の変化には不知火も気付いていない。

「国王は基本的に奥の間、この家の最上階にいらっしゃいます。ただ、ほとんどその部屋から出て来られることがなく、謁見出来るのも私だけなんです。」

「なるほどな。だからアリアが対外戦の手続きとかの仕事をしているのか。」

「はい。といってもほとんど言われたことを紙に書くだけですけどね。」

柔らかい笑顔でアリアはそう答える。

「また何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ。」

「ありがとうございます。隼人さんも何かあれば遠慮なく言ってくださいね?」

そこで2人は別れ、不知火は本来の目的地へと向かった。


昨日の今日ということもあり、練習は休みにしている。皆、普段の生活があり、学校に通っている子もいる。

しかし、グラウンドには先客がいた。

「シズク、学校はいいのか?」

「はい。今日は午前で終わりでしたので。」

清楚が人と化した大和撫子、シズク・サイオンジが1人グラウンドに立っていた。

「不知火さんも練習を?」

「まぁそんなところかな。昔から悩んだりするとグラウンドに来てボールを蹴ってたから。」

「そうなんですね。でしたら、練習に付き合ってもらえませんか?」

凛とした表情、柔らかい物腰で頼まれ、断る理由もなくその提案に従った。


お互い少し離れてパス練習を始める。

ボールを自分の足元から相手の足元へ。

野球でいうキャッチボールと同じ事だ。

自然と会話のキャッチボールが始まる。

「シズクってさ、凄く日本人みたいだよな。」

「日本人...?私は二ホアニア生まれ二ホアニア育ちですが...」

「そうだよなぁ。」

そう言ってシズクを見る。

透き通るような黒髪。顔立ちもアジア系、いや、断定できる。この顔立ちは日本人のそれである。

名前もシズク・サイオンジって、音だけ聞くと日本語ってぽいんだが...

ん?サイオンジ?さいおんじ...西園寺...

「なぁ、シズクに祖父っているか?」

「はい、いますよ。」

「もしかして、西園寺五郎って名前じゃないか?」

「驚きました。そうです、ゴロウ・サイオンジは私の祖父です。なぜ私の祖父の名を?」

「やっぱりか...」

西園寺五郎。小学生時代にお世話になった恩師。ある日突然、チームから姿を消しずっと疑問に思っていたが、まさか同じく異世界転移されていたとは思いもしなかった。

「ということは今家にいるのか?」

「いえ、祖父は昨年亡くなってしまって...」

「...そうか」

恩師に一度でもいいから礼を伝えたかった不知火にとって、それはとても無念だった。

「墓参りに行きたいから、また場所を教えてくれ。」

暗い雰囲気になってしまい、それを察してかシズクが話題を変えてきた。

「不知火さん、ミーティングの時に、現役の時はとか仰ってましたけど、どこでプレーをされていたんですか?少なくとも、二ホアニアではないと感じたのですが。」

この質問に対してどう答えるかに少し悩んだ。

異世界から来たことはアリア以外知らないし、適当にでっち上げて疑われるようになっても得策ではない。

かといって本当のことを伝えても信じてもらえる確証も無い。

無言でいるとシズクは、答えられないものだと解釈した様子で言葉を発した。

「別に無理して聞くつもりはないですので。不知火さんにも、話せない過去などもあるでしょうし、気にしないで下さい。」

この話はこれで終わり、というようにシズクはボールを蹴り始めた。

綺麗なリフティング。足元の技術がしっかり磨かれている証。そしてそれは、かつて西園寺五郎が初めに教えてくれた、思い出の技術。

そして気付けば口から言葉が出ていた。

「なぁ、シズク」

シズクはボールを止め、こちらを向く。

「なんですか?」

凛とした表情がこちらを向く。次に不知火の口から出た言葉は、シズクは予想できただろうか。

「付き合ってくれないか?」

西園寺雫

シズク・サイオンジ

いわゆる日本人と二ホアニアのハーフの親から生まれたという設定です。

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