プロローグ
また、悪夢にうなされて俺は目覚める。
結婚10周年記念に嫁の秋子と原宿に行った時のことだ。仕事に一区切りが付いたから、久々に連休を取って嫁をデートに誘ったのだ。やっとできた2人きりの時間。目一杯楽しもうと意気込んでいた矢先、シューという音が聞こえたのとほぼ同時に爆発音。とっさに嫁を押し倒して覆いかぶさる。その直後に頭に衝撃を受けると同時に暗転。いつもそこで俺は目覚める。暗い。まだ夜も明けていない。上体を起こして周りを見渡せば木枠に藁を敷き詰めただけの簡易なベッドに土を塗り固めた壁に愛用の弓矢とナイフが立てかけられている。ベッドの反対側にある窓に歩み寄り、外を見る。月明かりに照らされて寝静まった村が目の前に広がる。今夜は満月。月に手をかざせば、少し肌荒れが目立つもののまだまだ瑞々しい少年の手が視界に映る。そう、俺の手だ。さっきの夢は前世の記憶。俺は12年前に地球で嫁を庇って死に、このクルルァート国の狩人の村に転生した。前世の記憶を持ったままに。おかげで悪夢にうなされて眠れぬ日々を過ごしている。俺はあの事故で即死だったのだろう。暗転した次の瞬間には俺はこの世界で母の母乳を吸っていた。...覚醒するにしても、もう少しタイミングってやつがあるとおもうんだが、驚いて乳を誤嚥して危うく死にかけた。転生してすぐ死にかけるってどうよ?...それはそれとして、俺が俺として覚醒したその日から俺はあの夢を見続けている。俺が死んだのは、もう仕方がない。動かしようのない事実だ。その点は受け入れている。だが、どうしても気になって仕方のないことがある。それは嫁の安否だ。彼女は無事なのか、死んだのか、俺と同じように転生しているのか、ただただそれだけが気がかりで、この12年間を過ごしている。おかげで目の下には濃い隈が出来上がり、皆からは根暗だの陰険だの言われているが、眠れない分狩人の務めに没頭して気を紛らわしている。狩人としての腕はこっちの世界の親父に次いで2番目だ。今夜もこれから狩りに行こう。この胸のつっかえを紛らわせるために。俺は身支度を整えるとそのまま窓から外へ飛び出し、東の草原へと音もなく走る。満月の夜は毛皮の美しい月光ウサギが良く獲れる。獲物の処理に考えを廻らせつつ、やはり頭の片隅で嫁のことを考えている自分がいる。
ああ、愛しき女よ。君は今、どうしているのか。
皆様はじめまして。自作の小説初投稿です。
これまでは読む専門でしたが、無性に書きたい衝動に駆られてキーを叩きまくりました。
拙い部分も多々あると思いますが、よろしくお願いします。