83ネキ 敵は対戦相手だけではない
前回のあらすじ
さすがタッマだ。 何ともないぜ!
――――
「今のは挨拶替わりだ ……と言いたいところだが、結構良い一撃だと思ったんだがなあ」
「こういうもんは受けてナンボなんだぜ、おっさん」
「そうかい? なら、これならッ! どうだ!」
ゴードンが振り回している鉄球をただの横回転からヌンチャクを振り回すように右へ左へとどんどん回転速度を上げる。
『おーっと!? ゴードン選手、物凄い速度で鉄球を振り回すー! あの大きさの鉄の塊を玩具を扱うかの如く振り回しています!
何という腕力! そして、あの動作を取るということは、出るかあの技!』
「ああそうだ! 悪いがミンチになりな! “暴れ鉄球”!」
先程のただ真っ直ぐに放たれた鉄球とは違い、今度の鉄球は意思がある蛇と見間違うほどにうねりを伴いタマへと襲い掛かる。
しかも鉄球の攻撃は一度では止まらない。
ゴードンの熟練の技により手元の僅かなスナップによって鉄球は意思を持たされタマにぶつかり大きくバウンド。直ぐに進行方向を変え、再びタマへと飛来。
幾度ぶつかっても鉄球の勢いは衰えること無く嵐のようにソレが繰り返される。
「うおっ! あぶねっ!」
いや、勿論平気なんだけどモロに喰らうとやっぱし声って出ない?
そこそこの体重出してんだけどちょっと浮いたり鉄球に負けたりしてて自分でもびっくり。 やはりある程度の力を受ければいつぞややったハンマー飛びみたいに飛べそうだな……っと!
いつまでも鉄球にいいように浮かされるのは癪なので更に体重倍ドン! で四股を踏む感じでフィールドに踏ん張りボクシングのガード姿勢、某プロレス超人だと肉のカーテンか。
しばらくそれで耐えることにした。棒立ちしてるといくら何でもおかしいしね。
『出たーッ! ゴードン選手の“暴れ鉄球”! 凄まじい衝突音が観客席のみならず私の実況席にまで届いてきます!
タマ選手、腰を落として耐えるーッ! 持ち堪えられるのかーッ!』
「オラオラオラオラ! コレでッ トドメだ!」
尚も激しくなる鉄球の嵐、耐えるタマを場外へと打ち飛ばそうと画策したゴードンは鉄球を操り、開幕とは段違いの速度、回転を鉄球に与えてタマへと打ち出す。
「……此処だっ!」
ガードの奥からキラリと眼光ひと輝き。
真正面から来る巨大鉄球を指が食い込むほどガッチリと掴み、勢いを殺さず自身の体ごと回転、ついでに邪魔な鎖もビームで切断。
そしてッ!
「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!」
いっけー! 俺の必殺タ〇ガーショット! 森崎くんごとぶっ飛ばせー!
「っな!? ぐおぁはッ!」
まさかの出来事に反応が遅れたゴードンは黄金の回転が掛かった鉄球に弾き飛ばされそのまま場外へと、ゴードンを弾いても勢い衰えぬ鉄球は轟音と共にコロセウムを揺らして半分めり込んだ所で停止。観客もイマイチ何が起こったか理解していない。
『……は? え? ゴードン選手の自爆でしょうか……えーと、記録映像をスローで流しましょ……あっ、これは! 違う! 違います! な、なななんと! タマ選手、あの一瞬でゴードン選手の鉄球を奪って蹴り返していたーッ!』
「鉄球は急には止まれない。人身事故には気を付けような!」
ズビシッ と、特に他に思いつかなかったから月に代わってお仕置きよのポーズでキメる。
『ゴードン選手場外〜ッ! 勝ったのはタマ選手! あっという間の勝負でした! やったぜベイビー賭け金倍々! あ、ちょっ、放送席に物を投げ込まないでください! 卵はいけません! ともかくこの試合、ゴードン選手の猛攻を逆手に取ってカウンターを決めたタマ選手の勝利! ゴードン選手は気を失っていますが、皆様両選手に盛大な拍手をーーッ!』
大きな拍手と歓声を背中に受けながら片手で応えつつ退場。
の、直前とても汚い罵声も聞こえたのでそっちの方に振り向いて取り敢えず中指を立てておきます。
え? 後でキチンと手にモザイクカカルカライインダヨ! 汚ねぇ罵声かましてきやがって! 今からフリーになるから覚悟してろよ。
『さーさー本日の試合もあと半分! それではどんどん次の試合行っちゃいましょー!』
そんなこんなで早速例の野郎をボコしている最中、聞き覚えのある声でストップがかかる。
「タマさん! ストップストップ! それ以上はやり過ぎ!」
「おん? スミャッキーさんじゃん。どうしたん?」
ちなみに今優し〜く懲らしめてる罵声野郎は座ってる所探したらまだ座ってらしくて、周囲の観客に俺に文句かました猛者は何処だ? って聞いたら一斉にそいつ指さしてくれたからあっさり発見。
そんで、
ポコッ☆
「ぐわぁぁぁ!」
ペチッ☆
「ぎゃあぁっ!」
てしてし☆
「がはっ……」
とかやってた感じ。 可愛い音オンパレードでお送りします♡
「タマさんを遠目に見つけて声を掛けようと思ったらいきなりバイオレンスなこと始まって慌てて止めにきたんだよ……」
「だって……ねえ? 言って良いことと悪いことあるもんね? 皆?」
周囲の観客がうんうんと息を揃えて俺に同調してくれる。
「そんなにか……?」
「腐れ○○、淫〇、お前の母ちゃんでべそその他「あーあーあー分かった。口に出さなくていい。そいつが悪いがそのぐらいで勘弁してやってもらえないだろうか」
「2、3日は飯食えなくしてやる程度で許してやろうとは思ってたからいいけどさー。あ、そこのおっちゃん。そのうちでいいから助け呼んでやってくれない? これは面倒頼まれてくれる気持ちだからさ」
有無を言わさず流れるような動作で大銀貨3枚をおっちゃんのお手手に包む、そしてもちろん
「任せときなさい! 次もあんたに賭けるぜ!」
「全財産賭けとけ賭けとけー? じゃあ頼んだぜー」
ニコニコ顔のおっちゃんに親指を立ててその場をスミャッキーと後にするタマ。
そしてざっくりとんでスミャッキーが居た所の観客席。
現在の2人は、
「……それにしてもよく警備の騎士が飛んでこなかったな……」
「ああ。 だって俺顔が利くもん」
「ええ……? この一月で何があったのかね?」
「……まぁ、色々とな」
ポップモロコーシを咀嚼しながら大会を観戦していた。




