8ネキ 初対面の人と仲良くなれる魔法の水
前回のあらすじ
日課の焼き入れ(自分)してたら5年経ってた
――――
「でひゃひゃひゃひゃ!!」
「あははははははははは!!」
現在2人揃って大笑いなう。
どういうことなのか少々時間を戻して経緯を話そう。
――――
やっべー……マジやっべー……
完璧に5年経ったら人来るの忘れてたわ。
……ん? このおっさん、低めの身長に丸太のような筋肉ムキムキの腕、そして立派に蓄えられた髭。
俗に言うドワーフ? ははーんもしかしてもしかしなくてもドワーフだな。 そういうことにしとこう。
ならばこの場を切り抜けるために“アレ” 出してみっか……
ダメだったらそん時はそん時だ。
「おい、アンタ――」
スッ っと何かを言いかけたのを手で制し、油風呂から上がる。
もちろんすっぽんぽんだが、なんか炉の火力が偶然上がって謎の光が届いてるから大丈夫。
隠す? なんですかそれ。
つーかかこの5年の魔物生活で人としての羞恥心なんてどっか行ったわ。
とりま近くのスタンドにかけてあるタオルの所まで歩き、体を拭く。 床汚したらあかんしね。
そして最後に自慢のすーぱーきゅーちくるヘアーの拭き取りである。
どうです? この張りの有るつやっつやの肌。
そして さらっさらの髪。
貴方も全身焼き入れすれば手に入りますよ?
おっとそんなん俺だけだったわ、失念してましたァ……
さて、そんなこんな考えつつ、もそもそとパンツ、ジーパン、シャツの一張羅セットを装着! 俺様完全形態! ……いやまぁいつものなんだけどね。
いやほんとこの服汚れはするけど洗えばいいしほつれも破けもしねぇの最高だわ。
その間もこちらをじっと見て何か言いたげにしてるおっさんだが、さ〜て、そろそろ
出すかー。
ちょっと待ってろのジャスチャーを出しながら積み樽置場に向かう。
そしておもむろに1樽を担ぎ、ドワーフのおっさんの前に。
ドン! と目の前に降ろして、手で蓋をパコっと割る。
そして一緒に持ってきた升と柄杓で中の液体をすくい、升をドワーフのおっさんの前にぐいと差し出した。
ちょっと訝しげにこちらを見て、液体に目を移すおっさん。
そしてその液体の匂いが鼻に入ると同時に カッ!! と目を見開いてこっちを再び見た。
おっ、驚いてんねー。
「なっ!そいつぁ…… “隠者の雫” じゃねぇか! しかも飛び切り上等なやつか……?」
「おう。最高に上等なやつだ。……さて、まずは一杯どうだ?」
しばらくお互いに静寂が続き、そして同じタイミングで ニッ っと笑い合う。
「ああ。いただくわい」
既に自分の分の升に酒は入れてある。
―――さぁ。 酒盛りの開始だ―――。
そして冒頭に戻る。
「ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
「うぇへへへへへへへ!!」
立派な酔っ払い2匹の出来上がりである。
「そうか! お前ぇタマハつーのか! ぶひゃひゃ!」
「ああ! ところでおっさんの名前は!?」
「俺か? 俺はガンテツっつー奴だ!」
「ガンテツか! ところで5年前から勝手に住まわしてもらってるんだがすまんな、 許してくれ!」
「なぁーに! いいってことよ! こんな上等な酒これから毎日飲めんだぁから許すしかねぇだろが! ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
ちなみに今飲んでる酒。
5年間の集落生活の最中見つけた物であーる。
自分が来た方向とは別の火山に向かうルートで、スピリタス・ハーミットという魔物の巣があるのだ。
なんで名前とか知ってるかって?
家の中にある本暇で漁ってたら「近隣の魔物図鑑」って面白い本があったから読んでたんだよね。
おっと、話戻そう。
スピリタス・ハーミットとは、平たく言うと殻が樽みたいな形のデカいヤドカリなんだけど、殻内に可燃性の液体を貯めてんのよ。
ほんで、 外敵に襲われた際に貯めているそれを噴霧して着火、さながら火炎放射のような芸当をすんのね。
そしてその貯めている液、実は飲めるのだ。 まー飲めるとはいっても、物理的に火が付くほどの酒精なので、常人にとっては飲めたものではないが。というか飲んだら卒倒する。
要するに火酒(いろんな意味で)。
ん? 俺は平気。ジュース感覚よー。
そしてこの火酒、噴射する必要のない大型の強えー個体ほど体内で熟成してんのよね。
あまりにも体内で最高に熟成された(ハーミット基準だと古くなった)液体は、捨ててしまうらしい。本の知識すげー。
ちな事の発端は、家の中にある小さな酒瓶を見つけたのが始まりで、どこかで手に入るのか? と岩男君たちに聞いてみたら巣がある、と。
彼らもこの火酒は高エネルギーなので大好きらしく、たまに取りに行くらしい。
ガソリンかな?
酒があるとわかり、早速取りに行った次第なのだが、いかんせんアイツらは縄張り意識結構強くてテリトリー内に入るとめっちゃ攻撃的になんのよね。
だから岩男君たちのような非常に頑強な種族でなければ、落ち着く前にハサミでバラバラにされるか、反撃をしようものなら火炎放射されるので、耐えるしかないのだ。
だけど攻撃の意思が無かったり効かない様だと一旦落ち着ちつくので、実は結構賢いから餌持ってきてくれる良い存在だと解ったら引き換えに古くなった液を出してくれるのだ。
え? どうやって出させるかって? タイミングよくだばぁしてる個体をダッシュで捕まえて、持ってきた樽に此処。此処に出すんだよーって躾たらあとはもう楽ちんよ。
熟成は別として割と生成自体はあっという間にできるので全然問題ないらしい。
でもそんな岩男君たちでも、大型の個体が相手では全く話が違ってくる。
彼らの標準的な大きさは1、5mほどだが、此処、ドラゴンマウンテンには長い時を経て超大型に成長した個体が生息するらしく、なんと大きさ20mにも及ぶ。でけーよ。
ちょっとしたビルが動く感じ。
流石の岩男君たちでも大型個体のハサミを受けたらどうなるかわからないので、そこまで踏み込んだことは無いそうだ。
ん? 俺は別なんだよなぁ。
此処の魔物生活と日々の風呂(焼き入れ)により俺の体はさらに頑強になったのであーる。
カッチカチやぞ! いや、元からか……
転生初日からおかしかったのでそれが今更ちょっと(?)やそっと丈夫になったくらい問題ないだろ。
大型個体の住処まで行き、もちろん猛烈な歓迎があったが、いつものハンドポケット猫背の完全姿勢により相手の攻撃はすべて俺に効いていない。 この姿勢楽ちんでちゅよい。
ついでに近寄って奴の殻の端毟り取ってやったら火を吐くまでもなく大人しくなってくれたね。
いやー賢い子は好きやぞ?
大人しくなった後は商談タイムである。
正直近隣一帯のロックリザードの肉を毎回森にまで投げに行くのがクッソだるかったのだ。
いや、届くよ? でも着弾地点見えねーから加減わかんねーしな。 だから森見えるところ迄持ってってたんだよ。
俺は処分に困ってる。向こうは飯が貰える。
win-win。
汁も使い所ねーし好きなだけ持っていけといった感じで話を通した後はめっちゃフレンドリーになっていた。
身振り手振りでも意思疎通できるんもんやね。 異文化コミュニケーションやーで。
この子達賢っ。
大型個体が巣の主だったみたいで、俺と岩男君たちがテリトリーに入っても襲わないように話を通してくれっぽくて、俺が行かなくても岩男君たちが餌を持っていけば交換してくれるようになった。 大型個体君超有能である。
──というそんなこんなにがあって、お酒を入手することができた。 お酒おいちい。
僥倖だったのが家に空になった酒樽がめっちゃ置いてあったので保存には困らなかったことである。
ガンテツに感謝せな。
おっと、思い出話に思考がだいぶ逸れたね。
まぁ、そんなこんなでドワーフなら酒が(しかも飛び切りきついヤツ)が好きだろうと思って出してみたのだが、どうやら大当たりよ。
ちなみに俺に関しては酔うというより深夜テンションになる。
元から酔えなくてもお酒大好きだけどね。
そんなこんなであっという間に肩を組んで一緒に小躍りするほど仲良くなってるっつーわけ。 いやーお酒パッワーはすごいね!
余談だがガンテツは空になった樽の上に乗り俺との身長差を補っているよ。
そして現在も酒盛り真っ最ちう。
「いやーほんとこいつぁ美味いわい! 浴びるほど飲めるしその浴びたやつまで勿体なくて飲んでしまいそうじゃわい ! ひゃひゃひゃ!」
「お? 言ったか? 言ったな? よーしそーら。ほーら俺の足から滴る足酒だよー。さあ、お飲み!」
そういって空樽に腰かけて柄杓で自分の素足に酒をかける。
「おお! もったいないもったいない! それにしてもこうしても美味いとはこいつはホントにいいもんじゃのう! ひゃひゃ!」
「うひゃぁ。くすぐったい! はははは!」
大笑いしながらタマハの足を舐めて酒を飲むガンテツ。
2人とも酔っぱらって何事もなくやっているがちょっと待ってほしい。
突っ込む者が居ないので指摘されることがないが、 綺麗なおねぇさんの足にかけられた滴る酒を舐めとる髭もじゃのムキムキのおっさん。
どう見ても相当やばい。
何かの特殊なプレイか何かだろうか。問答無用で憲兵からの投獄待ったなしである。
そういうお店なら仕方ないが。
そんなこんなのヤバめのテンションでどんちゃん騒ぎは続いてゆく……
まだまだ酒樽は沢山あるのだ。
── 結局。
翌朝には 、頭に泥棒巻の風呂敷をかぶったおっさんと、同じく泥棒巻の風呂敷をかぶったTシャツとパンツ一丁のもの凄〜く残念な美人の2人の爆睡した姿が転がっていた。